昴−スバル−
原作は革命的バレエ漫画ということだが、全く知らなかったので、谷村新司の映画かと思った(ウソ)。人物設定はちょっとバレエ版「ガラスの仮面」ぽく感じられた。前半の舞台がバレエもストリップもやる場末のクラブというのがユニークではある。映像的にはバレエよりヒップホップダンスのほうが目立っていた気がした。長い原作を詰め込んだのか、ドラマの奥行きには少々欠け、登場人物の言動に一貫性か感じられない部分があるのは残念。クライマックスもちょっと無理っぽい。Araは儲け役だが、セリフが日本語のため感情が十分表現出来なかったのは気の毒だった。
DRAGONBALL
苦肉の策で原作とは別物というコマーシャルを打っていだが、そんなこと言われても困る作品。悟空が高校生という設定だけで、すでに相入れない世界観になっている。まあB級格闘アクションと割り切れば「モータル・コンバット」くらいには楽しめるし、「デビルマン」よりはかなりマシという気がする。とはいえ、ピッコロが弱すぎるとか、ブルマが厚化粧すぎるとか、不満点は事欠かない。カメハメ波がAEDの代用品になるのは、ちょっと感心した。話題となった田村英理子は印象が弱く、関めぐみのほうが存在感があった。日本版ドラゴンボールを三池崇史監督と堤幸彦監督競作の二部作として撮ったら面白いと思う。
マーリー世界一おバカな犬
マーリーは、しつけは全くできていないけれど、飼い主に子供ができればきちんと兄のようにふるまう心優しい犬。マーリーとの交流だけでなく、主人公の家庭生活や仕事の面も丁寧に描いた佳作に仕上がっている。夫婦のセックスライフに関する話題も手を抜かずに描いているから、ファミリー映画のつもりで来た子供連れの人は赤面する場面もあるかも。全米で予想外の大ヒットを記録したが、アメリカも癒しを求める人が増えているのかもしれない。どんな犬でも、飼い主にとっては自分の犬が世界一なのだと思う。
釣りキチ三平
連載当時は一世を風靡(ふうび)した原作だが、実は読んだことがない「おくりびと」に続く滝田洋一郎監督の新作として話題になったわりに不入りのようだが、決して出来栄えは悪くない。釣りに天賦の才能を発揮する三平が主人公だが、むしろ彼と行動をともにするうちに再生していく姉とバスプロ、二人のキャラクターを描いたドラマ部分が作品に厚みを持たせている。渡瀬恒彦も良い味を出していた。
ホノカアボーイ
ハワイの映画館が舞台なのだが、セリフのほとんどが日本語なので見ているうちにホノカアが沖縄みたいに見えてきた。倍賞千恵子、松坂慶子、喜味こいしといったベテラン勢が味のある演技で作品に厚みを与えている。倍賞千恵子が老いらくの恋を演じて、女版寅さんみたいなフラれ役のコメディかと思ったら、終盤はけっこう切ない展開だった。優柔不断な主人公がホノカアでの生活を通して、どのように変わったかは分からなかったが、見ていて楽しめる出来栄えだった。
ウォッチメン
独特なヴィジュアルで描くアンチ・ヒーロー・アクション。無敵のヒーローがベトナムで大虐殺を行い、アメリカを勝利に導いた架空の80年代が舞台で、異様な付け鼻のニクソン大統領も失脚しなかったらしい。ヒーローもゴロツキみたいな奴がいたり、レスビアンがいたりと、なんか胡散(うさん)くさい。感情移入できるキャラクターがいないこともあって、核戦争による地球滅亡の危機が描かれても、あまり迫ってこないが、映像的な見所は多い。少々長すぎるのが欠点で、オープニングの暗殺から中盤まで、なかなかストーリーが進まない。ラストは斬新というほどのアイデアではないが、うまくまとめられている。エンディングて企業の隆盛ぶりが示されて、本当に正義だけが目的だったのだろうか、と考えさせるのが面白かった。
ストレンジャーズ/戦慄の訪問者(ネタバレ)
それなりにまとまったサスペンス映画なのだが、問題は冒頭のナレーションで結末が予想出来てしまうこと。そのため見ていてあまりハラハラしなかった。それにしても猟銃を持っているのだから、もう少し対処のしようがあったのではないかと思ってしまう。ヒロインも手ぶらでうろつくのは無防備すぎる。パーティーの場面を除けば出演者は8人のみなのだから、もっと密度の濃いシナリオにしたほうが良かったと思う。
フロスト×ニクソン
復帰を目指す老獪(ろうかい)な政治家ニクソンと、やはりアメリカへのカムバックを狙うトークショー司会者フロストの闘いを描く。フランク・ランジェラの貫禄ある演技が圧倒的だが、マイケル・シーン演じる二枚目キャスターぶりも悪くない。70年代らしい雰囲気も出ていて、ズケズケ物を言うが時として主人公を支えるレベッカ・ホールのヒロインぶりも魅力的だった。元は舞台劇らしく、セリフもしっかり書き込まれていて、派手さはないが見応えのある作品に仕上がっている。イタリア製の靴も効果的に扱われていた。
REPO
