ムービー・マンスリー2007年6月
スモーキン・エース/暗殺者がいっぱい
殺し屋がゾロゾロ出てくるというから「殺しの烙印」みたいな内容かと思ったが、トップ争いの話ではなかった。多彩な登場人物を整理しきれていない印象はあるが、テンポが良いのでそれなりに楽しめた。ただ、全体的には中途半端な出来ばえ。どうせなら、キャラクターのエキセントリックさを強調して、タランティーノか鈴木清順かという映像世界を作り上げてほしかった。
ザ・シューター/極大射程
ベストセラー小説の映画化とのこと。2時間強を一気に見せるが、全体的にソツ無くまとまった出来ばえで、インパクトは意外と弱い。ストーリーも破綻してはいないが、緻密というほどでもない。巨悪の影も、なんか中途半端。愛犬と親友の仇討ちを、もっと前面に押し出した方が、荒っぽい印象になってしまったラストが盛り上がった気がする。マーク・ウォルバーグは、プロフェッショナルらしい雰囲気を出していて良かった。
パッチギ!LOVE&PEACE
舞台を東京に移して、前作とは別物と考えたほうが楽しめるかもしれない。前作の鮮烈さはないが、芸能界物や難病物の要素を織りまぜ、テンポ良く楽しめる作品に仕上がっている。ケンカは良いけど戦争はダメという作者の視線を明確に打ち出した点は、井筒監督らしいが、作品としての構成がうまくまとまっていない部分もあるように思えた。今回は、入学祝いのプレゼントが万年筆という設定に一番昭和らしさを感じた。
監督・バンザイ!
オムニバスかと思ったら、サワリだけでストーリーのないエピソードもまじっていた。没ネタ集というわけでもないだろうが、むしろ一つのストーリーを練っていくうちにSFになったりホラーになったりしてしまうという展開のほうが面白くなった気がする。「アンリエットの巴里祭」から「パリで一緒に」「おかしなおかしな大冒険」「ピンクレディーの活動大写真」と使い古された手法ではあるが。結局、岸本加世子と鈴木杏を主役にしたコント集的ドラマに落ち着く。二人のキャラクターは悪くないが、連発するベタなギャグにハズレが多いのが残念。二人のキャラクターを主役にで三木聡が脚本・監督で撮ったら、どんな映画ができただろうかと余計なことを考えてしまった。
女帝/エンペラー
「ハムレット」を下敷きに、豪華なセットや衣装。CGとワイヤ・アクションを駆使して描く、血と復讐のドラマ。情念を演じるとピカ一のチャン・ツイイーが圧倒的な存在感を見せている。様式美に徹した映像も印象的だった。格闘シーンが舞のような感覚で演出されているので、好みが分かれるかもしれない。個々の場面は凝っていて完成度が高いのだが、全体の流れにギクシャクした部分があるように感じた。ハムレットにあたる皇太子のキャラクターが描き込み不足なのも残念。
パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールド・エンド
シリーズ3部作完結編ということで波瀾万丈の展開。ジョニー・デップは「チャーリーとチョコレート工場」のディープ・ロイみたいに増殖して、怪演ぶりに磨きがかかっている。キーラ・ナイトレイも、すっかりタフになったヒロインを熱演していた。あれこれ詰め込みすぎたせいか、女神の巨大化が結局意味なかったり、前回すごかったクラーケンがいつの間にか滅んでたり、腰砕けの部分もあるが、全体的にかなり楽しめた。時に勇壮に時にマカロニ・ウエスタン調に奏でるハンス・ジマーの音楽も効果を上げている。いつの日にかジャック・スパローの新たな冒険が描かれることを期待したい。(できればインディ・ジョーンズみたいに年とらないうちに)
あるスキャンダルの覚え書き
主演女優二人の演技で見せてしまう作品。特に珍しく老醜を演じたジュディ・デンチは圧巻。遅れてきたフラワー・チルドレンみたいなところもある元パンク娘のケイト・ブランシェットも良かった。ラストまで飽きさせないものの、ドラマそのものはやや中途半端。孤独な女たちの心理ドラマとしても、サイコサスペンスとしても、少々弱い。見終わって強い印象を残す作品とまではならなかった。
