ハプニング ある日突然人類が原因不明の攻撃を受け、方向感覚を失い、やがて自殺していく。ちょっとヒッチコック監督の「鳥」を連想させる不条理パニック・サスペンス。小品だが、ナイト・シャラマン作品には珍しく驚愕のラストがない分、ストレートに楽しめる作品に仕上がっている。不和になりかけていた夫婦が、友人の娘を守ろうとすることから絆を取り戻していくドラマ展開も悪くない。 |
ギララの逆襲 チープなんだけど憎めない河崎実監督の新作。派手なミニチュア都市破壊のシーンは前作を流用して、あとは山のセットでごまかすあたり、少ない予算で苦労していることが分かる。場所が変わっても同じセットに見えたし。「日本以外全部沈没」と同様、中途半端にマトモな印象なのは残念。もっとバカに徹して欲しかった。それでも加藤夏希が真面目な顔をしておマヌケな踊りを始めるあたりからおバカ度が上がっていく。クライマックスの戦いはもう少しひねりがあっても良かった。そもそも胞子がどうとか言ってるのに爆発させたらまずいんじゃないだろうか。結局ビートたけしが声だけの出演というのも寂しい。実際の洞爺湖サミットと時期をずらして公開したのは政治的配慮か。 |
百万円と苦虫女(ネタバレ) つまらぬことから前科持ちとなり、周囲から逃避するために転々とするヒロインだが、苦虫女というほど世をすねているわけではなかった。蒼井優と森山未来が自分を表現するのが苦手な、ちょっと不器用な若者を好演。序盤は性格が悪く見えるが、実は懸命に現実と向き合おうとしている弟役の佐藤隆成も良かった。ラストのすれ違い描写がイマイチ歯切れ悪いのが残念だが、二人の再会を描いた後日談を作ってほしい気分にさせられた。 |
赤んぼ少女 おバカ映画の得意な山口雄大監督作なので「猫目小僧」みたいなホラー・コメディかと思ったら、意外と正統派のアクション・ホラーだった。原作は読んでいないのだが、洋館を舞台にしたゴシック・ホラーに「悪魔の赤ちゃん」をぶちこんだような印象。オープニングは雨の夜にタクシー、音楽も含めて「サスベリア」のオマージュっぽくて面白かった。全体的に低予算ながらスブラッター場面やサスペンス描写、アクション場面を織り込み、作る側も楽しみながら工夫を凝らしているようでサービス精神を感じさせる。濃いメイクで怪演する浅野温子や、時代設定にあった雰囲気を出している水沢奈子も良かった。 |
スカイクロラ(ネタバレ) どこか日本に似た国という設定らしいのだが、登場人物の名前以外はあまり日本ぽく感じなかった。人造人間の技術は進んでいるみたいだけど、プロペラ機で戦ってたりして時代も不明。スピーディーな空中戦の描写もあるが、高揚感はなく、職業軍人たちの日常が淡々と綴(つづ)られていく。キルドレと呼ばれる主人公たちは、決着のつくことのない戦争の消耗品として作られているらしい。いつ死ぬかも分からず、年をとることもない。戦闘能力が高くて生き残り続けた者たちは、自分の存在に疑問を持ちはじめてしまう。たとえ死んでも、その能力を活かすために新しい兵士として再生される。そして同じような日々を繰り返していく。空虚感に満ちた内容に仕上がっており、作家性を強く感じさせる印象的な作品と思う。 |
西の魔女が死んだ 登校拒否になったヒロインが、山奥で暮らすイギリス人の祖母と過ごした1ケ月あまりを瑞々しいタッチで描いていく。完全に自給自足というわけではなさそうなので、年金暮らしなのだろうか。ゆったりとしたスローライフが魅力的に描かれていくし、サチ・パーカーは豊かな感性を持った老女を好演している。ただ、ヒロインの心の変化が十分に伝わってこなかった。少女の成長を捉えたドラマが描き込まれていれば、感動作になったのではないかと思う。ラストで魂の存在を証明するのが文字と声というのも、ストレートすぎてファンタジックな余韻が残らなく残念。 |
トワイライトシンドローム/デッドクルーズ(ネタバレ) 学園ホラーゲーム「トワイライトシンドローム」8年ぶりの映画版。今回は学校を離れ、フェリー上で不条理なゲーム世界に捕らわれた主人公たちを描く。予算的にはかなり厳しかったようで、ザコキャラはスタッフや関係者が顔を塗っただけじゃないかという感じだし、メインのモンスターもチープ。劇中のゲーム自体が単調なのも残念。もう少しアドベンチャーゲームらしく謎ときをしながらクリアしていくようにしたほうが盛り上がったと思う。ショック描写は弱めだが、元々良くなかった人間関係がさらに破壊されていくダークな展開はそれなりに面白かった。登場人物は薄っぺらで魅力に欠けるのだが、内容にはあっていた気がする。八方美人がたたって友人を失ってしまったヒロインの幻覚だったのかと思わせるラストも悪くない。 |
俺たちダンクシューター いかつい外観をいかすためか、ウィル・フェレルはスポーツ・コメディが多い気がする。今回はダメバスケット・チームの再生を描いて、ちょっと感動的な展開となっている。その分、チーム再生の原動力となる元NBA選手を演じたウディ・ハレルソンが場面を奪うかたちとなった。「俺たちフィギュアスケーター」のハジけっぷりに比べるとまともすぎる気もするが、これはこれで良かったと思う。 |
