年度 ; (1960) |
監督 ; 中川信夫 |
脚本 ; 中川信夫、宮川一郎 |
音楽 ; 渡辺宙明 |
出演 ; 天知茂、沼田曜一、三ツ矢歌子、林寛、徳大寺君枝、小野彰子、嵐寛寿郎 |
「東海道四谷怪談」と並ぶ中川信夫監督の代表作。 大学生、清水四郎(天知茂)は同じ大学の田村(沼田曜一)から昨日の男が死んだと告げられる。 四郎は矢島教授の娘。幸子(ゆきこ)(三ツ矢歌子)と婚約していた。 前日、矢島家で婚約祝いの最中に、花を持った田村がふらりと現われた。田村の運転で四郎を乗せて帰宅する途中、一人の酔っ払いをはねてしまう。 車を止めろという四郎の言葉に耳を貸さず、田村はひき逃げしたのだった。 その男、暴力団権藤組幹部の恭一が死んだというのだ。 四郎は自首しようと田村に相談するが、やはり耳を貸さない。 事故を目撃していた恭一の情婦、洋子(小野彰子)の母親、やす(津路清子)は復讐を企んでいた。車のナンバーから持ち主を割り出し殺すという。 幸子に事実を話した四郎は、自首を決意して彼女とともにタクシーに乗る。そのタクシーが事故を起こし幸子は死んでしまう。 自首のきっかけを失い苦悩する四郎に洋子が接近する。一夜をともにして彼の身元を確認した。 母が病気という報せを受けた四郎は帰郷し、父、剛造(林寛)の経営する養老施設、天上園に行く。 剛三は病床の妻、イト(徳大寺君枝)と妾の絹子(山下明子)と同居していた。絹子は、ことあるごとに東京に連れて帰って、と四郎に迫る。 隣の部屋には画家の谷口円斎と娘の幸子(さちこ)(三ツ矢歌子二役)が住んでいた。 地元の刑事、針谷は円斎に詐欺容疑があることをネタに幸子との結婚を迫っている。 田村が突然やって来る。矢島夫妻も講演旅行の途中で天上園に寄るという。 イトの容態が急変し、息を引き取る。通夜の最中、矢島夫妻が訪問してきた。 幸子を見た矢島の妻、芙美は娘と錯覚して泣き出す。 イトの死因は医師、草間の誤診だった。 円斎は、剛三が自分の恋人だったイトを横取りしたことをののしる。 どうやって知ったのか、田村は針谷刑事が無実の男を逮捕して相手を自殺に追いやったこと、記者の赤川の誤った記事で相手を死に追いやったことを次々に告発する。 翌日、天上園の十周年式典が開催された。そこに四郎をつけ狙うやすと洋子もやって来る。 漁師が川で病死して流れてきた魚を獲ってくる。剛造は安いし自分は食べないからと買い上げてしまう。 四郎は洋子に手紙で誘い出され吊り橋へと行く。洋子は恭一の愛人だったことをばらして襲いかかるが、足を踏み外して吊り橋から落下した。 洋子の落した拳銃を拾う四郎。そこに現われた田村と争いになり銃が暴発。傷ついた田村も川へと落下していく。 夜になって天上園では宴の真っ盛り。剛造は、絹子が四郎に迫っているのを見つける。 争いとなり絹子は階段を落ちて死んでしまう。剛造は、四郎に知らないふりをして宴会に出ろと言いくるめる。 矢島夫妻は終列車で東京に戻ると言って出て行く。 その頃、宴会の席にやすが酒を差し入れていた。毒酒を飲んだ全員が苦しみだす。 そこに幸子が、矢島夫妻が列車に飛び込み自殺したという報せを持って来た。 青白い顔で現われた田村が幸子を射殺してしまう。田村の首を絞める四郎。その四郎の首をやすが絞める。 別棟では老人たちも食中毒で倒れていた。 死にゆく四郎は地獄を垣間見る。どこからか赤子の鳴き声が聞こえていた。 四郎は閻魔大王(嵐寛寿郎)に、これまでの罪を告発された。 八大地獄に落された四郎は身を焼かれた。 賽の河原で目覚めた四郎はまたしても赤子の鳴き声を聞く。そこでは幸子(ゆきこ)が石を積み続けていた。 謝罪する四郎。幸子は泣いている赤ん坊は自分と四郎の子だという。 幸子はその娘に春美という名をつけていた。蓮の葉に乗った春美は三途の川を流されていく。 春美の姿を捜す四郎は矢島夫妻と出会う。矢島には戦争中に戦友の水筒を奪い取って生き延びた過去があった。 亡者たちは、釜ゆでにされ、焼き殺され、のこぎりで挽かれ、体の皮を剥がれても、すぐに甦り再び責め苦を受けなければならない。 剛造と絹子は、ここでも諍(いさか)いを続けていた。地獄でも絹子は四郎に、ここから連れ出してとせがむ。 血の池地獄で苦しむ亡者たち。四郎は火車で焼かれる幸子と春美を見つけるがなすすべもない。 次に四郎は針の山で幸子(さちこ)と出会う。田村は四郎に幸子を抱いて、自分と同じ地獄の虫になれとそそのかす。 二人が抱き合おうとしたとき、イトが現われて四郎と幸子が異母兄妹だと告白する。 イトは剛造と結婚したとき円斎の子を妊娠していたのだった。 良心を捨てた田村も地獄の責めを免れることはできなかった。田村は四郎の名を叫びながら地獄の責め苦を受ける。 さらに春美を捜し続ける四郎。彼は巨大な輪の上で泣く春美を見つけた。 今助けなければ春美も永劫に地獄の責め苦を負うという。輪に飛びついた四郎は春美の元へと這って行く。 ここで場面は現世に戻る。 天上園には全員の死体が転がり、円斎も首を吊っていた。四郎を呼ぶ幸子(ゆきこ)と幸子(さちこ)。二人は微笑みながら天上へと昇っていくのだった。 終盤の地獄描写以外はドロドロした人間関係をからめて描く猟奇サスペンスという趣になっている。 暗い家屋の中で登場人物だけをスポットライトで浮かび上がらせるなど、不気味で幻想的な演出が強い印象を残す。 突然現れては登場人物と観客をドキリとさせる田村を演じた沼田曜一の怪演ぶりが圧倒的。 沼田曜一は、これまで「黄金バット」の怪人役でしか憶えていなかったのだが、近年の「リング」やNHKの朝ドラ「さくら」にも出ていたらしい。2006年に亡くなっている。 予算が潤沢でなかったらしく、地獄の責め苦は血糊(ちのり)だけでごまかしているような場面もあるが、皮を剥がれた亡者などは当時としてはかなり不気味な特殊効果だと思う。 ラストは主人公が自分の子供を地獄から救えるか、という展開で盛り上げるが、中途半端で終わってしまう。せめてラストで天に昇る幸子が赤ん坊を抱いていたりすれば分かりやすかった気がするのだが。 |