ムービー・マンスリー2006年10月
スケバン刑事/コード・ネーム=麻宮サキ
テレビ第一シリーズの続編というかたちを取った新作。行方不明だった初代麻宮サキのその後が描かれるのがファン・サービス。(さほど面白いエピソードではないのが残念だが)松浦亜弥は、鋭い目つきがそれらしいし、ラストの笑顔も良かった。事件そのものは、なんだか納得いかない部分もあるが、完全なユカイ犯ということで理路整然としなくても仕方ないということなのかもしれない。爆発シーンは合成がチャチで、ガラス一枚割れずに迫力不足。格闘シーンは、まあ及第点。かっての映画版2作に比べれば格段の進歩だと思う。
X-MENファイナル・ディシジョン
シリーズ完結編ということで、怒涛の展開を見せてくれる。多くのエピソードをきっちり整理して描ききったのは、さすが職人肌のブレット・ラトナー監督。歯切れ良くまとまった分、ジーン・グレイとウルヴァリンのクライマックス、ローグの選択、ミスティークの末路、といったグッと盛り上がって良さそうな部分が、少々あっさりしすぎた印象なのが残念。とはいえ見せ場をたっぷり用意した娯楽作には違いない。続編に色気を出してしまったような中途半端なオチは蛇足だったと思う。
涙そうそう
演技陣は悪くないし、演出も丁寧とは思うのだが、ドラマに入り込めなかった。感動的なドラマを次々と展開しようとしているのは分かるが、なんか上滑りしているように感じた。詐欺師にだまされて、借金背負って、必死に働いて、身体こわして、という古色蒼然たるストーリーに新しい息吹を吹き込めずに終わっている。泣きのシーンが多すぎて、かえって距離を感じてしまった印象も強い。
パビリオン山椒魚
かみあわない会話、ちぐはぐな展開、ハイ・テンションなオダギリジョーの怪演が空回りしている。主人公は天才レントゲン技師という触れ込みだが、レントゲンとプリクラの区別がついているようには見えず、プロとすら思えない。アートっぽい演出がハズしているので、ストレートなコメディにしたほうが良かったと思う。ヒロインの母親が死んだ真相が描かれずじまいだし、人物関係も未整理。演出のテンポも悪く感じた。
ファイナル・ジェットコースター
やっぱり2作目あたりで打ち止めにしといたほうが良かったか。逃れようのない死の運命が襲ってくる内容なので、ストーリーの発展させようがなくなっている。後は、ありえない偶然が積み重なって登場人物が無残な死を迎えるのを、どう見せるかだけ。今回、死に方のむごたらしさはエスカレートしているが、アクシデントは無理がありすぎてギャグに見えてしまう場面もある。今後もシリーズを続けるなら、運命を逃れる方法を設定して、それがクリアできるかどうか、という展開に持っていった方が良さそうに思う。
もしも昨日が選べたら
マイペースなキャラクターを演じることの多いアダム・サンドラーが、時間に翻弄される仕事人間に扮したコメディ。一見ファミリー・ムービーっぽい設定ながら、サンドラー主演作らしいおバカで下品なギャグに満ちている。ストーリーは、ひねっていそうでひねってない。オチも、あ、やっぱりと思ってしまう程度のものだが、笑わせ所や泣かせ所をきっちり押さえていて、けっこう楽しめる作品になっている。老け顔のメークが丁寧だったし、アダム・サンドラーは好演、ケイト・ベッキンセイルも魅力満開ながら、やはり子供と動物(含ぬいぐるみ)には敵わなかった。
レディ・イン・ザ・ウォーター
ナイト・シャマラン監督の新作は、女王様を守るために各々特技を持った者たちが集まってゆく、という冒険ファンタジーのパターンを、現代のアパートに置き換えたもの。退屈はしなかったが、主人公以外の肉付けが足りず、ドラマに厚みが感じられなかった。現代が舞台のわりには登場人物が揃いも揃って簡単にファンタジーの設定を受け容れてしまうことも不自然に思えた。B級テイストの小品と割り切れば、それなりに楽しめる作品だと思うが、シャマラン監督は果たして「シックス・センス」を超えることが出来るのだろうか。個人的には、「シックス・センス」の前に撮った「翼のない天使」もお気に入りなのだが。
日本以外全部沈没
筒井康隆によるパロディ小説の映画化。小松左京もちゃんとクレジットされているのは驚いた。世界が1ケ国になっても、目に見えない国境は存在し続け、世界が滅亡する時になって初めて世界が一つになれた、というテーマがブラック・ユーモアたっぷりに描かれる。原作は読んでいないのだが、映画は案外マトモな作りで、その分筒井康隆作品らしい毒には欠けてしまった。「吸血カタツムリの逆襲」とか良いエピソードもある。毅然たる態度を取りながらも、決して国際的な視野を持つことがない自衛隊長官役の藤岡弘は少々カッコ良よすぎ、もっと狂気を感じさせる演技をしてほしかった。
ストロベリー・ショート・ケイクス
それぞれ問題を抱えた四人の女性を描くドラマだが、どうもピンとこなかった。たいして付き合ってもいない男と別れたくらいで里心がついて田舎に戻るちひろもどうかと思うし、塔子は症状が良くなったのか悪くなったのか分からない。秋代の子供は片思い相手の子か変態の子かはっきりしないし、池脇千鶴演じる里子にいたっては神頼みするだけで何もしないし何も起こらない。エロティックな描写が話題になっているようだが、かっての日活ロマンポルノのほうが性描写もドラマ的にも優れたものがあったように思う。
幸福のスイッチ
人生をふてくされて生きていたヒロインが、1ケ月間父親の電気屋を手伝ううちに心をほぐしていく、という展開はさほど目新しくないが、キャスティングの良さで魅力ある作品に仕上がっている。上野樹里は今までの役柄と異なるひねくれ者をうまく演じているし、本上まなみは癒し系の本領を発揮。沢田研二も久々に良い味を出しているし、中村静香の明るいキャラクターがドラマにはずみをつけている。これでヒロインの変化していく過程が、もう少し細かく描かれていれば満点だたっのではないかと思う。
天使の卵
小西真奈美と沢尻エリカは、ともに上手い演技を見せている。市原隼人は少々見劣りするが、ひたむきな感じは出していたと思う。にもかかわらず、なぜか感情移入しにくい作品だった。個々の場面も丁寧に撮っていると思うのだが、作品全体になると、どういうわけか妙に薄っぺらに感じてしまった。情感に訴えようとしている音楽も、頻繁に使われすぎて一本調子な印象を受けた。絵画には素人なので、主人公の技法が紹介される描写は物珍しくて興味深かった。
フラガール
最初に企画を聞いたときは「ウォーターボーイズ」風のコメディーかと思ったのだが、予告編を見たら常磐ハワイアンセンター設立を描いた「プロジェクトX」みたいな印象だったので驚いた作品。出来上がった作品は今年の邦画で屈指の感動作だった。戦後の復興を終えた日本が高度成長期へと向かっていく、最も活気のあった時代だったかもしれない。フラダンスとストリップの区別も付かない時代だからこそ、福島にハワイをというプロジェクトが夢として生きてくる。企画倒れのテーマパークが次々とつぶれていく現在とは、やっぱり違う。蒼井優の魅力が満開だし、親友役の徳永えりも良かった。山崎静代は下手なんだけれど、持ち前の不器用さ(?)が役柄に生かされていて納得できた。常磐ハワイアンセンターがスパリゾートハワイアンズと名を変えて存続していることを今回は初めて知った。