ムービー・マンスリー2007年1月 |
硫黄島からの手紙 硫黄島で本土のために戦い続ける日本兵を描いた力作。一流の俳優陣を揃えて見ごたえのある作品に仕上がっている。投降した捕虜を射殺するアメリカ兵や、負傷したアメリカ兵を手当する日本兵、上司の命令に従えなかったためにとばされて来た男。多様な登場人物やエピソードが描かれ、特に栗林中将の人物像は興味深かった。渡辺謙、二宮和也は見事な演技だし、「男たちの大和」に続いて一番勇ましそうなのに生き残っちゃう中村獅童のキャラクターも面白かった。 |
大奥 人気テレビシリーズの映画版。じっくり描きすぎて冗長に感じた部分もあるが、豪華なキャスティングと衣装で正月映画らしい華やかな娯楽作に仕上がっている。淡泊なイメージの役柄が多かった仲間由紀恵が、今回は情念を感じさせる演技を見せている。対する悪役側も見ごたえのある顔ぶれ。中では松下由樹が見せ場もなくてもったいなかった。 |
鉄コン筋クリート 原作は読んでいないのだが、アニメ版では実写のワイヤーアクションでは表現できない疾走感、浮遊感を持っていた。異色の声優陣もキャラクターを良く表現していて、特に蒼井優と本木雅弘は顔が浮かばないほど役にはまっていた。町を守るためのアクション映画と思っていたら、終盤は主人公の内的な光と闇の葛藤になってしまい、まとまりの悪い印象を残した。特に宝町が結局どうなったのか明確に描かれないのが残念だった。主人公は町を捨てて海に行っちゃうし。 |
シャーロットのおくりもの アニメ版を紹介したこともある名作童話の実写化。アニメのヒロインはボーイフレンドができたらブタなんかどうでも良くなっちゃったけど、今回はダコタ・ファニングだから最後まで見捨てない。(ストーリーの都合上、あまり活躍できなかったが)相変わらず達者な演技で、少しだが歌の上手いところも披露してくれる。クモやネズミが比較的リアルなデザインであるにも係わらず魅力的なキャラクターに描くことに成功している。生命の営みをふまえたうえでファンタジックに展開させ、アニメ版と同様良質なファミリー映画として完成している。 |
ヘンダーソン夫人の贈り物 ジュディ・デンチとボブ・ホスキンスの顔合わせがまず楽しい。ジュディ・デンチは世間知らずというか、恐いもの知らずの老婦人を名演している。(息子が写真以外で女性の裸を見たことがないと信じているあたりが世間知らずか).。老いてもなお元気なジュディ・デンチに押され気味なホスキンスだが、ショービズ界のヴェテランを好演している。観る前はもっといかがわしい人物の役かと思っていた。前半では官憲の規制との戦いが、後半では空襲の中で上演を続ける心意気が描かれ、イギリス映画らしい持ち味の作品になっている。動かなければ芸術として認められるという理屈は理解できないが、それでも戦時中の日本より娯楽や芸術に対して懐が深かったように感じられた。 |
こまねこ ロマンチックな猫のコマと、周囲のキャラクターを描いたコマ撮りアニメ。観る側には愛すべき小品だが、撮るのはさぞかしたいへんだったろうと思う。ラストの雪遊びのシーンなんか、かなり難しそうに見えた。すごく動きがスムースで、ぬいぐるみの体型をした人間が入っているんじゃないかと思うような場面もあった。仮病で引きこもりのキャラクターが物語に幅を与えている。おじいさん猫も良かった。映画関係の仕事をしているらしいのだが、ネコ界の鈴木清順みたいな人なのだろうか。 |
ラッキーナンバー7(ネタバレ) 巻き込まれサスペンス的設定に、「用心棒」風ストーリー展開を交えたヴァイオレンス・アクション。豪華な顔ぶれのわりに、ひっそりと公開されたのがちょっと不安だった作品。真相は途中で見当がついてしまうが、達者な演技陣とテンポの良い演出で、見ている間は十分に楽しめた。脚本の詰めが甘く、主人公が超然と構えすぎてハナから只者に見えないとか、何で20年以上待ってたのかとか、これだけ強ければ回りくどい手段をとる必要なかったんじゃないかとか、突っ込みどころが多いのが残念。珍しく可愛らしい役のルーシー・リューがチャーミング(タフな役が多いので、実は潜入捜査官だったとか、無理矢理なオチがつくんじゃないかと心配した)。 |
愛の流刑地 憧れの作家との肉体関係という非日常的な情事にのめりこみ日常生活に戻ることなく滅びることを望む人妻と、愛するあまり自分が破滅しても相手の望みを叶えようとする作家。特殊な形の心中を描いているように感じた。描き方が淡白で、ドロドロした情念にかけているのが残念。長谷川京子はキツい目付きで熱演しているが、荷の重すぎる役だったように思えた。たまたま主人公に情事の様子を録音する性癖があったという設定はなんだかこじつけがましいし、「死なせるつもりはなかった」とか的外れなセリフも気になった。 |
ディパーテッド(ネタバレ) 香港ノワールを豪華なスタッフ、キャストでリメイク。見ごたえのある作品に仕上がっている。ただし脚本に多少大味な部分があり、ミサイル制御チップの行方とか、ディカプリオが預けた封筒の中身とか、はっきりしない部分もあった。ラストでどうやってマーク・ウォルバーグが真相を知ったのかも分からなかった。ハリウッド映画らしく見せ場もきちんと撮られているが、多少泥臭くてもオリジナルのほうがケレン味があって楽しめたような気がする。 |
あなたを忘れない 真面目に作られた映画ではあるが、残念ながら作品自体の完成度はそれほど高くない。あれこれ詰め込みすぎて冗長になってしまった印象が強い。もう少しエピソードを刈り込んで短くまとめたほうが良かった気がする。長回しの多用も逆効果でテンポを悪くしてしまったように思う。さすがに歌は良いのだが、ヒロインの演技に荒削りさが目立つのも残念。金子貴俊はロック・ミュージシャンに見えない(ついでに、せっかくの富士山も富士山に見えなかった)。 |
どろろ ストーリーはオリジナルの部分が多い。多少駆け足になってしまってはいるが、手際よく1本の映画にまとめられていると思う。味わい深さには欠けるものの、伝奇時代劇に香港ファンタジー風なテイストを加え、ニュージーランド・ロケの渇いた風景がマカロニ・ウェスタンっぽい雰囲気も出していて面白かった。世界に売れたわりにCGが安っぽいのが残念だが、全体的には楽しめる娯楽作に仕上がっている。色の落ちた独特な映像がそれなりに効果をあげているが、個人的にはせっかくの大作なのだから鮮明な画面で見たかった。「バンパイア」や「百物語」も実写映画化してほしい。 |
あるいは裏切りという名の犬 久しぶりに見た本格派ノワール。ひねった人間描写はジャン=ピエール・メルヴィルやジョゼ・ジョヴァンニよりも初期のアラン・コルノーを想起させる。ダニエル・オートゥイユ、ジェラール・ドパルデュー、二人の個性的な俳優が魅力だが、ドパルデュー扮するクランは、キャラクターとして少々愚鈍な面もあり、長官の座を狙う男に見えないのが難点。皮肉な結末は先読みできるものだが、すっきりまとまって後味は悪くない(わざと後味の悪さを狙ったアラン・コルノーとはだいぶ違う)。ドツボに追い込まれた二人の主人公の生き様の違いが明らかになっていく展開が面白かった。警察版「白い巨塔」みたいな印象でもある。 |