『荷電粒子砲の登場     作:ミッキー   戻る

 レーザー兵器が実用化されてからというもの、暗視ゴーグルのたぐいは非常に危険な代物となった。レーザーの集束率を下げて暗視ゴーグルをつけた敵兵達に向けて撃てば、暗視装置の増光機構がそれを極度に増幅することになるからだ。

 あまりの眩しさにしばらく何も見えなくなるのはもっとも軽微な損害だ。暗視ゴーグルが過大な負荷で焼き切れ、強力な光で失明もしくは視力の低下を招く事が多い。
 (20世紀末に開発された初のレーザー兵器は、歩兵を失明させるためのものだった。より高い技術で作られたレーザーの影響は容易に想像できるだろう)
 無論、これらのゴーグルには安全装置がついているのが普通だが、それにも限度が有る。だから、赤外線型にしろ、増光型にしろ、敵に見つかったら素早く外さなければならない。

 また、非常に高い安全装置が組み込まれ、レーザーの余波で焼き切れる事のない高級暗視ゴーグルを装備していてもこれは変わらない。射線上に有った空気や流れ弾の着弾点にしばらく滞留する高熱。あるいはかすった可燃物の燃焼。これらが、スターライトスコープや赤外線暗視装置に対する効果的な目潰しとなるのだ。
 指揮官によっては、失明の危険を嫌って、暗視ゴーグルを極力つかわせないことも多い。むしろこの手のゴーグルに求められているのは、目をかばうサングラス的な役割なのである。

 対人用レーザーがこれなのだから、バトルメック用のレーザーなどはさらに凄まじい事になる。フェロクリート(コンクリートの上級素材)に撃ちこんだ時ですら、内部の僅かな水分を急激に膨張させ、凄まじい爆発を引き起こすほどのレーザーなのだ。戦場で対メック戦闘を要求されるような歩兵が最初にしなければならない訓練は、エネルギー兵器の気配を敏感に察知し、適切に目を閉じて失明を防ぐ事なのである。

 
 さて、ここまで歩兵とレーザーに関してのみ書いてきたが、これは通常の戦闘機械にも当てはまる。
 エネルギー武器の黎明期。通常兵器のセンサーは、どれだけ高感度で高精度か、どれだけ軽量コンパクトかということが性能の基準であった。
 こういった方向性は、センサーを小型化し、繊細な物にと変えていった。むろん、多少のECM対策もされていたが、優先度は低かった。
 そこに現れたのがエネルギー兵器・・・特に、荷電粒子砲である。

 その日・・・ある要塞攻撃に出発した戦闘機や爆撃機、合計1個連隊の大編隊が飛行する天空を紫電の稲妻が貫いた。
 要塞の砲台にすえつけられた漆黒の大砲。ミサイルが遠距離攻撃の主力となっているこの時代には、なんともそぐわないその大砲から戦闘機の群へ、一筋の荷電粒子の奔流が放たれたのだ。

 直撃を受けた連隊指揮官の乗る戦闘機は一瞬で金属蒸気を撒き散らして消滅した。贋行陣で両脇を飛んでいた戦闘機は、蒸発した隊長機の爆風に巻き込まれて爆散し、細かな金属片となって散らばり、後続機を巻き込んで落下していった。一撃で、五機もの戦闘機が撃墜されたのだ。
 だがこれは、戦果の極一部でしかなかった。

 荷電粒子砲とは、イオン化した微細な粒子を電気的・磁気的に加速し、束ねて高速で撃ち出し、衝撃と熱によってダメージを与える兵器で、イオンロケットエンジンの応用兵器だ。短時間に、大量のイオンを集束させて撃ち出さなければならないという点が異なる。

 放たれたイオン流が射線上の空気と衝突する。衝突したイオンの奔流が、身の内に蓄えられたエネルギーを周囲に拡散させる。それは、荷電粒子砲から放たれたイオンの奔流から、大量の電磁波を周囲に撒き散らす事を意味した。
 電波、赤外線、可視光線、紫外線等等、広範な電磁波が撒き散らされた。しかもその強度は、戦闘機を一瞬で蒸気に変えるほどの出力を背景にしているのだ。
 
