ムービー・マンスリー2007年2月
それでもボクはやってない
修行僧、学生相撲、社交ダンス、一般的にはイケてない事柄にのめりこんでいく人々をユーモラスに描いてきた周防正行監督。久々の新作は司法の闇を描いたダークな作品。しかも電車に乗る全ての人間に可能性のある痴漢冤罪がテーマだから怖い。正直に無罪を主張すれば、反省の色なしとみなされてしまうのだから始末に悪い。地味な作りの映画だが、テンポの良い演出で2時間10分を一気に見せてしまう。主演の加瀬亮は地味なキャラクター作りが役柄にマッチしていて良かった。一見善良そうでありながら役人根性丸出しで検察の顔色ばかりうかがっている裁判官を小日向文世が好演している。
ユメ十夜
夏目漱石の原作をテーマに10人の作家が奔放なイメージで綴るオムニバス。1編の時間が短いので飽きる暇もないが、夢をテーマにしていることもあり起承転結のないエピソードが多く、全体的な印象は意外と薄い。松尾スズキや山口雄大のハチャメチャなエピソードのほうが、かえってちゃんとしたオチを持っていたりする。ユニークなキャスティングで楽しませる。中でも本上まなみの超怪演が強烈だった。
悪夢探偵
レトロな雰囲気の探偵スリラーかと思ったら、わりと普通のサイコ・サスペンスっぽい演出だった。主人公があまり活躍せず、クライマックスもイマイチ盛り上がらなかった。主人公や犯人の過去の記憶が断片的に挿入されるのだが、説明不足すぎて分かりづらく何を表現したいのか理解できなかった。監督自ら出演するのはどうかなあ、という気もした。美形悪役の極北を行くオヤジ悪役だし。
墨攻
四千人の民で十万の軍勢を相手に城を守り抜こうとする軍師が、正義を重んじる平和主義者という設定は悪くないと思う。だが、描かれる戦略は思わず唸ってしまうほど斬新なものではないし、内紛に全く気づかないのも少々情け無い。愚劣な王と家臣がのうのうと生き残り、ヒロインを死なせる展開もすっきりせず、カタルシスに欠ける。たっぷり引っ張りながらヒロインを助けられないので主人公が頼りなく見えてしまう。戦闘シーンの演出も歯切れよいとはいえない。配役は良いし、大作感もあるだけに残念な作品。
Dear Friennds
劇場予告編を見ただけで具体的な内容を知らずに行ったら、バリバリの難病物だったので驚いた作品。友情をテーマとした作品だが、主人公二人に、とりたてて親交はなく、思い入れに近いものなので、一般的な友情を描いたドラマとはかなり趣が違う。どちらかというと、人間どこで誰の役に立っているか分からないという、巡り合わせの物語のように感じた。ストーリー的には要所要所でが忽然と現れたりして多少苦しい部分もあるが、主演の二人の演技力に支えられ、けっこう見ごたえのある作品に仕上がっている。特に北川景子は、ヒロインの心情の変化を巧みに演じて説得力があった。
DOAデッド・オア・アライブ
コリー・ユン監督のお気楽なB級アクションは大好きで、今回も脳天気に楽しませてもらった。今回は「クローサー」に続くヒロイン・アクションだが、ハリウッドの顔ぶれだけに本格的な格闘アクションとはなっていない。(四強が戦わずに終わるし)格闘はカット割でごまかしている印象もあるが、きちんと編集されているので見ごたえはある。エリック・ロバーツは、胡散臭さ満開の演技を見せるが、「クローサー」で倉田保昭が披露したアクションとは比べようもないのが残念。敵に対して味方の人数が多すぎる気もしたが、コリー・ユン監督の歯切れ良い演出でラストまで一気に楽しむことができた。
Gガール破壊的な彼女
ユマ・サーマンがスーパーガールに扮するファミリー映画と間違えて家族連れで見にいくと冷や汗かいてしまいそうな下ネタ満載のおバカ・コメディ。ユマ・サーマンのキレっぷりと、キュートなコメディエンヌぶりを発揮するアンナ・ファレルが魅力。ルーク・ウィルソンは、やや平凡か。コメディを得意とするアイヴァン・ライトマン監督の演出も冴えていて、楽しめる作品にまとまっている。
バブルへGO!!タイムマシンはドラム式
タイム・トラベルをテーマとした作品の中でも、これほどタイム・パラドックスを気にしていないものは珍しいのではないかと思った。阿部寛、広末涼子、吹石一恵がノリの良い演技を見せ、けっこう楽しめる作品に仕上がっている。クライマックスがお座敷でスケール感に欠け、昔に東宝がよく作っていたサラリーマン喜劇みたいな印象にまとまってしまったのが残念。個人的には、日本経済を救うなら、バブルの崩壊を止めるのではなく、バブルの到来を阻止したほうが正解のように思う(あるいは役人のハコモノ行政を阻止するか)。
守護神
小粒な印象の作品ではあるが、救助シーンの迫力はさすがハリウッド映画。少し老けこんだ印象のケヴィン・コスナーが渋い演技を見せ、アンドリュー・デイヴィス監督の演出もソツがない。ちょっとファンタジックな味付けのラストも悪くなかった。全体的に「海猿」「バーティカル・リミット」「愛と青春の旅立ち」などを寄せ集めた印象が残り、オリジナリティに欠けるのが残念。
ドリーム・ガールズ
業界物ミュージカルの映画化。オリジナルの舞台について知らないのだが、ダイアナ・ロスとシュープリームスがモデルらしい。(日本人にとってはキャンディーズのイメージだが)ジャクソン5のパロディも登場する。TV向けにルックスの良いほうがリードになるとか、受け狙いで毒気がどんどん抜かれていくとか、内容的にはよくあるものだが、優れた曲が揃っているし、演出にもパワーがある。俳優もそれぞれ個性を発揮していて、迫力ある歌唱でアカデミー賞を獲得したジェニファー・ハドソンも良かったが、ローカルなスターの位置を脱却できずに終わる歌手役のエディ・マーフィーが良い味を出していた。
善き人のためのソナタ
ベルリンの壁崩壊前の東ドイツを舞台に、芸術家の生活に接して人生観を変えていく監視者を描いた秀作。ドラマの合間に描かれる監視者の無味乾燥な生活ぶりが印象的だった。殺風景な部屋でカウチポテトなのだが、ポテトがマッシュポテトでテレビ番組が国策的なニュースだったりする。悲劇の原因となるのが政治・思想ではなくエロ政治家の愛人狙いというのも、権力の腐敗が強く印象づけられていた。ラストのセリフも見事に決まって人生が報われる瞬間が鮮やかに描き出されている。