ムービー・マンスリー2008年2月
魁!!男塾
男気とバカが大爆発する破天荒な青春アクション。原作はほとんど読んだことがないのだが、一世風靡セピアの主題歌が好きでテレビアニメ版は時々見てた記憶がある。今回の実写版はかなり安い作りで完成度が高いとは言えないのだが、作り手たちの熱意はきっちり伝わってきた。CGどころかワイヤも使っていない(ロープにはぶらさがっていたが)泥臭いアクションも安いけど楽しい。ジャンルは違うが、「猫目小僧」を見たときと似たような気分になった。麿赤児の江田島平八郎は他にはありえないどのハマリ役だし、照英のストレートな熱演ぶりも魅力。中島知子が意外と決まっていることにも驚かされた。
母べえ
「Always三丁目の夕日」が高度成長期を迎えた昭和の光の時代を描いているとすれば、この作品は自分の心を押し殺さねば生きていかれない昭和の闇の時代を舞台にしている。登場人物の一人は特高警察に逮捕されて獄死し、一人は徴兵されて輸送船とともに海に没し、一人は広島の原爆で放射能症を患って命を落とす。ストーリー自体は暗鬱で物悲しいが、山田洋次らしいユーモラスな描写が随所に織り込まれ、全体的には時代に翻弄されながらも懸命に生きる家族の力強い姿が鮮やかに描き出されている。吉永小百合の妹が壇れいで、ラストに登場する戸田恵子の4つ違いの姉が倍賞千恵子という無謀ともいえるキャスティングが納得できてしまうのも映画の魔力といえるかもしれない。
陰日向に咲く
孤独死、ホームレス、親子の不和など人生の暗部を多く織り込みながら、ハートウォーミング・ストーリーに仕上げているのが面白かった。いくつもの偶然が積み重なり、それが人生の巡り合わせとして描かれていく。メインのストーリーとは冒頭の秋葉原でしかリンクしていないのが残念だが、崖っぷちアイドルとその追っかけのエピソードが切なくさわやかなラヴストーリーとして描かれ魅力的だった。細かな展開には説得力に欠ける部分があるのは残念。例えばクライマックスでヒロインやホームレスが神社に行けば霊に逢えると分かっているかのように行動するのは不可解だった。
スイーニー・トッド/フリート街の悪魔の理髪師
前に見た「スウィニートッド」は、単なる殺人床屋と人肉パイの話だったが、今回は皮肉すぎる結末を迎える復讐物に構成され、ドラマに陰影が与えられている。ヘレナ・ボナム・カーターの怪演が際だっているし、「クライ・ベイビー」以来久々のミュージカルとなるジョニー・デップは相変わらずエキセントリック。残念なことは地味な歌曲が多く、見終わって頭に残るようなメロディーラインに欠けたこと。このため、作品自体が少し冗長な印象になってしまっている。歌曲が余計に思えるミュージカルは珍しい気がした。
KIDS
傷を移動できる超能力をテーマモチーフとして、心にも身体にも傷を負って生きる三人の主人公を描く青春ドラマ。心の闇の部分を描きながら、幕切れはさわやかにまとめられ、気持ちの良い後味の作品に仕上がっている。原作は読んでいないのだが、脚本もうまいのだと思う。主演の三人は、それぞれの持ち味を生かした好演を見せている。特に栗山千明はこれまでで一番きれいに見えた。
団塊ボーイズ
一念発起してバイクの旅に出た中年男4人組の珍道中を描くコメディ。主役の4人が個性を生かして好演しているし、レイ・リオッタやジョン・C・マッギンレーも良い味を出していた。ゲスト出演のピーター・フォンダ(「キャノンボール2」のセルフ・パロディはちょっと情け無かったが、今回は良かった)も含めてオヤジパワーに満ちた作品。特にヒネリの効いた内容ではないが、軽い娯楽作として良くまとまっている。
