ムービー・マンスリー2007年8月
ゴーストハウス
パン兄弟がサム・ライミの製作で撮った新作。飽きさせずに最後まで引っ張る力はあるものの、全体の完成度は今ひとつ。ラストで分かる霊の目的を考えると、それまでの展開が矛盾しているようにも感じられる。ヒロイン役のクリステン・スチュワートは、シャープな顔つきがたのもしくて良かった。ドラマのラストに家族の再生をもってきたのは良いのだが、脚本をもう少し練って、ヒロインの孤立感や両親の猜疑心を描き込んだほうが、作品に厚みが出たように思う。
西遊記
従来の西遊記イメージからすると少々ずれた印象なのだが、別物と割り切れば、けっこう楽しめる作品。ロケにCGを加え、スケール感のある映像を作り出している。バラエティのコントみたいなノリの部分もあるが、見所も多いし、クライマックスは香取慎吾が熱い演技で盛り上げてくれる。三蔵法師が泣き虫の尼さんというのも妙だが、深津絵里は手堅い演技を見せる。内村光良は頑張ってはいるが、ニセモノ役の草なぎ剛のほうが沙悟浄らしい雰囲気を持っている気がした。
天然コケッコー
小中学で全校生徒7人の学校を舞台に、ヒロインと東京からきた転校生の交流を描く青春ドラマの佳作。うっかり余計なことを言ってしまっては、自分も傷付いてしまう多感なヒロインを夏帆が好演している。ゆったりとした時間の中で暮らしている登場人物たちが魅力的に描かれていた。ほのぼのとした内容で、良くも悪くもドラマとしての起伏は少ない。主人公たちの関係も、恋人同志といえるまで発展せずに終わってしまう。父親の不倫疑惑に関する描写も中途半端なので不要な気がした。
ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団
いよいよ宿敵との闘いに備える第5作。メインとなるのは学園を掌握しようとする魔法省との抗争。ダークファンタジーの色合いが濃く、魔法省の造詣など美術面での見所も多い。3、4作目より楽しめたが、闘いの序章ということもあって一本の作品としては盛り上がりに欠ける。ハリー・ポッター自身、闇との葛藤を続けるため、キャラクター的に魅力を発揮する場面が少ない。まだ真の力を発揮していないのか闇の魔王があまり強そうに見えないし、魔法省の手先は伊藤淳史より猪八戒っぽいオバサンで末路はちょっと腰砕け。ヘレナ・ボナム=カーターは怪演だが、今回は見せ場が少ない。シリウス・ブラックの最期はあっけなさすぎ。彼をあれだけ簡単に倒せるなら、生徒たちは瞬殺されてる気がした。次回作でグッと盛り上げてくれることを期待する。
夕凪の街、桜の国
ごく平凡な一生を送るはずだった人々の人生が破壊されてしまう哀しさが胸を打つ。どう理由をつけても大量殺戮兵器、原子爆弾が見も知らぬ人々に向けられた卑劣な悪意の固まりであることを描き切ってみせた作品。その残酷な仕打ちが現代を生きる子供たちの人生にまで影を落としていることに憤りを感じずにはいられない。ドラマ展開はむしろオーソドックスな描写で穏やかに描かれ、それゆえに影を落とす放射能の理不尽さが浮かび上がってくる。演技陣は皆好演しているが、特にはかなげなヒロインを演じた麻生久美子が出色だった。
ピアノの森
優れた原作を巧みにダイジェストして楽しめる作品に仕上がっている。細かい部分はかなりとばしてあり、モーツァルトの幻でしか登場しないキャラクターもいるが。原作を読んだほうが良いという気もするけど、何よりの強みは実際の音楽が聞こえること。クラシックやピアノに詳しければ絵だけのほうがイマジネーションをくすぐられて良い場合もあるだろうが、やっぱり素人には音楽がストレートに聞こえてくると助かる。自分の音楽を見いだしていくキャラクターが魅力的に描かれ、続きもアニメ化してほしいという気分になった。
キサラギ
売れないまま自殺したアイドルの一周忌に集まったヘンな男たちを描くコメディ。シナリオの完成度が高く、「プレステージ」よりもはるかに予想外の展開を見せてくれる。登場人物には皆秘密かあるのだが、取り残されて悔しがっていた一人が最期に喜ぶ展開がうまい。五人の中では香川照之の怪演ぶりが圧巻。ラストの振り付けが、やたらと決まっているのが怖い。ユースケ・サンアマリアは演技的には微妙だが、セルフ・パロディー的キャラクター設定が笑えた。この人の正体がこうだったとすると、あの場面でのリアクションは妥当だったろうか、とか気になって、もう一度見たくなる作品。
怪談
「ザ・リング」で日本ホラー映画の新しい流れを作った中田監督が古典怪談の映像化に臨んだ作品。多彩な登場人物による愛憎ドラマをテンポ良く描くが、それほど恐くはない。最大の欠点は主人公が無駄に色男で、何を考えているのかイマイチ分からないところ。多少は感情移入できないと恐さも盛り上がらない。女優陣は皆手堅い演技を見せ、特に悪女役の瀬戸朝香が強い印象を残した。
