20世紀少年/ぼくらの旗
3部作いよいよ完結。詰め込みすぎとも思えるハイテンポな第2部に比べると、やや間延びした印象もあるが、スケール感のある映像と豪華な顔ぶれで楽しませてくれる。序盤で開発されたワクチンがあまり重要でなかったり、細菌の潜伏期間は12時間のはずが、すぐさま血を吐いて倒れていったり、突っ込みどころもあるが、映画版オリジナルだというともだちの正体はなかなか良く考えられていた。ケンジの歌は、なんだか「スーダラ節」みたいな脱力系なのだが、クライマックスでは感動的に聞こえたりする。手放しに傑作と言えないのが残念だが、見応えのある娯楽作に仕上がっていた。
96時間
パリで人身売買組織にさらわれた娘を救出するため、元諜報部員の父親が大暴れ。ストーリー展開はストレートで痛快。娘を捜しながら組織を壊滅させていくリーアム・ニーソンの最強オヤジぶりも圧巻。迫力あるアクション・シーンで、スティーブン・セガールも見習ってほしいくらい。96時間というタイムリミットはそれほど明確なものではないが、娘は果たして無事なのかというサスペンス要素を含めて、見所の多い作品に仕上がっている。
HACHI 約束の犬
ハリウッド版「ハチ公物語」は、さすがラッセ・ハルストレム監督の手による作品だけあって、実にしっかりした出来栄え。日本版では娘が面倒をみなくなったため仕方なく主人公が世話を始めたり、ハチ公が餌をあさるため駅周辺の繁華街をうろついているかのように描かれていたり、皮肉っぽい語り口だったが、アメリカ版は正攻法の動物映画になっている。リチャード・ギアを始めとする演技陣も良いのだが、犬の名優ぶりが圧倒的。終盤の老いた姿は本当に涙を誘う。一度主(あるじ)を決めたならば生涯慕い続けるハチの姿は、まるで直江兼続のような孤高さを感じさせる。ハチが主人の死を悟っているかのような態度を取ったり、死んで主人と再会したりする描写は作品に深みを与え格調高ささえ感じさせる。
サブウエイ123激突
同原作3度目の映像化。一回目の「サブウェイ・パニック」が、いかに優れていたかを再認識させられた。オープニングの目まぐるしい編集には「ドミノ」の二の舞か、と不安になったが、本筋に入ってからは、わりと普通の演出で安心した。ジョン・トラボルタはキレた犯人を熱演したが、ロバート・ショーの貫禄ある犯罪者ぶりには及ばない。デンゼル・ワシントンもウォルター・マッソーの軽妙さには敵わなかった。主人公の収賄事件とか、犯人が金相場で大儲けを企んでいたとか、ドラマに奥行きを持たせようとした新設定は、あまり効果を上げていない。だいたい地下鉄が一両ハイジャックされたくらいで株が大暴落するだろうか。終盤の展開も「サブウェイ・パニック」のほうが鮮やか。ちなみに二回目の映像化にあたるテレフューチャー版は、バディ物に変更してあったが、オチも含めて一作目とほぼ同様な内容で出来栄えも可も不可もなしだった。
マーターズ
フランス製の残虐ホラー。「屋敷女」といい、最近のフランス製ホラーは、けっこうえげつない。主人公の一人は、幼少時の拷問で正気を失ってあり、前半はどこまで現実でどこまで幻覚か分からないのがポイント。描写には緊張感があり、展開も意表をつくものだが、終盤のリンチはやや長ったらしく感じられた。結局は老害の恐ろしさを描いた作品だったが、たとえ光に満ちた死後の世界があったとしても、あんな連中は地獄に堕ちるしかないと思えた。
BALLAD 名もなき恋の歌
アニメではエキセントリックなしんちゃん一家だけど、実写版ではわりと普通の家族、名前もしんのすけから真一に変わっている。というわけでハジけた面白さはなくなったが、作品自体は好感の持てる出来栄え。草なぎ剛は、戦に強くて恋に弱い武将を好演しているし、新垣の現代的な姫君も悪くない。クライマックスの特攻からしんちゃん一家の加勢で本陣に到達するまでの描写に迫力が欠けてしまったのが残念。ファミリー映画なので敵を車で薙ぎ倒すわけにいかなかったのかもしれないが、ノロノロ進入してスピード感なさすぎた。珍しく悪役を演じている大沢たかおは良いのだが、ものすごくプライドが高い武将として描かれているので、髷(まげ)を落とされ生き恥をかかされて、借りを作ったと考えるのは違和感があった。感動的な部分もあるのだが、詰めの甘さも感じさせる作品だった。
ノーボーイズ、ノークライ
