新宿インシデント
派手でコミカルなアクションを廃したジャッキー・チェン映画は、「新ポリス・ストーリー」以来だろうか。本格的なノワールも初めてという気がする。スタイリッシュではなく、オーソドックスな演出で、昔の東映っぽいテイスト。テンポがよく最後まで飽きさせないが、裏社会に飲み込まれていく主人公の心情が十分に迫ってくるとまではいかなかった。少し泥くさくなっても良いから、主人公の心情を強く押し出したほうがよかったのではないだろうか。終盤でシュシュが捕まっていることに気付いていないのであれば、刑事に居場所を連絡するのはおかしい。気付いたのであれは、ヒロインを助け出して命を落とす展開のほうがカッコ良かったと思う。
おっぱいバレー
先生のおっぱい見たさに張り切る中学生たち。おバカなギャグを連発して、ヤンキーな先輩も登場、いかにも東映らしい青春コメディ。ヒロインと恩師のエピソードはけっこう感動的だし、主人公たちが男気を発揮する場面もあって、清々しい後味の作品に仕上がっている。「学園天国」は映画の雰囲気にあっていたが、音楽と電話ボックスくらいで、昭和らしさは案外薄い。いっそ現在を舞台にしても良かった気がする。
GOEMON
テーマは前作「CASSHERN」と同様、いかにして憎しみの連鎖を断ち切り、戦争を終わらせるか。実際の歴史を無視して展開することもあって、好みが別れるのではないかと思う。「五条霊戦記」みたいに裏切られた気分にはならなかった。ややぎこちない部分もあるが、全体的に前作よりもまとまっている。映像的にも凝っているのだが、CGや合成が浮いて見える場面もあった。意図的に人工的な絵作りをした可能性もあるが、少し違和感を覚えた。奥田瑛二扮する秀吉の 狂人ぶりとか、広末涼子扮する茶々の凛々しさとか、キャスティングもなかなか良い。
レイン・フォール雨の牙
凡庸な演出で気の抜けたB級アクション。ストーリーは突っ込みどころ満載で、スタイリッシュを気取った部分がハズしているのも痛い。ハリウッドから駆り出されたゲイリー・オールドマンは、指令室をチョコマカ歩き回って怒鳴る姿が無能に見えてしまい不発。日本の俳優陣も、実力のある顔ぶれと思うのだが、なぜかセリフ回しがぎこちなく感じられた。あれだけ大騒ぎしたメモリースティックを捨ててしまうのもイマイチ。途中では引退するとか言っていたが、ラストは続編狙いか。まず、ないと思う。
Bloodブラッド
杉本彩が「吸血温泉にようこそ」以来のヴァンパイアに扮したエロチック・ホラー、と思ったら格闘アクションだった。全体的に安い作りの中でアクション・シーンは、それなりに頑張っているが、目を見張るほどではない。ホラーとしてのショック描写はほとんどないし、エロチックな妖しさにも欠けているので杉本彩が単なるヌード要員に見えてしまう。登場人物たちの愛憎が十分に伝わってこないため、ラストもイマイチだった。
クローズZEROU
校内最強の地位についたにも関わらず、人望が足りなかったのか、全校をまとめることができない主人公のジレンマを描くシリーズ第二作。ハードなケンカの描写は健在でテンポ良く進む。男のケンカは素手だろ、と刃物を振り回す者の卑劣さも表現されている。前半では鳳仙の新キャラがインパクト強く描かれて、鈴蘭側は影が薄いが、後半で盛り返す。特に高岡蒼甫は儲け役をカッコ良く演じている(実際は山田孝之にぶちのめされるだけで、それほど役にたっていないんだけど)。山田孝之はどちらかというと「鴨川ホルモー」のようなキャラがハマッている気がするけど、小柄なのに群集シーンでも見劣りしない存在感を見せているのはさすが。
デュプリシティ/スパイはスパイに嘘をつく(ネタバレ)
