ダレン・シャン
原作は読んでいない。設定からすればダーク・ファンタジーなのだが、作品そのものは能天気な印象。家族向きを意識しすぎたか。それはそれで良いんだけど、演出にメリハリがなくて、せっかくのキャスティングを活かせてないのが残念。渡辺謙のメイクは、昔のオレたちひょうきん族でやってたシークレットカツラ(正式名称忘れた)を思い出させて笑えた。シリーズ化を考えすぎたため、1作できちんとした見せ場を作る努力が足りなかったのかもしれない。興業的にもイマイチみたいだったので、「ライラの冒険」の二の舞にならなければ良いけど。
ハート・ロッカー
キャサリン・ピグローは以前から女流監督とは思えない骨太の演出が特徴だった。今回は戦争の狂気を描いて「フルメタル・ジャケット」を超えてる、と感じさせる部分があるのでアカデミー賞も妥当かと思えたが、作品的に面白かったかというと微妙。演出が淡々としすぎて、ちょっと退屈した部分もあった。娯楽に徹したという点では「K−19」のほうが楽しめた気もする。それでも女流監督初のアカデミー作品賞の快挙はたいしたものだし次回作も頑張ってほしい。
マイレージ、マイライフ
予告編を見たときは人生を見つめ直したリストラ宣告人が、貯めたマイレージで世界放浪の旅に出る話かと思った。実際ははるかに辛口の作品で、ラストの居場所を失ってしまった主人公の姿は、「泳ぐ人」のバート・ランカスターを彷彿とさせた。語り口を軽めにしているので深刻になりすぎないのが救い。「トワイライト」にも出ていたらしいアナ・ケンドリックを描く部分が、ちょっと「プラダを着た悪魔」風で、全体の後味を中和している。「エスター」「縞模様のパジャマの少年」「ワイルド・バレット」とこのところ好調なヴェラ・ファーミガもオスカーノミネートにふさわしい好演。終盤、主人公の落胆ぶりが身につまされる作品だった。
ソラニン
面白いか、と言われると、これまた微妙なのだが、青春のウダウダ感が見事に描写された作品ではあると思う。プロを目指してもグラビアモデルとのタイアップがせいぜいのバンド。恋人の意思を継ぐと言っても、ちっぽけなライブにオマケで出演させてもらう程度のヒロイン。不完全燃焼ぶりが身につまされる作品ではある。ある意味リアルなんだけど、ひたすら献身的にヒロインを支える仲間たちなんてやっぱりドラマって気がした。音楽映画として見ると、演奏シーンが少なくて不満が多い。特にプロからスカウトが来ているほどの実力という触れ込みの女性ヴォーカルが歌う場面がないのは残念。宮崎あおいの歌唱力がばれないようにするためなのだろうか。メリハリの効いた作品ではないので、上演時間はもう少し短い方が良かったと思う。
シャッター・アイランド(ネタバレ)
見ている間は退屈しなかったけど、ある意味何でもありの設定になっているので、観終わって満足はできなかった。ミステリー映画としてみれば、オチはありきたりなのに描き方が正攻法ではない印象になってしまうが、マーティン・スコセッシ監督としては、むしろ不条理感そのものを描きたかったのかもしれない。医師によって記憶を取り戻したがゆえに、自らロボトミー手術を望まねばならなかった男の悲劇を描くドラマとすれば納得もいく。ディカプリオ主演の大作として売った宣伝ゆえに評価を落としてしまったような気もする。
ダーリンは外国人
原作は面白いんだけど、忠実にドラマ化するとショート・コント集になってしまう。というわけで映画版はわりと普通のラブ・ストーリーになっている。前半はやや平板で、時折織り込まれる原作のギャグ以外は不発かなと思ったが、後半はきちんと盛り上げて、なかなか魅力ある作品に仕上がっていた。井上真央のキャラクターが活かされていたと思うし、ジョナサン・シェアも達者な演技というわけにはいかないけど、ヒゲもじゃなのに草食系という主人公らしさは上手く表現できていたと思う。
カケラ
監督安藤モモ子は奥田瑛二の娘で、「愛のむきだし」が印象的だった安藤サクラのお姉さん。相手への想いを募らせる同性愛女性と、同性愛を認めきれず男との関係も立ちきれない女性の葛藤を女流監督らしいタッチで描いた佳作。初監督作品としては上出来だと思うけど、終盤の展開が良く分からなかった。ペンダントを排水口に落としてしまう場面は、二人の関係が完全に断ち切られてしまったことをP暗示しているのだろうか、それとも相手への愛を改めて認識させるきっかけとして描いたのだろうか。それが分らないので、ラストが中途半端な印象になってしまった。男とのセックスが何の官能もなく描かれているが、対比されるべき女性同士の官能に関する描写が抽象的なのも残念。
のだめカンタービレ 最終楽章 後篇
マメな天才とズボラな天才の恋を描くシリーズもついに完結編。今回は天才ゆえの壁に直面するのだめを中心にドラマが展開。脇のキャラクターにもきちんと見せ場があって、しかもあくまでメインは主人公二人というツボをきちんと押さえ、上映時間があっと言う間に終わってしまう。もっと続きが見たい、と思わせながらエンディングを迎えるとことが良い。クラシックの魅力が伝わってくる作品は、洋画には多いけど、邦画ではアニメの「ピアノの森」と本作が双璧という気がする。