日韓合作作品。クライム・サスペンスとしては緻密さに欠け間延びした印象だが、家族の絆ならぬしがらみを描いたドラマとして見れば、それなりに面白かった。妻夫木聡は冷めた犯罪者を演じているが、やっぱり見せ場は泣くシーンだったりする。徳永えりは、これまでと違う役柄に挑戦して成果を収めていた。貫地谷しほりはゲスト出演という程度。ハ・ジョンウは、どうして母親に捨てられたのか悩み続ける青年役だが、なんかモサっとした印象だった。
ホッタラケの島
基本的にはストーリー性のある「不思議の国のアリス」といったところだが、人の思い出や家族の絆の要素を加え、けっこう楽しめるファミリー向けアニメに仕上がっている。ホッタラケの地上世界のカラフルな映像も魅力。ホッタラケの住民は物を作り出すことができないという設定だが、魔法で思いきり変形させたり大きさを変えたりしているので、作っているのと同じ気がした。キャラクター・デザインが海外のCGアニメに比べて優しさや温かさを感じさせるものになっているのも魅力のひとつだが、父親まで目にマスカラを塗ったような顔つきなのはイマイチだった。
グッド・バッド・ウイアード
マカロニ・ウエスタン・タッチで描く韓国製ハード・アクション。完全に男性向きの内容なのだが、客席の大半はおばさんで埋まっていた。恐るべし韓流映画。ストーリーは宝の地図の奪い合いということで単純明快。もう少しひねりがあっても良かったくらい。登場人物がかなり多く、やや未整理な部分もあったが、韓国映画らしい濃いキャラクターが生きていた。個人的には「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」のほうが好みだが、それなりに見ごたえのある作品ではあると思う。クライマックスに「悲しき願い」のイントロみたいなメロディが使われているのが御愛嬌。
幸せはシャンソニア劇場から
カーテン引き、勘違い芸人、自称労働運動活動家、素人集団が劇場再建を計るが失敗。ショービズに通じた音楽家が加わって大成功という、ものすごく分かりやすい作品。ジェラールジュニョは持ち前のキャラクターを活かしているが、「コーラス」や「バティニョールおじさん」の奥行きは感じられなかった。新人歌手役のノラ・アルネゼデールは良かったが、相手役のクロヴィス・コルニアックにロマンチックな雰囲気が欠けるので、メロドラマとして盛り上がらないのも残念。全体的には普通に楽しめるという程度の作品に留まった。
扉をたたく人
惰性(だせい)で生きていた初老の教授が、911以降の社会の歪みを目の当たりにして、個人の無力を痛感、怒れるバーカッショニストになるまでを、落ち着いたタッチで描いた佳作。ベトナム戦争時代にはニューシネマが生まれたが、この作品や「再会の街」は、911以降のニューシネマといえるかもしれない。温厚なミュージシャンがアラブ系だったために不当な扱いを受け、結果として不法滞在がばれてしまい、救済手段も示されない。それが閉塞感にみちた社会の現状を現し、前半の主人公たちの触れ合いと対極をなして描かれている。事件の対応が弁護士まかせで、主人公自身あまり活動していないように見えてしまうのは残念。。「扉をたたく人」の邦題は、内容とそぐわずピンとこなかった。心の扉とか、こじつけているのだろうか。
ウルヴァリン:X-MEN ZERO
「X−MEN」以前のウルヴァリン誕生を描くアクション大作。冒頭では父親を殺してしまったり、ダーク・ヒーロー・タイプだが、作品そのもののタッチは明るめ。ヒュー・ジャックマンは当たり役を気持ち良さそうに演じているし、CGを多用したド派手なアクション・シーンにはスケール感がある。ストーリーはやや大味で、能力を奪う目的であれば、改造手術は余計な気がしたし、陰謀そのものも、もってまわったような印象。もっと歯切れの良い展開にしてほしかった。兄弟の決着をつけなかったのもイマイチ。あからさまな続編狙いなのだろうか。
湾岸ミッドナイト
それほど期待しないで見たら意外と面白かった。乗る人間を事故で死なせながら自身は公道に復帰する、都市伝説と化した「悪魔のZ」と、それに魅せられた高校生を中心に描く。登場人物は、走っているとけ本当の自分を感じられるエキセントリックなキャラクターがメイン。全体的に軽いタッチでテンポ良く描かれている。ショック・シーンは一切ないが、ストーリーはラストも含めて、どこか怪談じみた味付けになっているのが楽しかった。授業に出るつもりなない主人公が、なぜ留年したかは良く分からなかった。
TAJOMARU
