ムービー・マンスリー2007年11月
ヘアスプレー
人種差別がテーマの作品としては脳天気すぎるように思えたが、それを無視できればパワフルな楽しさに満ちたミュージカル・コメディーに仕上がっている。ヒロインの暴行容疑が途中でうやむやになってしまうのが残念だが、クライマックスには爽快感がある。主演のニッキー・ブロンスキーはまさしくドンピシャのはまり役だし、親友役のアマンダ・パインズも良かった。ジョン・トラボルタの怪演も笑えたがミュージカルはお手のものだろうし、むしろ配役の妙はクリストファー・ウォーケンに感じた。仮想空間としての60年代アメリカの物語として楽しむ作品。
グッド・シェパード
デ・ニーロはコッポラになれなかった(なろうとしたかどうかは知らないが)。マフィアの世界をCIAに移したような、家族の愛憎を交えて描く年代記。最後は邪魔者は消せ、になるのも同様。場面のひとつひとつはすごく丁寧に演出されているのだが、全体的にはケレン味に欠けメリハリがない。長尺が少々きつく感じられる作品になってしまった。多人数の登場人物も十分整理できておらず、混乱させられたところもあった。息子が父親に抱いている感情がはっきり伝わってこないのも難点。演じているエディ・レッドメインもいまいちピンとこない俳優だった。
自虐の詩
原作は雑誌掲載時に時々読んだ程度で全体像は知らない。コミックに比べて実写版は主人公二人がグッと美男美女になり、その分雰囲気も華やいだものになっている気がした。ラーメン屋とか大家とか、主人公たち以上に幸薄そうな人々が脇を彩り、貧乏してもチャブ台ひっくりかしてもけっこう充実した生活を送っているように見えてくる。夫婦の絆だけでなく、ラストでは永い年月を越えた友情も描かれ、感動的な締めくくりとなっていた。脇の配役もクセモノを揃えて成功している。
ブレイヴ・ワン
ニール・ジョーダン監督とジョディ・フォスターの顔合わせということで期待大だったのだが、まあまあというレベルに留まった。内容的にはシリアス・ドラマ版「狼よさらば」。ジョディ・フォスターは狂気の狭間で苦悩しながらタフな選択をしていくヒロインを演じ切っているが、ニール・ジョーダン監督の演出はちょっと中途半端。社会派を目指すのか、娯楽アクションを目指すのか、どちらかに割り切ったほうが良かった気がする。
バイオハザードV
シリーズ3作目はサイキック戦士として成長したアリスが大活躍。やっぱりミラ・ジョヴォヴィッチはアリス役が一番カッコいい。タフなアリスと、ちょっと頼りなさそうなクローンの微妙な演じ分けも面白かった。今回は砂漠を突っ走る車の集団が登場し、ちょっとマッドマックスっぽい。クライマックスの闘いがややあっけない気がしたが、テンポ良く展開し、見せ場もきちんと用意されている。ゾンビ軍団は恐いが、アリスの軍団もけっこう恐そう。血清を打った人々が次々とアリス化する「アリスの惑星」を作ったりして。
青空のルーレット
高層ビルの窓ふきをしながら夢を追う青年をメインにした青春群像映画。いまどき珍しいほどストレートで明解な作劇。もう少し葛藤や苦悩の要素が織り込まれていたほうが厚みが出た気はしたが、気持ちの良い作品として仕上がっている。長期入院していた人間がリハビリもなしに復帰してくるなど、クライマックスはホイチョイ映画か、と突っ込みたくなるほど脳天気。とにかく夢を追って頑張り続けた人達が報われるのが嬉しかった。主人公役の塩谷俊は清々しい好演を見せているし、夫を支える気丈な奥さんを演じた鈴木砂羽も良かった。ちょっとたどたどしい語り口ではあるのだが、それが青春映画らしさを出しているようにも感じた。欠点もあるが、魅力的な部分も多くて捨てがたい作品。
スターダスト
ブラックなおバカギャグに冴えを見せるオフビートな冒険ファンタジー。思ったほど大作感はなかったが、けっこう楽しめた。自分も楽しんでるんじゃないかと思えるロバート・デ・ニーロとミシェル・ファイファーの怪演も見もの(ミシェル・ファイファーは実物も少し老けてきたが)。クレア・デーンズは上手いしチャーミングな演技をしているが、流れ星の化身という華やかさに欠けるのが残念。実写版宮崎駿をキャッチフレーズにしたが、コケてしまった。「ハリー・ポッター」「ロード・オブ・ザ・リング」以降多くの冒険ファンタジーが製作されたが、大ヒットは「ナルニア国」くらいで「エラゴン」はイマイチ。「ライラ」は大丈夫か?
