ムービー・マンスリー2008年5月
つぐない(ネタバレ)
自ら犯したあやまちを償い損ねてしまった女流作家が行った人生最後の贖罪(しょくざい)とは何だったのか。切なさにあふれた文芸ロマン。ジェームズ・マカヴォイとキーラ・ナイトレイも好演しているが、思春期の多感な心情を演じきったシアーシャ・ローナンが特に鮮烈だった。ダンケルク海岸の長回しも圧巻。長回しは苦労したわりにダラダラしたカットになってしまうことが多いのだが、今回は大人数が多くのイベントをきっちり演じて緊張感がとぎれない。ローラは犯人が誰か知っていながら玉の輿を狙うために口をつぐんだのだろうか。だとしたらたいしたタマだ。タイブライターの音がリズムを刻んでサスペンス効果を増す音楽も良かった。
NEXT
2分間先を予知する超能力者が核爆弾テロと戦うアクション・サスペンス。テンポ良く描いて見ている間は飽きさせないが、設定も展開も大味で突っ込みどころ満載。たとえ予知できても避けられそうにない事態をヒョイヒョイよけるし、”運命の女性”のことだけは全て予知できるとか、都合良すぎる展開が目立つ。すでに断崖モーテルは敵にマークされているので、ヒロインを置き去りにするラストも全然安心できない。犯人も迫力不足だし、目的も良く分からなかった。見終わってテレビシリーズのパイロット版を見せられたような気分になった。
クローバー・フィールド
高予算版「ブレア・ウイッチ」ともいえるモンスター・パニック。本家は最初は目新しかったものの低予算で見せ場も少なく途中で飽きてしまったが、こちらのほうはCGを多用して見せ場も多く、意外にもラストまで一気に見ることができた。それでも1台のカメラがとらえた映像という設定は少々無理もある。たとえば小型モンスターの襲撃を受けながら、きっちり撮影は続けて反撃する姿まで映っているとか。出演者たちは皆無名ながら、わりとしっかりした演技を見せていた。何のカタストロフィーもないままブラックなオチで終わるので、後味はあまり良くない。
少林少女
「少林サッカー」の姉妹編ということで破天荒なアクション・コメディーかと思ったのだが、中途半端にまともな青春ドラマだった。ギャグも少なくないのだが、大半はハズしている。一番可笑しかったのはエンドクレジットの実際には何やっているのか理解できてなさそうな子供たちの修行シーンだった。前半で雑誌記者暗殺をほのめかしながら、あまりにヌルいラストで納得できなかった。これだったら仲村トオルを単純な格闘オタクキャラに設定しておいたほうがスッキリしたような気がする。アクション自体は悪くないので残念。クライマックスでaaが無事だったのが不思議に思えた。
フィクサー
期待したのだが、それほどでもなかった。ジョージ・クルーニー演じる主人公は、敏腕モミ消し屋という設定。しかし、たいした処理ぶりには見えないし、借金に追われて泣き言いってたりするので、さほど有能そうに感じられない。ドラマも前半はもってまわったような展開で、あまりテンポが良くない。良心のかしゃくからねがえった弁護士が暗殺されるあたりから緊迫感を増すが、クライマックスが弱く、全体的にインパクトに欠ける。企業悪というよりも個人の暴走による犯罪として描かれるので、スケール感に欠けるのも難点だが、アカデミー受賞のティルダ・スウィントンの演技で救われている。問題のある兄弟に振り回される刑事を演じたショーン・カレンも好演だった。
スパイダーウィックの謎
ちょっぴりダークな味付けもあるファミリー向け冒険ファンタジー。両親の離婚で揺れ動く主人公の心情を巧みに織り込んだドラマ展開がうまく、なかなか見応えのある娯楽作に仕上がっている。クライマックスは、ちょっとおマヌケなオチでやや脱力系だが、全体的にテンポが良く見飽きさせない。CGも良く出来ており、美しいもの、醜いもの、多様な妖精が活躍する。姉がフェンシングの達人という設定も格好良い。
伊藤の話
温水洋一、田丸麻紀、加藤夏希というキャスティングに惹かれて見たのだが、無残な出来ばえだった。原作は小泉八雲の怪談らしい。予算の都合もあったのが、脚本を長編映画として通用するだけふくらませていない。そのためワンカットが無意味に長いダレた展開になってしまった。肝心の怪異譚の描写が少なく、メインストーリーに関係ない八戸観光案内ばかり目立つのもバランスが悪い。しかもビデオ撮りによる輪郭のにじんだ映像が貧乏臭さを増している。長身の田丸麻紀と風采の上がらぬ温水洋一のコントラストは面白いのだが、結局田丸麻紀の役はあまり意味がない。加藤夏希はせっかく久々に人間以外を演じたのに、出番が少なすぎて妖しいイメージを出せずに終わった。
