片腕マシンガール ゲテモノに徹したバイオレンス・アクション。若手の俳優はみんな素人っぽいし、青春ドラマ風の場面はなんかぎこちない。カットのつながりも、微妙に間延びして感じる部分があった。欠点は多いが、むしろチープなスプラッター場面を笑って楽しめるかどうかが評価の別れ目だと思う。個人的には、わりと楽しめたが、もっとバカバカしくても良かった気がする。 |
20世紀少年 原作をきちんとダイジェストしており、最後まで一気に見せてしまう力を持っている。ただし、ストーリーを追うのに精一杯という印象も残った。キャスティングは豪華で、どこに出ていたか分からなかった俳優もいたほど。中でも原作イメージを見事に再現した石橋蓮司と竹中直人のインパクトが強かった。せっかくのドラマに熱さが足りなかったのは残念。終盤、主人公たちが立ち上がるあたりでグッと盛り上げてほしかった。ラスト・クレジットに流れるのが四畳半フォークみたいな歌なのもイマイチ。最後までロックで決めるべきだったと思う。第2部は思いきり熱い作品にしてほしい。 |
ダークナイト アメリカ本国で驚異的なヒットを飛ばしたバットマンの新作。日本では、もう一つ盛り上がりに欠けてしまった。公開を知らない人もかなりいたよぅだし、タイトルにバットマンの名を加えたほうが良かったかもしれない。内容的には今までで一番シブい印象で、ジョーカーの邪悪な犯罪を描くノワールに仕上がっている。今回のジョーカーは、「私は陰謀家ではない」と嘘ぶきながら人の心を操ろうとする陰謀家。ちょっとレクター教授を思わせるキャラクターになっている。さすがのバットマンも翻弄(ほんろう)され、従来のアメコミ・ヒーロー物とは、だいぶ趣きが異なる。陰影に富んだ密度の濃いドラマが展開して、シリーズ中でも特に見応えのある作品に仕上がっていた。 |
死にぞこないの青 主人公にだけ見える謎の存在”青”を配してオカルト・タッチにしてあるが、基本的には主人公と執拗なイジメを行うイケメン教師の闘いを描いたスリラー。青が、主人公の心理的葛藤を具象化したものなのか、死んだ姉の霊なのか、きっちりとは描かれていない。(ラストの母親のセリフからすると、主人公が頭の中で作り上げた姉のイメージの具象化と考えるべきなのだろうが)教師の心理描写も物足りなかった。そのため普通に面白いサスペンス映画というレベルにとどまり、心を揺さぶるまではいかなかった。読んでいないのだが、原作の評価が高いだけに少し残念。「神様のパズル」とか、エキセントリックな役柄の多い谷村美月には注目している。 |
闇の子供たち(ネタバレ) かなり醜悪な描写もあえて行い、タイにおける児童を標的にした犯罪を告発しようとした意欲作ではある。残念ながら作品自体の完成度は期待したほど高くなかった。犯罪組織を摘発していくプロセスの積み重ねが甘い気がしたし、主人公が抱えていた心の闇の描写も浅く、単なるオチ程度にとどまっている。クライマックスに無理やり銃撃戦を持ってきたのも説得力に欠けた。犯罪組織の手下が自殺行為に思えるテロを行うだろうか。結局何の効果もなかったし。一見、短絡的に見えるNGOの行動が、結果的には事件を解決させるという展開は面白かった。 |
デイ・オブ・ザ・デッド(ネタバレ) 昔のゾンビは動きが緩慢で逃げる余裕があったが、今時のゾンビはスピードが早いうえ超人的な運動能力を発揮するから始末に悪い。テンポ良く展開して飽きさせないし、菜食主義のゾンビとかユーモラスな部分も生きている。少し残念だったのは、せっかく天才的な知性を持つラスボスを登場させながら、知恵くらべで闘う部分がないこと。それにしてもサラザールは爆発の中で、どうやって生き残ったのだろうか。 |
落下の王国 映像的には優れているが、内容がイマイチなので、これほど世界各地でロケする必要があったのだろうか、という気分になってしまった。劇中で語られる物語は、結局自殺願望に取りつかれた失恋男の妄想にすぎず、ホラ話としての楽しさに欠けるしヒネリも足りない。結末もなんだか物足りなく感じた。ターセム監督としては、殺人犯の心の闇をCG多用で描いた「ザ・セル」のほうが斬新さがあったように思う。 |
デトロイト・メタル・シティ 原作は読んだことがないのだが、音楽への熱い思いが伝わってくるパワフルなコメディだった。ギャグはベタなものが多いし、演出に粗削りな部分も目立つが、キャラクターが立っていて突き抜ける力強さを持つ快作に仕上がっている。松山ケンイチはクラウザーの扮装になると走り方まで変わってしまうが、オカマ系の素顔のほうが怪演という気がした。松雪泰子のハイテンションな鬼社長ぶりは圧巻。メイクより素顔のほうが怖いと言われたジーン・シモンズの存在感も圧倒的だった。 |
