ミラーズ
韓流ホラーのオリジナルもまあ悪くない出来だったが、こちらのほうがまとまったストーリーになっている(ちょっと「シャイニング」や「ザ・リング」に似通った印象もあるが)。おおまかな設定以外は、オリジナルのストーリー展開。舞台も再建中のデパートから完全に廃墟となったデパートに変わり、不気味さを増している。ミステリアスなタッチで展開し、クライマックスではアクション・ホラーになっている。エイミー・スマートのスプラッター・シーンも迫力があった。ラストはオリジナル版を見ていなければ、けっこう意外かも。それにしても50数年前に死んでいたのは誰だったのだろう?
地球の静止する日
ロバート・ワイズ監督によるオリジナル版は見逃している。今回は高予算でリメイクなのだが、巨大ロボットのくだり以外の派手な見せ場は予算編にあった場面ばかりで、意外と大作感を持てなかった。一旦は人類を滅ぼすことを決めた主人公が、血の繋がらない親子の情愛に触れて意志を変える、という展開は悪くないのだが、演出に抑制が効き過ぎて盛り上がらずに終わってしまった。それなりに見応えのある作品ではあるが、強い印象を残すほどの出来ではない。
魔法遣いに大切なこと
まったく普通な東京の光景の中に魔法使いがいて公立の魔法研修センターがある。特殊な設定の中で魔法研修生たちの青春ドラマが描かれていく。研修終了後は公務員になるというのがせちがらい気がするし、生命に係わる魔法は禁止されているというのにだが、昏睡状態の患者を覚醒したり記憶をいじるのはOKとか線引きの加減も分かりづらい。主役の山下リオが独特な雰囲気を出しているし、演出のテンポも悪くないので、それなりの質を持った青春物に仕上がっている。ただ、原作があるので仕方ないのかもしれないが、終盤を難病物にする必要はなかったと思う。最後の魔法も単なる幻覚みたいだし。せっかく面白いシチュエーションなのだから、いくらでも他の展開が考えられた気がする。最後も幻影を見せただけで終わってしまうので、イマイチ盛り上がらなかった。
アンダーカヴァー
警官家族を落ちこぼれて裏の世界に入った男をホアキン・フェニックスが好演したハードボイルド映画。地味ながら緊張感のある演出で見ごたえのある作品に仕上がっている。証人として保護されている主人公が臨時の警官になったり、恋人が監視下からなんとなく抜け出して親に会ってたり、多少ユルイ部分もあるが、全体的には良くまとまっている。ロバート・デュヴォール、マーク・ウォルバーグ、エヴァ・メンデスと味方ばかり強力な配役なので、悪役側はカタなしだった気になってしまうのが残念。
ヘルボーイ/ゴールデン・アーミー
ストーリーがスケールアップして見せ場も多く、1作目より楽しめる作品に仕上がっている。ユーモラスなやり取りも多く飽きさせないし、人間に追われて滅びゆく霊的な存在のはかなさが美しい映像で表現されていて作品に深みを与えている。ヘルボーイたちが人間世界と決別したことだし、2作で終わらせたほうが良いような気がする。
ヘルライド
昔のマカロニ・ウエスタンを思い出させるオヤシ・バイカー・アクション。エロ・シーンも多めで、いかにもタランティーノ製作らしいスタイリッシュさとげせわさが混在している。ストーリーは単純すぎるはどで、決めまくったつもりのセリフがスベりぎみだったりするが、憎めないB級テイストを感じさせる。エレキギターを前面に押し出したレトロな音楽も効果を上げていた。サイドカーで頑張るデニス・ホッパーに比べ、カメオ出演程度のデヴィッド・キャラダインは見せ場がなく残念。喉を裂く場面にボカシが入っていたのは、ちょっと驚いた。
チェ28歳の革命
チェ・ゲバラ伝記映画前編。ゲバラについて詳しいことを知らなかったので、なかなか興味深く見られた。ベニチオ・デル・トロは、元医学生というカリスマ革命家を抑えた演技で好演。存在感のあるゲバラ像を生み出している。ただしゲバラの内面に迫る描写に欠けているのが残念。戦闘シーンは迫力があるが、屋上から狙撃する政府軍が階下をまったく見張っていなかったりして、多少説得力に欠ける部分はある。後編を見れば納得がいくのかもしれないが、一個の作品としてはちょっと物足りなかった。
カンナさん大成功です!
