ムービー・マンスリー2007年9月
ベクシル2077日本鎖国
セルアニメ風のキャラクターを生かしつつ、フルCGで描く独自の手法が魅力の作品。海外のCGアニメは完成度は高いのだが、お国柄か人間の美形キャラが登場しない。その不満を解消してくれるのが嬉しい作品。ただし、脇のキャラクター・デザインは全員地味顔。格差がありすぎる気がした。ダイナミックな映像が展開し、特にクズ鉄集合体のモンスターが圧巻。テンポも良いのだが、日本鎖国どころか、あっさり日本が滅亡するストーリーはなんとも虚しい。もう少し希望の持てる展開のアドベンチャーにしてほしかった。
レミーのおいしいレストラン
ネズミで料理の達人という掟破りな設定のCGアニメ。なかなか良くできているのだが、さすがに厨房がネズミだらけのクライマックスはグロい気がした。なんか主人公がマヌケ面だし、ヒロインは可愛いとは言い難いし、デザイン的には微妙なのだが、ピクサーは相変わらずキャラの立て方がうまい。今回も悪役と見えたイーゴがクライマックスでは実に味のある人物として描かれ、場面を引き締めている。味を引き継いだヒロインの料理もイマイチそうだし、グストーって理念は立派だけど、料理人としては二流だったみたいだ。
トランスフォーマー
超大作なんだけど、アニメが原作ということで、全体的に軽いノリでまとめられている。細かいことにこだわらず、力技で押し切っているところがマイケル・ベイ監督作らしい。設定が大味で序盤に出てきた兵士の奥さんなんか途中で消えちゃってるし、クライマックスもややあっけない。テキトーな印象も残るのだが、最先端のCGを駆使してダイナミックな映像を作り上げ、とりあえずラストまで引っ張っていく力は持っている。
ウィッカーマン
カルト・サスペンス・ホラーのリメイク版なのだが、丁寧な作りが災いしてミステリアスさに欠けてしまった。オープニング・エピソードはインパクトがあるのだが、この導入部に本編が負けてしまっている気がした。そのためか、やたらとこの場面の幻覚が登場するのも興ざめ。演出、脚本が正攻法すぎて展開が読めてしまうため、オリジナルを知らない人でも、それほどラストに衝撃を受けないのではないがと思う。キャスティングは悪くないのだが、指導者役は前作のクリストファー・リーのほうがいかがわしくて面白かった。
オーシャンズ13
前作はピンとこなかったが、今回はけっこう楽しめた。ローテクとか言われながらも、ダイスを自在に操り、ビルを揺らして、不可能なしに思えるスーパーチームぶりを見せてくれる。とにかく都合良くスチャラカに展開するのでハラハラすることはなかったが、小ネタのギャグには面白いものがありニヤニヤさせられた。アル・パチーノとエリオット・グールドのベテランを配したことも成功している。転んでもタダでは起きないアンディ・ガルシアのしたたかぶりも良かった。
ブラック・スネーク・モーン
道端で拾った行き倒れの女の素姓を知った男が、思い余って鎖でつないで監禁し更生させようとする。というあたりの展開はブラック・ユーモア感覚に満ちている。後半は意外なほど真面目にドラマが描かれていく。主演二人は見事な快演+怪演を披露。歌も聴かせて音楽映画としても楽しませてくれる。演出も歯切れ良く、ジメジメとならずにラストまで引っ張っていく。ただ、二人の再生を描いたドラマとしては、その過程の描き込みが少し不足気味であるように感じた。
厨房で遭いましょう
フランス映画と勘違いして見にいき、途中でドイツ語を喋っているのに気づいて驚いた作品。(最初に気づかなかったことが情け無い)主人公は「レミーのおいしいレストラン」のグストーにお茶の水博士を足したようなルックスの名シェフ。ヒロインは美食と官能を同時に味わうのが夢だったという人妻。なんかC調で食事をたかりに来ているだけに見えることもあるのだが、本当においしそうに食べるので憎めないキャラ。その旦那は、悪い人物ではないのだが、キレると見境がなくなり自滅するタイプ。こんな3人を中心に、時には暖かく時にはブラックにドラマが展開。思わず引き込まれてしまった。テーブル3卓の高級レストランから、ヒロインの言ったとおり大衆のための料理人になるラストも良かった。主人公三人に加えてウエイター役の人も良い味を出していた。
人が人を愛することのどうしようもなさ
連綿と続く名美シリーズだが、石井隆監督は今のところ曽根中生監督の「天使のはらわた/赤い教室」を超える作品を撮れていない気がする。今回は最初からオチが読めてしまうのが痛い。せっかく竹中直人を起用したのだから、もうひとひねりあっても良かったと思う。文芸映画のヘアヌードでもめる場面があったけど、その前のB級アクションがすでにヘアヌード映画なのでチグハグな印象がした。まあ話に辻褄の合わない部分があっても、妄想ですんでしまうのかもしれないが。ストレートに一人の女優が現実と虚構の区別がつかなくなり、狂気に陥っていく姿を描いたほうが説得力が出たように思えた。
