パレード
ルームシェアしている5人の男女が、やがて新たな人生を踏み出していくかに見えた、が。2時間に渡るドラマが幻となってしまうような、不気味さき秘めたラストだった。居心地の良い空間でメビウスの輪のような人生を送る5人の主人公。青春ドラマでありながら、極めて現代的な怪談を見た気分になった。「コラライン」を見た直後だったので、ラストは4人の目にボタンが縫い付けられているように見えてしまった。主演の5人は、それぞれに持ち味を出している。ただ、連続暴行事件の犯行動機はなんだか分からなかった。世田谷に住んで新宿あたりを遊び場にしているみたいだったので、いきなり花屋敷が出てきたのは場違いな印象を受けた。
渇き
ソン・ガンホは韓国の名優だけど、官能とか吸血鬼とかっていうキーワードには縁遠いタイプであるように思う。というわけで今回はオフビートなブラック・コメディに仕上がっていた。自殺は最悪だ、とか言っていたくせに、自殺志願者の血を抜くから良心的だ、なとと弁解がましい行動をとる主人公よりも、本能に従って邪悪な行動をとるヒロインのほうが潔(いさぎよ)く感じた。ストーリーはわりと適当で、まず人のために役立ちたいからといって伝染病のモルモットになるオープニングから説得力に欠ける。その病気についてほとんど描かれないので、本当に流行っているのかも分からない。唯一生き残った感染者を追跡調査しないのも不思議。だいたい輸血から吸血鬼になったって、献血しに行った間抜けな吸血鬼がいたのだろうか。足にこだわった描写が目立つ足フェチ映画でもあって、ラストシーンも足が崩れる描写となっている。いろいろ見飽きない作品ではあるが、総合的にはイマイチな印象だった。
パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々
クリス・コロンバス監督作品だからというわけではないだろうけど、基本的な設定がハリー・ポッターと似ているように感じた。その世界では有名な人物を父親に持ち、特殊能力を磨く学校に入学して、男二人女一人の三人チームで冒険する。とはいっても全体的には違う印象で、ハリー・ポッターにある謎解き要素はあまりなく、よりロールプレイングゲームに近い。アイテムを3つ揃えれば冥界への入口が開く、とかイベントクリアで進んでいく。手堅い演出でそれなりに楽しめる出来栄えだった。中盤から、すっかりアイテム扱いされてしまうユマ・サーマンはなんだか気の毒だった。
ニンジャ・アサシン
暴力描写で成人指定になったバイオレンス映画だが、観客の大半は中高年の女性だった。恐るべし韓流映画。B級アクションで終映時に拍手が起こったのも(東京ファンタを除けば)初めての経験だった。ミステリアスな雰囲気を出そうとしたのか、時系列を入り組ませて描いているのだが、やや未整理なのが残念。主人公に次の標的を知らせてくる場面があったが、後になってこの時点ですでに組織を裏切っていたことが分かる。誰からの情報だったのか謎になってしまった。役の小角一門のアジトが、ドイツの山奥にあるのもなんだかヘン。単なるドイツ支店だったのだろうか。全体的にテンポは良いのだが、アクション・シーンのカットを細かく割りすぎて、何が起こっているのか分かりづらくなっている。
モリエール 恋こそ喜劇
若き日のモリエールを描くコメディー。モリエールはコメディーの天才なのだが、本人は悲劇こそ真の演劇だと考えていたため、全くうけていなかった、という設定からして面白い。フランスのコメディーは人物描写がひねりすぎて笑えない物も多いが、今回は登場人物が明快で、良い意味でハリウッドっぽいストレートな出来栄え。人妻との出会いから、モリエールが喜劇に目覚めていくまでの物語を見事に作り上げている。他人にたかって暮らすことを家訓とする貴族とか、悪口が売り物の未亡人とか、脇のキャラクターも適度に毒を含んでいて面白い。現代でも自称カリスマ・プロデューサーとか芸人とかにいそうなタイプで笑えた。
ニューヨーク、アイラブユー
ニューヨークを舞台にしたショート・ドラマ集で「パリ・ジュテーム」の姉妹篇。名だたるスタッフ・キャストが魅力だが、とにかく一つのエピソードが短いので、小咄集といった程度に終始し、顔ぶれのわりに小品という印象になっている。オープニングのスリと紳士のエピソードなんか洒落ているけれど、ホントに短い。中でもクリスティナ・リッチはカメオ出演程度でちょっと残念。ジュリー・クリスティのエピソードとスー・チーのエピソードは、ファンタジックな味つけで奥行きを感じさせ印象的。ラストの老夫婦もほのぼのとしていながら深みを感じさせている。良い味出してるな、と思いながらも誰だか分からずにいたら、エンドクレジットでイーライ・ウォラックとクロリス・リーチマンだったと知って驚いた。贅沢な映画であることは間違いない。ニューヨークという都市の個性がきちんと描き出されているのかよく分からなかったのだが、軽く楽しめる出来だと思う。最後に次は「シャンハイ・アイ・ラブ・ユー」だ、と出るのがジェームズ・ボンド映画みたいで笑えた。
シャーロック・ホームズ(ネタバレ)
冒険アクションてして作られたホームズ映画。謎の悪女も冒険に加わって、むしろ盗みをしないルパン三世といった趣(おもむき)。謎解きがオマケ程度なのは物足りないし、描かれているのは突っ込みどころ満載のなんちゃって犯罪。連続殺人犯の元死刑囚が、議会を制圧してイギリスを支配しようということから無理を感じる。絞首刑のトリックだって、執行後に死体を運んだりする全員が買収されていなければ不可能。事前に飲んでおけば青酸ガスが平気な解毒剤というのも、胡散臭い。ガイ・リッチー監督作品ということて、編集はなかなか鮮やか。テンポは良くてとりあえず一気に見せてしまう娯楽作品ではある。モリアティ教授の登場で続編を狙うが、どうなるか。「ヤング・シャーロック」に二の舞にならなければ良いが。
