ムービー・マンスリー2008年3月
ペネロピ
ブタ鼻少女をキュートに演じるクリシティナ・リッチの魅力があふれたロマンチック・コメディ。意外と可愛いキャラという気がするので、窓から飛び出す良家の子息のバカぶりが際立つ。相手役のジェームズ・マカヴォイも好演しているし、ピーター・ディンクレイジ扮するゴシップ誌記者も儲け役。驚くほどではないが、それなりにひねった展開で楽しませるし、結末も爽やかで良かった。本作から「ブラック・スネーク・モーン」まで幅広い役をきっちりこなすクリシティナ・リッチは、やっぱりすごいと思う。「勇者たちの戦場」は見逃してしまったが、「スピードレーサー」はどうだろうか。
ライラの冒険 黄金の羅針盤
製作費200億円とも250億円とも言われる高予算作だが、米本国の売上は50億円程度だとか。はたして2部以降は作られるのか。で本編なのだが、脚本が弱いのか内容的に大作感が欠けてしまっている。メインのストーリーも簡略化すれば人さらいから子供たちを救い出すだけ。背景にある秘密結社の陰謀をもっと強調して、スケール感を持たせたほうが良かったと思う。演出的にもメリハリに欠け、中盤までは少し単調に感じた。危機一髪で援軍が現れるという単純な展開が目立つのも難点。個人的には昨年の「スターダスト」のほうが面白かった。
明日への遺言
小泉堯史監督期待の新作。戦後の軍事裁判を舞台に岡本資の生きざまを描いていく。裁判では米軍の空襲が無差別殺りくではなかったかどうかが争点となるが、作品の狙いは社会派的なメッセージよりも、主人公の信念を描くことであるように感じた。藤田まことが味のある演技で、仏教を信じる真摯(しんし)な人物に奥行きを与えている。藤田まことの飄々(ひょうひょうo)とした持ち味が生きているので、主人公が実は人を食った人物で判事や検事を手玉に取っているのではないか、とも思えたりして面白かった。自らの命を捨てても部下を救おうとする資の生き方は、今の政治家や役人に爪のアカを煎じて飲んでほしいと思わせるものだった。
リアル鬼ごっこ
パラレルワールドをテーマにしたSFアクション。パラレルワールドには分身がいて、一人が死ねば他の世界の分身も死ぬという独特な設定。主人公だけ分身がいないというシチュエーションがストーリー上あまり生かされていないのが残念。それなりに楽しめる展開なのだが、真相が明かされると少々詰めの甘さを感じてしまった。王様はターゲットの佐藤がいない時点で鬼ごっこを始めているし、途中で佐藤が来るという確証もなかったはず。それ以前にライバルが次々と死んだというだけで、あんな親父が絶対権力の君主になれるだろうかという疑問もある。テレビカメラの前で素顔をさらして秘密をばらしちゃうのもおマヌケ。久しぶりに見た松本莉緒は儲け役で良かった。
シスターズ
「悪魔のシスター」のリメイク。序盤でメインを務めるルー・ドワイヨンとダラス・ロバーツは華に欠け、演技的にもイマイチ。あまり盛り上がらずに話が進んでいく。やっぱり「殺しのドレス」は良かったとか思ってしまった。事件が起きて記者が活躍し始めるとそれなりに面白くなる。新味はないながら、シャム双生児、二重人格、精神病院への幽閉と多様な趣向を織りまぜてサービス精神に富んでいる。ところがクライマックスが唐突で、はぐらかされた印象になってしまった。脚本家が投げ出したんじゃないのかと思ってしまうほど説得力のない結末だった。
スルース
前回若い男役だったマイケル・ケインが老作家を演じたのが話題のリメイク。全体的に下ネタが多く、前作より下世話な印象だが、終盤になるとむしろこちらがテーマだったのかと思えてくる。オリジナルのトリッキーなストーリーは中盤までで消化してしまい、終盤は孤独な老作家の悲哀を描くドラマになってくるので、ゲーム感覚の楽しさは薄れている。製作にも名を連ねているジュード・ロウのキャラクターを生かした展開ではある。実は二人の性行を知り尽くした妻が影で全部仕組んでいたという読み方をするのも面白いかもしれない。
ガチ・ボーイ