臓器売買が合法化された近未来を舞台に、ダークでスタイリッシュな映像を持ったゴス・ロック・オペラ。絶大な人気と歌唱力を誇る歌姫にサラ・ブライトマン、整形マニアのジャンキーにパリス・ヒルトンとキャスティングも楽屋オチ的に面白い。全編MTVのような印象もあり、厚みを感じさせる作品ではないが、スプラッター描写も豊富で、最後まで引っ張っていく力を持っている。「メトロポリス」や「ロッキー・ホラー・ショー」のオマージュかと思わせる要素もあって楽しめた。
フィッシュストーリー
地球滅亡まであと5時間で始まり、その日の出来事は37年前から続く偶然の積み重ねによって起こされた奇跡だったことが描き出される。エンド・クレジットで描かれる物語は、おおよそ途中で想像のつくものではあるが、それでも上手く構成されている。なによりバンド・メンバーとマネージャーのロックに対する熱い情熱が伝わってくるので、彼らのホラ話がスケールアップして実現していくストーリーは感動的ですらある。全く売れなかったアルバムが、呪いのレコードとしてマニアの間に伝わっていたという設定もうまいと思った。
細菌列島
「感染列島」のパロディという触れ込みもあったが、関連しているところはひとつもない。ギャグはスベッているし、演技もバラエティーのコントみたいで素人っぽい。なんとなく憎めない作品ではあるのだが、完成度は高くない。北の某国将軍様の顔になって死ぬ、というのだが、将軍様を竹中直人が演じているため顔が違ってしまった。河崎実監督の作品に出ている将軍様役者を使えば違和感なかったのに。100年に一度接近する惑星、っていう設定もめちゃくちゃ。彗星じゃないのか。
トワイライト〜初恋〜
本国で予想外のビッグ・ヒットとなった人間と吸血鬼の愛を描くティーン向けホラー・ラブロマンス。ストーリーは別として「聖少女バフィー」に似たテイストの作品で、ホラー要素は抑えてある。それが多くのティーンに受け入れられた理由のひとつかもしれないが、個人的には少々物足りなかった。主人公たちのデート場面にダークな雰囲気はなく、なんかスーパーマンとロイス・レーンみたい。演出は丁寧だが、前半は見せ場が少なく、やや冗長に感じた。「20世紀少年」のカンナみたいな髪形のアリスを演じたがアスリー・グリーンが、ちょっとキュートだった。ラストは続編狙いだが、無事製作が決定。ダコタ・ファニングの出演も決まったらしい。アクション・ホラーの要素が強化されていることを期待している。
ある公爵夫人の生涯
ダイアナ妃の祖先の物語として宣伝されたが、劇中にその話は出てこない。地味ながらしっかりした演出で、出演者も皆好演している。(さすがに少女時代を演じるは初々しさに欠けるが)妻が後継ぎを産むための道具と考えられていた封建時代が舞台で、夫にとってはそれが当たり前で悪意の自覚すら全くない。レイフ・ファインズはそのあたりを的確に演じているし、ヘイリー・アトウェルも儲け役。完成度は決して低くないのだが、特別に印象的な部分もなく、結局は不倫話なので強く記憶に残る作品ではないと感じた。
スラムドッグ$ミリオネア(ネタバレ)
なかなか良い作品ではあるのだが、予告編で期待したほどの傑作ではなかった。主人公の波乱に満ちた人生と一途な愛の物語は、とても良いと思う。しかし、運命がクイズの答えを与えていた、というポイントがやや弱い。ベンジャミン・フランクリンのエピソードは、なるほどと納得させられたが、歌を知っているのと作詞者を知っているのは別と思ったし、リヴォルバーのエピソードもイマイチ。ヒロインとの思い出につなげる必要があったとはいえ、最後の問題は簡単すぎ。ラストを無欲の勝利にした意向は分かるが、どうせならヒロインとの間にAとつながる思い出を設定しておけば、より感動的な幕切れになったと思う。ダニー・ボイル監督の復活を感じさせる出来で、水準作とは一線を画する出来だけに惜しい気がする。マサラ・ムービー風の踊るエンド・クレジットも楽しかった。
鴨川ホルモー
破天荒な設定の伝奇青春コメディ。松竹生え抜きで手堅い演出の本木克英監督だけに安心して見ていられる。多少こじんまりまとまってしまった感もあるが、楽しめる作品だった。気弱でちょっと鈍感な主人公の山田孝之。理科系で風変わりなヒロインの栗山千明。実は身勝手で小悪魔なヒロインの芦名星。配役も魅力的だった。最後に敗退した芦屋に、どのようなペナルティが科せられたのか描かれていないのは残念。予算の都合があったのかもしれないが、鬼たちにも個性があったほうが、もっと面白くなった気がする。
レッド・クリフPartU−未来への最終決戦ー
いよいよ本格的に赤壁の闘いが描かれる後編。劉備一派は出番が少なく、メインとなるのは孔明、周瑜の両軍師による頭脳戦と尚香の諜報活動。いかにして大軍を率いる曹操を出し抜いたかを鮮やかに描いて全編一気に見せてしまう。クライマックスの戦闘もダイナミックで迫力があった。してやられてばかりで曹操に良いところがないのは残念だが、軍師を演じる金城武とトニー・レオンはハマッているし、リン・チーリンの凛としたヒロインぶりも良かった。出番は少ないが中村獅童も儲け役。岩代太郎の音楽も迫力があった.。だが、この展開で曹操を見逃すのは不自然に感じた。
ムービー・マンスリー2009年4月