ムービー・マンスリー2007年4月
デジャヴ(ネタバレ)
心理サスペンスかと思って見にいったらSFサスペンスだったので、少し驚いた作品。前作「ドミノ」では、凝りすぎた編集と撮影でハズしてしまったトニー・スコット監督だが、今回は細かく刻んだカット割りが上手く緊張感を盛り上げている。過去を変えることはできないのか、と思わせつつ進行しながら、ラストで思いっきりパラドックスを巻き起こす。ある意味掟破りなのたが、見終わると、まあいいかなという気分になってくる。単純な娯楽作品と割り切ればかなり楽しめる作品。逮捕された犯人が思わせぶりなセリフをはくけど結局無意味だったのが残念。
蟲師
大友克洋監督が、これまでの近未来物とは違った世界観で撮りあげた伝奇ファンタジー。電気が普及し始めている時代という設定なのだが、画面を見る限り文明開化しているとは思えない。4人の主要キャストが、それぞれ個性を発揮しているし、なかなか面白い部分もあるのだが、テンポが遅くて長すぎる気がした。せっかくCGを駆使した見せ場も、あまり盛り上がらなくて残念。ひどいダメージを負ったはずの主人公がなんとなく回復してたり、クライマックスのぬいとの決着もあっけなさすぎる。もっとケレン味たっぷりに盛り上げてほしかった。
アンフェア(ネタバレ)
ダイ・ハード・タイプのアクション・サスペンスになっており、謎解きの要素がほとんどないのが残念。誰が裏切り者かってことも、雪平刑事が見抜くわけじゃないし。クライマックスの屋上での対決もピンと来なかった。結局二人とも撃ってなかったのか。狙撃する側にしても、二人ともかたずけたほうが全てにカタが付くように思えるのだが。TV版で心を閉ざしていた娘との交流が一つのテーマなのだが、単独の作品としては分かりづらいかもしれない。香川照之は出張中という設定で不参加だし。シリーズを通してレクター博士的役割になっていくかと思った人物も死んだし、本当に最後の事件になるのかもしれない。
鉄人28号/白昼の残月
架空の昭和史に鉄人28号をからめて描いたテレビ・アニメの劇場用新作。TV版も良かったが、こちらもなかなかの力作に仕上がっている。今回はブラックオックス以外のロボットがゲスト出演しているのがファン・サービス。戦争の傷を引きずるもう一人の金田ショウタロウの物語をメインに、金田博士の残した秘密兵器を巡る争いがダイナミックに描かれていく。残月の正体は半ばで予想がついてしまうものの、終盤のドラマ展開は見事に盛り上がっていた。どのような条件で廃墟爆弾が殺傷能力を持つのか、はっきり描かれないのは残念。音楽は伊福部昭の既成曲を使用しているとのことだが、全く違和感がなかった。
ブラックブック
ナチ占領下のオランダを舞台に数奇な運命をたどるユダヤ人女性を描いた力作。故国オランダでの作品ということだが、事情を知らないので都落ちなのか凱旋なのかは不明。作品自体はヴァンホーヴェン監督お得意の毒々しい描写を織りまぜながら骨太の娯楽作品に仕上げられている。特に後半、アンフェアなのは誰かというサスペンスで盛り上げていく。「戦場のビアニスト」のように格調高くせず、下世話にまとめたところがヴァンホーヴェン監督らしい。見ていてチョコレートが食べたくなった映画でもある。
13ザメッティ
究極のロシアン・ルーレットをテーマに良くも悪くもワン・アイデアで押し通した作品。登場人物について多くを語らないで独特な乾いたタッチを出しているが、その分ドラマ性が希薄になってしまった。感情移入できないので、誰がどうなってもショックは感じられない。ストーリー的にもひねりがなさすぎて、全体にインパクトに欠ける出来栄えとなっている。音楽はムードがあって良かったと思う。
ホリデイ
映画の中ではブームだと言っているが、顔も知らない相手と家を交換したりすることが本当にあるのだろうか。パソコンまで置きっぱなしだし。それはともかく、作品自体はハリウッド映画らしい魅力にあふれている。キャスティングが実に良くて、イーライ・ウォーラックがこんなに味のある役者だとは知らなかった。2週間の休暇を通じて心の痛みを乗り越えて新しい人生に踏み出していく二人のヒロインが暖かく描かれて感動的だった。オリヴァー・プラット扮する作曲家の映画音楽ファンぶりも楽しかった。
サンシャイン2057
