製作 ; (1993)
 監督 ; 古川順康
 脚本 ; 平野靖士
 音楽 ; 松浦典良
 出演 ; (声)小杉十郎太、土井美加、キートン山田、池田勝、山田栄子
OVA版のエイトマンで4巻に分けて発売された。
実写版と異なりテンポもよく絵もていねいに書き込まれ、なかなか上質な作品となっている。
ストーリー的にも、人間の記憶を移植した電子頭脳というエイトマンの特徴を生かしたものになっており見応えがある。
この作品はコミック版「8マン」のラスト、魔人コズマとの闘いから七年後という設定で始まっている。
サチ子はOL、田中課長は警視に出世、イチロー少年は警察官となっているが相変わらず影が薄い。
谷博士は黒髪に黒ひげと若返っているが不思議ではない。谷博士も戦闘タイプではないとはいえスーパーロボットの身体なのだから。
サチ子はバイオ・テクノ社に勤務しているが、未だに東八郎を想い続けている。
そこに情報を盗んで逃走した科学者エディを探す探偵・羽座間が現われる。
サチ子と羽座間はデートするが、その夜マンションでサチ子が襲われる。
情報提供者と誤解されてしまったのだ。
異変に気づいた羽座間が部屋に飛び込むと殺し屋は元悪徳刑事のトニーだった。
羽座間はトニーに刺されてしまい、サチ子を守るためトニーを道連れに窓から飛び降りる。
地面に叩きつけられ横たわる羽座間、トニーの姿はなくなっていた。
羽座間は病院で心停止状態になり、田中警視は決意して羽座間の身体を谷博士の元に運び込む。
コズマとの対決後、サチ子に正体を知られた東八郎は谷博士に依頼して全ての記憶を消し去り、その後エイトマンのボディは封印されていた。
その電子頭脳に羽座間に記憶を移植したのだ。
街では身体の一部をサイボーグ化した犯罪者による事件が急増していた。
そんな事件の一つを解決したのは、確かにエイトマンだった。
サチ子は羽座間の驚異的な回復に驚きながらも、捜査に協力する意志を固めた。
サイボーグ化した者は活性剤を使用し続ける必要がある。
その活性剤は強力な麻薬で脳を侵し人間を凶暴化する副作用があった。
一方、羽座間の知り合いの少年サムは行方をくらませた父オコーナーを探していた。
そのオコーナーの姿が、フットボールチーム・ブラックファイターズのメンバーにあったと言うのだ。
羽座間とサチ子はサムを連れて競技場におもむく。
だが、オコーナーを含めた選手たちはひそかにサイボーグ手術を受けていた。
凶暴化して相手選手や観客に襲いかかる選手たち。
羽座間はエイトマンに変身して戦うが、戦闘能力が暴走しオコーナーにも非情な攻撃を加えてしまう。
以前、羽座間は悪徳刑事の事件を追っていたが、見せしめのため四人の刑事たちに目の前で妹を殺されていた。
復讐鬼となった羽座間は三人の刑事を殺したが、説得されて最後の一人を見逃す。
だが、その一人は逃亡中に片腕を失っていた。それがトニーだった。
その時の羽座間の記憶がエイトマンの戦闘システムを暴走させたのだ。
サチ子の呼びかけでエイトマンは意識を取り戻し競技場を去る。
サチ子は東八郎とは異質なものをエイトマンに感じ始めていた。
選手たちが暴走したのは組織のボスの座を狙うトニーの陰謀だった。
トニーは今回の事件で失墜したボス・ミスター・ハロウィンの後釜となる。
羽座間に復讐心を燃やすトニーはサチ子を誘拐、止めようとしたオコーナーは重傷を負う。
エディは脳だけのサイボーグなって組織のサイボーグ手術を行っていた。
トニーは脳を残して全身がサイボーグ化されていたが、電子頭脳への記憶の移植はエディの技術では出来なかった。
人間の記憶を移植した電子頭脳を持つエイトマンは活性剤の副作用を受けることがない。
トニーとエディはエイトマンのボディを狙っていた。
