ムービー・マンスリー2007年12月
Always続三丁目の夕日
西岸良平の原作に独自の世界観を加えたシリーズ第二弾。今回も徹底した人情話が展開。思いきり感動させてくれる。オープニングのゴジラも大迫力。親父の剣幕に押されシッポを巻いて逃げていく展開でも良かった気がする。雑木林が失われる場面では高度成長期に向かって急激に変貌していく東京への哀愁を感じた。とりあえず物語は大団円を迎えるのだが、新たなエピソードを作って東京オリンピックあたりまで続けてほしいと思った。
椿三十朗
オリジナルの三船敏郎、仲代達也、加山雄三に比べて、いかにも軽量級の顔ぶれだが、テンポの良さもあって、手軽に楽しめる娯楽時代劇に仕上がっている。ストーリーの面白さはハナから折り紙つきだし、コメディ・リリーフを担当する女優陣も好演していた。眼光鋭い仲代達也に比べて、豊川悦史は好人物に見えすぎて、だんだん気の毒に見えてくる。ラストの決闘はオリジナル通りで良かったと思う。スローモーションで繰り返すのが野暮ったく感じた。
恋空
処女喪失、レイプ、妊娠、流産、難病と波瀾万丈のストーリー。演技も演出もさわやかなタッチで後味の良い作品に仕上がっているけど、濃い演技とドロドロの演出だったら大映ドラマになってしまいそうな内容。どうやってサキという女は二人の待ち合わせ場所を知ったのか。主人公はどうやってレイプ犯を突き止めたのか。卒業式を欠席した主人公がなぜ図書館には行ったのか。図書館の黒板が消されずに置きっぱなしになっていたのはどうしてか。細かく見ると突っ込みどころもいろいろある。一番タチの悪い女が幸せそうにしてたりして、人生の皮肉を感じさせるあたりがドラマに肉付けとして効果をあげている。
エクスクロス魔境伝説
原作は「このミス」大賞作品とのことだけど、映画はストーリーの細部にこだわらないジェットコースター感覚のバカ大爆発アクション・ホラー・コメディ。B級テイストに満ちた出来ばえで、これまで見た深作健太監督作品の中では一番楽しめた。ジェイソンか、富江か、と化してしまう小沢真珠の怪演が見物。あのでかいハサミはどこから出したんだろうか。キャリーバッグには入らないサイズだと思う。なぜか時々ポーズを決めちゃう鈴木亜美も良かった。吹き替えの岩尾は、「クワイエットルームようこそ」の徳井優同様ピンとこなかったが。そういえば物部さんの妹は結局見捨てられちゃってた。
ベオウルフ/呪われし勇者
徹底的にリアルさを追求したCGアニメ。「ファイナル・ファンタジー」の進化形という印象の作品。アクションはダイナミックに描かれ、迫力に満ちている。しかし、細かな表情やしぐさになると、やはり実写には遠く及ばない。そのためドラマ部分はインパクト不足となってしまった。やはり実写との合成のほうが作品に奥行きが出ると思う。特に今回は声を担当した俳優に似せたキャラクター・デザインになっているので、本人のほうが良かったという気分がかえって強くなってしまった。
ダーウィン・アワード
おバカな死に方をする人間の因子を探り出す、というテーマで多くのエピソードが描かれるコメディ。殺人鬼との対決というクライマックスはあるものの、おバカ死因子についてはうやむやに終わってストーリー性は希薄。ウィノナ・ライダーに引けをとらない演技派だったジュリエット・ルイスが見せ場もない役でゲスト出演しているのが、ちょっと悲しかった。かっての名子役ルーカス・ハースも今はホワイト・トラッシュ役。ショーン・ペンはこれが遺作だとか。せっかくの顔ぶれが完全には活かされていないのが少し残念だが、いろいろな点でそれなりに楽しめる作品ではある。
マリア
ヴァチカンでワールドプレミアというのは、ちょっと微妙な期待度だったが、最近レンタルで「クジラの島の少女」を見たばかりだったので、気になった作品。残念ながら生真面目すぎてメリハリに欠ける仕上がりだった。私生活でもすでに母親というケイシャ・キャッスル・ヒューズは、今回もしっかりした演技を見せるし、りりしい夫やけなげなロバも好演している。旅を通じて夫婦の絆を深めていく描写など魅力的な部分もあった。処女を妊娠させる能力があるのだったら、子供の虐殺を止めることができても良いような気がした。
