ムービー・マンスリー2007年10月
HERO
被害者の味方ができるのは検事だけだから、というセリフが決まっていて久利生公平は木村拓哉が演じたキャラクターの中でも一番カッコいい気がする。今回の映画版は多少中だるみした部分はあるものの、クライマックスでは主人公が見事に信念を貫き盛り上げてくれた。全員一丸となって証拠を探すのが見せ場で、全ての携帯電話チェックとは多少無理はあるが序盤から伏線を張って、前回スペシャルよりは納得できる展開になっている。ただ、多くの事件を抱えて多忙を極める検事たち、という設定のわりには、みんな妙にヒマそうに見えるのが難点。
ジャンゴ
これまで見た三池崇史監督作品の中で一番面白かった。とにかく怪演のオンパレードで、得意技が手下の後ろに隠れることの佐藤浩市、ひたすら一人二役で芝居を続ける香川照之、自分の世界に浸りきる伊勢谷友介。さわやかな目つきの伊藤英明が浮いて見えるほどエキセントリックなキャラばかり。特にタランティーノのチャブ台返しは爆笑だった。バカ大爆発しながらも、テンポ良くストーリーが淀みなく展開する。どうでもいいけどガトリング砲って手持ちで撃てるのだろうか。
ミス・ポター
ピーター・ラビットの生みの親ビアトリクス・ポターの半生を描いた伝記ドラマ。レニー・ゼルウィガーは、ちょっと野暮ったくてもチャーミングな女性を演じて見事にハマっている。彼女の親友を演じたエミリー・ワトソンも好演。アニメ合成で描かれるミス・ポターの空想は、「ネバーランド」とはひと味違った創作の楽しさを伝えてくれる。まだまだ封建的な時代背景を織り込みながら、感性豊かなドラマが展開する。稼いだ大金を静かな田舎暮らしを守るためにつぎ込んでいくラストも痛快だった。
パーフェクト・ストレンジャー
2大スター共演が売り物のサスペンス映画。でもブルース・ウィルスは出番の多いわりに見せ場の少ない役でちょっと気の毒。関係者が少ないこともあり、事件の真相は想定の範囲を超えるものではない。それ以前に作品全体がメリハリに欠け、精彩のないものになってしまっている。特に前半は退屈だった。脚本に工夫が足りないし、演出もケレン味が欠けている。そういえばハリー・ベリーは以前にも「潜在殺意」という強引な結末のミステリーに出演していた。
めがね
前作「かもめ食堂」以上にゆったりした時間が描かれていく。特別な事件も起こらないのだが、それでいて最後まで退屈させずに見せてしまう不思議な感覚の映画に仕上がっている。前半、異世界にまぎれ込んだかのように戸惑うヒロインが、まったり版不思議の国のアリスみたいで面白かった。後半、次第にその世界に馴染んでいく過程も楽しく、自転車の荷台に乗ったことで自慢げにする場面では、小林聡美のコメディエンヌぶりが発揮されている。現実生活に追われて長期の旅行などできない人間が、短時間でたそがれ気分を味わえるお徳用映画でもある。
アーサーとミニモイの不思議な国
リュック・ベッソン監督によるファミリー向けファンタジー。オマージュ的要素が強いのか、過去にあった映画などをそうきさせる場面が多い。剣を抜くのはアーサー王とエクスカリバー。小さくなって庭を行くのは「ミクロキッズ」、光を反射させる場面は「レジェンド光と闇の伝説」。軍隊の整列や空中戦はスターウォーズを連想させる。ミニモイのデザインは辻村ジュサブローっぽく感じたが、これは気のせいかもしれない。けっこう楽しめる作品だが、冒険ファンタジーとしては少々物足りない。特に人間に戻って小さな敵をやっつけるクライマックスはインフラマンみたいでイマイチ。ミニモイの状態で決着をつける展開にすべきだった。
ローグ・アサシン
ジェット・リーとジェイソン・ステイサムが顔合わせするというのでワイヤーアクション満載のド派手な展開かと思ったが、意外とシブいノワールだった。中盤まで少し歯切れの悪い気がしたが、2つの組織を手玉に取るローグの狙いは何か、というちょっと強引な展開を力技で描き切る終盤はなかなか面白かった。悪役側ではジョン・ローンが今ひとつ見せ場がなく気の毒。石橋凌は貫禄ある親分ぶりを見せていた。もう少しハメをはずしたアクション・シーンがあっても良かった気もしたが、けっこう楽しめた。
ファンタスティック・フォー銀河の危機
いかにもアメコミらしいライトなタッチが魅力のヒーロー・シリーズ第二弾。今回はアメリカでは大人気のシルヴァーサーファーが初登場。何度か映画化の企画はあったようなのだが、実現していなかった。CGの時代になってようやく満足がいくように映像化できたということなのかもしれない。銀ラメのタイツを着たおっさんじゃ話にならないし。今回は地球滅亡の危機という大規模な事件に、とストームの結婚というを私事をからめて描いたアンサンブルで楽しませる。超能力の入れ替わりとかギャグもうまく決まって飽きさせない。ジェシカ・アルバもキュートだった。今回はシルヴァーサーファーに見せ場を取られた4人が大活躍する3作目をつくってほしい。