紀元前一万年
ローランド・エメリッヒ監督は、B級映画の素材を高予算化して見ごたえのある大作にしてしまうのが得意。今回は時代も地域も分からない架空の先史時代を舞台にしたアドベンチャー。「アボカリプト」ほどの完成度ではないものの、細かいことを気にしなければ十分に楽しめる出来ばえ。ヒロインを演じたがくっきり眉毛の美貌で良かった。主人公のも悪くないのだが、成長ドラマとしての側面を考えると、もう少し若い俳優のほうが合っていた気がした。どうせ史実にこだわらないなら、恐竜や皮ビキニのアマゾネスが出てきても良かったと思う。
ミスト(ネタバレ)
設定はモンスター・パニックなのだが、極限状態に追いつめられた人々の人間ドラマに比重がかけられている。フランク・ダラボン監督の演出はさすがに手堅く、緊張感のある展開で飽きさせない。マーシャ・ゲイ・ハーデン、ウィリアム・サドラーといった狂気を演じる俳優のインパクトが強いため、主人公の印象がやや薄いのが残念。賛否両論のラストについては不満を覚えた。モンスター出現の元凶である軍隊が偉そうに活躍するのもイマイチ。どうしてもバッド・エンドにするなら、一行がついに霧の晴れ間に到達するが、その先もモンスターが支配する世界になり果てていた、という方が納得がいった気がする。
あの空をおぼえてる
娘を亡くした両親と長男、家族の再生の物語。ストーリー自体は悪くないのだが、見ていて心を揺さぶられるほどの出来にはなっていない。何か突き放したような描写で、絵空事に感じさせてしまい、身に迫ってこない印象を受けた。水野美紀、小日向文世や子役たちは好演しているのに残念。特に小日向が演じたセラピストは、良いキャラクターなのに中途半端な活躍に終わっている。富樫監督は、「鉄人28号」「天使の卵」でも感じたのだが、テーマに対する思い入れが欠如しているように思える。
ひぐらしの鳴くころに
原作のゲームは全く知らず、予備知識なしで見た。一見穏やかな地方の村に恐ろしい秘密が隠されていたという設定は珍しくないが、面白くなりそうな要素はある。前半は展開が地味でイマイチだが、後半になるとミステリアスなムードが盛り上がってそれなりに楽しめた。だが、謎が解き明かされず、完結編は現在企画中というラストはなんとも困りもの。せめて撮影中なら安心できたのだが。無事完結編が作られて謎が解決されることを望みたい。さらに謎が謎を呼んで訳が分からなくなる独りよがりな終りにならないことを願っている。
隠し砦の三悪人
「スターウォーズ」の原点になった黒澤作品のリメイク。オリジナルはかなり昔に見たので面白かったのだが、細部は覚えていない。今回は突っ込みどころ満載ながら、CGを駆使してダイナミックな娯楽作に仕上がっている。松本潤は優男すぎてヒゲが似あわないが、さわやかなキャラクターを作り上げていた。クライマックスは、どうやって脱出したか理解不能だが、痛快ではある。阿部寛は好演とは思うのだが、ストイックな武士と抜け目ない二人の平民とのコントラストが笑いを生みだすくらいになればもっと良かったと思う。
ハンティング・パーティー
実話に基づいたドラマということだが、ハリウッドらしい痛快娯楽作に仕上げられており、どの程度現実に即しているかは不明。リチャード・ギアが破天荒な戦場レポーターを好演している。ドラマに復讐の要素を加えたことも功を奏している。戦犯は捕まらないのではなく、捕まえる気がないのだ、という皮肉も効いていた。そういえばマイケル・ムーアの「華氏911」でブッシュ大統領とビン・ラディン家は親交が深いといってたっけ。
P2
クリスマスに不運なのはブルース・ウィリスだけではなかった、というホラー作品。会話中心に進んでいく序盤はやや退屈だったが、主人公たちが”ドライブ”に出るあたりからテンポがよくなり、スプラッター描写も交えてそれなりに楽しめるアクション・ホラーとなっている。「デス・プルーフ」の殺人鬼と並ぶ身勝手な勘違い犯人をウェス・ベントリーが不気味に演じている。レイチェル・ニコルズもかなりの熱演。もう少しハジケた演出でも良かった気もしたが、手がたくまとまった作品と思う。
ナルニア国物語カスピアン王子の角笛
2作目とあって細かい説明が不要な分テンポがアップして、その点では前作より見せ場が多くなっている。長男ピーターやカスピアン王子の成長物語も織り込まれ、十分とは言えないまでも、ストーリーに奥行きを持たせている。残念なことは前作の白い女王ほど強い個性を持った悪役が登場しないことと、アスランが強力すぎてそれまでの犠牲が無駄死にに思えてしまうこと。とはいえ見ごたえある出来ばえで3作目にも期待したい。