インスタント沼
小ネタを詰め込んだ脱力系コメディが得意な三木聡監督の新作。今回は麻生久美子がハイテンションな演技を披露して、これまでよりパワフルな作品に仕上がっている。ジリ貧OLなのだけれども、本人はいたってノンキというのが楽しい。一度だけホントに落ち込んでも、蛇口をひねるだけで復活しちゃうし。カッパの話かと思っていたら、予想外なクライマックスに驚かされた。風間杜夫と松坂慶子のとぼけた両親ぶりも良かった。
チョコレートファイター
脳に障害を持って生まれてきた少女が、圧倒的な格闘センスと聴覚を持っていた、という設定もすごいが、描き出される生身のアクションはもっとすごい。危険なスタントの連続で、特に敵がベランダから次々と落下するクライマックスは、ものすごく痛そう。エンドロールでは撮影風景が映し出され、怪我人続出だったことが分かる。本当はもっと安全に留意した撮影を行うべきなのだろうが、それ故の迫力を生み出していることも確か。主演のジージャーは是非次回作を撮ってほしい。阿部寛のクールなヤクザぶりもカッコ良かった。
鈍獣
舞台劇を映像化した不条理コメディ。舞台版はWOWOWで放送したものを見たことがある。その時と同様、決して死なない男の存在が何を意味するのか分からなかった。エキセントリックな登場人物たちの、ちょっとオーバーな演技とギャグを単純に楽しむぶんには悪くない作品。全体的にアクの強いドラマであるにも関わらず、強く印象に残る場面がないのも残念。
チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ
ボリウッド製カンフー・コメディ。2時間35分の上映時間だが、インターミッションのテロップが出るし、場面の繋がりがらないところがある。おそらく海外上映用の編集版で、オリジナルはもっと長いのではないだろうか。もともと傘で宙を舞ったりするスチャラカ映画なので、あまり気にならない。伝説の勇者の生まれ変わりになったダメ男の物語をタテ糸に、美形双子姉妹と記憶喪失の父親の物語をヨコ糸に、歌と踊りを交えて描くマサラ・ムービー。ストーリー的には突っ込みどころ満載、その場のノリで見せてしまう作品。細かいことを気にしなければ大いに楽しめる。
ラスト・ブラッド
当時としては最高水準の技術を駆使していた「BLOOD THE LAST VAMPIRE」の実写版リメイク。オリジナルは分程度の中編だったので、話を大分ふくらませてある。過去のエピソードに老け役で登場した倉田保昭の健在ぶりが嬉しかった。チョン・ジヒョンはセーラー服コスプレを披露。ややきついが、「ピアノを弾く大統領」冒頭のチェ・ジウほどの無理はない。せっかくワイヤ・アクションで頑張っているのに、オニのCGはイマイチ。けっこうテンポ良くまとめてあるのだか、ラストがイマイチピンとこない。サキはどこに行ったのか、オニゲンとの戦いは本当にあったのか。もっとはっきり描いてほしかった。小雪扮するオニゲンの衣装CGには力が入っていた。一瞬顔が変わってオニの正体を現すカットとかがあれば、もっと迫力を増したのではないだろうか。
スタートレック
装いも新たにカーク船長の若き日を描くシリーズ最新作。「宇宙大作戦」は大好きだったけど、ロバート・ワイズ監督による映画版第一作がイマイチだったこともあり、その後は見たり見なかったりで、熱心なファンではない。今回はこれまでよりも冒険アクション色がこくなり、登場人物の年齢も若めで、華やかな娯楽作になっている。カーク船長が若い頃はかなり無鉄砲だったり、スポックがちょっとイヤミな上官だったり、キャラクターの味つけも楽しい。スポックがカークを船外に放り出すあたりから、ストーリーにご都合主義的な展開が目立つのは、少々残念。冷徹なバルカン人であるスポックが、母親のことになると人間以上に我を忘れてしまうのが今回のポイント。
おと・な・り
古いアパートの隣同志で生活音は丸聞こえだが、顔を知らない男女の生活を描いたドラマ。地味ながら、丁寧にエピソードを積み重ねていく良作。主人公二人も良かったが、周囲の人々もなかなか魅力的に描かれている。「音」というものを、もっと全面に押し出したエピソードがあっても良かった気はしたが、全体的にきちんと作られている。特に二人の縁が明らかになっていく終盤は面白かった。エンドクレジットの会話は、無くても良かった気がして微妙。
天使と悪魔
「ダヴィンチ・コード」に続くシリーズ第二作。反物質強奪に四人の次期教皇候補誘拐とヴァチカンが危機に陥り、「24」みたいな怒涛の展開。1時間ごとのタイムリミットサスペンスが仕掛けられ、とにかく飽きさせない。残念なことは原作がかなり長いのか、駆け足でストーリーを追っていく印象になり、ドラマに奥行きが欠けてしまったこと。真犯人は途中で見当ついてしまうが、見せ場が豊富なので、水準を超えた娯楽作に仕上がっている。
幸せのセラピー
人生に迷ったメタボ男が、自分探しの旅に出るまでを描いたコメディ。テンポの良い演出で退屈しないのだが、主人公が自分のしたいこてを見極めるまでいかないので、やや中途半端な印象を残す。せっかく夫婦仲を回復しようと努力し始めた奥さんもちょっと気の毒。ローガン・ラーマンのC調高校生ぶりは楽しいが、何であんなに金まわりが良いのかが謎。ジェシカ・アルバは軽妙な演技を披露するが、見せ場がなくて残念。
重力ピエロ
