ムービー・マンスリー2008年1月
AVP2エイリアンズVSプレデター
プレデターは別として、エイリアン・シリーズで広域が舞台となったのは、初めてだと思う。タイトル通り一体のプレデターが複数のエイリアンと戦闘を繰り広げる。今回は基本設定にも変更が加えられたようで、エイリアンはこれまでにないスピードで繁殖するし、人間の銃火器もかなり通用している。物語が一過所に集中していないこともあって全体的に大味ではあるが、激しい攻防戦が展開して見ている間はけっこう楽しめた。「24」のレイコ・エイルスワースがタフなヒロイン役で活躍している。
Little DJ小さな恋の物語
主人公は、子供とは思えないくらいしっかりしている。一歩間違えば嘘くさくなりかねないキャラクターに、きっちり存在感を持たせ観る者を納得させてしまう神木隆之介の演技はさすが。笑顔のまぶしい福田麻由子も魅力を発揮している。悲しい物語なのだけど、なつかしい歌曲の楽しさが救いになっていた。15年の歳月を超えて読み上げられるリクエスト葉書というエンディングも、作品に余韻を与えている。
魍魎の函
監督を交替しての京極堂シリーズ第二弾。豪華な顔ぶれで中盤まではテンポ良く進み、それなりに楽しめるが、終盤はまとまりが悪く、展開もミステリとして成立していない。「この世にさ不思議なことなど一つもないのだよ」とうそぶきながら、阿部寛は超能力探偵で、柄本明はマッド・サイエンティスト。宮藤官九郎は首だけ人間になっちゃうんだから、理屈じゃ説明できないストーリー。クライマックスのハコ屋敷探検がもう少しうまくまとまっていたらカルト映画を目指せたかもしれないが、イマイチ盛り上がらず、単なる珍作で終わってしまった。
再会の街で
911のテロで妻子を失い心を閉ざした男。家庭にも仕事にも行き詰まりを感じて、気ままな彼とのつきあいを現実逃避の場として楽しむようになる歯科医。軽妙な描写に引き込まれ、やや重い後半も一気に進んでいく。アダム・サンドラーは、これまでとはひと味違うナイーブな演技を披露している。脇のキャラクターも多くは心の痛みや怒りを胸に抱いて生きており、ドラマ全体に奥行きを感じさせた。そんな登場人物たちが少しずつ癒されていく終わり方も魅力的だった。
グミ・チョコレート・パイン
原作は、かなり前にグミ編を読んだきり。主人公は名前も大橋賢三で、原作者の分身とも取れるけど、映画版ではかなり異なったイメージ。むしろ山之上の方が原作者イメージという気がした。イケてない奴らのイケてない青春群像がコミカルに描かれ、2時間10分強の長丁場をあきずに見ることができた。練習シーンのほとんどないわりに演奏が上達しているのはフシギ。中年になった主人公の大森南朗は少しカッコ良すぎ。高校時代のイメージからすると土田晃之が合ってる気がした(演技できるかどうか知らないけど)。
やわらかい手
昔の面影はなくなったマリアンヌ・フェイスフルだけど、やっぱりミューズだったというハート・ウォーミング・ストーリー。ハジケたコメディーなのかと思ったら、予想外なほどじっくりと描きこんだドラマだった。セリフも少なめで寡黙な登場人物を中心に渋いドラマが展開する。孫のため風俗で働くことにした女性の戸惑いや周囲の波紋がきっちりと描かれている。子供の生命がかかっているというのに大人げない反応を見せる息子はボンクラな印象に終始したが、折り合いの悪かった嫁が義母の決断に感謝を告げる場面は感動的だった。ついでながら久しぶりに見たジェニー・アガターも懐かしかった(こちらはけっこう面影が残っていた)。
銀色のシーズン
「海猿」で成長を描いた羽住英一郎監督が主人公の再生をテーマに描く青春ストーリー。おバカなギャグも多いし、決して完成度は高くないのだが、演出に勢いがあって魅力ある作品に仕上がっている。全体的に軽くまとめているため、主人公が再挑戦にいたる心の変化が十分に描きこまれていないのは残念だが、クライマックスはさすがに盛り上がった。ヒロインが遭難する前後の場面は昼と夜の区別がつきにくかった。三者三様の主人公トリオに加えて、田中麗奈のチャーミングなヒロインぶりが華を添えている。
ピューと吹くジャガー
原作は全く読んだことがないが、映画は完全に失敗作。バラエティのコントみたいなギャグのほとんどがスベッている。脚本が弱くてメリハリに欠け、特にクライマックスの展開はヒネリが効かず凡庸。せっかく個性派をそろえたキャスティングも生かされていない(忍者役の芸人は本当に演技が下手なんじゃないかという気がした)。主人公二人のキャラクターに魅力が感じられないのもイタい。
ネガティヴハッピー・チェーンソーエッヂ
破天荒な展開の青春アクション・コメディーだが、テーマは死への願望。友人の死に影響され自分も死んで人生の華としたいボンクラな高校生と、事故で家族を失い自らが作り出した(多分)怪人と果てしない戦いを続ける女子高生。十分にメッセージを伝えられておらず、未完成な印象もあるが、ユーモラスな展開の中に切なさを感じさせて魅力的な部分が多い。ダラダラ生きても、生き残った者勝ちというのは正解だと思う。浅利陽介も含めて主人公三人は好演している。アクション・シーンの演出もなかなか良くできていた。
アース
北極から始まって地球を縦断しながら大自然の驚異を描いていく。季節の変遷とともに同じ場所とは思えないほど様相を変えていく地域の描写には、どれほど長い期間カメラを据え置いたのだろうかと感心した。たっぷりと自然の描写を堪能させたラストで北極に戻り、温暖化によるホッキョクグマの危機を訴える構成はなかなかうまい。ホッキョクグマの話は、新聞の記事でも読んだが、映像で見せられるとやはり説得力が違う。エピソードの中には多少中途半端なものもあるが、映像的な完成度はかなり高い。
茶々 天涯の貴妃
主演の和央ようかは、男役出身らしい良く通る美声なのだが、脇を固めるベテラン女優陣に比べると華が感じられないのが残念。一応大作感のある作りとなっているが、ドラマとしての面白さには欠けている。肝心な茶々が何を考えているのかイマイチ伝わってこないのが致命的。家康の考えを見抜いていたという設定なのかもしれないが、どうしてああまで大阪城にこだわったのか良く分からなかった。母親の立場なら子供の命を優先させるのではないかと思う。滅びの美学を追求するような人物に描かれていなかったので、クライマックスも唐突に感じた。
テラビシアにかける橋
原作は児童文学の名作とのことだが、映画版も完成度の高い仕上がりになっている。なんといっても主人公二人がみずみずしいさが魅力的だし、ロバート・パトリックもこれまでにない深みのある演技をみせている。少女と出合った主人公が、空想力を失わず、現実とも向き合う力を身につけて悲劇を乗り越えていく姿が鮮やかに描き出されていた。作文の教師や上級生など脇のキャラクターも一面的に終わらずに描かれ、作品に厚みをもたらしている。母親と二人の姉の存在感が薄いのは残念。音楽が効果的に使われていた。