ムービー・マンスリー2008年4月
口裂け女2
2といっても前作との接点は全くない。現実に起こった事件にヒントを得た、三姉妹の悲劇となっている。作品自体もキャスティングも前作より地味で、スケールダウンした印象。演出はけっこう丁寧で好感が持てるのだが、内容的には青春ドラマとしてもホラーとしてもやや中途半端。口裂け女自体がこじつけっぽくなっているのも残念。それにしても30年前とはいえ、あんな傷の縫合が医学の限界だったのだろうか。
ジャンパー
超能力に目覚めた主人公の最初にしたことが泥棒と家出という、たいへん分かりやすい作品。キャスティングがヘイデン・クリスチャンに変わっても、好き勝手に生きてきたから中身は子供のまま。狂信者との戦いを経ても、あまり成長したように見えないのが残念。全体的にテンポは良いのだが、クライマックスの戦いはめまぐるしいわりに盛り上がらなかった。それでも、これまでのダグ・リーマン監督作品では一番楽しめた気がする。主要メンバーがほとんど生き残るのは続編狙いか。
ノー・カントリー(ネタバレ)
クールという言葉とは正反対なイメージの暑苦しい殺し屋が大暴れするサスペンス・アクション。コーエン監督作品は確かに面白い部分も多いのだが、キャラクターに感情移入しにくいせいか、一般の評価ほどにはハマらないことが多い。今回もドン・シーゲルやサム・ペキンパーの演出だったらなあと思ったりした。自己の身勝手な規律で他人を殺しまくる殺し屋は現代アメリカの象徴だという見方があるそうで、確かにそう考えるとトミー・リー・ジョーンズ扮する保安官の抱く喪失感が生きてくる。ただし保安官は結局殺し屋に迫ることなく終わるのでサスペンス映画としては物足りない。自信満々で登場したわりに、あっさりやられるウディ・ハレルソンのキャラクターも印象的だった。
カンフーくん
「笑う大天使」の小田一生監督によるファミリー向けアクション・コメディ。前作同様スチャラカなノリで楽しませてくれる。アクションのできない俳優を使っても、それなりにカッコいい映像を作り上げてしまうところは相変わらずうまい。ストーリーそのものはテキトーなのだが、個々のキャラクターが立っているので引きつけられた。桜塚やっくんは旬を過ぎてしまった感があるのが残念。小学生に混じっても違和感のない矢口真理はある意味すごい。エンドクレジットをNG集とかでお茶を濁さずに作り上げたサービス精神も高く評価したい。
デッド・サイレンス
「ソウ」のジェームズ・ワン+リー・ワネル、コンビによる復話術人形をテーマにしたオカルト作品。「ソウ」の1作目でもダリオ・アルジェント作品へのオマージュを感じさせる場面があったが、今回はそれ以上に多い。演出そのものは、アルジェントよりスマートにまとまっている気もする。「ソウ」の人形がチラッと映る遊び心も楽しい。「ソウ」ほどの斬新さがなく、ラストのオチが途中で見当ついてしまうのは残念だが、仕掛けに凝ったダークファンタジーとして水準以上の作品に仕上がっている。
ザ・フィースト
人里離れた酒場が謎の食人怪物に襲われる。ワンアイデアで押し切った、潔いB級アクション・ホラー。登場人物は、それぞれの人生を抱えているが、共通点は負け犬キャラということ。ダメな連中の奮闘がブラックユーモア感覚たっぷりに描かれていく。チープなB級センスが、けっこう楽しめた。映画版の「テイルズ・フロム・クリプト」シリーズを思い出させるタイプの作品。アクション・シーンでカット割りに凝りすぎて何が起きているのか分からない部分があるのは残念。
ダージリン急行
仲が良さそで悪そな三兄弟のインド道中を描くロードムービー。主役の3人はそれぞれ好演しているし、個々のエピソードもそれなりに面白いのだが、全体的には物足りない印象を残す。兄弟の絆が強くなっていったり、それぞれの人生観が変わったりしていく過程がうまく伝わってこなかった。そのため、あいまいな印象の作品になってしまった。仕切りたがりの長男、調子良く父の遺品をちょろまかしてる次男、恋多き私小説家の三男と個性の異なる兄弟の設定は良かった。