象の背中
末期ガンを宣告された主人公だが、周囲は良い人ばかりで理想的ともいえる最期の時を過ごす。美談なのだが、演出にメリハリがなく、起伏に欠ける出来ばえになってしまった。見舞いにきた女が愛人と察して気をきかせ席を外す妻、金回りが良さそうに見えない中小企業の経営者なのに弟のために何も言わず千万以上の金を工面する兄。良い話なのだが、妙に出来すぎに感じてしまった。出演者は総じて良い演技をしており、役所広司は次第に衰えていくさまを上手く表現していたし、岸部一徳の深みのある演技も良かった。二人がホスピスでスイカを食べるシーンは名場面となっても良かったのに軽く流れてしまい残念。海岸でのチアリーディングもハズしている。なんだか病院の廊下でバレエを踊る宇津井健みたいで恥ずかしかった。それにしてもガンがテーマの映画で、こんなに喫煙シーンが目立つ作品も珍しい。
転々
独特なユルさと小ネタで見せる三木聡監督の新作。今回は、特にストーリーがあるわけではなく、これといったオチもないのだが、孤独で不運な大学生が幸せを感じる数日間が魅力的に描かれている。出てきただけで笑える石原良純とか、エンドクレジットの表記だけで笑いがおこってた岸部一徳とか、役者の使い方が相変わらず上手い。強面の松重豊にボケ役を演じさせているのも面白かった。ラムネにラムネを入れるのは、監督自身やったことありそうな気がして笑ってしまった。ロードムービーっぽいのが2作続いたので、次は密室劇に挑戦なんてどうだろうか。
やじきた道中記てれすこ
「しゃべれどもしゃべれども」に続く平山秀幸監督の落語ネタ物第2弾。ロートルな顔ぶれで地味な印象もあったが、さすがに芸達者が揃って笑いどころのツボを押さえた作品に仕上がっている。お人好しのやじさんをが好演、柄本明は酔って豹変する演技にさすがという実力を発揮している。きっぷがいいけど計算高い花魁の小泉今日子も自分の年齢を逆手にとって魅力的なキャラクターを作りあげていた。ストーリーも落語ネタをちりばめながら、なかなかうまくまとめあげている。特に大爆笑する場面はないが、懐かしい森繁久弥やフランキー堺らの喜劇を思い出させるのほほんとした楽しさを持つ作品。
タロットカード殺人事件
ウッディ・アレンの作品を見るのは本当に久しぶり。「マッチポイント」を見ていないので、ニューヨーク派のウッディ・アレンがイギリスを舞台にしたサスペンス・コメディを撮るのが珍しく感じられた。独特な話術を駆使して楽しませてくれるが、見終わった印象は思ったほど鮮やかではなかった。ロマンティック・ミステリーとしては洒落っ気に欠けるし、ブラック・ユーモアとしては毒が足りない。真相は幽霊が教えてくれる展開なので、謎解きも弱い。主演の4人は個性を活かしたキャスティングでなかなか良かった。ところで劇中では、タローカードと発音していた。昔読んだ雑誌では英米ではタローカード、タロットカード両方の発音が使われており、インテリ階層ではタローカードのほうが多く使われているとあった。
クローズZERO
原作は全く読んだことがない。学校の頂点を目指して不良学生たちが抗争をくりかえす、単純明快なストーリーを三池崇史監督が歯切れ良い演出で描いている。ハードなアクションにおバカギャグを交えて、一気に見せてしまう力を持っている。基本的に登場人物は不良かヤクザ。学校を勉強の場だと思っている者は一人もいない。ある意味、歪んだ世界観だが、そこが三池監督作品らしい気もした。本当は3年間ケンカに明け暮れて、その後何をするかが重要だという気もするのだが、それが見つけられずにいるチンピラを準主役に配しているのが面白かった。(30年前なら川谷拓三の役どころか)
ソウ4
本国ではハロウィンのお馴染み映画だという、このシリーズも第4作。今回は3作目を見ていないと分からない、というか見ていても一発では整理しきれず、すべてのピースをはめることができなかった。3作目を直前に見直すことをおすすめする。というわけで相変わらずトリッキーな仕掛けが用意され、時系列をずらして観客を罠にかける。謎解きはないが、ジグソウの後継者は誰かというポイントもあり、最後まで引きつけられた。次回作ではジグソウと後継者の結びつきが描かれるのだろうか。気になるシリーズではある。
ロボ・ロック
今月3本目の塩谷俊出演作。公開一週目にして観客3人だったのは驚いた。ガンアクションがイマイチ決まってないとか、微妙に演出テンポが遅く感じるとか、欠点も多いのだが、全体的にはかなり楽しめた。予告編で見せてしまっているので、クライマックスの展開に意外性がなくなってしまったのは残念。低予算のわりにはCGは頑張っていた。「地球を救え!」といいながら救えなかった韓国映画と見比べると、お国柄が感じられて面白いかもしれない。
ミッドナイト・イーグル
思ったより地味な作りで中盤ややダレるのが残念だが、クライマックスはドラマ的に盛り上げて、シブいけど見応えのある作品になっている。日本壊滅を計る北の工作員、原爆を持ち込む米軍、といったセンセーショナルなテーマを織り込みながら、主人公たちの生きざま、死にざまを浮き上がらせていくストーリーが良い。2回にわたる登山中の襲撃描写は中途半端。主人公たちがどうやって逃れたか良く分からなかった。見せ場を織り込みたかったのなら、大自然との闘いのエピソードを考えたほうが面白くなった気がする。藤竜也演ずる総理は、善人なのは伝わってくるものの、貫禄に欠けるのが残念。せめてヒゲくらい整えて登場させてほしかった。石黒賢も少し浮いて見えた。ところで全滅した自衛隊特殊部隊も全員遭難死ってことにしちゃったんだろうか。
モーテル
離婚の危機にある夫婦がモーテルで殺人者に襲われる。余計な枝葉を付けず、それだけで押し切ったところがパワフル。スナッフビデオが目的と考えると、少々手際が悪いように感じたが、観る側をハラハラさせる効果は良く出ていた。夫婦のドラマがわりときっちり描かれていることも作品に厚みを与えている。ラストは最後にもうひとひねりあるのかと思ったら、ストレートな終わり方だった。多少物足りない気もしたが、後味は良くなっている。