リトル。チルドレン
大人になりきれない大人たちを描くドラマということだが、現実逃避をテーマにした作品でもあると感じた。生活に不満を抱き不倫に走っていく、という点ではジェニファー・アニストンの「グッド・ガール」と共通点を感じたが、小児愛性行の男を配して、こちらのほうが奥行きがあるように思う。(キャスティングの良さもあって「グッド・ガール」も印象的な作品に仕上がっているが)本作ではケイト・ウインスレットが(またしても、というべきか)体当りの演技を見せ、パトリック・ウィルソンのダメ男ぶりもどうにいっている。ラストで他の二人は現実に目を向け始めるのだが、彼だけは一生あの調子という気がする。ジェニファー・コネリーはこれまでとはイメージの違いタフなキャリア・ウーマンぶりで、ちょっとデミ・ムーアみたいな感じだった。
消えた天使
アンドリュー・ラウ監督のハリウッド進出作品。狂気の一歩手前にいるベテラン犯罪者監督官と新人女性が職務を超えて女性らち事件に挑むバディ物。特に際立った部分はないが、水準はクリアした娯楽作。大仰なキャッチ・コピーは看板に偽りがあるので、ガッカリする人もいると思う。かなり衰弱しているはずの被害者が病院にも運ばれず、自宅に送り届けられるラストには詰めの甘さを感じた。
ブラッド
ルーシー・リュー単独主演のヴァンバイア・サスペンス。ストーリー的には特にひねった部分はないのだが、以外ときちんとした演出でけっこう楽しめる作品に仕上がっている。独自の解釈による吸血鬼を登場させているのが特徴。変身能力は全くなく、牙もはえないので、被害者を切り裂いて吹き出す血を飲んだりする。そのため映像的には従来の吸血鬼物よりスプラッター色が濃い。ヒロイン自身も殺戮と吸血を繰り返し、滅びを望むというダークな設定も生きていた。謎の男アーチェロについて多く描かれないのは続編狙いか。
彩恋
三人の女子高生とその家族を中心に描くアンサンブル形式のコメディ。脇役を含めて配役はすごく良いと思うし(ヒゲ面の浪人生はピンとこなかったが)、キャラクターも(全員物分かりが良すぎるので少々奥行きにはかけるが)決して悪くない。ストーリーだってほのぼのとして良くできている。にも関わらず出来上がった作品はあまり面白くなかった。演出のノリがイマイチ良くないように感じたし、脚本がツボを押さえ損なっている。人物描写が浅くて描き込みが弱いため、クリスマスに集約されていくクライマックスが盛り上がらない。本当にもったいない作品だと思う。
プロヴァンスの贈り物
リドリー・スコット監督には珍しいラブロマンス。金儲けのためにはモラルも捨ててきた主人公が少年時代を過ごしたプロヴァンスで人生を見つめ直していくというストーリーは目新しくもないが、さすがにリドリー・スコット監督の演出は手堅く、軽妙で魅力的な作品に仕上がっている。キャスティングも良くて、ラッセル・クロウとアルバート・フィニー以外に有名俳優は出ていないのだが、それぞれ魅力的なキャラクターを作り上げている。特に個性の違う女優を配して映画を彩り豊かなものにしているのがうまい。幻のワインは分かったが、まずいほうのワインって何だったのだろうか?朝になると邸内に出現するサソリも謎の存在。とラストのゴッホは本物ってことなんだろうなあ。
呪怨パンデミック
ハリウッド版「呪怨」の続編。見るほうが慣れてしまったこともあり、恐怖描写が今までほど怖くなかった。登場人物がなすすべもなく、たたひたすら取り殺されていく展開はこれまでと同じ。時系列をずらして日本とアメリカのエピソードを描いて筋をひねってあるが、アッと驚くほどの結末ではなかった。ヒロインが沙耶子の実母を訪ねて謎ときの要素が出てくるかと期待したが、何の情報も得られず腰砕けに終わった。ド田舎暮らしの老婆が英語ベラペラという設定には違和感を覚えた。字幕版で見たが、allcinema onlineの書き込みを見ると吹き替え版がひどい出来らしい。ホラー映画の吹き替えにお笑いタレントを集めるというのは、どういう意図なのだろう。大物俳優を起用するよりも安いギャラで話題集めをしようという狙いなのか。
河童のクゥと夏休み
数百年ぶりによみがえった河童と郊外の新興住宅地に住む一家との交流を描くアニメ。イジメ問題などを織り込みながらも、軽妙なタッチで描いている。ファンタジックな内容ながら、登場人物はみな等身大で主人公を含めて特殊な人間は出てこない。最初は敬遠していたヒロインとのほのかな恋もさわやかに描かれる。脚本、演出ともに丁寧で、もし現代の家庭に河童がいたら世間はどういう反応をするかが納得のいくようにシミュレートされている。人間にまじって暮らしている妖怪を登場させたラストも、余韻を残して良かった。