Sweet Rain 死神の精度
音楽好きで雨男の死神を主役に3つの時代のエピソードをオムニバス的につづる作品。第1話では地味で目立たない正確のヒロインを小西真奈美が好演しているが、オチに説得力がなさすぎる。第2話も少し無理がある。第3話は、それなりにきれいなまとめ方をしているのだが、富司純子と小西真奈美の演じるキャラクターが違いすぎて少々違和感があった。全体的にストーリーが弱めなので大味な印象の出来ばえとなってしまった。
ヒットマン
B級アクションながらスタイリッシュな映像でテンポ良く見せてくれる。特に序盤の展開はスピーディで面白かった。ストーリーそのものがイマイチまとまりに欠けるのが残念。CIAの扱いも妙に御都合主義。あの程度のラストではヒロインの安全が確保されたとも思えず、なんかスッキリしない。組織の全容が明かされないのは続編狙いか。
王妃の紋章
チャン・イーモウ監督による歴史ドラマ。「HERO」「LOVERS」は武侠物っぽい楽しさがあったが、今回は宮廷内の愛憎と陰謀を描くドロドロ系ドラマ。ちょっとシェークスピアを連想させる。感情移入できるキャラクターが登場しないので感動させる部分はないが、陰謀渦巻くドラマを豪華な衣装とCGでダイナミックな映像に描き出している。チョウ・ユンファは貫禄たっぷりに王を演じているが、圧巻はコン・リーの鬼気迫る王妃ぶりだった。エンディングがやや弱めに感じられたが、十分見応えのある作品に仕上がっている。
うた魂!
ベタなギャグを連発しながらも、心を揺さぶる力を持った明快な青春コメディに仕上がっている。歌はうまいが自己陶酔型で妄想癖のあるヒロインの挫折と再生がユーモラスに描かれている。自己中心的な態度を取っても夏帆のキャラクターに憎めないところがあって嫌味が少ないのが良い。しっかり者の部長を演じた亜希子も良かった。30半ばで高校生しちゃうゴリの熱い演技も魅力。薬師丸ひろ子の美声が「オペレッタ狸御殿」以来久々に聞けたのも収穫だった。女尾崎のストリート・パフォーマーがどこでどうして代理教員になったのかは謎だが。ラストのアンコールでは薬師丸ひろ子がピアノを弾いて、徳永えりが初めてコーラスに加わるという展開にすればもっと盛り上がった気がする。
ブラックサイト(ネタバレ)
ホームページのアクセス数によって殺人の実行が早まっていく、というアイデアは良かったが、作品自体は凡庸な出来ばえ。殺人が次々と起こっても、捜査のほうは一向に進展せず、ダイアン・レインも苦悩するばかりなので、なんとも盛り上がらない。終盤あっけなく真相が分かってしまうが、どうやってコリン・ハンクスがそれを突き止めたのかは謎。犯人自ら教えたのだろうか。他にも苦しい展開の部分があったように思う。ダイアン・レインが殺人サイトの画面にFBIのバッヂを差し出すラストは何かのブラック・ユーモアなのだろうか。
銀幕版スシ王子!〜ニューヨークへ行く〜
テレビ放送開始前に映画化を決定しちゃったら、予想外の低視聴率で物議をかもした作品。ニューヨークにロケ(一部は千葉か?)して大幅にスケールアップしているが、脳天気な内容はテレビと同様。軽いノリで楽しませてくれる。でも、魚の目症候群ってテレビの第1話を見ていないと分かりにくいんじゃないだろうか。北大路欣也はテレビ版の「華麗なる一族」より良い演技だったと思う。アクション演技に冴えを見せる釈由実子、平良とみの口調で怪演する石原さとみ、太田莉菜のヒールぶりと女優陣も頑張っていた。
大いなる陰謀
ロバート・レッドフォード監督・主演による地味ながら骨太な良心作。アフガン、イランとの戦争でドツボにはまったアメリカ。この状況を利用して名を上げようと企む議員。彼に利用されまいと努力する女性記者。生徒の良心にアメリカの希望を託そうとする大学教授。信念のために軍に入り敵地に落下してしまう二人の兵士。登場人物それぞれのエピソードを交互に描きながら、アメリカへの絶望と希望を浮かび上がらせていく構成がうまい。新旧の俳優たちが皆、見応えのある演技で作品に深みを与えている。