羽座間はサチ子を救うため、目の前でエイトマンに変身して闘う。
戦闘モードとなりトニーの部下を次々と抹殺するエイトマン。
だが、トニーの電磁バリアの罠にはまり捕らえられてしまう。
エディはエイトマンから羽座間の記憶を消去し、トニーの記憶を移植しようとしていた。
そこに最後の力をふりしぼったオコーナーが踏み込んでくる。
オコーナーはエディを破壊するが、トニーの銃弾を受けてしまう。
オコーナーの活性剤を受け取って立ち上がったエイトマンは自らのシステムを制御し、ついにトニーを倒す。
制御に自信を得た羽座間はサムを連れて街を出る。
マイアミらしき街に探偵事務所を開設した羽座間。ある日、事務所にサチ子が秘書として押しかけてくるのだった。
続編を暗示させるラストで、LDのライナーノーツによると企画は本当にあったらしく序盤のストーリーまで紹介されているが、実際に作られることはなかった。やっぱりエイトマンの呪いは存在するのかもしれない。
余談その一=作者の拳銃不法所持、主題歌歌手の殺人、出版社の倒産、掲載誌の休刊とエイトマンに関わった人物や会社にはトラブルが多い。河崎実は「人は憧れ、巻き込まれ、不幸になるのだ。ツタンカーメンだね。「エイトマン」は魔性の作品である」と記述している。ところでOVA版で有名な主題歌のニュー・アレンジを歌ったのはくわまんこと桑野信義。一年間に三回もスリにやられた、とかこぼしているのは聞いたが、さほど大きな不幸に見舞われたという話は聞かない。もしかしたら田代まさしが身代わりになったのかもしれない。
余談その二=このOVAのノベライズは当初リム出版から発売されたが、倒産のため別バージョンのノベライゼーションをログアウト冒険文庫から発売しなおすという異常事態となった。どちらかというとログアウト版のほうがOVAに忠実なスト−リーだった。
余談その三=実写版リメイクを最低映画にしたリム出版だが功績がなかったわけではない。その最大のものが26年ぶりにコミック版「8マン」を桑田二郎の作画により完成させたことだと思う。最終回のストーリーは、エイトマンは封印していた兵器フォノン・メーザーを魔人コズマに使用、コズマは思考力を持たない巨大なアメーバーと化す。エネルギーを求める本能だけで動くコズマは妻ノラ夫人をも溶かしてしまう。救出を試みるエイトマンだったが、手にしたのはノラ夫人の片手だけだった。さらにコズマは道路に出て車を襲撃する。エイトマンはタンクローリーに詰まれたガソリンごとコズマを焼き尽くすのだった、というもの。連載当時、作者・桑田二郎(当時は次郎)が拳銃不法所持により逮捕、最終回のみ弟子の楠たかはる(代表作は「恐怖のミイラ」「遊星仮面」)が代筆するというトラブルが発生した。以降長きに渡って原作者・平井和正は魔人コズマ編の単行本化を拒否し続けた。理由は弟子たちの作画による最終回が桑田次郎による絵の完成度に遠く及ばないためとされてきたが、それだけではないように思える。実はこの最終回展開が少し違う。エイトマンはアメーバーとなったコズマとノラ夫人を引っ張り合って救出に成功、コズマも燃え盛る炎の中から記憶喪失状態で(しかも背広姿)ふらりと現れ逮捕されるという、「狼のレクイエム」(現タイトル「ブーステッドマン」)虎4助かるバージョンみたいに気のぬけた展開となっているのだ。これは個人的な憶測なのだが、拳銃不法所持事件で動揺した編集者が過激な展開で物議をかもしてはまずいとビビッて変更してしまったのではないだろうか。魔人コズマ編出版拒否は、原稿の改ざん問題をめぐって幾たびか出版社と戦ってきた作家・平井和正の、もしかしたら最初の戦いだったのかもしれない。(ちなみに二度目の闘いは同じ桑田次郎とのコンビ作品「超犬リープ」の編集短縮版単行本化問題だったらしい)
エイトマン・アフター