未来予想図〜ア・イ・シ・テ・ルのサイン〜
全体的淡々と進むラブストーリー。後半は家庭が崩壊しかけた花火職人のエピソードを織りまぜ、夢を追って生きることと、愛する人と暮らすことの折り合いをつけることの難しさを描いていく。残念なことに出来栄えは少々中途半端。作劇も失敗していて、花火の場面では男の結婚が誤解だとヒロインは気付いていないはず。そのためせっかくのクライマックスが不倫場面と化してしまい、見ていて感情が盛り上がらなかった。松下奈緒は、まだ慣れていないのかちょっと固めの演技。シリアスな場面での目をむいた表情が見ていて少し疲れた。脇役には良い俳優が揃っているのだが、関めぐみは役が小さすぎてもったいないと思った。
カタコンベ(ネタバレ)
パリの地下墓地を舞台にしたサスペンス・ホラー。凝った編集と暗闇を生かした映像が特徴だが、何が起こってるのか良く分からずイライラした場面もあった、観客にフラストレーションを与えようという監督の意図だとすれば成功ということになるが。途中から殺人鬼の存在が消えてしまい、脚本の失敗かと思っていたが、ラストで納得させられた。それほど退屈な作品ではないが、この程度のオチだったら、短くまとめてオムニバスの1エピソード位に使ったほうが良かった気がする。エンディングもなんだかピンとこなかった。地下墓地にとどまって伝説が本当になってしまうほうが面白かったように思う。
サウスバウンド
学生運動家のなれの果てが今でも熱く生きていたら、というテーマは面白い。主人公はけっこう口が達者なのだが、何事も最後はナンセンスのひと言でくくってしまうため、説得力に欠けてしまうのが残念。豊川悦史のアジテーションが妙に一本調子なのも良くない。東京編、西表島編と多くのエピソードが詰め込まれ、テンポ良く飽きずにk見たが、全体としては未整理なぎこちなさが感じられた。先祖伝来の土地が、どのように売られてしまったのかが描かれないため、単なる不法占拠のように見えてしまうのも難点。伝説と重ね合わせたラストもイマイチ効果をあげていなかった。
リトルレッド/レシピ泥棒は誰だ!?
小品だが、ひねりの効いた脚本で楽しめる作品に仕上がっているCGアニメ。それぞれ意外な正体を持つ「赤ずきんちゃん」の登場人物が一つの事件を違った側面から語る「羅生門」ふうの展開でストーリーが進んでいく。基本的には同じ話の繰り返しなどだが、工夫が凝らされていて見飽きない。特に赤ずきんの窮地を救うお婆さんの幻には笑った。4人の証言が終わると、真犯人は検討がついてしまうが、今度は「トリプルX」ふうのアクションが展開してサービス精神に富んでいる。クライマックスがややあっけないのと、赤ずきんのキャラが下ぶくれの老け顔でシリアスな場面が盛り上がらないのは、ちょっと残念だったが、それを差し引いても十分に面白い。今回は吹き替え版でも上映。悪くなかったがアン・ハサウェイとグレン・クローズが共演した原語版も見てみたい、と思わせるのがDVD販売会社の企みか。
クローズド・ノート
脚本が良く出来ていて、けっこう面白かった。ラストに秘密が、とかうたってハズしている作品の多い中、この作品では観客に先読みさせて、ヒロインが何をきっかけに気づくのかを楽しませるように作ってあり、なかなか上手い構成だった。ラブストーリーとしても学園ドラマとしても楽しめるし、キャスティングも魅力がある。きちんとまとまりすぎて落ちついて見られてしまい、感動作とまで感じなかったのが残念。折り目正しい演出が裏目に出てしまったか。個展の会場で個人の日記を読み上げてしまうのは、ちょっと微妙な印象だった。
クワイエットルームにようこそ
精神病院の隔離病棟に収容されたヒロインの顛末をコメディ・タッチで描いていく。登場人物は患者以外も皆エキセントリック。現代人にとって精神の正常異常など紙一重の差に過ぎないということか。内田有紀は快活そうでいて心の底に闇を抱えたヒロインを体当たりで熱演している(さすがにジンマシン・メークはすごすぎる気がしたが)。蒼井優と大竹しのぶも、それぞれの個性を生かした怪演。徳井優の女医はちょっと意味が分からなかった。バラエティのコントみたいな演出ではあるが、ダークな内容をライト感覚で描き出すことに成功してはいると思った。ラストでヒロインは退院しても前途の展望ゼロというドツボ状態なのだが、それでも清々しい印象を受けた。
ストレンヂア無皇刃譚
パワフルな演出で押しまくる伝奇時代アニメ。たたみ込むように描かれるアクションが魅力なのだが、クライマックスはテンポが早すぎて未整理な部分がある。えっこれで死んだの?とか惑わされてしまった。もうちょっと脇のキャラも丁寧に扱うべきだったと思う。キャラの立て方が中途半端なため厚みに欠けてしまったのが残念。主人公はなかなかニヒルで良いのだが、自分の過去を考えたら、寝返った僧侶に対してあれほど毒づくのはおこがましい気がした。