ハンコック 酔いどれスーパーヒーローの再生を描くアクション・コメディ。「ハイランダー」「ペイフォワード可能の王国」「Gガール」などいろいろな映画から少しずつアイデアを寄せ集めたような印象もあったが、きちんと消化して一つの作品として完成している。脚本がうまかったのだろう。ストーリーも良くまとまっているのだが、終盤はややつじつま合わせに走っている気がした。テンポ良く出来ているし、シャーリーズ・セロンが格好良いので、見ている間は楽しめる作品。 |
幸せの1ページ 娘を守るために超人的な活躍をみせる母親役の得意なジョディ・フォスターだが、今回の役どころは引きこもりの女流作家。自宅を出て、無事目的地の孤島に到着できるかが冒険のすべて。一方の女の子はマスター・キートンかマクガイバーかという冒険野生児。闘う相手は観光客だし、全体的にのんびりムード。射出されちゃうトカゲたちは良い迷惑で、CGのない時代だったら動物愛護協会からクレームが付いただろう。小粒な作品だが、ジョディ・フォスタのコメディエンヌぶりが楽しめるし、子供も動物も大活躍。気軽に楽しむ作品としては悪くない。終盤におけるヒロインと少女の交流がもう少し丁寧に描かれていれば、もっと心に残る作品になったと思う。 |
パコと魔法の絵本 仕事だけを生きがいにしてきて病に倒れ、過去だけに生きるようになった老人。事故で記憶障害となり、過去を持つことのできなくなった少女。老人にできる唯一のことは、最高の今をプレゼントすることだけだった。悲しくてダークな物語も中島哲也監督にかかると、カラフルでバイタリティにあふれた世界と化していく。他にも弱虫だった昔を恐れる消防員、全盛期の幻影に囚われた元子役、子役に魅せられた少女時代を引きずるヤンキー看護婦など、過去を背負った人間が登場するのも印象深い。出演者全員怪演というエキセントリックなキャラクターに囲まれて、少女のイノセントぶりが際立っているのも良い。 |
おくりびと 納棺師という職業につては全く知らなかったが本当にあるのだろうか。その仕事ぶりは一種の儀式めいて崇高ささえ感じさせる。しかし、一方では中世フランスの首切り役人のように忌み嫌われる職業でもある。そのような職に就いた主人公の戸惑い、そして仕事に誇りを持っていく過程が丁寧に描かれていた。出演者が皆存在感のある演技をしていることも魅力で、夫婦や親子の絆に関する描写も胸を打つ出来ばえになっている。久石譲によるスコアも優れており、クラシック音楽の使い方も上手かった。 |
ウォンテッド 曲がる弾道が「コブラ」のサイコガンみたいだが、アメコミ原作らしい。見せ場は派手だが、ストーリー自体は少々稚拙。「ジャンパー」と並んで主人公が妙にガキっぽい。このところ好調だったジェームズ・マカヴォイも、さすがに今回は魅力的なキャラクターに見せることが出来なかった。アンジェリーナ・ジョリーの狂信に殉ずる潔(いさぎよ)い殺し屋ぶりは格好良かったし、モーガン・フリーマンのお間抜けな最後の表情は笑えたのだが。全体的にはハリウッド大作の弱体化を感じさせる作品だった。 |
フロンティア(ネタバレ) チェーンソー抜きのフランス版「悪魔のいけにえ」。スプラッター・シーンも多いが、自動小銃ぶっ放したりガスボンベ爆発させたりアクション性も高い。自由を求めて国外脱出を図った若者たちがナチ戦犯の生き残り家族に捕まってしまうという皮肉な設定が面白いが、ドラマに十分生かせていないのはちょっと残念。純血種がどうのと騒ぎたてるのみ、すでに妊娠している他人の子をありがたがるのは、ナチ親父の気が変だからか脚本がテキトーだからか。とりあえずラストまで引っ張る力を持った作品だが、途中で神経に変調をきたしたように見えるヒロインが、次々に敵を倒していくのは無理がある気もした。 |
グーグーだって猫である 動物映画というよりは、都会に暮らす人間の孤独を感じさせる作品に仕上がっている。ユーモラスな描写も多いし、海外への旅だちとか癌手術とか大きな出来事も描かれるのだが、全体的に淡々とした印象。大仰にならないところが良さなのだが、もう少しメリハリがあっても良い気がした。吉祥寺という街が大きな要素となっており、ところどころで観光案内が入ったりする。東京の片田舎という特殊な位置づけが生かされており、自称都会派みたいな少女(多分田舎者)に嫌われる場面は笑えた。関係ないけど「デトロイト・メタル・シティ」の続編を作るならマーティ・フリードマン扮する純和風ヘビメタ・ギタリストとの対決もありかなと思った。 |
最後の初恋(ネタバレ) 邦題はひねったつもりかもしれないがイマイチ。それぞれに問題を抱えた中年男女が次第に惹かれあっていく。ロマンティックなストーリーを手際良くまとめている。終盤の展開を考えると、母娘の愛憎をもっと丁寧に描き込んだほうが深い余韻を残した気がする。ダイアン・レインとリチャード・ギアの好演もあって、感動作とまではいかないが、それなりの良作に仕上がっていると思う。それでも主人公を死なせる必要はなかった気がする。 |
ムービー・マンスリー2008年9月 |