ゴールデンスランバー
いつもトリッキーな伊坂幸太郎原作だが、今回は冒頭から「お前はオズワルドにされる」とネタをばらして、わりとストレートな逃亡劇が展開する。それでも実はオープニングに仕掛けがあったりして、やっぱり凝った作りだと感心した。堺雅人のキャラクターが生かされており、「自分に残された武器は人を信じることだ」というセリフに説得力を感じられる。設定のスケールのわりには、ややこじんまりまとまった印象ではあるが、ハナマルの作品。
ラブリーボーン
完成度が高い作品とは思うけど、ピーター・ジャクソン監督には珍しく娯楽性を追求していないので、はぐらかされた気分になってしまった。殺されて、この世と天国との狭間をさまよう少女。犯人捜しに取り付かれ家庭が崩壊していく父親。双方の再生が描かれていくのだが、二つの世界が交わることは意外に少ない。殺人鬼をめぐるサスペンス・タッチの場面は緊張感があり、さすがと思わせる。犯人が金庫を始末しようとする場面はハラハラさせられたが、結局ヒロインの心残りは別のところにあったりして、この場面もはぐらかされた。シアーシャ・ローナンは「つぐない」に続いて見事な演技を披露しているし、全てのストーリーを知ったうえで見直せば、印象が変わってくるような気もする。
アイ・アム
CGや特殊効果が、やや貧弱なのは低予算で仕方ないかもしれないが、脚本も弱いのが残念。「エイトマン」以来の、鋼鉄のボディに閉じ込められた人の魂というテーマに、身動き出来なくなった医師の心の問題を加えた深淵な内容が、結局は未消化で中途半端に終わっている。脇に個性派の演技者を配しているのだが、扱いもセリフも中途半端。もったいない結果になってしまった。
パラノーマル・アクティビティ
製作費130万円と考えれば頑張ってると感じられるが、一般の映画として見れば、やっぱりイマイチ。怖いのはラストだけで、大半は主人公二人の痴話ゲンカに終始している印象が強い。それでも多少は特殊効果を使っているし、何かありそで何もなかったブレア・ウイッチよりは遥かに面白い。普通なら途中で家を出てしまうところだが、引っ越してもついてくるという設定がミソか。もう少し主人公たちが敵の正体を探るとか、対策を講じるとかする描写を加えれば、起伏のある作品になった気がする。予算が少ない分、もう少し脚本に工夫が欲しかった。
マッハ弐
「マッハ!!!!!」とはストーリー的に全く関係ない歴史アクション。けっこうスケール感のある内容で、タイ版武侠物といった趣で楽しめた。アクションにつぐアクションで、しかもそれぞれの場面に工夫が凝らしてあり、最後まで飽きさせない。特に象を使ったアクションは圧巻。さすがはタイと感心した。2部作になっているのか、物語が完結しないのが残念。今回は山賊の首領として行動するダークヒーローだが、果たしてカルマからの脱却はなるのか。ぜひ続編を完成してはしい。
おとうと
はじめのうちは大阪人版寅さんみたいな作品かと思ったが、途中から印象が変わって来た。少なくとも自立した社会人として暮らしていた寅さんに比べ、今回の弟はかなり逸脱している。酒乱でギャンブル狂、借金は返すほうがおかしいという態度を取る。しかも自己憐憫(れんびん)だけは一人前だったりして、感情移入できないキャラクターになってしまった。そんな人間でも身内を失うのは悲しいことだというテーマも分からなくはないが、第三者にとっては迫ってこない。演出は相変わらずタイミングが上手くて見事だし、出演者も皆良い演技をしている。笑福亭鶴瓶は年をくっても幼稚な人格の男を見事に体現しているし、吉永小百合の生真面目で凛々しいヒロインぶりも決まっている。蒼井優は可愛いいし、御近所の面々も良い味を出している。惜しくて残念な作品だった。
サベイランス(ネタバレ)
生き残った3人の証言から事件が再構成されていく犯罪スリラー。「羅生門」のように事件そのものの様相が変わってくるのではなく、証言と再現される映像とのギャップで見せる構成を取っている。特に二人組警官の行動は目茶苦茶で、ヤク中女がマトモに見えてくるほど。クライマックスでひとひねりあるが、まあ予想の範囲内ではあった。思いきりブラックな味わいで、けっこう楽しめたが、残念なのは犯人の設定がB級スプラッタ並に不死身で万能なこと。ワゴン車で激突しても怪我ひとつせず、荒野の真ん中の事件現場から歩いて姿を消している。FBIの動向をどうやって掴んだのかも謎。このため映画全体に説得力が欠けてしまったのが残念。
ボーイズ・オン・ザ。ラン
