年度 ; (1979)
 監督 ; 神代辰巳
 脚本 ; 田中陽造
 音楽 ; 真鍋理一郎
 出演 ; 原田美枝子、林隆三、岸田今日子、石橋蓮司、田中邦衛、金子信雄、加藤嘉
日活ロマンポルノで活躍し、東宝の「青春の蹉跌」で一般にも知名度を高めた神代辰巳監督が、東映に招かれて撮ったホラー映画。
昭和30年、山崎ハコが歌う「きょうだい心中」をバックに生形ミホ(原田美枝子)と生形竜造(西田健)の道行きが描かれる。
ミホは竜造の弟、雲平(田中邦衛)の嫁なのだが、竜造の子を妊娠している。
二人が山小屋に隠れていると、猟銃を持った雲平が乗り込んできた。
雲兵は竜造を撃つ。ミホは小屋から逃れるが、獣罠に掛かってしまう。
ミホを踏みつける竜造。彼はミホを放って帰る。
家では竜造の妻、シマ(岸田今日子)が「殺せなかったの」と冷たく言うが、雲平は「苦しみを長引かせるために、わざと殺さなかった」と強がる。
シマはミホの元に行き、「自分は殺されてもいいから、子供だけは助けて」と泣き叫ぶミホを見殺しにする。
その後、死体で見つかったミホは、村人の前で子供を産み落とす。死体はズルズルと山道をすべり、崖から落ちていった。
ミホの落ちた先は地獄だった。彼女は地獄の番人に着物を脱がされた。ミホは子供がいないことに気づく。生まれながらに地獄を背負った赤ん坊を現世に残してきたこともミホの罪の一つだった。
村人たちによって赤ん坊は生形家に届けられる。赤ん坊の尻には赤い痣(あざ)があった。
シマは赤ん坊をフロに沈めて殺そうとするが、出入りの山尾(加藤嘉)に「村人が面白がって注目している。赤ん坊が風呂で死んだら何を言われるか分からない」と止められる。
山尾が捨て子を拾ってきた。憎いミホの子を育てるのは苦痛だろうからと赤ん坊を取り替えさせてしまう。
そして20年後、水沼アキ(原田美枝子二役)は、恐れ知らずのカー・レーサーとなっている。アキは生形松男(石橋蓮司)と接戦を演じている最中、幻覚に襲われ大事故を起こしてしまう。
接触した2台がいきなり大爆発するという、ちょっとありえなさそうな事故で、生きているのが不思議に思えた。
アキは療養のため鬼涙温泉に向かう。乗っていた列車の扉が突然開き、アキは車外に飛び出してしまう。
車両にぶら下がったアキを助けたのは生形幸男(林隆三)だった。この場面、車外からのカットがないが、位置的にアキは地面に接触してそうに見える。
すでに鬼涙温泉は枯れてしまっており、幸男はアキを自分の実家に連れて行く。
アキは生形家に見覚えがあるような気がした。シマはミホと瓜二つのアキに動揺する。
入浴中のアキを覗いた山尾は尻の痣を確認した。松男と幸男はアキの腹違いの兄弟だった。
シマは、アキが村を出て2度と戻ってこないようにしなければならないと考える。山尾は村の若い衆にアキを襲わせる計画をたてた。
アキが山道に立てられた卒塔婆(そとば)の金輪に触れると、その金輪は逆方向に回り出す。
その時、地鳴りがおきてアキは崖を落下する。首に巻いていた包帯が金輪に引っかかり、アキは首吊り状態で崖からぶら下がる。
アキは山小屋で目を覚ました。彼女を助けたのは松男だった。錯乱したアキは松男に抱きついていく。
生形家に戻ったアキは、自分にはミホの淫蕩な血が流れているのだと幸男に言う。
生形家にはミホの子として育てられた久美(栗田ひろみ)がいた。アキが返した着物を着て山道に出た久美は村の若い衆に襲われ輪姦されてしまう。
雲平は酔った勢いで久美が取り替えた子供であることをばらしてしまった。シマは、その場にアキを呼ぶ。
アキの顔を見て、雲平はミホと生き写しなことに驚く。シマはアキに対して久美の復讐を誓う。
アキは尼僧から金輪を回して止まれば極楽、もし逆さに回れば地獄なのだと聞かされる。アキが金輪を回すと今度も逆に回り始めた。
幸男は妹だと分かってもアキへの思いが断ち切れない。そこに錯乱した久美が棒を持って殴り込んできた。
久美も幸男のことを思い続けてきたのだが、幸男の眼中に彼女はなかった。
妹一人を地獄に行かせて、俺だけ逃げるわけにはいかないと川の中でアキを抱く幸男。
シマはアキを地下牢に突き落とす。そこには竜造のミイラがあった。
アキをめぐって松男と幸男が喧嘩を始めたところに、久美が行方不明だとシマが駆け込んできくる。
