アイアンマン
本国では大ヒットしたアメコミ・ヒーロー物。日本では知名度が低いのでそこそこの成績みたい。武器製造の社長が、正義に目覚めてスーパーヒーローを目指す。強いアメリカが正義という短絡的な作品ではあるが、深く考えずに楽しむには十分な出来ばえ。オヤジ版ロケッティアみたいな印象もあるけど。アーマースーツの製作過程を丁寧に見せているのが良かった。主人公を助けて大活躍のグウィネス・パルトローも魅力を発揮している。
おろち
楳図かずおの代表作を実写化。ゴシック調の雰囲気でドロドロとした人間ドラマが展開する原作より、ややサラッとした印象に仕上がっている。原作のストーリー細部は覚えていないのだが、手術のくだりが強引というが、無意味なのが残念。姉が手術を強行してしまう展開のほうが説得力を増した気がする。木村佳乃と中越典子の体当りな熱演もあって、全体的には見ごたえのある作品。「おろちVS黒井ミサVS富江」というエイリアンもプレデターも裸足で逃げ出す企画はどうだろうか。
アキレスと亀
アキレスと亀の例えは、ちょっとピンとこなかった。割れ鍋に閉じブタ映画と言ったほうが分かりやすいのでは。レストランに主人公の絵が飾ってあったりして、二代目画商も裏でしっかり商売しているのだろうか。この画商、もっともらしいことを言いながら、主人公を追い込んでいくデモーニッシュなキャラクター。もっとアクの強い俳優を使っても良かった気がする。他の画商のところに持っていったらなんとかなったんじゃないかと思わせる反面、あんな無感情、無表情な主人公(特に青年時代)が人の心を動かす作品は生み出せないんじゃないかと思ったり、登場人物に感情移入することはなかったが、あれこれ考えて楽しめた。社会生活に適応できない主人公を地上に繋ぎ留める天使を演じた樋口可南子は名演。その大女優にウサギのパジャマ着させて自転車こがせる監督も、さすがは世界の北野だと感心した。
宮廷画家ゴヤは見た
ゴヤが2時間サスペンスの家政婦になっちゃったような邦題だが、確かにゴヤは狂言回し的役割。神父も指摘するが、意外と世渡り上手なタイプ。異端審問に情熱を燃やす偽善的な神父と、豚肉が嫌いなだけで異教徒として拷問されるヒロイン。動乱期のスペインを舞台に二人の数奇な運命が描かれていく。さすがミロシュ・フォアマン作品らしく見ごたえのある出来ばえ。歴史に詳しければもっと楽しめたと思うが、うとい自分にも十分楽しめた。若いヒロインと15年後、そしてその娘を演じ分けたナタリー・ポートマンが上手い。皮肉な展開を見せる終盤も面白かった。赤ん坊が無事成長するかどうかは、ちょっと心配。
ゾンビ・ストリッパーズ
ゾンビ版「死霊の盆踊り」。ストリップと食人の本能に突っ走るゾンビと欲に目がくらんだ連中が大騒動。「ショーン・オブ・ザ・デッド」ほどではないにしても、低予算なりに意外ときちんとしたホラー・コメディーに仕上がっている。ストリッパーはわりと美人揃いだし、ロバート・イングランドの怪演ぶりも楽しい。特殊効果は、いかにも合成という画面も多いが、それなりに頑張っている。
コドモのコドモ
丁寧な演出による良作と思う。他人の責任ばかり問う大人社会への批判も良く出ているが、子供賛歌に走りすぎた部分もある。「14才の母」でさえも生きるか死ぬかの瀬戸際だったのに、子供たちだけで出産して(しかも早産)「まれに見る安産だった」で片づけてしまうのは、やや安直。危険性もきちんと描くべきだという気がした。麻生久美子は理想主義から挫折してヒステリー気味となるが、最後には再生する若い教師をうまくこなしていた。宮崎美子も「デトロイト・メタル・シティ」に続いて物分かりの良い母親を好演(ただし、顔色ひとつで娘の状態が分かるはずなのに、最後まで妊娠に気づかないのはおかしい)。今年7本目の谷村美月出演作だった。
東京残酷警察
「片腕マシンガール」に続くTOKYO SHOCKシリーズ第2弾。マシンガールよりもゴア度の高いスプラッター・アクションになっている。途中に政府や警察の広報が挿入される構成は「スターシップ・トゥルーパーズ」だし、ウルトラセブン、デビルマン、バイオレンス・ジャックのオマージュ的な描写もあり、マニアックな感覚に仕上り。ヒロイン役のしいなえいひは美形タイプではないが、頑張ってアクションしている。
ワイルド・バレット
ほとんどの登場人物が何らかのかたちで法を破っているという、ノンストップ・アウトロー・ムービー。低予算ながら小気味良い仕上がりで、一晩の間に目まぐるしく展開していく構成は、犯罪映画版「24」といった印象。多少強引な部分があっても、テンポが良くて演出にも力があるのでラストまで一気に引っ張っていく作品となっている。ロシア人の笑わない子供がタフな印象で良かった。
ゲット・スマート
往年の名作コメディ・シリーズ2度目の映画化。ちょっと安っぽかった前回に比べて、けっこう予算をかけている。オリジナルでは自信過剰気味のおマヌケスパイだったが、今回は事務屋あがりの新米スパイという設定。主人公がリスペクトする人物が元祖スマートなのだと思う。99号も現代風にタフな女性諜報員に変更。アン・ハサウェイが格好良く演じている。今では珍しい電話ボックスの出入口、役に立たない盗聴防止装置、ヘンなところから顔を出す連絡員といったお約束を守りながらも、アクション・シーンは大幅にスケールアップ。楽しめる快作に仕上がっている。巨漢の殺し屋は007シリーズでリチャード・キールが演じたジョーズのオマージュか。
私がクマにキレた理由
大学卒業後、進路に迷ったヒロインが、ふとしたことからブルジョワ家庭の子守となる。裕福でも幸せとは限らない。珍しいテーマではないが、歯切れの良い演出に引きつけられた。解雇されてキレたけど、そのおかげでようやく進路が決められたのだから、本当は感謝すべきかも。ヒロインの心優しさは伝わってくるのだが、やや優柔不断なところもある。子供との交流を描いた部分が上手く描かれていた。クライマックスでビデオに写っている内容を確認せず講習会に持ち込んでいたのは、説得力に欠けしまい少し残念だった。
ICHI
女性版座頭市だが、按摩ではなくはなれ瞽女(ごぜ)という設定。子母沢寛原作となっているけど、ほとんどオリジナルのストーリーではないかと思う。演出自体は丁寧だが、アクション描写は「あずみ」に負けている。ビートたけし版が強すぎた反動というわけでもないのだろうが、今回は少々弱め。2回も負けてしまう。特にクライマックスで戦うのが大沢たかおと中村獅童というのも腰くだけに感じた。
ムービー・マンスリー2008年10月