原題 ; SOMETHING THE LORD MADE(2004) |
監督 ; ジョセフ・サージェント |
脚本 ; ピーター・シルヴァーマン、ロバート・キャスウェル |
音楽 ; クリストファー・ヤング |
出演 ; アラン・リックマン、モス・デフ、メアリー・スチュアート・マスターソン |
チアノーゼの治療法研究を裏方として支えた黒人助手を描くテレビ用の伝記ドラマ。スターチャンネルでは「奇跡の手/ボルチモアの友情」のタイトルで放映された。 黒人青年ヴィヴィエン・トーマス(モス・デフ)は若いわりに腕のいい大工だが、人員削減で首になり、ヴァンダービルト大学病院のアルフレッド・ブラロック博士(アラン・リックマン)に雑用係として雇われる。 仕事は実験用に集められた犬の世話だった。 病院の仕事が決まったと聞いて恋人のクララ(ガブリエル・ユニオン)は大喜び。 ヴィヴィエンは医者になるのが夢だったが、不況のため大工の仕事に就いたという過去があった。 ブラロック博士は外傷性ショック死の治療について研究している。 ヴィヴィエンが器用なことを知ったブラロック博士は彼を助手に採用した。 不況がは悪化し、銀行が倒産したためヴィヴィエンが7年かかって貯めた学費資金が無くなってしまう。 ヴィヴィエンはブラロック博士の指導により犬を手術して外傷性ショックの研究を手伝う。 ブラロック博士は従来の方法を変え、犬に輸血して回復させた。 ヴィヴィエンが実験記録用のスモークドラムをセットしていなかったので、ブラロック博士は癇癪を起す。 あまりの暴言にヴィヴィエンは実験室を出ていく。 ヴィヴィエンが出て行ったあと、彼が実験の記録を正確にメモ書きしていたことを見つけたブラロック博士は、慌てて追いかけて謝罪する。 ブラロックの新しい治療法は戦争で多くの兵士を救った。彼はボルチモアのジョンズ・ホプキンズ病院に外科部長として招かれる。 パーティでタウシング女史から当時不可能と言われた心臓の外科手術に言及されたブラロック博士は、その可能性について考え始める。 ボルチモアにはヴィヴィエンも同行していた。クララはボルチモア行きに反対で元の暮らしに戻りたがっている。 ブラロック博士はヴィヴィエンとともに仕事をするため、もっと大きな仕事を断わってボルチモアを選んでいた。 病棟には心臓奇形のため肺に十分な血液が送られず、チアノーゼを起こして青い顔になったブルーベイビーと呼ばれる子供たちが入院している。サクソン夫人の赤ちゃんもその一人だった。 まず、肺への血流が阻害される症状を犬で再現するという難題をクリアしなければならない。 周囲はリスクが多いと忠告するが、ブラロック博士はそれこそチャンスだと意気込む。 3ヶ月経ったが成果はなかった。病状を再現できず実験用の犬を死なせてばかりいた。 ブラロック博士は動静脈の吻合(ふんごう)をヴィヴィエンに指示する。 ヴィヴィエンは人工呼吸器を手作りで試作した。 ヴィヴィエンを兄ハロルドが訪ねてくる。彼は人種差別による給料格差について裁判を起こしていた。 自分が職務資格上は清掃員として扱われ、給料の等級も低いことを知ったヴィヴィエンは仕事をボイコットする。 家賃の足しに大家の仕事をしなければならないのだ。ブラロック博士はヴィヴィエンが退出する前に犬の手術に成功していたことを知って驚く。 ブラロック博士は学長に談判しヴィヴィエンの昇給を認めさせた。 ブルーベイビーを治療するには肺への血流を増やさねばならない。二人は血管のバイパス手術について検討する。 難手術だが、ブルーをピンクに変えるには成功させるしかない。ヴィヴィエンは見事な指さばきで犬での手術を成功させた。 ブラロック博士はサクソン夫妻を説得する。 ところが手術した犬の吻合部が切れて死んでしう。身体が成長しても糸が伸びないため切れてしまうことに気づいた二人は、新たな縫合方法で犬の手術に成功する。 「心臓には触れるな」という外科医師界のタブーへの挑戦だった。身の保全を考えれば早すぎる挑戦かもしれない。だが、サクソン夫妻の赤ん坊には死期が迫っていた。 資格のないヴィヴィエンは手術を執刀できない。ブラロックは踏み台を用意させ、ヴィヴィエンに指示させながら手術を進める。 赤ん坊の血圧は下降を続ける。縫合が終わり、触診しても血管が細すぎて血流は感じられなかった。その時、赤ん坊の顔に赤みが差してきた。 手術は成功だった。初めてのブルーベイビー症治療は脚光を浴びるが、黒人であるヴィヴィエンは、スタッフの集合写真に参加することもできない日陰の身だった。 手術成功を祝うパーティに参加できないヴィヴィエンは、給仕として潜り込み様子をうかがう。ブラロック博士のスピーチにもヴィヴィエンの名は登場しなかった。 ブラロックに失望を感じたヴィヴィエンは退職を決意する。ブラロック博士はヴィヴィエンを説得しようとするが彼は出ていく。 ヴィヴィエンは医者の資格を取るため、試験だけで大学卒業の認定を受けようとするがうまくいかない。結局、彼は医薬品の営業マンになった。 訪問先にヴィヴィエンの偉業を知る黒人医師がいた。ヴィヴィエンは自分が目的を失っていることに気づく。 ヴィヴィエンはブラロック博士を訪問、以前の研究に戻ることにした。好きなのは教授ではなく、研究なのだと言う。 時は流れ1964年となった。ヴィヴィエンは自分の研究室を持つまでになっていた。 ブラロック博士は車椅子の身となっており、以前の元気はないが、相変わらずヴィヴィエンを頼りにしていた。 コロンビア大から誘われたブラロック博士は、ヴィヴィエンの同行を望むが、ヴィヴィエンは断る。 ヴィヴィエンは若い医師の指導に生きがいを感じていた。 後悔は私にもある。だが、多くのことを成し遂げ、多くの命を救った。ブラロック博士は、そう言って去っていく。 ヴィヴィエンにブラロック博士の訃報が届いたのは、そのすぐ後だった。 やがてヴィヴィエンはジョン・ホプキンズ大学から名誉博士号を授与された。 ヴィヴィエンは家族とブラロックに感謝を述べる。客席ではクララが微笑んでいた。 学内にヴィヴィエンの立派な肖像画が学内に飾られることになった。 ラストシーンでは本物のブラロック博士とヴィヴィエン博士の肖像画が紹介される。 「アメリカを震撼させた夜」「サブウェイ・パニック」などで注目を浴びたものの後が続かず、シリーズ最低作といわれてしまった「ジョーズ’87復讐編」以降、表舞台から姿を消してしまった感のあるジョセフ・サージェント監督。 現在は作品のほとんどがテレビ用だが、日本にも「さらば愛しのキューバ」などの佳作が紹介されている。 この作品もなかなか良い出来で人種差別にあいながらも、手先の器用さを活かし、医療技術の発展に貢献した主人公の姿が、手堅い演出で描き出されている。 出演のモス・デフはラップ・ミュージックも手掛けるマルチ・タレントらしい。抑えの効いた演技で、アラン・リックマンと堂々渡り合っている。 |