学生プロレスをテーマにした青春ドラマ。記憶障害の青年を主人公に据えてコミカルな中にも奥行きを感じさせる内容に仕上がっている。登場人物それぞれが魅力的に描かれており(ヒロインのアニメ声はプロレス同好会らしくなくて若干違和感があったが)、出演者も好演している。同じ記憶障害を扱った「50回目のファースロ・キス」ほどにはハマらなかったが、十分楽しむことができた。主人公の日記は分厚すぎて目を通すだけで一日が終わってしまいそう。記憶がなければ抜粋して読むこともできないだろうし。バスで居眠りは思いつかなかったが、その後の展開は予想通り。意外性には欠けたが、爽快感に富んだ佳作。
魔法にかけられて
アニメ世界の姫さまが実写の世界に飛ばされてしまうハリウッド版はしのえみ映画。他愛のない内容ながらテンポの良い演出で質の高い娯楽作に仕上がっている。セントラルパークのミュージカル・シーンも違和感なく盛り込まれていた。魔女の手下がいつの間にか味方になったり、魔女の最期があっけなかったり、多少詰めの甘い部分があるのと、後日談にヒネリが効いていないのが残念だが、それを差し引いても十分楽しめる出来ばえ。主人公側に知名度の高い俳優を使っていないのに、地味な印象になっていないところも評価したい。
犬と私の10の約束
犬とあっちむいてほいとシンディ・ローパーが癒しを与える感動作。「いぬのえいが」のラストエピソードを長編化したような趣きもある。本木克英監督が丁寧な演出で実力を発揮、松竹映画らしい犬を含めた家族愛の映画に仕上がっている。少女役の福田麻由子が田中麗奈にかわっても、まったく違和感のない好キャスティング。豊川悦司も「サウスバウンド」より、こっちの父親役の方が似合っていると感じた。もちろん犬のソックスも良いのだが、しっぽの合成はもっと上手く処理してほしかった(余談だが犬のソックスというとコスプレ犬が活躍するテレビドラマ「夢見る小犬ウィッシュボーン」が懐かしい)。
トゥヤーの結婚
モンゴルの荒れ地でたくましく暮らす肝っ玉母さんを描いた作品。洗練されているとは言えない演出なのだが、作品全体の雰囲気にはうまくマッチしていて独特な味わいを出している。辛い生活が描かれるが、たくましさとユーモラスな描写が多く魅力的に仕上がっている。ヒロインに比べて男たちは憎めないけれど、ものすごく情けない。特に旦那は重度の障害というから全く歩けないのかと思いきや、後半には松葉杖で歩いてる場面があった。それなら家事の手伝いくらいできそうなものだが、何もせずブラブラしてる。ヒロインがラストで泣き出してしまうのも分かる気がした。
バンテージ・ポイント
同じ時間帯を、それぞれの登場人物の視点から描き物語を構成していく手法が凝っていて面白ぴ。特別ひねったストーリーというほどではないが、スピーディーに展開して飽きさせない。小品で大作感はないものの、小回りの利いた佳作に仕上がっている。冷酷なテロリストに残された良心がすべてを決してしまうラストはやや甘い気もしたが、後味良くまとまった。フォレスト・ウイッテカーが設け役を好演。シガーニー・ウイーヴァーはゲスト出演という程度で特に見せ場もなかった。
燃えよ!ピンポン
「燃えよドラゴン」のピンポン版パロディー。主役のダン・フォグラーは体型的にデブゴン似だったが。他愛ないストーリーでハズしたギャグも多いのだが、憎めない作品に仕上がっている。クリストファー・ウォーケンの怪演ぶりも楽しい。マギーQは、いつの間にかハリウッドで一番成功した中国+香港出身女優になったしまった気がする。個性が強すぎないので娯楽大作に起用しやすいということなのだろうか。余談だが日本版「燃えよピンポン」という映画もあって、ものすごく安いのだが、こちらも憎めない出来ばえ。高田聖子が黄色いトラックスーツで塔を登り、スチャラカなピンポン対決していた。
マイ・ブルーベリー・ナイツ
ヒロインとダイナーのオーナーとのロマンスをメインに、保安官と元妻との悲劇、美貌のギャンブラーの物語がオムニバス的に描かれる。独特なタッチのカメラワークがウォン・カーウァイ監督作らしいスタイリッシュなムードを作り出しているのだが、個人的にはオーソドックスな映像の方が親しみやすい気もした。演技者の中では父親への愛憎を的確に表現したナタリー・ポートマンが秀でていたと思う。挿入される二つのエピソードはインパクトがあって強い印象を残すのだが、メインとなるノラ・ジョーンズとジュード・ロウの物語が少し弱い気がした。