 全ての電磁波センサーに対して、凄まじいジャミンが行われたに等しい効果があった。一個連隊の戦闘機全てが、その影響を受けた。
 無数のセンサーがブラックアウトし、有視界での操縦を余儀なくされる。
 しかし、頼みの綱の有視界飛行すら不可能だった。強力な可視光線によって、彼らの肉眼はセンサーと同じくブラックアウトしていたのである。

 だが、荷電粒子砲の恐ろしさはこれだけではない。

 言うまでもなく、イオンとは電荷を持っている。それが高速で動くという事は、フレミングの法則によりその周囲に強力な磁界を生成する事を意味する。
 強力な磁場にさらされてプログラムが破壊される。強力な電波が繊細な電子回路に想定外の電荷を与えてハングアップ(電線を鉛筆に巻いて作ったコイルの両端を電球につけ、軍事基地等の強力なレーダーの周りに持っていくと、電池もつけていないのに明かりが点ります。粒子ビーム砲は、遮蔽が充分ではない電子回路に、同じような効果を与える事が可能なのです)させる。
 ある機体は翼のミサイルが誤爆して片翼を失った。ある機体は燃料供給がストップして推力を失った。ある機体は自爆装置が作動して爆散した。ある機体は敵味方識別と自動攻撃装置が暴走し、前方の友軍機にミサイルを放った。


 計器がブラックアウトし、視力を奪われ、コンピュータが次々と誤作動を起こす状態でパイロット達に何が出来たであろう?

 この日、要塞からただ一度放たれた荷電粒子砲は、一個連隊の戦闘機を全滅させたのである。


 
 軍上層部と、軍需物資産業のトップ達は、この報告にパニックを起こした。そして、大慌てで命令を下した。この兵器に対抗しうる方法を開発せよ、と。

 荷電粒子砲に強いセンサーとコンピュータ。
 それが意味することは明白だ。
 概存の赤外線センサーも電波レーダーも使い物にならない。当然、電磁波誘導兵器であるミサイルも使えない。これらは、軽量化のためにぎりぎりまで小型化されており、対ECM遮蔽などほとんど考えられていなかったのだから。あえて赤外線センサーや電波レーダーを使えるようにするには、射線上や着弾点から発せられる強力な赤外線や電波に耐えうる頑丈さと、それらの反応を補正して削除し、目標の発する比較的僅かな赤外線や電波を感知する強力な解析能力が必要である。強力な磁界に対する遮蔽も当然ながら必要だ。
 
 頑丈さは鈍さに直結し、感度の低下を招いた。強力な解析能力の要求は、大きなコンピュータの搭載を強要した。
 軽くてコンパクトなセンサーは戦場から姿を消し、あらゆるセンサーが頑丈で鈍く、信頼が置けなくて重いという代物となった。
 コンピュータは何重にも遮蔽された重苦しい物となり、ミサイルは信頼のおけないロケット弾まがいの物に成り下がった。レーダー射撃は廃れ、遠距離間接砲撃は精度を失い、携帯センサーは補助的な物となった。航空機は軽く脆弱な遮蔽しか装備できないために一線を退き、気圏戦闘機の登場を待つことになった。

 これらの理由により、超遠距離からの精密な攻撃は不可能となり、バトルメックという挌闘戦兵器の台頭を招く事になるのである。
 今日、粒子ビーム砲がバトルメックの花形火器である理由は、その威力に有るのではない。挌闘戦を在来兵器に強いる最も有効な防御装置であり、バトルメックの存在意義その物だからなのだ。

 

追記:バトルテックが有視界戦闘である理由を考えた、俺なりの解釈です。公式のものではありません。それと、今回出てきた荷電粒子砲は、要塞用の試作型ですので、規格外です。戦艦用の粒子ビーム砲(3000トン、ダメージ150点)よりも重いかも知れません。効率がどうなっているか、性能諸元などはおいておいてください。少なくとも、わずか数ミリのジュラルミン装甲しか装備していない現代の戦闘機は一瞬で蒸発するでしょう。