原題 ; LE FAUX MAGISTRAT(1914)
 監督 ; ルイ・フイヤード
 脚本 ; ルイ・フイヤード
 音楽 ; 
 出演 ;ルネ・ナヴァール、エドモン・ブレオン、ジョルジュ・メルシオール
ファントマ・シリーズ第5作。今回はジューヴ警部が自らファントマを逃亡させてしまう前作以上の珍作。
サン・カレ近郊のロージュ城に住むテルガル侯爵夫妻は財政難に直面していた。
テルガル侯爵は宝石商シャンベリウーに25万フランで手持ちの宝石を売ることにした。
小間使いのローザは、この会話を盗み聞きしていた。
ホテルで現金取引の予定だったが、宝石商は小切手で用意してきた。
テルガルは宝石をしまい、ホテルの部屋にシャンベリウーを残して換金に出る。彼が戻り、シャンベリウーが宝石を出そうとするとなくなっていた。
同時刻、神父服が捨てられているのが発見される。
ホテルでは予審判事モレルの調査が始められた。テルガルもシャンベリウーも互いに相手を疑うばかり。
宝石をしまった箪笥(たんす)を調べると、箪笥と壁に穴が開けられていた。どうして小切手を箪笥にしまうことが予測できたかは謎。
そこに隣室に泊まっていた神父が帰ってくる。彼は手紙で誘い出されていたのだ。
モレルは神父を疑うが、着替えの神父服が外で見つかったことから神父の容疑は晴れる。
テルガルも犯人でないと分かり、25万フランを受け取ることが出来た。だが、彼は帰り道で襲われてしまう。
ロージュ城では侯爵夫人が帰りの遅い夫を心配していた。ようやく帰り着いた侯爵は夫人に宝石も札束も盗まれたことを告げる。
犯人はファントマの手下リボナールとポレ。ポレは愛人であるローザに盗んだ札束を預けた。
ファンドールは事件をファントマの仕業ではないかと疑うが、ジューヴにはベルギーでファントマが逮捕されたという情報を得ていた。
ジューヴはファントマが脱獄すると見込み、ベルギーに向かう。彼が脱獄の手引きをして罠にかけ国境で逮捕しようという作戦だった。
刑務所査察の一行がやって来る。査察官の一人が、独房のファントマに話を聞きたいという。
二人きりになったとき、査察官は隠し持った服や武器をファントマに渡す。
査察官はメガネを忘れたと言って警官一人と引き返す。警官が電源を入れに行った隙にファントマと査察員が入れ替わった。
査察官はジューヴの変装だった。彼の指令を受けた刑事がファントマを尾行する。
ファントマは服を着替え町を行く。すぐに彼は尾行に気づいた。遠回りして列車に乗り込み乗客を殺して身分証明書を奪う。
偶然にも被害者は予審判事プラディエだった。死体は鉄橋から川に捨ててしまう。
プラディエの宿は例のホテル、彼は新任のサン・カレ予審判事だった。前任者のモレルと引継ぎするファントマ。
担当する最大の事件はテルガル侯爵事件だった。ファントマは、すぐにリボナールとポレを見つけ出す。
宝石と金のありかを聞き出すファントマ。宝石はブーロワール教会に隠し、金はローザが持っていた。
予審判事としてロージュ城に招かれたファントマ。
狩りの日、頭痛がした公爵は取りやめて城に残った。やはり狩りに行かなかったファントマは、侯爵夫人アントワネットが不倫相手に宛てた手紙を見つける。
ファントマは、侯爵の寝ている部屋のガスを一旦止めて暖房の火を消し、もう一度栓を開けてガスを出す。
狩りを終えたメンバーが帰ってきた。部屋の様子を見に行った夫人はガスの臭いに驚く。すでに侯爵は死んでいた。
偽判事ファントマは、愛人のいる夫人が財産を奪おうと侯爵を殺したとして手紙を突きつける。
無実を訴えるアントワネット。ファントマは見逃す替わりに50万フランを要求する。
翌日、ファントマとリボナールは宝石を取りに教会に行く。宝石は鐘の中に隠してあった。
梯子をかけて鐘に登るリボナール。彼が宝石を投げ落とすと、ファントマは梯子を外して立ち去ってしまう。
この場面、画面の両側を黒くつぶして縦長の構図にし、鐘の高さを強調する工夫がなされている。
だが、手下もファントマを信用していなかった。投げ落としたケースは空だったのだ。
侯爵葬儀のとき、ファントマはリボナールがつかまったままの鐘を思い切り鳴らして殺す。参列者は奪われた宝石が落ちてきてビックリ。
リボナールはファントマの名を言い残して死んだ。具体的にどのようなかたちで命を落としたのかについての描写はない。
ベルギーから服役中のファントマが移送されることになる。
ポレと仲間が放浪罪で逮捕され、予審判事の元に連れて来られた。ファントマは二人に移送されてくる自分の身代わりを始末するよう命じたうえで釈放する。
ファンドールは予審判事の宿に忍び込み、寸法の違い調節するため帽子の内側に紙が貼ってあるのを見つけた。不審に感じたファンドールは警察に頼んで調査させる。
一方、侯爵夫人は50万フランの支払いを1日待ってもらいに来た。ファントマは彼女の小間使いローザに接見しポレから預かった金を出させて逮捕する。
ファンドールはポレたちを尾行し、わざと二人の目の前で偽の記事を書いてサン・カレにおびき寄せる。
罠にかかった二人は移送される囚人に化けたファンドールと刑事たちに逮捕された。
再び判事の元に連行されるポレたち。偽判事もさすがに今度は釈放できない。
ファンドールは検察官にプラディエこそファントマではないかと相談する。
侯爵夫人が集めることのできた金額は50万フランに満たなかったが、ファントマはその額で取り引きする。
ファントマは高飛びしようとするが、検察官から外出禁止の命令が出されたため守衛にとめられてしまう。
囚人から元に戻ったジューヴはファンドールと警官を引き連れ、ファントマを逮捕して留置場に入れる。
だが、その夜ファントマの姿は消えていた。自分の逮捕を知ったファントマは、あらかじめ看守長に逮捕されるファントマはジューヴ警部の変装なので夜のうち極秘裏に釈放するよう命じておいたのだった。
ジューヴ警部のバカ大爆発ぶりが圧巻の作品。警部自ら身代わりとなってファントマを逃がし。次々と犠牲者を出すとんでもない展開。
これでは4作目で逮捕されたままのほうが良かった気になってくる。
一方、金のために平気で手下を裏切るファントマは、当然のことながら手下たちから信用されていないことが判明。こちらもかなり情けない。
フレンチ・ノワールの先駆けといえるような犯罪ドラマ・シリーズなのかもしれないが、カリスマ性のないキャラクターばかりなのでアルセーヌ・ルパンのような不動の人気を得られなかったこともうなずける。
ジャン・マレー(ファントマ、ファンドール二役)とルイ・ド・フィネス(ジューヴ警部)が主演したコメディー・シリーズ(最初の2作は面白かった)があったため、かろうじて名をとどめている印象が強い。
ファントマの偽判事