原作はこれまでにもTVドラマや韓国映画になってきたが、見逃している。序盤は山田優のハイテンションなおバカ演技が浮いて見えたが、三人組が揃うとバランスが取れたのかあまり気にならなくなった。人間は見た目だ。という整形美女の活躍に、アンチテーゼとしてコンプレックスを克服した友人を登場させ、本人が前向きになれればどっちでもいいじゃないか、という方向に持っていくあたりがうまい。ヒロインの視線を表す映像は8mmフィルム風の画面で表現され、会長の視野か同様に表現された場面がワンカットあったので、会長も整形美人だったというオチかと思ったら違っていた。突っ込みどころもいろいろあるが、ヒロイン三人の友情と活躍をさわやかに描いているので、けっこう楽しめた。
大阪ハムレット
大阪の下町ムードが良く出ている人情コメディ。ひやしあめとかオレンジ・カルピスとか飲み物にも大阪っぽさを感じた。松坂慶子が子供たちに心を痛めながらも気丈に振る舞う母親を好演。岸部一徳を始めとする脇役陣も皆光っていた。遺影だけかと思った間寛平は、ハムレットもどきに父親の亡霊となって登場するが、何の役にも立っていないのが可笑しい。問題や悩みを抱えた登場人物が愛情を込めて描かれ。味わいのある作品に仕上がっている。
戦場のレクイエム
前半は中国の過酷な内戦を迫力満点に描き、後半ではただ一人生き残った連隊長が行方不明でかたずけられた部下たちの名誉を回復しようと奮戦する姿が感動的に描かれている。特に連隊長役のチャン・ハンユーは熱演。なぜ主人公が敵の軍服を着て発見されたかは、あやふやなまま終わる。食料を調達するため変装したというセリフもあるが、終盤の回想ではそんな状態にも見えない。何か生への執着に負けた口外できない事情がありそうで、逆に奥行きを感じさせる。
プライド
原作は読んだことがないのだが、少女マンガバリバリの内容で、シリアスとギャグが紙一重の濃ゆいドラマが展開する。原作が長いのか、かなり詰め込んだストーリーとなっており、2時間強を飽きさせずに見せてしまう。毅然としたお嬢さまを演じるステファニーは、健闘しているが本格的な演技が初めてとあって硬さが残り、のびやかさに欠けるのが残念。やはりキャリアの長い満島ひかりに部があり、大映ドラマ調ともいえる派手な芝居を見せている。卑屈で性悪な役なのに、どこか憎めなさを感じさせるのは彼女自身の持ち味が生きたのかもしれない「愛のむきだし」に期待したい。クライマックスの歌は歌詞がそのまんまで、いくらなんでもベタすぎると思う。
誰も守ってくれない
達者な演技陣によって見られるドラマになっているが、ストーリーそのものはスカスカ。いきなり離婚・再婚をさせて姓を変えさせるのも微妙だが、群がる報道陣を突っ切って娘を連れ出しカーチェイスが展開するのは説得力が全くない。娘にケータイを持たせたままだったり、やってきたボーイフレンドを同じ部屋に泊まらせたり、警護としてはユルユルというかハチャメチャ。序盤で大口たたいた新聞記者が、結局何もせずウダウダしているのも腰くだけ。クライマックスも盛り上がらずに終わってしまう。
007/慰めの報酬
完全な「カジノロワイヤル」の続編として展開。殺し屋ジョーズが二度登板したことを除けば、シリーズ初ではないかと思う。残念ながら出来栄えが前作よりやや落ちるので、新しい冒険にしたほうが良かった気がした。退屈な作品ではないのだが、ストーリーの語り口に歯切れ良さが欠けている。ダニエル・クレイグのこれまでと違うボンド像は精彩を放っているものの、悪役がニヤけた小物にしか見えないのも映画を小さく見せている。善と悪との区別がつかない時代といったセリフが何度か出て来るが、ジェームズ・ボンド・シリーズは、もう少し明快でスカッとしてほしい。
グロテスク(ネタバレ)
「ホステル」「シー・ノー・イーヴル肉鉤のいけにえ」など、最近は拷問ホラーというジャンルがあるようなのだが、見逃している。この作品もそのジャンルに含まれるのではないだろうか。悪意に満ちた展開で、気色悪いスプラッター描写はたっぷりだが、ショック演出とかはないので怖くはない。どちらかというとハーシェル・G・ルイス監督除けば流れをくむ作風。グロだけでなくエロにもこだわったのが特徴。密室劇で登場人物三人だけというのはともかく20年前に3倍速で撮ったビデオを更にダビングしたようなボケボケ映像が貧乏臭さを爆発させている。無意味にシネスコ画面なのが虚しさを増す。すべての元凶がワキガだったという脱力系のオチもトホホ。余談だが飛んだ首が噛み付く描写では、楳図かずおが描いた呪いの肉面の話(正確なタイトルは忘れた)を思い出した。子供の頃、1番怖かったホラーマンガで、ホチキスでページをとじようかと本気で考えたほどだった。
ムービー・マンスリー2009年1月