最高の人生の見つけ方 末期ガンを宣告された全くタイプの違う二人が、棺桶リストと称してやりたいことをリストアップ、金にあかせて片付けていくうちに人生の価値を再発見していく。大金持ちでないと最高の人生は見つけられないのだろうか、という疑問は感じたが、ドラマ自体は主役二人の味わいある演技と歯切れの良い演出によって痛快に仕上がっている。脇を固めるショーン・ヘイズとビヴァリー・トッドもなかなか好演していた。ラストシーンも洒落ていて良かった。 |
アフター・スクール トリッキーな展開とキャラクター設定で楽しませるユーモア・サスペンス。ひねった配役と見せて実はやっぱり、となったりして飽きさせない。全体の完成度や意表の突き方における鮮やかさは「キサラギ」に一歩譲るものの、こちらも十分楽しめる出来ばえ。ストーリーがきれいにまとまって、後味の良さも魅力の一つになっている。ラストシーンの堺雅人と田畑智子のやりとりもとぼけていて面白かった。 |
リボルバー ガイ・リッチー監督の新作は、これまでほどスタイリッシュな演出ではなくなっていた。登場人物の心理的葛藤を具体的な演技で見せるのが特徴だが、それほど効果を上げているとは思えない。というかクサい芝居になってしまっている気がした。ストーリー自体も、もってまわった描き方をしすぎで、明快さに欠けている。謎の二人組の目的も良く理解できなかったし、この二人に都合良く話が進みすぎて説得力がなくなってしまった。 |
告発のとき イラク戦争で心に傷を負った兵士たちを、行方不明になった息子を探す父親の目を通して描いていく。元MPの父親と女刑事が事件を追うバディ物の側面もあるが、基本的にはベトナム戦争ののような泥沼と化したイラク戦争への深い苦悩を描いていく。トミー・リー・ジョーンズは失意の父親を見事に体現しているし。シャーリーズ・セロンも「スタンド・アップ」に続いて男社会の差別に対抗して奮闘する刑事を好演している。主人公が密かに国家の危機を訴えるラストも印象的。ただ、冒頭にあった40ケ所以上の刺し傷の話はどうなったのだろうか。 |
ミラクル7号 チャウ・シンチーの新作は、正統派のファミリー向けファンタジー。CGを多用した映像も魅力だが、骨組みはむしろオーソドックス。なつかしいSFマンガを見ているような気分で楽しめた。キャラクターも良く描かれている。さすがのチャウ・シンチーも子供と動物(?)には勝てなかった。特に子役の表情豊かな演技には思わず笑ってしまった。ミラクル7号の正体については一切触れず、ファンタジーに徹したことも成功している。 |
歩いても歩いても 長男の命日に集まった家族の愛憎を描く群像ドラマ。時には辛辣な切口で描きながらも、全体的にはユーモラスなタッチでまとめている。普段はひょうきんそうに見えているが、時折闇の側面を見せる母親役の樹木希林はさすがに達者。似たもの同志でありながら、ぎくしゃくした関係を続ける父子像も面白かった。人を救って命を落とした長男はともかく、登場人物は皆等身大。きわめて日常的な内容なのに語り口が巧みで飽きさせない。味わいのある作品に仕上がっている。 |
奇跡のシンフォニー フレディ・ハイモアの名子役ぶりが堪能できる作品。離れ離れになっている親子三人を音楽が引き寄せていく、ちょっとファンタジーっぽいファミリー映画。ロビン・ウィリアムスの出演シーンは、なんとなく「オリバー・ツイスト」っぽいし、基本は古典的な孤児の親捜し物。特別な新味はないが、オーソドックスでドラマチックな作品に仕上がっている。子供の存在すら知らないはずの父親が、ラストで納得してうなずいてたり、多少強引なところもあるが、爽やかな後味にまとめられている。「フェリシティの青春」が懐かしいケリー・ラッセルも好演していた。 |
クライマーズ・ハイ 原作は読んでいないのだが、日航機墜落事故の取材に揺れる地方新聞社を群像劇として描いていくのは、いかにも浅間山荘事件を警視庁と地元警察の対立という切口で描いた原田真人監督らしいと感じた。新聞社内の喧噪(けんそう)が迫力たっぷりで緊張感にあふれている。迫力といえば、普段は飄々(ひょうひょう)としている堺雅人扮する記者が記事を一面から外されてにらみつける場面もなかなかのものだった。時折挿入される山登りの場面が、あまり効果を上げていないのは残念だった。劇中で語られるカーク・ダグラスの映画は「地獄の英雄」ではないだろうか。タイトルだけ知ったときはビリー・ワイルダー監督には珍しい戦争アクションかと思った作品。落盤事故の救出作業をイベント化して報道しようとする記者を描く秀作。カーク・ダグラスは、得意とする自らの野望ゆえに身を滅ぼす男を熱演していた。 |
スピードレーサー 往年のタツノコアニメを実写化。と言っても人間以外はほとんどCGアニメみたいな作品。原作アニメ以上にカラフルでマンガっぽい映像で、スピード・レーサーの活躍が鮮やかに描かれる。これだけ金かけてバカやったのは、ティム・バートンの「マーズ・アタック」以来の快挙(?)かもしれない。車バカ一代を演じたエミール・ハーシュと危険大好きのヒロインを演じたクリスティーナ・リッチは快演。パパ・レーサーのジョン・グッドマンもオリジナルそっくりで笑えた。レースシーンが早さを競い合うのではなく、クラッシュしあって完走できるかどうかを争そっているようにしか見えないのが残念。コーナリングなんか、走るというより滑ってるみたいだし。競(せ)り合いの緊張感が表現されていれば、もっと盛り上がったのではないかと思う。 |