「薮の中」原案となっているが、お家乗っ取りを中心に主人公の愛と闘いを描いた、ほとんどオリジナルのアクション時代劇となっている。小栗旬と柴本幸は、まだ貫禄不足ではあるが、頑張って演じており好感が持てた。田中圭はぽっちゃり色白でお稚児さんムードを良く出してはいたが、悪役としては迫力不足で残念ながらミスキャスト。萩原健一は、逆に迫力満点で存在感だけで見せてしまう。そして、一番の儲け役はやべきょうすけだった。全体的に奥行きが欠けている気もしたが、けっこう楽しめた作品。
ドゥームズ・デイ
「ディセント」に続いて食人エピソードが登場。監督の好みか。血まみれシーン満載の近未来アクションの快作。それなりに予算をかけているようなのだが、B級テイストに満ちているのが嬉しい。一応48時間というタイムリミットが設定されているが、細かいことは気にしないストーリー展開。マッドマックス風だったり中世風だったり、サービス精神も豊富。ローナ・ミトラのタフなヒロインぶりが恰好良いし、ボブ・ホスキンスも味がある。スージー&ザ・バンシーズのナンバーが場面の雰囲気にマッチしていて良かった。
ココ・アヴァン・シャネル
アメリカのテレビ版「ココ・シャネル」がなかなか良かったので、本場フランス版にも期待したのだが、残念な出来栄えだった。デザイナーとしての地位を固めていくシャネルの姿はオマケ程度で、ドラマの大半は二人の男との愛憎が描かれている。しかも、伯爵に囲われている時期が長いので、ドラマが閉塞的な雰囲気になっている。せめて終盤描かれるボーイ・カペルとの恋をメインにしたほうが、ロマンチックになったと思う。デザイナーとして華やかな活躍をする描写がないので、ラストシーンもシャネルの孤独で寂しい面ばかり強調されてしまった。オドレイ・トトウは悪くはないのだが、シャーリー・マクレーンの貫禄には及ばず。
男と女の不都合な真実
このところコメディエンヌぶりが冴えているキャサリン・ハイグルの新作。真面目な強面キャリアウーマンだけど喜ぶと踊り出しちゃうキュートなヒロインを好演。下ネタ連発でも下品になりすぎないのはさすが。パートナーのジェラルド・バトラーも歯切れの良い演技を見せている。ストーリー自体はオーソドックス、結末も予定調和的で意外性には欠けるが、その分安心して見ていられる。
カムイ外伝
原作は白土三平の代表作の一つだが、少年サンデー掲載分しか読んでいないので、今回のエピソードは知らなかった。松山ケンイチ以下、達者な役者を揃えたか、佐藤浩一、土屋アンナの悪役コンビは見せ場に欠けてもったいなかった。ストーリー自体は悪くないのだが、演出がやや平板でメリハリに欠けるのが残念。現代に通じる格差社会のありようが、もう少し描ければ奥行きのある作品になったと思うのだが。最後の闘いの前にボスキャラがすたこら逃げ出してしまうのは、負けを見越しているみたいでイマイチ。とはいえ、「REDSHADOW赤影」の緊張感のない抜け忍の扱いに比べれば、厳しさが伝わってくる出来栄えではある。
地下鉄のザジ
題名は昔から知っていたが、今回初めて見た。子役を中心にした、ほのぼのコメディかと思ったら、かなりハジけたスブラスティック・コメディだったので、ちょっと驚いた。いかにも年代らしいポップな感覚で、ルイ・マル監督がコメディにこだわり続けたら、イギリスのリチャード・レスター監督と双璧をなしたかも。地下鉄は都会にしかないので、乗りたがる子供もいるだろうなあと何となくと納得もした。ザジは大人たちを振り回して大暴れするお転婆だけど、地下鉄のストが終わるころにはパワーを使い果たして寝込んでたりするところが可愛い。若いフィリップ・ノワレは自称芸術家の女装ダンサーというエキセントリックな役柄。カルラ・マルリエ演じる奥さんはなかなか美人だが、時折蝋人形みたいに無機質な映り方をして少し怖い。次々にキャラが変わるヴィットリオ・カプリオーリのシュールな存在感も面白かった。
しんぼる
白い部屋に閉じ込められた男と、メキシコの覆面レスラーと家族の物語が交互に描かれ、どちらのエピソードも演出はすごく丁寧で上手いと思った。プロレスの場面もきっちり撮れている。何を表現したかったのかも、ちゃんと伝わってくる。にも関わらず見ていて、それほど面白いとは感じなかった。前作と同様にギャグ自体が少ないし、丁寧さが災いして先読みできてしまうネタもある。寿司のギャグなんかは時間をかけて描かれるが、オチが最初に読めてしまって不発。シュールなコメディ路線より、オーソドックスな人情コメディとかに挑戦してみたら、演出力が活きて案外良い結果が出るのではないかとも感じたが、作家性もあるので難しいのだろうか。
ムービー・マンスリー2009年9月