オフビートな面白さを持つ作品。キャラクター設定が印象的。主人公は30才手前で、リュックサック背負って営業まわりする、うだつの上がらない男。純愛を貫こうと奮闘するが、最後まで空回りなのが哀しくて笑える。ヒロインは外見可愛いが、やっぱりダメダメで実は主人公と似た者同志という気がした。YOU扮する風俗嬢は良い人のようでいて、トラブルメーカーの疫病神。コンドーム事件の元凶だし、殴り込みも元はと言えば彼女があおったから。中でも「良いションベンでした」と真顔でたそがれる小林薫の哀愁ぶりが最高だった。結局、性格の悪いイケメンが良い目を見て終るので、カタルシスを感じさせないのが残念。満足できたかというと微妙な出来栄えなのだが、インパクトの強い作品てあることは間違いない。
食堂かたつむり
最初にタイトルだけ聞いたときは、ちょっと不気味で「怨霊界エニグマ」みたいな内容かと思ったが、実態は小川糸原作によるハートフル・ドラマ。母親はバーのマダムだが、山あいの寒村で、いつも常連客がウダウダしている程度。儲かっているようには見えないけど、そのわりに店も自宅も立派。ヒロインの店も一日客一組限定で、しかもスープだけの学生カップルだったりするから、採算が取れているとは思えない。ささやかな奇跡を起こす料理を描いたファンタジーと割り切るべきなのだろう。良作ではあるのだが、やや展開が粗い部分もあった。柴崎コウは言葉を失ったヒロインという難役を好演しているし、脇を固めるキャスティングも良い。特に江波杏子が名演で、本当に美味しそうに見えた。セリフで「美味しい」と説明する必要はなかったと思う。三浦友和も飄々(ひょうひょう)とした味わいが良かった。満島ひかりは持ち味とも言える毒のあるキャラクターなのだが、ラスト近くの披露宴ではなぜか良い人になっていた。和解するエピソードがカットされてしまったのだろうか。店自体も開店休業の状態から、客足が戻ってくる描写がないので、安心できずに映画が終わってしまう。作っている側だけで納得して、観客が置き去りにされてしまっている印象を残したのが残念。
処刑山
ノルウェー産のホラー・コメディ快(怪)作。雪山の山荘にやってきたおバカ連中が蘇ったナチス・ゾンビに襲撃される。キャッチコピーは「山に行けば良かった」。本当に劇中のセリフにあったのは驚いた。(「オープンウォーター」のヒロインはスキーが良かったと言ってた)ストーリーはテキトー。財宝に手を出したためナチスゾンビに襲われたという設定なのだが、実際にはオープニングから襲ってきている。本格的なホラーというよりも「死霊のはらわた2」や「ブレインデッド」のノリで見るべき作品。質より量のナチス・ゾンビ軍団とおバカ若者の闘いがエスカレートしていく様が笑える。終盤には特に感情移入できない二人が残るので、誰が死んでもいいやと気楽な気分で楽しめた。
バレンタインデー
バレンタインデー1日の騒動を描く群像コメディー。登場人物がやたらと多いが、そつなくまとめているあたり、さすがはラブコメを得意とするゲイリー・マーシャル監督。ストーリーも良く練られている。ただし、引っかかるところもあった。いくら事故とはいえ、バレンタインデーの花を簡単に翌日回しにしないと思う。夜のクライマックスにつなげるための御都合のような気がした。飛行機で彼氏の出張先に飛んだはずのジェニファー・ガーナーが、いつの間にか戻っているのも説明不足。個々のエピソードは特に新味のあるものではないが、華やかにまとまめられて、なかなか楽しめる作品に仕上がっている。
インビクタス 負けざる者たち
「許されざる者」あたりから、ホワイトトラッシュなんか許さない、といったテーマの作品が多かったイーストウッド監督。今回は許しをテーマにしたドラマだった。国の統制のために私怨を捨てるマンデラ大統領と、彼に感銘を受けるラグビー・チームの主将が、確かな演出で描かれている。スポーツの政治利用という側面も面白い。主将がチーム全体を動かしていく描写が少ないので、大統領の行動がチームを優勝に導いたという説得力に欠けてしまったのが残念。モーガン・フリーマンのマンデラ大統領ぶりは圧巻だし、マット・デイモンも好演している。穏やかに話しながらも、周囲を自分の考える方向に動かしていく、ある意味計算高いマンデラ大統領の老獪(ろうかい)ぶりが魅力的に描かれているのは、演技者と監督双方の力だと思う。日本にこれほどカリスマ性を持った政治家がいてくれたら、と考え込んでしまった。
魔法少女リリカルなのは