「フィクサー」が期待ほどではなかった監督の新作。惹かれあいつつも信用しきれない産業スパイ・カップルを描く犯罪コメディ。退屈はしないけれど、全体的にインパクトが弱い。現在進行形のドラマにネタばらしの過去が挿入されるのだが、タイミングが微妙にズレているような気がした。ひねったつもりのラストも、専門家が数分調べて見抜ける内容であればチェックしなかった社長がただのバカに見えてしまう。アダム・サンドラーあたりを主演に徹底したおバカ・コメディとして作ったほうか、細部が気にならなかったかもしれない。
エンプレスー運命の戦いー
燕の国の女王と彼女に想いを寄せる二人の男の宿命を描いた戦国ロマン。ケリー・チャン、ドニー・イェン、レオン・ライの三人が、持ち味を生かしたキャラクターを演じている。ヒロインの揺れ動く気持ちぶりが良く出ているし、彼女に想いを寄せ続ける剣士や世捨て人として生きながらもヒロインに惹かれていく男の心情も伝わってきた。リウ・シントン監督によるアクション・シーンは迫力があるし、山小屋や気球が飛ぶシーンは詩情豊かな映像に仕上がっている。ずば抜けたスケール感はないが、なかなか楽しめた。
カンフーシェフ
序盤はサモ・ハンの大活躍で「燃えよデブゴン/料理人編」といった趣(おもむき)。渋い演技も見せて貫禄も感じさせる。香港コメディらしく、それぞれのエピソードはテンションが高くて楽しいが、全体的には繋がりの悪い部分も少なくない。それでも、この手の作品としてはまとまっているほうと思うし、気軽に楽しめる出来だと思う。日本から主演の加護亜依は、甲高い声の吹き替えもあって、騒がしいキャラクターになっていた。
サスペリア・テルザ
「サスペリア」「インフェルノ」に続く3部作完結編。といっても監督自身には、それほどこだわりがなかったみたいで、スプラッターとヌードが強調されて、かなり下世話な作りとなっていた。今や大物女優の仲間入りをしているアーシア・アルジェントも親の頼みは断れなかったのか、ドロドロで演技させられている。それにしても、このヒロイン、魔女の末裔(まつえい)なのに姿を隠すくらいしか力を発揮せずに、次々と味方を殺されて、ほとんど役に立たない。対する涙の母もステージ上で服をはがれてキャーとか、かなり情けない。まあ、腰砕けなクライマックスがアルジェントの作風って気もするけど。個人的には久々に見たイタリア製B級ホラーとして楽しんだが、他人には奨められない作品。
ウォーロード/男たちの誓い
太平天国の乱を鎮圧した三人の義兄弟の宿命を描く戦国アクション。ジェット・リー、金城武、アンディ・ラウの3大スター競演が魅力。大局を一義とするジェット・リー、目前の正義を重んじるアンディ・ラウ、兄弟の絆を重視する金城武。三者三様の生き様が力強く描き出される。けっこうスケール感のある映像だし、老害政治のいやらしさや戦争の虚しさなども折り込んで描かれ、見応えある作品に仕上がっている。
チェイサー
個人的には「殺人の追憶」は過大評価だったのではないかという気がしている。この作品もそうなるかもしれない。自分の売春婦が売り飛ばされているのではないかと行動を起こした主人公が、次第に殺人鬼の存在に気付いていく展開は面白い。拘留期限の12時間以内に証拠を見つけなくてはならないという設定も悪くない。しかし、主人公と警察が無能過ぎてタイムリミット・サスペンスの持ち味が活かせず、ハラハラするよりイライラさせられる場面が多かった。それで最悪の結末を迎えてしまうので、なんともやり切れない気分にさせられてしまう。同じ結末だとしても、主人公や警察がやるべきことを実行していれば納得できていたのだろうが。インパクトの強さを持った作品だけに惜しい気がする。
聖白百合騎士団
45分弱の小品。第二次世界大戦で日本が完全には負けなかったという微妙な設定のパラレル・ワールドが舞台だが、それが独特の世界観になっているというほどではない。出演者の演技がなんだか学芸会っぽいのは目をつぶるとしても、肝心なガン・アクションがヌル過ぎてどうしようもない。見せ場は対戦車ライフルで敵を吹っ飛ばすスプラッター描写のみだが、まともなら弾倉を交換している間に反撃されているはず。実戦で鍛えた最強軍団が廊下に突っ立って銃撃戦というのも興ざめ。この程度の連中なら対戦車ライフルなしでも殲滅(せんめつ)できると思う。