プレステージ
憎しみあう二人のマジシャンの顛末を描く、イリュージョン版「どつかれてアンダルシア」。新旧の個性派を揃えて見応えのあるドラマに仕上がっている。SFっぽい設定まで駆使してトリッキーに展開するのだが、オープニングに監督のコメントまで表示して、ラストにこだわった売り方は失敗。脚本と演出がストレートすぎて、すべてのオチが読めてしまうので、肩透かしを食わされた気分になってしまった。
大日本人
終盤と戦闘シーン以外は取材映像の形式をとったヒーロー・コメディ版ブレア・ウイッチ。個性的な作品でインパクトは強いのだが、面白いかというと微妙。前半はほとんどギャグもない。ナンセンスな展開の中に風刺やペーソスが織り込まれているが、十分に効果を上げていない。外来種の強い敵には、まるっきり弱く、アメリカ嫌いをほのめかしながら、アメリカン・ヒーローの前ではオドオドする(アメリカには巨大ヒーロー物がほとんどないので、どちらかというと日本のウルトラ・ファミリーのイメージという気がしたが)。大日本人の情け無さが全面に押し出されて終わるので、なんだかスッキリしない。それだったら、徹底的にシニカルな描き方をしたほうが良かった気もする。
ラスト・ラヴ
ゴミ出しのできない元ミュージシャンは田村正和らしい役柄だし、TV版「めぞん一刻」でハズした伊東美咲も彼と出会って変わっていく気の強い役人を好演している。だが、演出も映像も薄っぺらで、TVドラマを大画面で見せられている気分になってしまった。特に脚本が拙劣。偶然が多いのは目をつむるとしても、ボトルを何本も空けてベロベロだったヒロインが次の場面で全然酔ってなかったり、復帰話を蹴った主人公が次の場面で気を変えていたり、あまりに御都合主義。会話もちぐはぐな印象の部分がある。普通、父子家庭で死を宣告されたら、幼い娘の将来を第一に考えると思うのだが、そんなこと気にしている素振りもないのが最悪。なんだか腹立たしくてクライマックスなど、どうでもよくなってしまった。森迫永依が時々ちびまる子口調になるのは楽しかったが。
300
斬新な映像感覚でペルシアの大軍に対抗するスパルタの精鋭300名の死闘を描く力作。ジェラルド・バトラーの力強い演技が見物。ただスパルタ軍も狭い場所に陣取る以外は、さしたる戦略を使うわけでもないので、スパルタがすごいというより、ペルシアの攻め方が下手という印象を残す。サイだのゾウだの爆弾だのは、ギャグかと思うくらいあっけない。(爆弾は、きちんと使えば有効のはず)個人的には、スパルタは弱者切り捨ての軍事国家で、そのくせ腹黒い政治家や宗教家がのさばる歪んだ国にすぎなく見えた。
図鑑に載ってない虫
ダメジンたちが謎の死人もどきを捜し求める三木聡監督の新作。ストーリーそのものよりも、次々に登場する風変わりでちょっと壊れたキャラクターと、とぼけたギャグで楽しませてくれる。とはいえ、謎の組織のエピソードが途中で消えてしまったのは残念。口から霊の出ている女が、やけに可笑しかった(白玉くわえてぼーっとしてる人間なんて実際いないけど)。リストカットマニアのヒロインを演じた菊池凛子は、「バベル」より活き活きしているように感じた。脳天気なタッチで描かれるせいか、かなりブラックなギャグも、あまり気にせず楽しめるところが三木監督作品の特徴という気がする。
アコークロー
意外な拾い物だった作品。沖縄を舞台に、心の闇にとらわれて破滅していく人々を、キムジナー伝説をまじえて描いていく。明るいイメージを持っている沖縄の自然や習慣を背景に描くことで、後半のダークな展開が効果を上げている。ドラマ自体に緊張感があるし、主要登場人物たちと、常に客観的な視点のクールな霊能者との対比が面白い。このストーリーだったら、物の怪を登場させないほうがドラマの陰影が濃くなった気もした。霊能者の内面を描いた続編とか作ったら面白いのではないかと思う。