REC2
スペイン製ホラーの続編。今回も前作と同様カメラの映像として描かれるのだが、ストーリーの展開につれて3台のカメラが入れ代わっていくのが新アイデア。事件は悪魔の仕業という設定で、シリアス版デモンズみたいな印象もある。いくら極秘のミッションだとしても少人数すぎる気がしたし、アパート内の状況を把握せずにいきなり最上階に昇ってしまうのはあまりに無用心と思えた。確認しなけれは帰還できない、とか言ってサンプルを駄目にするのもオマヌケ。それでも1作目のラストからきっちり繋げてあったり、頑張っている部分もあるし、全体的に前作ほどの緊張感はないが、けっこう楽しめた作品。
わたし出すわ
突然帰郷して高校時代の仲間たちに無償で出資し始めるヒロイン。その友人たちの人生模様がドラマの中核として描かれていく。再出発のチャンスをつかむ者もいれば、破滅する者もいる。見ていて面白かったけど、結局何がテーマなのか良く分からなかった。小池栄子演じる全く金に執着しないキャラクターが一番魅力的に感じた。箱庭会長の権利金もきっと自分で出したんだろうし。
サイドウェイズ
ハリウッド映画の日本版リメイク。出演者の個性を生かして、なかなか上手く脚本がリライトされている。やや感傷的な傾向が強くなったので、好みが別れるかもしれないが、個人的には日本映画らしきが出て良かったと思う。20年前の青春時代をドラマにからめたことも作品に奥行きを与えている。ロードムービーらしさはあまりなくなったが、まとまりという点ではオリジナルを超えていると感じた。小日向文世の生真面目そうなキャラクターが生きていたし、生瀬勝久のC調ぶりもハマッていた。妙な日本語を操る菊地凛子も、これまでて一番魅力的なキャラクターになっている。
死霊の遺言
一家無理心中事件のあった家に越してきた男が悪霊に取り付かれ狂気に堕ちていく。「シャイニング」の設定を死ぬほどショボくれさせたような作品。演出、演技、脚本、すべてが素人レベル。間延びした展開とギクシャクした会話が追い打ちをかけている。スプラッター・シーンもあるのだが、予算が足りなかったためか、ギミックの腕や首の切り口が妙にスカスカしていた。
地底の呻き
「死霊の遺言」に続いて、こちらも孤立した場所で狂気にむしばまれていく男を描いたホラー。主な登場人物は二人だけで、全体的に地味でやや平板な印象は免れないが、演出も演技もきっちりしており、一応の水準はクリアした出来栄え。はたして全ては妄想だったのか、それとも罠だったのか。ラストではっきりさせない構成も成功している。ヒロインのケイト・ノタは看護婦コスプレと裸にエプロン姿を披露するサービスぶりもポイント。
ファイナル・デス・ゲーム
スペインを舞台に死を呼ぶボードゲームの恐怖を描く。まるっきりダメというわけではないのだが、「ファイナル・ディスティネーション」「ウィッシュマスター」「ジュマンジ」を足して4で割ってしまったような薄さが残念な作品。特に犠牲者の死に方に工夫が足りないし、オチも脱力系で盛り上がらない。エリザ・ドゥシュク主演のホラーとしては「クライモリ」に及ばず。
頭脳警察ドキュメンタリー
頭脳警察というかPANTAの今に迫る3部作で5時間を超える力作ドキュメンタリー。ナベプロ時代からの過去は軽く流して、ここ数年間におけるPANTAの今を描き出し、「変わらないということと、止まってるということは違うんだ」というテーマを突き付けてくる。頭脳警察が初期においてあまりにも政治色の強いイメージがついてしまい、とまどっていた。という話が出てくるが、今でも時代と正面から向き合い、プロパガンダ性の強い作品を送り出さずにはいられないPANTAの熱さには頭が下がる。「マラッカ」における海のイメージが、氷川丸に乗船した母親の思い出話から生まれていたというエピソードが面白い。PANTAの氷川丸に対する思い入れとかも含め、熱く活動を続けるパワーが伝わってくる作品だった。
PUSH
超能力者たちの闘いを描くSFアクション。香港が舞台となっているせいか、ストーリー展開は香港B級アクションみたいで、突っ込みどころが多い。徒歩で逃げたはずのヒロインがいつの間にか香港に到着しているし、600万ドル儲ける話も途中で消えてしまう。細かいことは気にせずに楽しむ娯楽作というところなのだが、ややテンポにムラがあり、たたみこむような高揚感に欠けてしまったのが惜しい。いっそ香港出身の監督を起用すれば、はじけた感覚のアクション快作になったかもしれない。
スペル