エヴァンゲリヲン新劇場版序
オリジナル版からの変更点が少ないという不満の声もあるらしいが、随分前に一度見たきりで細部については忘れていたので、かなり楽しむことができた。リメイクにあたっては、テレビ用で予算や時間に制限のあったオリジナル版に対して、納得行くまで書き込んでみたいということもあったのかもしれない。細部まで書き込まれた迫力ある映像に仕上がっていた。父親に誉められたい一心で乗り込み、「逃げたらダメだ」と思いつつも、恐怖心にあらがえない主人公。碇がヤシマ作戦の中で綾波レイと微笑みをかわすラストは感動的。あらためてこの作品の良さを感じた。第二部以降ではオリジナルと違う展開を見せるのかどうか。楽しみにしている。
デス・プルーフinグラインドハウス
クエンティン・タランティーノ監督が6,70年代のB級カー・アクションにオマージュを捧げた作品。現代が舞台なのだが、全体の雰囲気も70年代っぽい。タランティーノ作品らしい遊び心を感じさせる部分が多くあり楽しませてくれる。B級アクションの再現なら上映時間も1時間半弱程度のほうが良かった気もしたが、2本立て公開のアメリカでカットされた場面を復活させた特別編ということなのでやむを得ないのかもしれない。途中で保安官が話していたが、殺人が目的というよりも、女の運転する車にぶつけることがセックスの代替行為という印象が強い。本気で殺意を抱いたのは、自分で運転せずに男の車に乗り込んできた女だけだったかもしれない。人殺しの自覚がないうえに、逆襲されると「ごめんなさい。悪気はなかったんだ」と謝っちゃう情け無い男をカート・ラッセルが怪演。スタントウーマンを主演に招いてのカーアクションも圧巻。中盤、これから追いつ追われつかと思わせて一気にカタをつけ、後半のエピソードに持っていく力技にも驚かされた。本当にB級しちゃってるので要注意ではある。
シッコ
斬新な切口で深刻な問題をエンターテインメント化して見せてしまうマイケル・ムーア監督の新作。今回は医療保健問題と、これまでよりも身近なテーマとなり、個人的には一番怖い作品だった。カナダ、イギリス、フランス、キューバと国による医療制度が完備している例があげられ、ムーア監督はアメリカだってできるはずだという。日本はといえば、個人負担を増やして金持ちでないとおちおち病気にもなれない、反動的な方向に進んでいる。旅行者にまで無料で手厚い治療を施す国があることに驚かされる一方で、我が国の惨状を考えて思わず気が滅入ってしまった。
ラッシュアワー3
最近影が薄くなった気がするジャッキー・チェンだけど、このシリーズは健在。ストーリーはテキトーそのもので、長年の謎だった組織の存亡がかかるリストが野放しだったりする。深く考えなければ、アクションとギャグをテンポ良くちりばめた楽しめる娯楽作。真田広之のクールな悪役ぶりも魅力。できれば20年くらい前に共演して徹底したバトルを見せてほしかった気がしたが。工藤夕貴が珍しくアクション演技で頑張っているが、前作のチャン・ツィイーがインパクト強かった分損している。今回もラロ・シフリンがスコアを書いていることも嬉しかった。
Life天国で君と逢えたら
主人公の闘病と死だけでなく、家族や周囲の人たちとの絆が描き出されているのが感動的だった。一時は廃人のようになりながらも、奥さんの必死な支えや娘のひたむきな姿によって再生していく主人公にも心を動かされた。最後の誕生日は皆に祝ってもらい、短すぎて残念ではあるけれど、幸せな死を迎えられたのではないかと思った。むしろ、いつの間にか亡くなっていた哀川翔扮する恩師のほうが気の毒に感じた。丁寧な演出で出演者も皆好演している。
サイボーグでも大丈夫
ちょっとシュールな雰囲気の画面作りが面白かった。自分をサイボーグと思い込んで食事をしなくなったヒロインを救えるが、という基本的にはワン・アイデアの作品なので、場がもたない部分もあったし、オチもさほど斬新ではない。他の入院患者のエピソードをもっとふくらませても良かったように思う。エンドタイトルあたりで、おばあさんが本当は何と言ったのか明かしたらほうが洒落た幕切れになったかもしれない。魅力的な点も多い作品だが、未完成な印象も残った。
題名のない子守唄
緊張感に満ちた演出と、全編を彩るエンニオ・モリコーネの甘美でミステリアスな旋律が見る者を引っ張っていく。これまでのジョゼッペ作品とは、ちょっと趣が異なるが、完成度の高いサスペンス・ドラマに仕上がっている。かなりセンセーショナルな内容だが、品格を保った出来栄えなのに感心した。ただ、最後に明かされる秘密を前面に打ち出した宣伝は疑問に感じた。「プレステージ」「消えた天使」もそうだったが、かえって腰砕けの印象を残してしまう。特に今回は出来の良い作品だけに残念。