チーム・バチスタの栄光
手術の描写はなかなか緊張感がある。竹内結子は命のやりとりをする現場に放り込まれて動揺し傷付いていくヒロインをきっちりと演じている。阿部寛も軽妙な演技を見せるが、表面的なキャラクターにとどまり、「トリック」の上田次郎を超えることができなかった。「このミス」大賞の映画化ということで本格派ミステリーを期待したのだが、その点では物足りなさを感じた。チームバチスタの隠れた人間関係が暴かれるわけではないし、真相もいきなり突きつけられるので謎を解き明かしていく醍醐味にも欠けている。犯人の動機も、正統派ミステリーにはイマイチと思う。いっそ社会派にして医療制度の闇を描くとか、別の切り口にしたほうが良かったかも。井川遥が演じたキャラクターはオーバーすぎて、あんな看護婦が心臓手術に参加してたらイヤだなと思わせるものになっていた。
ラスト、コーション
日本占領下の上海で、頭でっかちな抗日運動の理想を掲げてヒロインの心も身体も道具として扱う活動家たち。ニヒルな態度を取りながらも、内心の不安をぶつけるかのように時には暴力的なまでにヒロインの身体を求める売国奴の高官。両者の間で自己を押しつぶされていくヒロイン。大胆な性描写を交えながら2時間40分近い長丁場を見せきってしまう演出力はたいしたものだが、ヒロインの心の揺れ動きが把握しづらいのが少々残念だった。クライマックスにおけるヒロインの行動は命を賭けた両者への復讐のように見えて鬼気せまるものを感じた。活動家たちが実行力に欠けるボンクラの集団みたいに見えてしまうのは難点。
人のセックスを笑うな
ワンカットを長撮りしているのが特徴。撮るのがたいへんだったろうな、と思えるカットも多く、作家性を感じさせる作品ではあるが、面白かったかというと微妙。作品自体はメリハリに欠け冗長になってしまった気がする。普通に編集したら1時間半くらいで収まってしまうのではないだろうか。日活ロマンポルノなら70分弱で密度の濃い愛欲ドラマを作り上げていた気がする。配役は申し分ないので、それなりには楽しめたのだが。特にキスの仕方がエロい永作博美と、どこか幼い印象を持つ蒼井優のキャラクターの対比が面白かった。
潜水服は蝶の夢を見る
前半は肉体にとらわれていた視線が、後半では解放されていく。「典子は、今」よりも、さらに過酷な状況の中で生きる喜びを見出していく主人公の姿に胸を打たれた。また、彼を支えた周囲の人々も魅力的。実話であるという重みを感じさせる作品。人間のイマジネーションが、いかに可能性豊かなものであるかを鮮やかに描いている。マックス・フォン・シドーの演技が圧巻だが、他のキャストも皆良い演技をしている。
L change the WorLd(ネタバレ)
死の時に向かって次々と事件を解決していたLに最後の事件が舞い込む。盛り上がる設定で楽しませてくれるスピンオフ作品。子ども相手に戸惑うL。背筋を伸ばすL。これまでにないLの姿も見せてサービスたっぷりだが、クライマックスはダイ・ハードもどきではなく、頭脳戦で決着をつけてほしかった気がする。テロ組織がマンガっぽいのも難点だが、それにしても南原清隆演じるFBI捜査官の行動は説得力に欠けすぎ。全体的に脚本が弱い。にもかかわらず、けっこう楽しめてしまうのはメインのキャラが立っているからだと思う。松山ケンイチのなりきりぶりは見事だし、「Little DJ」で笑顔がまぶしかった福田麻由子の眼光も迫力があった。魅力的な部分も多いのに残念な仕上がり。今回意外に大物だと判明したワタリも謎の多い人物。Lとワタリの出会いを描くスピンオフ第2作とか、ワタリの若き日を描くテレビ・スペシャルとか作ってほしい気がする。