スノープリンス 禁じられた恋のメロディ
舞台を戦前の片田舎に設定した日本版フランダースの犬。丁寧な演出には好感が持てるが、ややメリハリに欠け、感動作というまでには至っていない。子供と動物という最強の取り合わせで、脇を固める俳優陣も好演しているとは思うけど。スリ以外の登場人物は、基本的に善人という設定は見ていて気持ちいいが、そのため主人公があまり追い詰められて見えず、家にも帰らずにさまよって凍死する展開が説得力に欠けてしまったの。戦前の田舎町では華麗な宗教画のある教会はさすがに不自然すぎたのか、音楽室のピアノという設定なのも苦しい。また、いくら理解ある母親といっても、あの時代で小さな娘を夜に外出させるのは無理がある。旅廻りのサーカスにいたピエロが、幼なじみの少女も知らなかったエピソードを文章に書いているのもおかしい。スノープリンスのメインタイトルも意味不明だが、禁じられた恋のメロディというあざといサブタイトルは特に減点対象だと思う。
よなよなペンギン
りんたろう監督によるファンタジー・アニメ。退屈はしなかったが、子供向きを意識しすぎたのか、ストーリーにひねりがなく、少々平板に感じられた。七福神の乗った宝舟が宇宙戦艦ヤマトばりのものものしさで登場。何もしないので、せめて火球くらい防げよと思った次の瞬間に魔王を瞬殺していたりと展開に強引さが感じられ、全体的に盛り上がりに欠ける。エンドロールのテーマソングくらい弾んだ描写が本編中にあれば楽しくなったのだろうが。声の出演者は、ベテラン声優から子役まで、それぞれが頑張っていて、なかなか良かった。
ウルルの森の物語
動物と子供。最強の取り合わせなのだが、エゾオオカミをめぐる学術的でシリアスな部分と、オオカミの国をめぐるファンタジックな部分が噛み合わず、まとまりのない作品になってしまった。いっそ「REX恐竜物語」くらいおバカファンタジーに徹していれば、あきらめもつくのだが。船越英一郎をはじめとする出演者は、少々演技オーバーだが、台詞が聞き取りやすいという利点はあった。中では出番の少ない桜井幸子が好演と思う。主人公が遭難したという連絡を受けて、妹一人で駆けつけるのが、不自然に見えた。その妹を辺鄙(へんぴ)な森に置き去りにするのもおかしいし、次の場面ではもう帰宅してたりする。パラグライダーで移動したという設定なのだろうが説得力に欠ける。全体的に脚本が練り足りない気がした。
彼岸島
原作は読んでいないのだが、映画はかなり長いストーリーを無理やり詰め込んだ印象になっている。序盤で主人公たちが、いとも気軽に装備もろくにせず吸血鬼の島へと乗り込んでいく展開からして不自然。普通の高校生だったはずの主人公が、あっという間にものすごい戦闘能力を身につけて、「すごい身体能力だ」とか台詞一つですませているのも、ムシが良すぎる。テンポはあるので見ていて飽きなかったが、完成度はイマイチ。師匠の正体に全く触れてないのは続編狙いか。
キャピタリズム マネーは踊る
マイケル・ムーアの新作は、アメリカ資本主義への絶望感を独自の手法で描き出していく。拝金主義に目がくらみ、自分がハゲタカ呼ばわりされていることを自慢げに話す男とか、相変わらずインパクトが強い内容になっている。アメリカの資本主義を真似してきた日本も、同様な惨状をていしており、まさしく身につまされた。職場や住居を取り戻すために立ち上がる人々の姿は、他人事とは思えない。ドキュメンタリーではあるが、監督のメッセージを表現するため、多様な映像をコラージュしたり、かなり作為的に編集してあるので、評価は分かれるかもしれない。
ソフィーの復讐
チャン・ツイイーのラブコメ初挑戦作。大まかな設定は「ウェディング・シンガー」と似ている印象で、始めからラストが予想できてしまうのだが、映像がカラフルだし、ストーリーも適度にひねってあって飽きさせない。チャン・ツイイーのキュートな妄想ヒロインぶりが楽しいし、ファン・ビンビンの美人女優ぶりも良かった。次々に披露される衣装も画面に華やかさを増している。他愛はないが、サービス精神旺盛な娯楽作品に仕上がっていた。
今度は愛妻家
原作について全く知らなかったので、驚きのストーリー展開が新鮮だった。前半は女房に愛想を尽かされかけているダメ亭主をメインにした人情コメディー。軽く楽しめる作品だと思って見ていたら、後半は意外な事実が明かされていく。五人のメインキャストが、それぞれ良い味を出している。中でも石橋蓮司が幅のある演技を披露して見事だった。登場人物は確かにみんなダメダメなんだけど、それでも魅力を感じさせるキャラクターに描かれている。人生の光と影を感じさせる佳作に仕上がっていた。
BANDAGE
音楽の世界に飛び込んでいく少女を中心に描く青春ドラマ。作品自体なかなか面白いのだが、ヒロインの存在がバンドの人間関係を崩してしまったようには見えない。むしろ「元気」の次は「勇気」だ、とかコミック・バンド並のプロモーションしかできないプロダクションがバンドをダメにしているように見えた。そのため登場人物たちの人間関係における緊張感が、ややゆるく感じられてしまったのが残念。出演者はセンスのない業界人を演じた近藤芳正を含めて、なかなか良かった。特に杏が出番は少ないが、一番ストレートな生き方をしている儲け役で得している。ただし、ハッッピーズというバンド名はやっぱりセンスがイマイチだと思う。
