ミサイルと間接砲・爆弾の誘導方法について 作:朽木  戻る

 現在の時点でミサイル等の誘導方法として現在使用されている物は主に下記の通りである。

 手動指令(コマンド)方式、半自動誘導方式、レーザー誘導(セミアクティブorビームライダ)方式、GPS誘導方式、INS誘導(慣性誘導)方式、ラジオ誘導(無線操縦)方式、オートパイロット(プログラム)方式、TV誘導方式、パッシブ誘導方式、アクティブ方式。

 なお、データライブラリ内の軍事知識講座にほとんどの誘導方式については説明があるため、ここでは主にATMと爆弾に使用される誘導方式について述べる。


各誘導方式の利点と欠点

手動指令(コマンド)方式

 この方式は、時代的には1950〜60年代に開発されており、誘導には有線又は無線を使用する。
 誘導要領としては、射手(専属の誘導手の場合もあり)がミサイルと照準装置の両方を目視しながら、ミサイルが目標に向かうよう手で誘導する物である。
 つまり射手が照準眼鏡により目標を照準しながら、ミサイルを誘導し、この照準上にミサイルが来るように誘導するのである。
 そのため誘導要領は難しく、移動目標に対する命中精度は余り良くなく、射手は特殊な訓練を必要とする事が多い。
 実際の兵器としては初期のATMに良く使用された方式であり、対艦兵器としてもWW2時にドイツ軍が実用化している。

 この方式は低技術レベルでも開発が可能であり、製造も容易である。また構造が比較的簡便なため、損傷した装備を現地で修復する事も不可能ではない。
 しかし、射手がミサイルと目標を同時に目視しながら誘導を行わなくてはならないため、実戦で使用できるレベルの射手を育成するには非常に時間を必要とする。
 また、誘導方式の関係上、移動目標に対しては、命中させる事が難しく余り有効ではない。最も直進する目標で有れば、射手が偏差を計算する事により命中させる事は可能であるが、戦場で直進するような目標は少ないため、余り実際的ではない。


半自動誘導方式

 この方式は、1970年代に開発され、主にATMに使用されている方式で、基本的には有線誘導で初歩的なコンピュータを必要とする。
 「手動指令方式」と異なり、射手がミサイルを直接誘導する必要は無い。射手は目標を照準しつつけるだけで良く、そのため移動目標に対してもかなりの命中精度を持つようになっている。
 ミサイルは、ミサイル尾部の赤外線源を頼りに自動的に追尾され、ミサイルと照準装置の視線との差異が自動的に計算され、誘導用ワイヤを通じてミサイルに誘導信号として伝達されるシステムである。
 このシステムを一般的にSACLOS(半自動指令照準線一致)方式といい、操作が簡単でありながら命中精度が高いため、多くのATMに使用されている。
 ただし有線による誘導の関係上、射手(発射機)以外からの誘導は技術的困難が大きい。だが計算を行う電子装置の性能によっては数百m程度発射機と誘導手の位置を離隔する事も可能である。

 この誘導方式を使用するミサイルの開発・生産には中レベルの基礎技術力を必要とするが、比較的生産・維持は簡単である。
 しかし誘導装置が射手とミサイルの差異を計算、誘導指令を行うため、初歩的なコンピュータを必要とし、損傷した装備をその場で修理する事はコンポーネントの交換以外ほぼ不可能である。
 その反面、射手の練度がそれほど高くなくても、十分な命中精度を得る事が出来、移動目標に対してもかなりの命中精度を期待できる。


レーザー誘導方式

 この方式は、通常セミアクティブ・レーザー方式やレーザー・ビームライダ方式が用いられている。

 この誘導方式では、手動指令方式や半自動誘導方式と異なり、照準装置側で誘導を行わなず、発射されたミサイルや爆弾自身が安定翼を使用した自己誘導を行う。そのため有線又は無線といった誘導信号を使用せず、ミサイルの飛翔速度を高速に設定できる利点も存在する。
 その代わり、目標に命中するまでレーザー光線による照準・誘導が必要である。なおレーザー光線は通常不可視帯域を使用している。これは可視光線帯域では目標がレーザー照射されている事に気が付く可能性が高いためである。
 
 セミアクティブ・レーザー誘導はミサイルだけでなく、爆弾や砲弾にも利用されているが、レーザー・ビームライダ方式はATM以外ではまず使用されていない。これは両者の誘導方式の差による物で、ビームライダ方式では自由落下させる爆弾には適用しにくいからである。

 セミアクティブ・レーザー誘導では、射手と照準手が数キロ程度離隔していても全く問題はない。
 射手は武器を発射・投下するだけであり、別の照準手が目標にレーザーを照射する事により武器を誘導する。
 武器はは誘導用レーザーの反射波源を目指して自己誘導を行う。また照準手=射手であっても全く問題はない。
 この方式はレーダー波の代わりに使うのがレーザーで有る以外は、AAM(空対空ミサイル)のセミアクティブ誘導方式と全く同一である。
 
 レーザー・ビームライダ方式も、目標にレーザーを照射しその反射波を利用して誘導を行うが、セミアクティブ方式とはやや異なる。
 セミアクティブ方式では「反射波源を目標」として自己誘導を行うが、ビームライダ方式では「反射波に乗って」ミサイルが飛翔する。
 そのため、発射機と誘導装置が余り離れている場合、反射波に乗る事が出来ず、誘導できない場合がある。

 なお、照準用のレーザー光線は目標に照射されると、ある一定範囲に反射・拡散する(通常反射光を中心とした円錐形)。この範囲をレーザー反射コーンと呼び、レーザー誘導方式の場合、この範囲内に入らない限り全くの無誘導となる。
 このため、レーザー誘導爆弾を使用する場合、確実な投下を行うためには自機をレーザー反射コーン内まで操縦するか、反射コーン内へ爆弾を投下する必要がある。またペイヴウェイ誘導爆弾はこの反射コーン内へのトス爆撃を行いやすくする設計をされており、最新型では安定翼・誘導翼の効果で15〜6km近く飛翔出来るようになっている。
 ミサイルの場合も、当然ながら飛翔中に反射コーン内へ入るように発射しない場合、誘導をされない状態となる。
 そのためレーザー誘導方式の対艦ミサイルや巡航ミサイルの場合、中期誘導まではGPSやINS、プログラムといった他の方式で行い、終末誘導のみをレーザー誘導で行うのが一般的である。

 また、誘導用のレーザーは、航空機に搭載される物から人力搬送可能な物まで数十種類存在する。通常、航空機に搭載される物が最も性能が高く、長距離からの照射が可能である。
 航空機用では最大で30km程度の照射能力を持つが、通常このレベルの機材は長距離侵攻用の航空機に搭載されている。多くの機種では20km程度の照射能力を持つのが一般的である。
 戦闘ヘリや車両に搭載されている物は最大で10km程度の照射距離を持つが、多くの照射器では7〜8km程度の照射距離が一般的である。
 人員用の物としては最大2〜3km程度で長時間の照射が不可能な物が一般的である。


パッシブ誘導方式(対レーダーミサイル)

 この方式は対レーダーミサイルや一部の対艦ミサイルに使用されている。
 基本的には目標の発するレーダー波を誘導信号として利用する方式で、発射母機からの誘導を全く必要とせず、完全な撃ち放し性を持つ。
 初期の物では、レーダー波の発進を停止されると誘導が出来ず、自爆したり大きく外れる物が多かったが、最近の物は電波発信源の位置を記憶し、誘導波が途切れてもその座標へと自己誘導を行う物が一般的になりつつある。