家族の絆はDNA配列で決まるわけではない、というテーマをミステリー・タッチに描いていく異色のドラマ。展開には強引に感じられる部分もあるが、ストーリーの重いところと軽いところのバランスがうまく取られていて、なかなか面白い作品に仕上がっている。容疑者が出てこないこともあって、事件の真相はある程度見当が付くが、人間関係の描写に緊張感があって、最後まで引き付けられた。かなりダークな要素を持っているのに、見終わった印象は意外にも爽やかたった。
ザ・スピリット
フランク・ミラー監督が独自の映像で描くヒーロー・アクション。ストーリーはけっこうおバカで、冒頭では文字通り事件現場へと駆け出していく。途中でパトカーに乗ったりせず、最後まで走ったら笑えたかも。続くオクトパスとの殴り合いも激しいわりに脱力系。「ウォッチメン」ほどひねってはいないし、ストレートなヒーロー物にもなっていない。主人公は見境のない女たらしという設定だし。女優陣に魅力があるので、それなりに楽しめはしたが、満足のいく作品ではなかった。
路上のソリスト
事実に基づいた地味ながら良作。豊かな才能を持ちながらパニック症候群でジュリアード音学院を退学して路上生活者になった男と、彼と出会ってなんとか助けたいと尽力する記者。ジェイミー・フォックスとはロバート・タウニーJr.は、それぞれのキャラクターを好演している。少々淡々としすぎた印象もあるが、ミュージシャンの必要としていたものが上から目線の援助ではなく、対等な友情だったことが分かるクライマックスは良かった。
バッド・バイオロジー狂った性器ども
フランク・ヘネンロッター監督作品は初めて見た。ホラー映画かと思ったら、エログロを強調したポルノ・コマディだった。ショック・シーンはほとんどない。中盤まではややテンポが悪く、笑いどころも少なめだが、意識を持つ巨大ペニスの男が現れるあたりから、おバカ度が加速、けっこう笑えた。洗練された作風とはお世辞にも言えないが、H,G,ルイス監督の復帰作「ブラッド・フィースト血の祝祭日2」に比べればスマートな出来栄えと言えなくもない。
斜陽
原作は読んだことがない。舞台を現代に移してあるが、時代色はあまり出ていない。主人公母娘が浮世ばなれしているのは分かるが、三文文士の妻が着物姿だったのは多少違和感があった。断片的にエピソードを積み重ねていく手法でドラマが展開するのは良いが、全体で何を表現したかったのかが、うまく伝わってこない。デカダンな雰囲気も出てないし。温水洋一の文士ぶりもイマイチ似合ってなかった。
アイ・カム・ウイズ・レイン
サスペンス・タッチで描かれるが、木村拓哉扮する青年は、癒しの超能力を持ち、はりつけにされ復活(というか死なない)する。多分に宗教的意味合いの強い作品なのだが、個人的に宗教性にうといせいか、作者のメッセージが良く分からなかった。登場人物は衝動的な行動に走る者が多く、殺伐としたムードに満ちている。青年と殺人鬼は救う者と殺す者という、一対の光と陰を成しているようなのだが、イマイチ分かりづらい。木村拓哉は、ハリウッド映画で虫にまみれても二枚目だし、なかなか好演しているんだけど。
守護天使
憧れの女子高生を異常者たちの手から守ろうとするメタボ中年の活躍を描くコメディ。序盤の展開には、やや強引なところがあり、どうかなと思ったが、話が進むにつれ引き込まれて気にならなくなった。前作「キサラギ」ほど捻りの効いたストーリーではないが、けっこう楽しめた。妙にC調なチンピラ役の佐々木蔵之介が好演。鬼嫁役の寺島しのぶも歯切れの良い演技が光っていた。奥さんを連れていけば、異常者なんか一瞬で撃破できた気がする。
ターミネーター4
シリーズ第4作で、ついに審判の日以降が舞台。巨大ロボやモトターミネーターなどの新種も登場して見せ場には事欠かないが、ストーリーは粗削り。今回最大の仕掛けは予告編でネタバレしてるし。シリーズ全体の都合上、カイル・リースとジョン・コナーを殺せないという不文律があるのがつらい。機械による抹殺ターゲット・ナンバーワンのカイルは、なぜか殺されないし、マーカスは人間だというテーマで進めておきながら、あの結末では、なんだか非人道的に感じてしまった。ジョン・コナーは自分こそは救世主だ確信したらしく、自分とリースの命を最優先しているように見えている。このへんで打ち止めにしたほうが良いような気がするけど、次が作られたらやっぱり見に行ってしまうんだろうなあ。
愛を読むひと
自らの秘密を守るためには戦争犯罪すらも背負っていく女。彼女を忘れられず他の女性を愛せない人生を送る男。それぞれをケイト・ウインスレットとレイフ・ファインズが好演。青年時代を演じたデヴィッド・クロスも良かった。せっかく読み書きを覚えたヒロインが死を選ぶのは、かって坊やと呼んだ男の前で老醜をさらして生きたくなかったからだろうか。人間の業を感じさせるドラマで、ヒロインに罪をなすりつけることに成功した女たちが、してやったりと笑う姿も怖かった。切ないストーリー展開だが、きっちり描きすぎたためか、かえって胸をしめつけるような感覚に欠け、淡々とした印象になってしまったのが少し残念。
ウルトラ・ミラクル・ラブ・ストーリー
農薬を浴びて心臓が止まっても生き続ける青年と、恋人が浮気したうえ交通事故で首がなくなり、なぜか青森にやってきた女。展開はシュールなんだけど、演出はオーソドックス。いっそ前衛映画になってたら、納得できたかもしれない。個人的には「鈍獣」以上に意味不明な作品だった。いったい何が描きたかったのか、まったく分からない。キャスティングが良いだけに残念だった。
ムービー・マンスリー2009年6月