ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
評価の高い作品だけど、個人的にはそれほど面白くなかった。ボウリング場付きの豪邸に住んでもヤマ師にしか見えず、成金にすらなれなかった主人公のキャラクターは、それなりに面白い。しかし、ドラマ自体は何を伝えたいのか良く分からなかった。主人公と教祖との対立を、もっとブラック・ユーモア感覚に満ちたタッチで描けは、楽しめる作品になったかもしれない。ダニエル・デイ・ルイスは妙に大芝居だし、全体的に演技も演出も賞狙いという印象を受けた。
相棒
テレビ版はそれほど見ていないのだが、だいだいの人間関係は把握できていたので戸惑う部分はなかった。映画版はチェスを符号とする連続殺人からシティ・マラソンを狙うテロとスケールアップした犯罪が描かれる。残念なことに、かえってそれが災いしてドラマとしてもミステリとしても穴の多いストーリーになってしまった。犯人の最終目的や性質を考えれば、前半のゲーム的犯行がそぐわない。本当に殺人を犯す必要はないし、共犯者殺害も無意味と思えた。それでも最後まで引っ張る力を持てたのは、主役二人や西田敏行、本仮屋ユイカといった演技陣の力だと思う。木村佳乃は儲け役のようだが、あんなことする与党議員はいないよ、と感じさせるリアリティのないキャラとなってしまった。松下由樹は演技の見せ所がなくて気の毒。
チャーリー・ウィルソンズ・ウォー
最近多い実話ドラマ。ハマリ役なのでトム・ハンクス向けにキャラクターをアレンジしたのではないかと思えた。作品自体もユーモラスで軽妙なタッチで描かれている。内容的には冷戦下を舞台にソ連を徹底した悪役に描いた強いアメリカ映画。ベトナム戦争の立場が逆転していることが興味深かった。痛快といえば痛快なのだが、シリアスに考えれば国家の裏予算を湯水のごとくつぎ込んで他国の戦争に介入する物語。ちょっと胡散臭い印象もあったのだが、ラストの辛辣さはさすがマイク・ニコルズ監督、という気骨を感じさせた。フィリップ・シーモア演じた変わり者のClA職員も良かった。
ランボー最後の戦場
シリーズ4作目は意外と小粒にまとまっていた。テンポ良く進み、ストーリーも単純明快で気楽に楽しめる小気味良い作品に仕上がっている。スタローンはさすがに歳を感じさせるものの、頑張っている。悪役に強い個性の持ち主がいないのは残念。ただの案内人だと思ったら最強の戦士だったという設定をもっと生かしてユーモラスな味付けが出来ていれば、より面白くなった気がする。
シューテム・アップ
一匹狼のアウトローが、たまたま妊婦を助けようとしたことから子連れ狼になって大暴れするヴァイオレンス・アクション。死人の山ができるドハデなアクションを満載、コミカルな味付けも生きている。7〜80年代のイタリア製B級アクションと香港ノワールのテイストを合わせたような娯楽性にあふれた快作に仕上がっている。クライブ・オーウェンのクールなアウトロー、モニカ・ベルッチの美しい売春婦、ポール・ジアマッティの濃いオヤジ悪役とキャラクターがそれぞれ立っているのも魅力だった。
僕の彼女はサイボーグ
タイム・パラドックスを全く気にしない作劇なので、説明不能なストーリー展開になってしまったが、それを気にしなければけっこう楽しめると思う。サイボーグを機械化した生命体とすれば、今回のヒロインはロボットもしくはアンドロイド。ドジな主人公を救いに未来からきたヒト型ロボット、ラブロマンス版ドラえもん。綾瀬はるかは器用な演技者ではないが、今回のヒロインは硬めの演技がマッチしていたと思う。登場シーンは、ターミネーターにリスペクトするならやっぱり全裸にすべきだった(シルエットだけでも)。あくまでも使命を全うしたロボットの記憶が、生身の女性に宿って愛情になっていくというアイデアはすごく良いと思うのだが、映画では十分な表現が出来ていないように思えた。
幻術師アイゼンハイム
天才奇術師と邪悪な皇太子の対立を描くドラマ。しなやかな強さを表現したエドワード・ノートンと硬質な強さを表現したルーファス・シーウェルの対比が面白く、狂言廻し的役割のポール・ジアマッティも「シューテム・アップ」に続いて強い印象を残す。意表を突く展開というほどではないが、よくまとめられたトリッキーなストーリーも楽しめるし、格調を感じさせるフィリップ・ノイスの音楽も良かった。イリュージョン場面の特殊効果が、今時のCGとしてはやや安っぽいのが難点。
神様のパズル
多彩なジャンルにわたって多作を続ける三池監督だが、苦手なテーマだと「アンドロメディア」みたいにボロボロになるので不安もあった。今回は予想外にきちんとした展開で、ややこしい物理の内容をある程度理解できるような構成にまとまっている。クライマックスはやや脱力系で、どうしてマイクスタンド、どうして第九、と疑問符が並ぶ。豪雨の中で握り寿司というのも苦しい(というかまずそう)。ストーリーのテンポが良く楽しめるが、主人公二人の感情の動きが十分に表現出来ていないのは残念。