かいじゅうたちのいるところ
ベストセラー絵本の映画化ということだが、期待したほどの面白さは感じなかった。主人公の多感でキレやすい少年が怪獣たちの住む島で王様のフリをする。怪獣たちの造形はなかなか良い。原作のイメージを守っているらしく、いかにも作り物っぽいデザインなのに、生き生きして見える。寓話的ストーリーなんだけど、自分の思い通りいかないとキレちゃう怪獣を目の当たりにして、少年が反省する、ってなんかストレートすぎて物足りない。仲間の腕(羽)を引きちぎっちゃう描写は、やり過ぎだと思った。
板尾創磁の脱獄王
板尾創路監督作品ということで、つきあったのか、脇を個性的なキャスティングで固めている。次々と脱獄を繰り返す主人公の目的は、予告編で大方見当がついてしまう。オチが脱力系でイマイチ。あれほど用意周到な主人公が、あんなポカを犯すだろうか。脱獄の準備をじっくりと描き込んでいるが、やや冗長になりテンポが悪く感じた。プレタイトルの投光機の照明を浴びて立ち尽くす主人公、をわざわざ繰り返しながら、どうやって切り抜けたかを省略したのも手抜きっぽい。主眼カメラで子宮から出る赤ん坊の視界を見せているが、生まれたばかりでは目が開いていないはず。しかも、すぐ這ってるし、「悪魔の赤ちゃん」がこいつは。
すべては海になる
セックス依存症から読書依存症を経て書店員になったヒロインと、崩壊した家庭を持つ高校生の交流を描く。ストーリーそのものは閉鎖的で、結局ほとんどの問題は解決しないままで終るのだが、作品自体は暗いタッチになりすぎず、それでも生き続けることの大切さを感じさせた。ヒロインは人とのつながりを求めるかのようにセックスするが、悦びがあるようには見えない。高校生も口ほどには、家庭崩壊を食い止めるために努力していないように見える。でも、人間なんてそんなものかな、と共感できる部分もある。佐藤江梨子はけっこう抑えた演技で好演だし、柳楽優弥も繊細さには欠けるが、ひたむきさは感じさせた。
エクトプラズム 怨霊の棲む家
実話を原案にしたホラー映画。ガンを患った長男のため、通院に便利な家を借りた家族を襲う恐怖を描く。度重なる超常現象が、家族には抗ガン治療の副作用や脳への転移ではないかという本人や家族の疑心暗鬼が展開に緊張感を与えている。このドラマ部分がしっかりと演出されており、奥行きを感じさせる作品に仕上がっていた。ストーリー自体が良くまとまっているし、家族の愛情も伝わって来た。大作ではないが、けっこう拾い物だった。ヴァージニア・マドセンも「キャンディマン」以来久々の本格ホラーで好演、と思ったら「ホーンティング」にも出ていたって。あの映画印象薄いからなあ。
パーフェクト・ゲッタウェイ
ハワイを舞台に、3組のカップルのうち、どれか1組が殺人犯だというスリラー。人数が少ないから意外な犯人というわけにもいかないが、低予算なりに楽しめる作品。クライマックスは犯人に気付いた二人が、果たして助かるのか、というサスペンスがうまく盛り上がっていて飽きさせない。ホラ話めいた会話も面白いし、それが生かされている部分もあり、良くできた脚本だと思う。
サロゲート
人口の98%が自分は横たわったまま、ロボットを操って暮らしている歪んだ社会を舞台にしたSFサスペンス。みんな美男美女のロボットを使い、人種どころか年齢、性別も意味をなさなくなっている。人間はほとんど退化一歩手前の状態。日本に導入されたら、あっという間に人口が半減しそう。生身の人間とロボットで、肌の質感に違いを出してあったり、けっこう芸が細かい。ブルース・ウィルスの身代わりロボットが本人そっくりで髪の毛ふさふさというのが笑えた。入り組んだストーリーで、見終わってから頭の中で整理したほどだが、まとまりのある娯楽作品に仕上がっていた。
ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女
ベストセラー・ミステリーを映像化した映画。スウェーデン製というのが新鮮に感じられる。原作は読んでいないのだが、かなり長いようで映画版は2時間33分という長尺にも関わらず、ややはしょった印象となった。テンポが早くて見飽きないという利点はあるのだが。タイトル・ロールのヒロイン、リスペットが、エキセントリックで面白い。今回は天才ハッカーとしての見せ場は少なめだが、直感の鋭さとパワフルな行動力が圧倒的。それに比べて主人公は、冒頭から罠にはまって有罪判決受けてるし、全員が容疑者って言われてるのにペラペラ喋って危機に陥ったりと、なんだかオマヌケな印象を残した。回想シーンを見ると、犯行を知った女性が日記に暗号を残すことが不自然に感じられる。やや大味な部分もあるのだが、次回作が楽しみ。予告編を見ると、今回ラストで大変身を遂げたリスペットが元に戻っているみたい。いきさつが気になる。
ムービー・マンスリー2010年1月