和製シネ・ジャズ&フュージョン(Vol.1)
白昼の襲撃(1970)
アナログ盤シングル
作曲は日野皓正、演奏も彼のクインテット。
A面が「スネイク・ヒップ」、B面に「白昼の襲撃/テーマ」が収録されている。
当時は内田裕也率いるフラワー・トラベリン・バンドとコラボを組むなど意欲的な活動を行っていた日野皓正らしく、「スネイク・ヒップ」はロックっぽいテンポに激しいトランペット演奏の力強い演奏を繰り広げる曲に仕上がっている。
「白昼の襲撃/テーマ」はラストに銃撃戦や叫び声を効果音に使っているのが印象に残る、ちょっとスローテンポでブルージーな曲。
作品は東宝製青春ハードボイルド・アクションで、日活や東映のようにアクション映画の根付くことのなかった東宝だが、本作や山本迪夫監督の「野獣の復活」などの佳作がある。(まあ「ザ・ゴキブリ」「ゴキブリ刑事」なんて愚作も東宝だけど)
全体的に他の2社に比べ都会的で洗練されたアクションというイメージが強い。
黒沢年男、高橋紀子、岸田森、緑魔子という出演陣も魅力で、岸田森扮するギャング組織の幹部が実は要人暗殺を謀る革命家、という設定が印象的で学生運動が活発だった時代性を感じさせる。
その正体を知った組織が幹部を抹殺、主人公たちも破滅へと突っ走っていく、という展開が熱く描かれていた。

3000キロの罠(1971)
アナログ盤アルバム
作曲は前田憲男。
「死刑台のエレベーター」を彷彿とさせる本格的サントラ・ジャズ、というキャッチ・コピーはやや大げさな気もするが、演奏・録音とも悪くない。
演奏メンバーがクレジットされていないのが残念。
「ハイウェイの影」「待っていた女」「謎の女」「薄幸の女」4つのテーマのヴァリエーション12曲からなるアルバム。
作品全体のテーマ曲となる「ハイウェイの影〜メイン・テーマ」が力作だが、ミステリアスな雰囲気を盛り上げる「謎の女〜罠!?」やアップテンポな曲調にピアノソロが冴える「待っていた女〜メイン・テーマ」などそれぞれが聞かせる。
ちょっと残念なのはセッションっぽい演奏の曲が多く、強く印象に残るメロディがないこと。
作品自体は自家用車の陸送を依頼された主人公が陰謀に巻き込まれるという笹沢佐保原作のB級サスペンスで、主演の田宮二郎が製作も担当した。
冒頭、車を見た主人公がスペックを一通り暗誦したうえで「素晴らしい!」と感嘆する自動車メーカーとのタイアップ振りが印象的。映画製作における資金繰りの辛さを窺わせる場面だった。

魔界転生(1981)
アナログ盤アルバム
作曲は菅野光亮(かんのみつあき)、尺八の第一人者山本邦山、デジタル・ミュージックの高橋五郎。
尺八の第一人者山本那山を全面的にフューチャー。ロック調のフュージョンに和楽器、シンセサイザーを織り込み、映画同様の幻惑的な世界を作り上げた。
尺八のソロから始まりテンポの速い演奏が盛り上がる「転生Part T」、叫び声や風の音を効果音に使用したちょっとマカロニ・ウェスタン・タッチの「地獄篇第五歌」、軽快な「転生五人衆」、文字通り哀切感に満ちた「哀歌」、曲の美しさが光る「心」など印象的で聴き応えのある曲が揃い、独立したアルバムとしても楽しめる出来栄え。
「炎・ガラシヤ」は「砂の器」の「宿命」に似たメロディのピアノ・ソロ曲になっているのがご愛嬌。
菅野光亮の代表作はなんといっても「砂の器」のために作られたピアノと管弦楽のための組曲「宿命」だが、他にも「鬼龍院花子の生涯」「天城越え(1983)」など優れた作品が多い(加山雄三版のテレビ「ブラック・ジャック」も手がけたとか)。1983年に44歳の若さで亡くなっている。
もともとソフト化された作品が少ないし、本作も知っている限りではCD化されていない。
どこかで作品全集とかリリースしてくれないだろうか.。
山田風太郎による原作は本作以後、ビデオ用ドラマ、アニメ、映画版リメイクと映像化され続けている人気作。
原作は読んでいないのだが、本作の試写を観た原作者があまりのストーリー変更に憮然として席を立ったというエピソードがある。
2003年のリメイクは(原作に忠実かどうかは知らないが)丁寧な演出で映像技術も進歩していたが、演出の歯切れ良さやキャスティングの魅力で深作版の方が一歩勝っていたと思う。特に当時の沢田研二はスターとしての輝きがあり、妖しげな天草四郎振りが見事だった。