ザ・マジックアワー
相変わらず可笑しい三谷幸喜作品。それぞれのキャラクターが立っているのが最大の魅力で、特に役者バカを演じる佐藤浩市が印象的。猟奇的な顔付きでペーパーナイフを舐める(あるいはしゃぶる)繰り返しギャグには爆笑した。珍しく奔放で身勝手なキャラを演じた深津絵里も良かった。他人を信用しないとうそぶきながらだまされっぱなしという寺島進の強面お人好しぶりも楽しい。クライマックスの本物デラと対決のくだりがやや弱いのは残念だが、殺伐としないギャング・コメディだから仕方ないという気もする。
山桜
地味な小品ながら、美しく端正な仕上がりの日本映画。ヒロインは、剣の達人が荒くれ者ではないかという思い込みから、とてつもない人生の遠回りをしてしまう。果たして共に暮らすことが出来るのかさえ分からない切ない幕切れなのだが、田中麗奈と冨司純子の晴れやかな表情が観る者に希望を抱かせてくれる。器用な演技者とはいえない東山紀之も、今回はりりしく寡黙な侍役がハマっていた。エンディングが主題歌のプロモーション・ビデオみたいになってしまったのは少し残念。歌なしの楽曲を使ったほうが、強い余韻を残した気がする。
幸せになるための27のドレス
キャサリン・ハイグルは「グレイズ・アナトミー」でブレイクしたらしいが、この番組は見ていないので、個人的には今でも「ロズウェル」の美人エイリアンが印象深い。今回は周りを立てるのが得意で自分の人生が後回しになってしまったキャリア・ウーマン役を魅力的に演じている。ストーリーは特に意外性もなく他愛のないものだが、手際良くまとめられており、楽しめる作品に仕上がっている。調子良く生きてきたように見える妹との確執や和解を、もう少し丁寧に描けば味わいのある作品になった気もするが、良くも悪くも軽くまとめられている。27のドレス(介添人)が並ぶラストの結婚式がハッピーで良かった。
REC
「クローバー・フィールド」に続いて、こちらはゾンビ映画版ブレア・ウイッチ。「クローバー〜」以上に手持ちカメラをブン回すので、目が回る観客もいるかもしれない。多少中だるみするものの、一応楽しめる出来ばえ。ヒロインもなかなかキュート。終盤では真相に迫るなど、それなりにストーリー性もある。ただし、犬一匹の事件から、いきなりビルを閉鎖して住民を見殺しにするという設定はなんとも説得力に欠ける。日本人役で日本語のセリフもあるのに、他の住民は中国人と思っているのが妙におかしかった。
インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国
19年ぶりの4作目だが、すでに寅さんのカバンと並んで帽子だけで登場が分かるおなじみキャラとなったインディ・ジョーンズ。今回は1作目とつながるキャラクター設定で随所にファン・サービスが織り込まれ、さすがはスピルバーグそつがない。ロズウェル事件絡みで始まり、アマゾンの失われた王国へと進んでいく物語は、さほど斬新ではないが冒険映画の王道をいっている。ユーモラスな見せ場もたっぷり用意されて最後まで引き付ける力を持っていた。舞台は冷戦時代になり、今回はソ連が悪役。共産思想による洗脳の恐怖について言及する場面もあって、妙に懐かしかった。放射能に対して無頓着な描写があるのは、良くも悪くもアメリカらしい。クライマックスが1作目と大同小異な印象なのが残念。インディ三世とルバン三世が宝を奪い合うスピンオフを作ったら面白いかも。「どっちが勝つか三代目」って、ああ、あったか。
築地魚河岸三代目
小品ではあるが、松竹らしい良くまとまった人情物に仕上がっている。キャスティングも、やや地味めながら、皆好演していた。今回は三代目修行を始めるまでが描かれ、公開前にシリーズ化を決定している。これからの展開が楽しみな良作だが、シリーズとして盛り上げるなら、もっと華やかな部分があってもいい気がする。テキ屋や釣りと違って場所を限定しているのがネックか。幻の魚を探して毎回旅をするとか。ピントが甘かったり、ズームがぎこちなく感じられる場面があり、映像的には今一歩という気もした。
屋敷女
座敷わらしの親戚みたいなタイトルは全く意味不明。フランス製ホラーということで、シックな雰囲気のゴシック・ホラーかと思ったら、血みどろグチャグチャでドツボな展開のスプラッターだった。どちらかというと昔のイタリア製ホラーに近いテイスト。多少強引だがパワフルで最後まで飽きさせない。驚異的なのは限界ギリギリな画面の暗さ。恐怖感、緊迫感を高めるのに成功してはいるが、もう少しハッキリ見せてほしいと思わせる場面も少なからずある。DVD化されて見る場合、モニターの調子が悪いと何が起こっているのか分からずに終わる可能性もあるのでは?
ムービー・マンスリー2008年6月