アイ・アム・レジェンド
リチャード・マシスン原作3度目の映画化。訳題「吸血鬼」の原作を大幅に変更。ゾンビ物っぽいバイオハザードによる終末SFになっていた。前半、無人の世界をたっぷり見せようとしているのだが、少々冗長な展開になっていしまった。怪物は異常にパワフルかつスピィーディー。しかも主人公より頭が良さそうに見える場面もあって、かなり始末に悪い。主人公は自分が救世主になる妄想に取りつかれているし、後半に登場するヒロインはちょっと狂信的。ダークなドラマが展開するかと思いきや、主人公は本当に世界を救っちゃうし、神のお告げも的中。いかにも今風ハリウッド映画といったまとめ方だが、安直で薄っぺらな印象を残したのもたしか。それなりに楽しめるという程度のレベルに落ち着いた。
スマイル聖夜の奇跡
「ロッカーズ」でも軽妙な演出ぶりを見せていた陣内孝則の監督作。序盤は派手な擬音を使ったベタなギャグの連発でちょっと不安になったが、最初の試合あたりから調子が出てきた。つめこみすぎとも思える多くのエピソードを描いて、それなりにきちんと消化しているあたりは、たいしたものだと感心した。アイスホッケーの知識が全くない主人公が、児童心理学とダンスという得意分野を駆使してチームを導いていく展開も楽しめた。いかにも陣内孝則らしいと思わせるサーヴィス精神と疾走感にあふれた作品。
マリと子犬の物語
実をいうと見るまでマリが飼い主の名前だと勘違いしていた。地震を扱った映画は数多くあるが、「余震の恐さ」という点では出色の迫力だと思う。老いを上手く表現した宇津井健をはじめ、役者たちも好演しているが、やはり動物と子供にはかなわなかった。子役の泣き顔で感動を誘うのはズルい、と思いながらもつられてしまった。また、マリ役の犬(複数なのかもしれないが)は驚くほど細かな芝居をしている。
パンズ・ラビリンス
ハリウッド製とは一味違うダークな雰囲気が魅力のファンタジー映画。幻想的な映像に中に少女の切ない想いが伝わってくる。少女の幻想だったのかどうかを曖昧にしながら、ラストに希望を感じさせるカットを持って来たところに作品の奥行きを感じた。これまで見たギレルモ・デル・トロ監督作品の中では最高の出来。次回作は「ヘルボーイ2」だそうだが、ダーク・ヒーロー物より、こちらのほうが向いていると思う。
俺たちフィギュアスケーター
パワフルなおバカ映画。ウィル・フェレルのゴツい顔立ちがキャラクターに生かされている。ジョン・ヘダーは始めて見たのだが、フェレルと正反対な役作りが面白い。二人の主演で「おかしな二人」をリメイクしたら面白いんじゃないかと思った。主人公もライヴァルもフィギュアの演目には見えなかったりするんだけど、力技で盛り上げ見せきってしまうところがすごい。究極の技が、カンフー映画の必殺技みたいなところも笑えた。
チャプター27
ジョン・レノン暗殺者、最後の3日間を描くというのだが、ダサい狂人の一人よがりな言動が続くだけで、ドラマとしては退屈だった。偉そうなごたくを並べているわりに、きっちり売春婦買って性欲処理しているあたり、妙に世慣れているところも胡散臭い。ただ、今までマーク・チャップマンはサインを断られたのだと勘違いしていたので、少しだけためになった気がした。
ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者の日記
一作目は現代の宝探しを描いて快調だった。今回もテンポよく展開し、一つ一つ謎を解いていく過程がアドヴェンチャー・ゲーム感覚で描かれる。ただ、祖先の汚名を晴らすという設定は良いのだが、宝さえ出てくればチョンというのは、やや単純すぎる気がした。英国王室潜入とか、大統領拉致とか間口を広げすぎた印象も残る。主人公よりも悪役のはずのエド・ハリスが活躍するクライマックスも疑問。悪役不在というか、冒険映画としては物足りないものになってしまった。やっぱり悪役は野望ゆえに滅んで、主人公が自ら血路を開いたほうが痛快感がある。