感染列島
未知のウィルスとの闘いをシリアスに描き込んだ佳作。豪華な演技陣が揃っており 特に凛々しいヒロインを演じた壇れいが魅力。「ブラックジャックによろしく」を思い出させる妻夫木聡の若き医師ぶりも良かった。大組織がどうしても発見できないウィルスが、なぜカンニング竹山扮する研究者なら百パーセント見つけられるのか説明が欲しかった。クライマックスは、いくら恋人が重態とはいえ、あの状況で医師が持ち場を離れて長野までいくのは無理がある気もした。その他突っ込みどころも少なからずあるが、力強い演出で映像的にも大作感があり、十分に楽しめた。
チェ39歳別れの手紙
舞台をボリビアに移したチェ・ゲバラ伝記の後編。一年弱に渡るゲバラの行動が淡々と描かれるのだが、個人的には少々退屈に感じてしまった。時期が早すぎたのか、民衆の支持を得られず、武力革命といっても具体的な活動はあまり描かれない。そのためゲバラ自身も精彩を欠いて見える。山岳地帯だか森林だかをうろついているばかりに見えてしまうのもイマイチ。ラスト近くのゲバラと見張り兵のやりとりは、ゲバラが持つカリスマ性の片鱗がうかがえるエピソードとして興味深かった。
20世紀少年/最後の希望
豪華キャスティングによる三部作第2弾。今回もボリュームのあるストーリーを手際良く消化している点は評価できると思う。(さすがに終盤の展開は駆け足になっている気がしたが)原作は、ともだちランドのエピソードまでしか読んでなかったので、新鮮な気分で楽しめた。カンナ役の平愛梨は、目つきがちょっと唐沢寿明に似ていて、なかなか雰囲気が出ている。原作の表情を再現しようと頑張っている木南晴夏も面白かった。凝った特殊メイクのユースケ・サンタマリアと六平直政とか、見せ場には事欠かない。完結編ではグッと盛り上げてくれることを期待している。
愛のむきだし
4時間弱におよぶ長編ブラック・コメディー。インターミッションの入る映画は本当に久しぶりという気がする。決して大作ではないのだか、宗教、盗撮、勃起をキーワードにおバカギャグが満ちていて飽きさせず、最後まで引っ張る力を持っていた。終盤になって多少失速するのは残念。登場人物は皆少し壊れているようなのだが、終盤にはいよいよ狂気に陥っていく。ラストでちょっと救いがあってホッとした。主演の二人が表情豊かに好演、特に満島ひかりの動物的なキャラクターは面白かった。
ララピポ
人生の頂点に立つことがAV女優の上前はねる程度の風俗スカウトとか、実はクールな人生観を持っている(?)コスプレ女とか、エキセントリックな6人の登場人物が性風俗がらみのエピソードを連ねるブラック・コメディー。感情移入できるキャラクターはいなかったが、けっこう笑えた。ゴミ屋敷の主婦が抱える心の闇というのが、なかなか印象的なエピソードだった。
ベンジャミン・バトン数奇な人生
設定を除けばデヴィッド・フィンチャー監督作品としては、むしろオーソドックスな作りという気がした。老人として生まれ若返っていく主人公の数奇な人生、なのだが波瀾万丈なのは終戦あたりまでで、後はメロドラマの色彩が強い。後半も、もう少し当時の出来事を織り込んで起伏のある展開にしてほしかった。英仏海峡横断水泳のエピソードはちょっと良かったけど。終盤の展開も特にひねりがあるわけではないし、退屈はしないが特に感銘を受けることもなかった。
エレジー
老いてもあっちの方はお盛んな教授。肉体関係にとどめ、女性と深く関わろうとしなかった主人公が若い女性と愛し合うようになり、ただ一人心を開いていた友人の死もあって変貌を遂げていく。乳がんを扱った作品というと「Dearフレンズ」「六月の蛇」「秋深き」といった作品が頭に浮かぶが、今回が一番まっとうな印象を受けた。配役もなかなかで、特にデニス・ホッパーは名演。ベン・キングズレーも良い演技者なのだが、体格が良すぎて老いの哀しみがもう一つ伝わってこないのが残念。デボラ・ハリーはエンド・クレジットを見るまで分からなかった。