サム・ライミ監督の新作。ほとんど逆恨みみたいな呪いを、かなりオーバーな表現で描き、コミカルな印象を受ける場面もあった。序盤の地下駐車場における老婆とは思えない暴れぶりからして笑える。オチは意外というほどの展開ではないが、全体的に軽く楽しめる出来栄え。ある意味「スパイダーマン」で大監督になったサム・ライミが原点復帰した作品。
ソウ6
本国ではハロウイーン恒例イベントとなっているらしいシリーズも、ついに6作目。いまだにジグソウの遺品だとか後継者だとかやっているのが苦しいが、5作目よりは面白かった。とはいえクライマックスにおけるどんでん返しは少々小振りだし、展開が強引に感じられる部分もある。やや手詰まり感のあるシリーズだが、次回は口裂け男の逆襲になるのだろうか。
ゼロの焦点
松本清張原作を犬童一心監督で映像化。犯人が誰かは途中で見当がついてしまうし、ミステリーとしては、やや弱い。社長の自殺行為は無意味に思えたし、社長のスキャンダルをその会社の電話を借りて連絡している場面も無神経に見えた。むしろ戦後の混乱期から高度成長期にいたる時代の変遷において生じた悲劇を描く人間ドラマとして面白かった。夫の失踪事件を追う広末涼子のヒロインぶりも良かったし、木村多江も薄幸の女性役に本領を発揮している。
なくもんか
宮藤官九郎脚本の下町人情コメディー。阿部サダオは相変わらずハイテンションな演技を披露しているが、クライマックスの仮面を脱ぎすてて本音を吐露したかと思わせてギャグで落とす微妙な演技はあまり成功していない。むしろ竹内結子の演技力が光っていた。ギャグはベタですべっているものも多いが、全体的にはそれなりに楽しめる作品。義父のオカマ姿を見て、かえって心を開き始める少女という設定が風変わりで面白い。善人の仮面を被って生き続ける主人公、という哀れさが十分伝わってこないのが残念。
イングロリアス・バスターズ
史実にこだわらない破天荒な戦争アクション。イタリア製B級アクションのリメイクということもあって、マカロニ・ウエスタンを中心に集められた音楽が見事にマッチしている。けっこう予算をかけてそうだが、B級テイストにこだわった演出ぶりが、さすがはタランティーノ監督と納得させる。酒場に場面はユーモアと緊張感が交差して圧倒的な見せ場になってた。ラストはせっかくナチスを壊滅させたのに、一番の仇役であるハンス・ランダ大佐の始末が中途半端で、スッキリ度が少し足りないように感じた。全ての決着を映画館内でつけて、大佐も蜂の巣にしてくれたほうが良かった。ブラッド・ピットはあくの強い演技でインパクト十分だけど、意外に活躍しない。ヒロイン役のメラニー・ロランも魅力たっぷりだった。
ブラック会社に勤めているが、もう俺は限界かもしれない
すごくダークな作品かと思ったら、意外とさわやかな後味の青春ドラマだった。小池撤平、田辺誠一をはじめ配役がなかなかハマッている。ブログという現代的なものを扱いながらも、全体的にはオーソドックスな手法で手際良くまとめられていた。つい頑張ってしまう日本の労働者につけこみ、搾取し続ける経営者という悪循環にもラストで軽く触れている。格差社会における労働という問題への切り込みは浅いが、娯楽作品としては十分良く出来ていると思う。
曲がれスプーン
世に隠れて生きる超能力者たちが集う喫茶店に、超能力者を捜すTVアシスタント・ディレクターがやってきて、というコメディー。ストーリーがきちんとまとめられており、小品ながらほのぼのとした好感の持てる作品に仕上がっている。長澤まさみ以外の主要キャストは地味めだが、なかなか役柄にマッチした配役がされていた。空飛ぶサンタクロースというアイデアが、唐突でイマイチしっくりこないのは残念。
黄金花 秘すれば花、死すれば蝶
最高齢長編映画監督デビューのギネス記録を持つ木村威夫監督の長編第二作。91歳にして、このような意欲作をものにしてしまうことにまず脱帽。原田芳雄は、さすがに80歳には見えないが、自称植物学者の老人を好演していた。戦中・戦後の日本で青春時代を過ごした老人たちが虚実交えて人生を語る姿が、生き生きと描き出されている。日本的な死生感や自然感を含め、多彩な要素を詰め込んで、やや未整理な部分もあるが、見応えのある作品に仕上がっている。予算の都合か主人公の回想シーンは前衛劇の舞台セットみたいになっていて、主人公の一生を振り返るには少々淋しい気がしたが、よく考えてみれば人生の最期に見る幻想なんて紙芝居みたいなものかもしれないと思えてきた。
ムービー・マンスリー2009年11月