アリス・イン・ワンダーランド
成長したアリスの冒険をティム・バートンらしい映像美で見せてくれる。ストーリー性もあるのでオリジナルよりとっつきやすいのも魅力。クライマックスの決闘とか、ちょっと普通に冒険ファンタジーしてて、キャラクターのエキセントリックさほど個性的な内容になっていないのは残念だけど、チェシャ猫も活躍するし、ジョニー・デップの怪演も楽しくて十分楽しめる出来だと思う。外見からしていじられまくっているヘレナ・ボナム=カーターも笑える。美貌で大衆の支持を集める白の女王も、いちいちポーズをつけるし、自分の手は汚さないし、なんか胡散くさくて面白かった。アリス役のミア・ワシコウスカも鎧姿が凛々しく決まっていた。エピローグはなんか「タイタニック」っぽかったけど。3D効果は期待したほどではなく、もう2次元には戻らないと宣言したらしいジェームズ・キャメロンほどのこだわりはないみたい。
ウルフマン
冒頭からハマー・ホラーに出てくるようなイギリスの寒村を高予算でぐっとリアルに描いた映像に引き込まれた。配役も悪くない。なのに作品そのものの印象はイマイチ。脚本が弱いのかドラマ的に盛り上がらずに終わってしまう。せっかくベニチオ・デル・トロとアンソニー・ホプキンスが共演しているのだから、親子の葛藤とかもう少し描きようがあったように思う。婚約者の行動も中途半端で、クライマックスが台無しになっている。警部は全くの犬死に。あんなに簡単に殺すなら、最初から邪魔しなきゃいいじゃないかと思った。
ていだかんかん〜海とサンゴと小さな奇跡〜
小品ながら、なかなかの佳作に仕上がっている。実在の人物をモデルにしているが、かなり脚色されているのだと思う。一応主役は岡村隆史なのだが、実態は母が息子を、嫁が旦那を、姉が弟を、しばき倒して導いていく強力な女性映画。松雪泰子や原田美枝子が上手いのは分かっていたが、岡村隆史のヘタレ演技も見事で感心した。男でヘタレでないのは、国村隼扮する漁業会長くらいだけど、やっぱり主人公の嫁さんにはかなわないし。そんな中で最悪のヘタレが偉そうな学者だったというのは、ちょっと短絡しすぎな気がした。学会での描写もひどいし、人工的なサンゴの産卵が史上初の快挙だったとしても、本来の生態系うんぬんとは別問題のはずなのに、ころっと態度を変えるのもバカ過ぎ。原作を読んでいないので、まさか実際の学者があんな愚かな対応をしたのではないことを祈っている。
第9地区
地球に不時着した宇宙人は労働階級で知的知的レベルが低かった、とはいっても一応知的生命体、あんな扱いするだろうか、という気もした。数が多すぎて持て余したか、しれともイルカと違って外見が悪かったからか。それはともかく映画自体はパワフルで勢いがありグングン引き込まれた。なんで液体に変身作用があったのか、とかよく分からないんだけど、力技で見せきっている。製作はピーター・ジャクソン。毒のある展開と描写は、「ラブリー・ボーン」よりピーター作品らしく思えたりする。製作費3千万ドルで低予算が話題になったようだが、これだけの映像で低予算だったら数億ドルの大作が無駄使いしているように思えてくる。不況で「パイレーツ・オブカリビアン4」の製作費が3の3億ドルから2億ドルに削減されったっていうけど、工夫次第で面白い映画はいくらでも作れるという見本が本作という気がする。
ジョニー・マッド・ドッグ
アフリカで反乱軍として政府軍と戦う少年兵の集団を描く暴力映画。もともとはそれなりの理念もあったのだろうが、すでに行動は山賊としか見えなくなっている。子供たちはみな獰猛な顔つきで、すごいと思ったら、元兵士をキャスティングしたのだとか。これに比べたら井筒和幸監督のケンカ映画なんて可愛いもので、狩猟民族の国はやっぱり怖いって思った。主人公はヤリたい盛りで殺しよりセックスが好き。怯えた女が従うのを勘違いして好い気になってる。革命が終わっても状況の変化が判断できず、しっぺ返しを食ってしまう。一応は少女の命の恩人で、逆恨みなのがなんか気の毒だけど。後半、反乱軍、政府軍、連合軍の力関係や、全体の状況が分からず混乱した。政府軍なんて町の入口に数人いただけだし、すでに政府は崩壊状態にあったのだろうか。こなれた完成度とは言い難いが、インパクトの強い作品ではある。
武士道シックスティーン
ひたすら勝つことを目標としてきた香織と楽しい剣道を目指す早苗。主演二人の個性も活かされて楽しい青春コメディに仕上がっている。成海璃子の大真面目な剣道少女ぶりと、北乃きいの高度な剣道センスを持ちながら戦闘意欲に欠ける陽気な女子高生ぶりが見事なコントラストで、笑えるシーンが満載。剣道の場面が迫力満点とまではいかなかったのと、香織が剣道に行き詰まりを感じてしまう心情が十分に伝わってこないという難点もあるけど、さわやかな後味で続きが見たくなる作品だった。原作はセブンティーンとエイティーンも出ているみたいなので、年1作のシリーズにしてもらえないだろうか。
ムービー・マンスリー2010年4月