滅びかけた太陽を復活させるため旅立ったクルーを描くSFアドヴェンチャー。国際的なキャスティングが魅力で、出番は短いが真田広之が堂々としたキャプテンを好演している。映像的に見応えがあり、後半のホラー演出も冴えているのだが、説明不足で何をしているのか分からない部分もあった。それにしてもあれだけ優れたコンピューターが部外者の侵入を感知しながら放置して結局機能を止められてしまうのはマヌケすぎる。
ブラッドダイヤモンド
離れ離れになった家族を探し求める漁師、新しい生活を望みながらも南アフリカを離れられない元傭兵、危険地帯での取材を繰り返す女性ジャーナリスト。三人をメインに大粒のピンク・ダイヤをめぐるアクションがダイナミックに描かれる。エドワード・ズイック監督はなぜか日本では知名度が低く、今回も宣伝では「ラスト・サムライ」監督としか紹介されなかった。「レジェンド・オブ・フォール」や「戦火の勇気」といった傑作もあるのだが。今回はズウィック監督には珍しくドラマ展開を消化しきれていない部分もあるように感じたが、それでも骨太のドラマが堪能できた。革命を叫びながら殺りくと人さらいを繰り返す革命軍、ダイヤが流出して値崩れすることを恐れ市場操作する白人ダイヤ業者、ダイヤを武器に変える死の商人。暗黒大陸と呼ばれた時代から長い年月を経たアフリカの闇が迫力たっぷりに描写されている。
大帝の剣
「明日の記憶」で正攻法の演出を見せた堤監督が、徹底的に奇をてらって描くコメディ・タッチの伝奇時代劇。おバカテイストの楽しさを満載。確信犯的にチープな雰囲気をだしているようでもあり、知らないで見たら山口雄大作品と思ったかもしれない。出演者は全員が怪演。特に竹内力と六平直政のインパクトが強い。杉本彩はちょっと中途半端か。長谷川京子も「ジキル博士はミス・ハイド」のショーン・ヤング並みに顔をいじられ、「ユメ十夜」の本上まなみに次ぐはじけっぷりを見せる。破天荒な展開だが、一番奇天烈なのは少年時代の阿部寛が黒人だということだった。
かちこみ!ドラゴン・タイガー・ゲート
香港B級アクションとしてそれなりに楽しめる作品だが、突っ込みどころも満載。コミック原作のようだが、長いストーリーを無理やりまとめたのか、やくざの親分がいきなり引退を決意したり唐突な展開の部分が目立つ。組織の女が主人公を命の恩人と慕うが、子供の頃に木の枝にぶら下がったところを助けられただけというのもインパクトが弱い。携帯電話は普及していても車のない架空の香港が舞台なのか、ヒロインが怪我人を大八車に積んでエッチラオッチラ運んだりする。闇社会の黒幕だったはずの男が、後半では強い対戦相手を求める武道家のようになってしまうことにも違和感を覚えた。巨大なアジトに独りだけというのも寂しい。威勢のいいタイトルのわりにウエットなエピソードが多いのも残念。
ハンニバル・ライジング
若き日のハンニバル・レクターを描くのだが、アンソニー・ホプキンス演じるレクター博士とは印象が違いすぎて同一人物に思えなかった。シリーズとは関係ない復讐ドラマとして見たほうが楽しめる気がした。シリアスに徹した作品だけに日本観の微妙なズレは気になるところ。レクターに複雑な思いを寄せる叔母を好演するコン・リー(彼女についても、アメリカでどの程度知名度があるか分からないのだが)以外は無名のキャストで固めたことが作品の生々しさを増す効果を上げている。レクターのアンチテーゼとして、ひたすら法の裁きによって復讐を遂行しようとする警部の存在をもっと際立たせたほうがドラマに奥行きが出たような気もした。
神童
音大志望の青年と天才少女の交流を描く青春映画。主演の二人は上手いし、演出も悪くない。原作は読んでいないのだが、説明的な描写を省きすぎている気がした。最後までヒロインの耳の状態がハッキリ把握できないし、二人がどうしてピアノの墓場の場所を知ったのかも分からなかった。(主人公は鍵まで持ってたし)そのため好編であるにも関わらず中途半端な印象を残す作品になってしまった。
輝ける女たち
ショービズ界に生きてきた父親が死んで集まってきた家族たち、という群像ドラマ。特に起伏のある展開ではないのだが、フランス映画らしいシャレっ気が感じられて楽しい。貫禄たっぷりのカトリーヌ・ドヌーブ、すっかりいいおばさんになったミュウ・ミュウ、魅力的な歌姫を演じるエマニュエル・ベアールなど女優陣が強力なので、この邦題がついたのだろうか。男優陣も良い演技をしている。ジェラール・ランヴァンのダメ男ぶりなんか実に味があった。人物描写がシニカルになりすぎる場合も多いフランス映画だが、本作は程好くまとめられており、良い気分で見終わることができた。