隣の家の少女
思春期の少女が、異常をきたし歯止めの効かなくなった集団になぶられる痛々しいドラマ。主犯格の女は、夫に裏切られて男性不信のうえ、おそらく生理も上がり、近所の子供たちを集めて女王然と振る舞うことで欲求不満を解消している。そこに若い姉妹を預かったことから、周囲を巻き込み、すべてが狂っていく。人類の性悪さに満ちた内容で、主人公も少女に好意を抱いていたからの行動で、正義とは必ずしも一致しないと思う。だから少女の妹についてはあまり考えてない。救いといえば妹を想う少女の優しさくらいである。女や子供たちが狂気をエスカレートさせていく過程の心理描写を、もう少し詳しくしたほうが作品に厚みができたように感じた。「ナイト・オブ・ザ・コメット」や「スター・ファイター」のキャサリン・メアリー・スチュワートを久々に見たが、何の役にも立たない母親役だった。出演した子役たちにトラウマが残らないことを祈る。
時をかける少女
リメイクというより前作ヒロインの娘を描いた完全な後日談。どうせなら母親役に原田知世をキャスティングすれば良かったのに。潜在意識による衝動だけによって個人がタイムリープ薬を開発してしまうというのもすごいが、アリの次に自分の娘に使わせるのは驚いた。あのアリは、いつの時代を念じていたのだろうが。タイムリープ薬は一往復分だけで、リープしまくったアニメ版と違って、時をかけるイメージが弱い。それを補おうとしたのかリープ・シーンで本当に駆けていたりする。センス・オブ・ワンダーの要素も薄くて、大半は70年を舞台にした四畳半的青春ドラマとして展開する。銭湯の場面とか微笑ましい部分もあるが、やっぱり物足りない。序盤でバス事故の話が出たときは、ヒロインがおじさんを助ける話になるのかと思ったが、これは外れていた。
東のエデン(ネタバレ)
いよいよ完結編。ストーリーを一晩の出来事に絞って、テンポ良く描く。派手な見せ場はないが、緊張感があり最後まで飽きさせない。100億円という金額は、個人にとっては莫大でも、国家レベルでは、はした金。結局はニートのフリマが出来ただけで幕となるが、将来に希望を持たせるエンディングが良かった。主人公はもちろん、主要キャラクターのそれぞれがきちんと生かされており、脚本も良く出来ている。滝沢郎も顔を変えて、ハナマルをもらう日が来るのだろうか。
NINE
楽曲は悪くないのだが、ストーリーが退屈で、せっかく豪華なキャストが生かせていない。主人公は才能が枯渇した大物監督なのだが、撮入直前の大作より、こじれた不倫問題のほうに夢中になっているように見え、芸術家としての苦悩が伝わってこない。一旦は映画を捨てた監督が復帰するラストも、再生する過程が抜け落ちているので、なんとなくにしか見えず、説得力に欠ける。
しあわせの隠れ場所
ハリウッドの良い部分が集まった、フランク・キャプラ作品にも通じるハート・ウォーミング・ストーリー。実話に基づいているというのも、なんだか嬉しい。ザンドラ・ブロックは色っぽい役はイマイチだが、こういう力強いキャラクターははまっている。他のキャストも皆好演で、特にクイントン・アーロンとキャシー・ベイツは印象的。キャシー・ベイツが都市伝説(?)を語る場面は笑えた。子供役のジェイ・ヘッドやリリー・コリンズ(ジェニファー・コネリー以来の太眉美少女?)も今後の活躍に期待したい。試合のシーンはラグビーを描いた「インビクタス負けざる者たち」の臨場感には及ばないものの、楽しい見せ場になっている。
花のあと
藤沢周平原作らしい落ち着いたタッチで、主人公たちそれぞれが武士としての生きざまを貫く姿を描く。妻の不倫相手が仕掛けた罠にはまり、切腹の道を選ぶ若き侍。たった一度剣を交えた彼に共鳴し、命を賭して仇を討とうとする女剣士。彼女の意思をくみ協力し、絶体絶命の危機にも加勢せず見守る許婚。現代人との考え方の違いが浮き彫りになって面白かった。北川景子は凛々しい演技を見せているし殺陣も頑張っているが、慣れない時代劇のせいか多少固い気がした。映像も美しく、なかなかの佳作だと思う。
TEKKEN 鉄拳
格闘ゲームの映画版。手堅い演出で、この手の作品の中ではメリハリのある方だと思う。「ストリートファイター」ほど個性的なメンバーが揃っていないが残念だが、ケイリー=ヒロユキ・タガワの平八ぶりとか、久しぶりに見たらすっかり母親役が似合うようになっていたタムリン・トミタとか、それなりに楽しめた。マーシャル・アーツの演出も悪くないし、そろそろトーナメントに飽きてきたかな、というあたりでひと捻りしてある展開も良い。残念だったのは続編狙いかラストが中途半端だったこと。
シェルター(ネタバレ)
多重人格を扱ったサイコ・スリラー、と思わせて超常現象で落としというホラー版「フォーガットン」みたいな印象の作品。両作とも主演はジュリアン・ムーア。まあ「フォーガットン」ほど何でもありの無茶苦茶ではないけど、狂信ババアの無神論者皆殺し悪霊ってのもデタラメな話ではあると思う。だいたいあのババア、人間の寿命を超えて生き続けているし、自身が神の摂理に反した存在と化してる気がした。ラストは簡単に悪霊が倒されて拍子抜けするし、オチも予想がついてしまう。
ムービー・マンスリー2010年3月