純喫茶磯辺 ヘンな店員の喫茶店にヘンな客が集まってくる。ユーモラスで、ちょっぴり切ないドラマ。登場するキャラクターは、みんなテキトーな生き方をしているように見える。それでいて別段不幸になったりしてないところが、この作品の魅力。軽くまとめてしまった感じで、長く心に残るかどうかは微妙だが、けっこう楽しめた。宮迫博之のダメ親父ぶりがハマってるし、反発する娘役の仲里依沙と、とらえどころのないマドンナ役麻生久美子も好演。店の内装が内装なのでミッキー・カーチスがマスターに見えることはないんじゃないかという気はしたが。 |
甲殻機動隊2.0 かなり前に初版をビデオで見たときはラストが分かりにくい印象があったのだが、今回はわりとすんなり受け入れることができた。ただゴーストというのは妙に抽象的で良く分からない。魂そのものは別に扱われているようなので、魂の宿る場所というような意味合いなのだろうか。独特の世界観が魅力だしアニメとして質の高い作品とは思うが、ドラマ的にはちょっと弱め。鋼鉄のボディに幽閉された人の魂というテーマについては踏み込みが浅いように感じた。 |
花より男子ファイナル 原作は読んだことがないのだが、テレビ版はおバカで熱いラブコメの快作だった。たしか第1シリーズは、当初の企画がつぶれて仕方なく穴埋めに作ったら思わぬ高視聴率をマークしたという奇跡的な作品だったと思う。今回はテレビシリーズと異なり、オリジナルのストーリーにしたためか、ドラマとしてはユルめなのが残念。舞台が香港に移ったあたりでオチもある程度見当がついてしまう。同じ結末でも、もう少し謎ときや冒険が織り込まれていれは良かったのだが。唐突に現れて姿を消すベッキーとクマは意味不明だし。それでもあまり悪い印象が残らないのは、お馴染みの顔ふれが揃って結婚おめでとうのハッピームードが生きているからか。鶴見辰吾のセルフ・パロディーも笑えたし。一本気で迷いのない道明寺のキャラクターは出色。せっかくファイナルなのに松嶋菜々子の不在はちょっと寂しかった。 |
ゲゲゲの鬼太郎千年呪い歌 宿敵ぬらりひょんが登場、小雪が出てきてチョンの前作より盛り上がる内容になっていた。今回も大物俳優の妖怪ぶりが見物で、特に蛇骨婆に扮した佐野史郎は怪演だった。CGも良いのだが、砂かけ婆が物の怪に襲われるアナログな見せ場も効果を上げている。寺島しのぶは演技的にはうまいのだが、人魚の化身という妖艶さに欠けるのが残念。もし「鬼太郎」と「築地魚河岸三代目」が無事長期シリーズ化されれば、田中麗奈は松竹の看板シリーズ両方でヒロインを務めることになるが、どうだろうか。 |
崖の上のポニョ 「ゲゲゲの鬼太郎」に続いて、これも人魚姫をモチーフにした作品。手描きにこだわったということで、冒頭の無数に描かれる海洋生物にまず圧倒された。今回は低年齢層にも楽しめる内容になっているが、底辺には「未来少年コナン」や「もののけ姫」のアンチテーゼとも取れる世界観が感じられて興味深い。魔力の暴発によって海はデヴォン紀の力を取り戻し、島の大半は水没する。おそらく世界的な大惨事なのだろう。住む場所を失った人々が少しもめげていないのは不自然に思えるが、観客の子供たちを恐がらせない配慮とともに、人間もまた大自然と同様に力強い存在として表現したかったのかもしれない。主人公が海の生物であったポニョを受け入れることで、人間と自然が折り合いをつけ、世界の再生が始まっていく。いかにも宮崎駿作品らしい魅力を感じた。生命に満ちた海の描写だけでなく、暗い深淵としての海も表現されていることも良い。崖沿いの道を車で疾走する場面は「カリオストロの城」を連想させ、集大成的な作品という印象も受けた。 |
ドラゴン・キングダム 孫悟空が登場するが「西遊記」とは関係なく、「ロード・オブ・ザ・リング」や「ネバーエンディング・ストーリー」から着想を得たようなファンタジー・アクション。あちこちからアイデアを引っぱてきた印象で新鮮味はないが、さすがにアクション・シーンは良く撮れているし、気軽に楽しめる作品に仕上がっている。主役の二人はそれぞれのキャラクターを楽しんで演じている。ジェット・リーは「スピリット」でカンフー映画を卒業するという発言もあったらしいが、やっぱり一番似合った役柄だと思う。二役については、すっかりだまされてしまい、二人とも終盤まで気付かなかった。悪役がやや弱いのが残念。将軍は妙な化粧して貫禄不足だし、白髪魔女のリー・ビンビンは頑張っているが可愛らしさが先に立って憎々しさが足りない。「射ちょう英雄伝」に登場したヤン・リーピン演ずる梅超風ほどの凄みと妖艶さがあれば文句なしなのだったのだが。 |
ムービー・マンスリー2008年7月 |