ムービー・マンスリー2007年5月
恋しくて
中江祐司監督の新作ということで期待したのだが、今一歩の出来栄え。数年間という期間における点描といったかたちで進行する。個々の場面は面白く出来ていると思うのだが、全体的なドラマとしては中途半端な印象を残した。ラストで二人が別かれたのか別かれていないのかが、よく分からなかった。ヒロインを始めとする主演俳優の色の黒さが沖縄らしさを盛り上げているし、登場人物も魅力的に描かれているだけに残念。
スパイダーマン3
スパイダーマン三部作とりあえずの完結編。十分に見応えのある作品だが、前2作に比べるとドラマに厚みが欠ける気がした。これまではバッシングを受けていたスパイダーマンが、今回は順調すぎて慢心、という展開はいいのだが、過ちに気づくのがあっけない。もっと心理的葛藤を描いてほしかった。今回はジェームズ・フランコが儲け役で格好良く、トビー・マクガイアが少々かすんでいた。小型爆弾の威力が不明でハリーは火傷ですんだが、エディは消滅してしまう。サンドマンも、飛び去ったんだか、消滅したんだか分からなかった。もし次回作を作るなら、より陰影に富んだドラマにしてほしい。
ゲゲゲの鬼太郎
遊びの部分はけっこう楽しかったけど、メインのストーリーはひねりがなく少々単調。ラストも小雪が出てきてチョンで盛り上がりに欠けてしまった。個人的には色気づいた鬼太郎なんか興味がない。妖怪相手に丁々発止の闘いを繰り広げてほしかった。鬼太郎が飛び道具中心のため、猫娘や子泣きじじいのほうが強そうに見えてしまうのも難点。ウェンツは、頑張っているのは伝わってくるけど演技的には今一歩。田中麗奈や間寛平を始めとする妖怪陣のなりきりぶりは楽しめた。
あかね空
木綿中心の江戸で京風絹ごし豆腐の店を営む家族を描く山本一力原作の映画化。内野聖陽が圧倒的な存在感で二役を演じていた。洒脱(しゃだつ)な演技を見せる中村梅雀は、軽妙すぎて小物に見える気がした。出番は少ないが、キップのいい江戸っ子を演じた勝村政信が儲け役。原作のストーリーを上手くまとめて完成度の高い人情話に仕上げている。岩代太郎による音楽も良かった。カメラワークもすごく丁寧に感じたのだが、映像の鮮明さに欠けたり、色調が落ち着かない部分があったのは残念。
東京タワー/オカンとボクと、時々、オトン
青春の一番輝かしい時期が結局何もしないうちに過ぎ去ってしまうというのが、ものすごく説得力あった。凄絶な闘病場面の他は、むしろ穏やかな描写が中心で、主人公の青春と家族の絆が正攻法で描かれている。自然体で、しっかりとした演出と演技に支えられ見応えのある作品に仕上がっている。等身大のドラマで感情移入のしやすい作品だった。内田也哉子の起用も見事にハマッていた。
ラヴソングができるまで
ヒュー・グラントとドリュー・バリモアのラブコメ最強男女優共演作。極めてストレートな作りで、ひねりはないが、手堅く仕上がって楽しめる作品になった。主人公が人気の時代って、日本ではAORと呼ばれたおとなし向きのポップスにひと区切りついて、ベイシティローラーズとかアイドル路線ぼくなった頃だったろうか。恥ずかしいプロモビデオとか、オバサマに人気の腰つきとか、ヒュー・グラントが快調な演技を見せる。不思議ちゃんではあるが意外と素直なアメリカの倖田未来みたいなアイドル歌手も面白かった。ラストに描かれる登場人物のその後は、ちょっと平凡な気がした。
冥土メイド
フィリッピンからシンガポールに来たメイドの恐怖体験を描くホラー映画。メイドを雇うくらいだから裕福な家庭だと思うのだが、家の中はボロボロで廃墟同然だったりする。後半への伏線のつもりかもしれないが、一見華やかな家庭という設定のほうが効果的だった気がする。前半は怪奇現象の羅列でドラマ的な展開が少なく、少々退屈した。後半はそれなりに楽しめたが、かなり強引な部分も目立つ。それにしても7月のシンガポールは霊柩車の影に入っただけで命を落とすほど危険なのだろうか。
ナイトミュージアム
50年以上にもわたって夜ごとに展示物が動き出す自然史博物館って、一度も夜間の改修工事とか入らなかったのだろうか。ラジコンカーに乗って運転できるのも不思議だった。とか突っ込みどころは山ほどあるが、理屈を抜きにすれば、けっこう楽しめる作品。久しぶりにロビン・ウィリアムズが良い味を出していたし、ディック・ヴァン・ダイクやミッキー・ルーニーの老いてなお元気な姿も見所の一つ。
眉山
徳島を舞台に母娘の愛憎を描いた秀作。母親はキップの良さで知られる女将だが、娘への接し方もどこか芝居がかった態度を崩さず、溝を作ってしまっている。末期ガンとの闘病生活の中で母娘のわだかまりが少しずつ消えていく様子が、じっくりと描かれていた。阿波踊り会場を舞台にしたクライマックスは臨場感たっぷりで見応えのあるものになっている。主演の二人に加え、山田辰夫が地味な役柄ながら好演していた。
バベル
言語をテーマにした作品と聞いていたが、字幕スーパーで見てしまうと、さほど言葉の差は気にならなくなってしまう。その代わり、銃の恐ろしさが、ひしひしと伝わってきた。一丁のライフルが悲劇を広げていくさまが緊張感たっぷりに描かれている。役所広司の出番が意外に少なかった。罪には問われないというが、他国で自分名義の銃を勝手に譲渡してしまうことに違法性はないのだろうか。菊池凛子は熱演だけど、個人的には同時にアカデミー助演女優賞ノミネートされたアドリアナ・パラーザの方が印象的だった。エピソードとしても息子の結婚式に出席しただけなのに、国境に阻まれ悲運を辿っていくメキシコ編が一番面白かった。
リーピング
それほど怖くはなかったが、ミステリー・タッチのオカルト・サスペンスとして、それなりに楽しめた。神がかりの荒業で一気にカタをつけてしまうクライマックスはイマイチ。もう少し工夫がほしかった。イナゴの群れとか、ちょっと「エクソシスト2」を連想させる部分もあったし、謎の少女を演じたアンナソフィア・ロブは「チャーリーとチョコレート工場」でスパイダー・ウォークみたいになってた。リンダ・ブレアの二の舞にならないように頑張ってほしい。
しゃべれども しゃべれども
平山秀幸監督の演出が冴えていた。ギャグなんかのタイミングがすごく上手い。出演者も皆好演している。ただ、落語の練習と、人との接し方の訓練は少し違うもののような気がした。元野球選手なんか、落語教室自体は何の役にも立たなかった気がするし。あくまでも癒しの場ということなのだろうか。主人公が落語に開眼するのが酔った勢いというのもイマイチ。三人の生徒と触れ合ううちに何かをつかんでいくとしたほうが良かった気がする。最後まで飽きさせずに見せる力を持った作品だけに、詰めの甘さが残念だった。