魔法少女物のアニメは「魔女の宅急便」を別格とすれば「魔法使いサリー」以来だった。素人には髪と目の色以外で区別が付けにくいキャラクター・デザインが少々つらいが、作品自体は盛りだくさんの内容でなかなか面白かった。初戦闘シーンは変形武器まで登場して変身ヒーロー物のノリ。かけらを集めるというので「犬夜叉」風になるのかと思ったら、後半はライバル・キャラをメインに魔法少女版「アトム誕生」みたいになってくる。けっこう奥が深いし、テンポも良くて飽きさせない。戦闘シーンはかなりハードで、小学3年生という設定は、やや無理があるように感じた。途中、なのはが学校にも行かずに戦い続けていて、クラスメートも事情を理解している、といった描写あって驚いた。両親や教師は何も言わないのだろうか。
金瓶梅
全体的に軽いタッチで進み、ドロドロした雰囲気だった’74年版とは違った印象になっている。武を毒殺して金蓮を手に入れるエピソードが終盤駆け足で描かれ、尻切れトンボな終り方だった。二部作の一作目だったのだろうか。女優陣ば日本のAV界から出張して花を添えているが、主役がオカマっぽいキャラで性豪に見えないのが難点。この手の作品ではお馴染みのワイヤーアクションによるセックス・シーンもあるし、気楽に見る分には手頃な出来栄え。纏足(てんそく)も出て来るが、普通に小さい足という程度。’74年版のような特殊な印象にはなっていない。
フローズン・リバー
夫に貯金を持ち逃げされて行き詰まった母親が、不法入国の運び屋に手をそめていく。抑えたタッチで描かれているが、なかなか緊張感があって見応えのある作品に仕上がっている。メリッサ・レオは生活に疲れた女性を見事に体現していた。最初は反発もしていた主人公二人が、いつしか絆を持ち始めていく、というテーマも悪くない。長男がボヤを出したときは、次男が煙を吸って死んでしまう展開ではないかと心配したが、そんな悲劇的なストーリーにはならず、安心した。ラストも希望を持たせるもので、やや出来過ぎな感もあるが、見終わってホッとすることができる。感動作とまではいかなかったが、なかなかの良作だと思う。
恋するベーカリー
洒落た邦題だが、実態は下ネタ満載の艶笑コメディー。パン屋は少ししか出てこない。それでも下品になりすぎないのは、監督と演技陣の力。前作「ヒリデイ」には及ばないものの、ナンシー・マイヤーズ監督の演出は、ツボを得ている。メリル・ストリーブは相変わらずの名演ぶり。メタボなエロ親父を演じるアレック・ボールドウィンも、仕事をしている場面がないにも関わらず、口先勝負の弁護士と納得させてくれる快演。中盤まで地味な役まわりで損しているスティーブ・マーティンも、終盤では芸達者なところを見せている。ストーリー的には特にどうということないのだが、しっかり笑って楽しめる作品に仕上がっている。
古代少女ドグちゃんまつり
テレビ版は見ていないので、総集編なのか一部撮り下ろしなのかも、分からなかった。いずれにしてもチープなテイストが楽しい確信犯的B級エンターテインメント作。ドグちゃんは童顔に巨乳という強力キャラ。斉藤由貴と上川隆也のおバカ演技も楽しめる。主人公のは引きこもりという設定にはまりすぎていて、ちょっと不気味感が強く、ラブコメ部分がそぐわないのが難点。個人的には神の喪失ではなく、神の復活で締めくくってほしかった。番外編のパイロット版は、エログロ度がアップしていて、むしろこの方がスタッフ本来の持ち味に近いのではないかという気がした。まあ、中年ニートの主人公に、ヤンキー丸出しのドグちゃん、イケメンのドキゴローでは、一発芸として笑いを取れても、連続ドラマは無理というのが正解ではあるが。
コララインとボタンの魔女
ちょっとダークな雰囲気が魅力の3Dファンタジー。マペット・アニメなのだが、動きが滑らかでCGかと思ってしまうほど。ウサギならぬトビネズミを追って、異世界に引き込まれていくキャロラインならぬコララインという展開は、どこか不思議の国のアリスを想起させる。こちらのほうがストーリー性が強く、まやかしの世界が化けの皮をはがされていくあたりのサスペンス感も見応えがある。ボタンの魔女の造型も、迫力があった。ただし、現実の父親は、いくらワーカホリックだとしても生気なさすぎ。あれではニセモノのほうが魅力的に見えてしまう。とはいえ傑作であることは間違いない。ダコタ・ファニングによる原語版もぜひ見てみたいと思った。3Dテレビが普及したら、まず見てみたいのは「アバター」よりもこっちだと思う。
ムービー・マンスリー2010年2月