真一文字 拳
55分弱の小品。香港カンフー・コメディのオマージュになっていることもあって憎めないところはあるが、完成度は高くない。お笑いそのものがスベり気味なので、お笑いをカンフー技に取り込んでいくというクライマックスもそこそこで終わる。アクション場面は自主製作映画レベルとしては頑張っているほうだが、本家には比べようもない。
バンコック・デンジャラス
パン・ブラザーズによる「レイン」のセルフ・リメイク。引退を考えるようになった殺し屋が、自らに課していたルールを次々と破っていく姿を描くノワール。小品で決定的な部分はないが、昔の東映プログラム・ピクチャーを思い出させ、それなりに楽しめた。中にはクールな殺し屋らしからぬドタパタした殺しぶりもあって、タガが緩んだのか、と思えてしまうのは残念。
バーン・アフター・リーディング
コーエン兄弟監督作品は個人的に合わないのか、いつもそこそこ程度に感じてしまう。今回はキャスティングに惹かれたが、やっぱり満足感は持てなかった。居並ぶ個性派俳優陣も、役柄としては予告編で見た以上の面白みはなかった。ストーリーにも期待した程ひねりが効いていないし、ブラック・ユーモアもなんか中途半端。男が全員破滅して、女たちがしたたかに生き続ける展開を、もっと皮肉っぽく描いたほうが面白くなった気がする。
ブッシュ
オリバー・ストーン監督がブッシュ大統領の半生を描くというので、思いきりブラックなギャグが炸裂しているかと期待したのだが、中途半端にマトモな印象に終わった。ジョシュ・ブローリンの成り切りぶりは悪くないし、側近たちに層の厚い配役がなされており、それなりに見応えはある。タンディ・ニュートンふんするライス国務長官は、ブッシュのイエスマンとして描かれているので、現実の強面辣腕ぶりに比べるとインパクトがやや弱い。父親の背中を追い続けるブッシュの姿は「エデンの東」のキャルを想起させなくもないが、見事な勘違いぶりだし、一国のトップにふさわしいかは別問題ということは良く分かった。911の前後は描かれないので、マイケル・ムーア監督の「華氏911」にあった、ブッシュ大統領がビンラディンの一族をアメリカ国外に逃がしたというエピソードの真偽は謎のままだった。事実なのだろうか?
グラン・トリノ(ネタバレ)
クリント・イーストウッド最大のヒット作にして最後の主演作なのだとか。イーストウッドの苦虫つぶした頑固ジジイぶりが板についていて、演出もさすがに手際がいい。隣家に住む東洋人姉弟と交流を深めていく過程がユーモラスな描写を交えて描かれ引き込まれた。肌の色に関係なく、クズは見逃せないというイーストウッドらしい主張も伝わってくる。ラストは「ダーティーハリー4」のように戦う力をなくした戦士の最後の選択を見せるが、連中が本当に地域の人達が安心して暮らせるほどの重量刑になるのか、ちょっと不安を感じた。中途半端で出所してきたら仕返ししそうだし。立派な人物なんだけだ、結局何の役にもたたなかった若い神父という存在も印象的。
消されたヘッドライン(ネタバレ)
BBC製作によるテレビ・ドラマが元ネタということで、派手さはないがきっちりまとまったサスペンス映画に仕上がっている。オープニングの描写から、けっこう緊張感を持っていた。残念なことは権力者による圧力の描写が弱く、邦題がそぐわなく感じられてしまうところ。もう少しハードボイルド・タッチを強調した演出になっていれば、親友と対峙するクライマックスがもっとインパクト強いものとなった気もする。ベテラン記者に扮するラッセル・クロウとちょっと生意気な新人ぶりが魅力なレイチェル・マクアダムスの好演もあり、バディものとしても楽しめる。
ムービー・マンスリー2009年5月