インクレディブル・ハルク 今回のハルクは第2作ではなく、新しいブルース・バナー=ハルクの物語。日本でアメリカほど人気が出ないのはハルクが不細工なせいか。特に今回はひっそりと公開された。おそらく高予算作品なのだろうが、なんとなく前作に比べてこじんまりとした印象。その分まとまりは良いのだが、ストーリーに新鮮味がないのは少し残念。個人的には流れ者として暮らしながら行く先々で小さな事件にまきこまれる「逃亡者」タイプのテレビ版が一番好きだった。CGよりルー・フェリグノのほうがイケてたし。 |
この自由な世界で 搾取される側から搾取する側にまわろうと、一念発起して職業紹介所を立ち上げるシングル・マザー。もちろんケン・ローチ作品なので、単なるサクセス・ストーリーにはなっていない。自由社会だからという言い訳で人道を踏みあやまっていくヒロイン。結局資本家に食い物にされるのは以前と同様で、さらに過激な労働者に脅され、自転車操業のドツボにはまっていく。閉塞感に満ちたドラマ展開が、ケン・ローチらしいシニカルな視点で描かれ、奥行きのある作品に仕上がっている。 |
アクロス・ザ・ユニバース ベトナム戦争の時代を背景に、ビートルズ・ナンバーで綴るラブストーリー。ベトナム戦争の悲劇や反戦テーマを織り込んではいるが、本筋はかなり脳天気。ベトナムで心身ともに傷を負ったマックスはすぐに元気になるし、ジャニス・ジョプリンをモデルに破滅するかと思えたセディはいつの間にかギタリストと仲直りしてビートルズ屋上ライブのパロディを演じる。アップルに対抗してストロベリー・レコードというのもバカっぽい。音と映像の洪水という点では「トミー」に譲るが、名曲に乗せて軽く楽しめる青春ラブロマンスとしては、きっちり仕上がっている。 |
ハムナプトラ3呪われた皇帝の秘宝 シリーズ3作目にして「インディ4」と同じくジュニアを交えての冒険となった。レイチェル・ワイズの不在はやはり大きく、マリア・ベロも悪くないのだが、作品を華やかにするオーラでは劣っている。ジェット・リーが「ドラゴン・キングダム」のジャッキー・チェン共演に続いて、ミシェル・ヨーと久々の顔合わせがサービス。コミカルな味付けとCGバリバリの映像は健在で、今回はカンフー・アクションも盛り込まれて、軽いノリの娯楽作としては申し分ない。イザベラ・リョンの若きヒロインぶりや、アンソニー・ウォンの悪役ぶりも良かった。 |
カンフー・パンダ デブの弾力性と食い気で勝利をつかむというストーリーは、若いころのサモ・ハンでそのまま実写化できそうなパンダ版デブゴン。特にひねった部分はないが、テンポよくギャグとアクションを連発して一気に見せてしまう。音楽も含めて軽快な出来ばえ。ラストでタイ・ランにとどめを刺してしまうのはファミリー向けアニメとしては、やや残酷な印象だが、より香港カンフー映画のイメージに近づけるためか? |
トワイライトシンドローム/デッドゴーランド 今回は遊園地が舞台。ゲーム世界からの脱出を試みる中で、引きこもり少女が再生していく、という発想は分かるが、もう少し脚本を練り込むべきだった。「トワイライトシンドローム」の作者はカリスマだ、とか自画自賛してマッド・サイエンティストならぬマッド・プログラマー物の趣きもあるが、いかんせん劇中で描かれるゲームがつまらなすぎる。片っぱしから風船を割って探し物とか、知恵がなくてクソゲーにしか見えない。参加者たちが知力を絞る部分が一か所もなかった。「デッドクルーズ」も同様なのだが、ゲームをテーマにした作品なら、描かれるゲームが面白そうでなければ盛り上がらない。 |
スターウォーズ/クローンウォーズ クローン戦争の合間で辺境航路を争う小競り合いを描いアニメ版。ストーリーは弱めだが、戦闘シーンが多く、とりあえずは飽きさせずに見せる作品には仕上がっている。ドラマとしての目玉は、スカイウォーカーが似たもの同志ともいえる弟子を持つことだが、なんだか弟子のほうがしっかりしているように見えるのが難点。これまでの中間を埋めるエピソードということで、たいした展開はない。やっぱり番外編でお茶を濁さずにエピソード7以降を作ってほしい。個人的には角ばった顔のキャラクターデザインもイマイチだった。外国アニメは美形キャラが滅多に登場しない気がする。「アップルシード」の技術を使えば良かったのではないかと思った。 |
ベガスの恋に勝つルール 予告編を見たら結末が分かってしまうようなラブコメではあるが、テンポ良く進むので飽きさせない。中盤のいやがらせ合戦は、おバカすぎる気もしたが、終盤はきっちりとまとめて、いかにもハリウッドらしいソツのなさ。キャメロン・ディアス主演作だから、というわけでもないだろうが、下ネタも豊富で、下世話な笑いにも事欠かない。 |
ムービー・マンスリー2008年8月 |