ヘブンズ・ドア
オフビートな感覚が印象的なオリジナル版だったが、リメイク版はストレートな娯楽作になっていた。やや味わいに欠ける気もしたが、これはこれで楽しめた。多少ユルい面もあるが、組織や警察の追跡をかわしながらの逃避行で退屈させないし、迫りくる病魔という点もわりと良く表現できていたと思う。全体的に軽くまとめてあり、感動作とまではいかないが、福田麻由子は相変わらず存在感があるし、長瀬智也も役柄にハマッていて良かった。母親に薬師丸ひろ子を起用したのにカメオ出演程度で終わってしまったのは残念。
13日の金曜日
旧作ホラーのリメイクが相次ぐハリウッド。ジェイソンの復活は大本命といえるかもしれない。ヌードシーンも織り込んで正当的なB級ホラーに仕上がっている。オリジナルシリーズの何作目かにプレタイトルのものすごく長い作品があったと思うが、今回はそれを超えているかもしれない。プレタイトルでヒロインが襲われて、彼女を捜しにくるという構成は「サイコ」へのオマージュか?特別際だった部分もたいが、殺戮シーンも豊富であきさせない。ラストのオチに至る展開はやや強引な気がした。
雷神
ビデオ発売用作品ということもあって、かなりひどい出来だった。序盤でたいして役に立たない証言をえるために酒場で大立ち回りを演じたあげく、銃撃戦にまで発展する無理やりな展開からしてショボい。そもそも酒場のチンピラくらい一撃で倒してほしかった。なんかセガールが弱くなった気がする。その後も殺人鬼と得意の格闘に持ち込みながら逃げられたり、後ろから銃を突きつけながら反撃されて客が撃たれたりと失態が目立つ。にもかかわらず劇中では有能な刑事という評価が揺るぎもしないテキトーな脚本。被害者の爪からセガールの皮膚が、なんてエピソードも犯人逮捕の後に出て来るので効果なし。武道の達人がシリアル・キラーだったというような設定にでもすれば良かったのに。
ディファイアンス
エドワード・ズウィック監督らしい骨太な力作。実話に基づいて、もう一人のシンドラーというキャッチ・コピーだが、多くの人を守りながら森に潜んで闘い続ける姿には、もう一人のロビンフッドという印象も強い。とはいえ単純なヒーロー像ではなく、兄弟や恋人に支えられながらリーダーシップを取っていく設定がストーリーに奥行きを与えている。特に兄弟の愛情と葛藤の描写は、かっての傑作「レジェンド・オブ・フォール」を想起させて興味深い。クライマックスがやや西部劇調だが、見応えのあるドラマに仕上がっている。
7つの贈り物(ネタバレ)
陰惨なストーリーを無理やり良い話に持っていこうとしてるけど、やっぱりスッキリしない作品。内容的にはノー・スターのインディーズ向けという気がした。序盤は主人公が不可解な行動を取るが、中盤で目的は見当がついてしまう。何かひねりのある結末が用意されているのかと期待したのだが、そのまま実行して終わりだった。相手をテストする理由で盲目の苦情処理担当者を罵倒するのは、後で謝るにしても間違った行動に思える。ところでクラゲの猛毒で死んだ人間の臓器は移植に使えるのだろうか。良い話でまとめるより、ブラック・コメディに仕立てたほうが面白くなった気もする。
少年メリケンサック
ハイテンションなスチャラカ・コメディ。佐藤浩市と木村祐一のパンクロックが似合わない存在感は圧倒的だし、宮崎あおいのブチ切れ演技ぶりも楽しい。とりあえずヤバくなったら逃げだすというヒロインの処世術が繰り返しギャグとして生かされている。中年ロッカーたちの敗者復活戦としての描き方は、やや底が浅いので心を動かされるほどではないが、最後まで見飽きなかった。ツアー中、牛は誰が世話しているのかは謎だった。エンディングの「守ってあげたい」は、ちょっとハズしてしまい、せっかくのテンションが下がってしまう。まーくんのキャラは「デトロイト・メタル・シティ」のパロディーか?
ムービー・マンスリー2009年2月