久美は幸男の窯焼き場で焼身自殺していた。窯に入り内側からレンガを積んで入り口を閉ざして火をつけたことになる。
地下牢で母の形見の三味線を弾くアキ。すると竜造のミイラが崩れ落ち地下道が開いた。
地下道の先は井戸の底。彼女を見つけたのは雲平だった。
雲平は久美の死を告げ、自分は竜造とミホを殺しても、まだ思いがさめないと告白する。
アキを殺そうと迫る雲平の目を、アキは三味線のバチで切り裂く。雲平は三味線の音を追って崖から転落していった。
久美の葬儀が行われる中、雲平の死体が運び込まれる。アキを探して地下牢に降りたシマは、アキに閉じ込められてしまう。
アキは「私はミホなのよ、私はあなたを地獄に落とす案内人なのよ」とわめく。「私はどこにもいなくて、ミホだけがここにいるのよ」と。
松男は包帯で首を絞めてアキを殺そうとするが、何度やっても包帯は切れてしまう。
シマはミイラを抱きしめ舌を噛み切って死んでいだ。
アキと幸男は、母親たちと同じ道筋を辿って道行きする。猟銃を持って追いかける松男たち。松男は口うるさい山尾を殴り殺す。
松男が山を行くアキたちに向けて発砲すると崖崩れが起こり、松男や村人たちを飲み込んでいった。
山小屋で抱き合うアキと幸男。二人は崖崩れで小屋ごと運ばれ崖を落下していく。ミニチュアの山小屋がズルズルとすべっていく光景はなんとも迫力がない。
地獄へと落ちたアキは閻魔大王(金子信夫)の前に出た。彼女は母親に会わせてほしいと願い出る。
母ミホと会うこと自体が地獄行きを意味していた。アキは茶吉尼天(天本英世)に導かれ地獄へ渡る。
火炎地獄で人が焼かれている。巨大な臼(うす)で挽きつぶされるシマの姿もあった。一旦肉体が滅んででも復活し、責め苦が繰り返される。
アキは水鏡の中に下半身が樹木と化したミホの姿を見つける。彼女を求めて這い登る幸男、松男、雲平らの亡者たち。彼らに刃となった木の葉が切りかかる。
アキは巨大な扉の並ぶ広間に出た。一つの扉を選ぶと、それが開く。中には食肉獣と化した亡者たちがいた。
そこでミホは角の生えた怪物と化し、アキの顔を見分けることも出来ない。
茶吉尼天は戦えとそそのかすが、アキは食いつかれても母親を抱きしめ続ける。
アキの心が通じたのか、ミホは離れていく。
お母さんと叫び続けるアキは、声を出した報いとして桜の木にされてしまう。
木に下に佇むミホ。彼女はアキの名を呼びながら木の幹に体当たりを続ける。樹皮がはがれた中から光が満ちる。
光の中から生まれた赤ん坊が浜辺にいる場面に、山崎ハコのテーマ曲「心だけ愛して」が流れて幕を閉じる。
おそらく神代監督の作品中では最も高予算なのではないかと思う。(全編海外ロケの「赤い帽子の女」もあるがーさほど予算がかかっているようには見えなかった)
当然、地獄がテーマなのだが、終盤描かれる地獄風景は意外と印象に残らない。特殊効果だってさほど高いレベルのものとは感じなかった。
はるかに予算の少なそうな中川信夫監督のほうが凝った描写がある。
当時の雑誌でも紹介されるのは地獄の描かれ方よりも、原田美枝子のヌードがメインだった記憶がある。確かに原田美枝子は、この作品で演技的にも肉体的にも圧倒的な存在感を示している。
神代監督は現世における母娘二代に渡る因果の物語にこそ興味があり、あの世についてはそれほど関心がなかったのかもしれない。
横溝正史のミステリーに出てきそうな旧家で繰り広げられるドラマは、二世代に渡って一家を破滅に追いやってしまう母娘の物語として、なかなか面白い。
ラストは、母親の愛情によって永劫の地獄から抜け出したアキが転世したということなのだろうか。良く分からなかった。
1999年には石井監督版「地獄」も製作されている。
これもかなりの珍作で、新興宗教教祖の悪行がメインとして描かれる。
この教祖を裁判で擁護した弁護士も同罪として地獄で責め苦を負わされるという設定に作家性を感じた。
低予算のためか地獄の描写があまりにも安っぽいのが残念だが、キッチュな魅力を感じる人もいるかと思う。
閻魔大王は、どのような悪人も地獄の裁きを免れることはできないのだ、と豪語。
その直後にあらゆる罪を犯したという忘八武士(丹波哲郎!)が登場。地獄に連行しようとする鬼どもをバッタバッタと斬り殺し、悠々と去っていくという、さっきの啖呵(たんか)は何だったんだという脱力系のラスト・シーンで幕を閉じる。
地獄