「また・・・これか・・・」
深いため息をアーバイン軍曹は呟いた。
それを咎める者は誰もいない。
何分、誰もが程度の差こそあれ、同じような呟きを洩らしたり、盛大なため息をついたり・・・どちらにせよ似たような気分だったからである。
彼等の目の前にあるのは・・・各自数個の缶詰、それだけであった。
人間が戦場で楽しみなのは寝る事と食事だけだ、って言ったのは誰だったか。
その内の片方に楽しみを見出せないような食生活がここ最近続いていた。
元々は、些細な事であった。
彼等の傭兵部隊は、この惑星の森林地帯に程近い前線基地に駐留していた。
仕事自体はすでに自分達より明らかに劣る戦力しか残ってないリャオ軍の残党に対する睨みである。
既に他の正規・傭兵部隊も含めた作戦によってこの惑星に駐留していたリャオの部隊は大半がこの星系から脱出。
残っているのは脱出し損ねて、山岳地帯と森林地帯の奥深くに僅かに残った残党のみ。
それらも完全に稼動するメックはそれぞれ1個小隊程度。
1個中隊規模の部隊をそれぞれ監視に貼りつけて、本隊は既に次の作戦の為にこの星系を離れていた。
彼等は時間をかけて、焦らず攻略していく事になっていたのだ。
現状は、既に無理に攻略を進めて、損害を出す必要のない段階に来ていたのである。
残っているのは傭兵部隊所属が大半らしく、放っておいても契約期間が切れた段階で彼等は降伏するだろう、そして僅かなリャオ正規軍では、それを食い止め切れないだろう、と見られていた事も大きい。
で、ただ駐留して、時折様子見程度にやって来る敵部隊をやはり適当に相手して追い払ったりしていたのだが・・・。
ある日の事である。
たまたま基地に射程を越えて飛び込んだ1発の長距離ミサイル。もちろん、照準などつけられた段階ではなく、それどころか整備状況の悪化で暴発した1発らしい事が間もなく判明したのだが、とにかくその1発が炊事場に飛び込んだのである。
悪い時には悪い事が重なるもので、当時炊事場は夕食の支度の真っ最中、加えて、炊事場で使用する燃料に引火したのである。
これによって、不幸中の幸いというか死者こそ出なかったものの賄いを担当する調理班は全員が入院する事になり、後方に輸送されていった。
そして・・・後に残されたのは、料理などした事もない1個中隊相当の傭兵部隊の人員のみ。
しかも、少なからぬ食材も吹き飛ばされており、残っていたのは賞味期限ぎりぎり、場合によっては当に切れた缶詰の類のみ。
かつてリャオの基地であった、ここを落した際、残されていたのだが彼等と違って新鮮な食材が供給されていた連邦軍においては倉庫にしまわれていた。
それ故に炊事場に隣接していた食料庫と共に吹き飛ばずにすんだのだが・・・。はっきり言って、あれからずっとしまわれていた缶詰は・・・これまでの食生活を考えればお世辞にも美味いとは言えなかった。しかも、同じような缶詰ばかり・・・では、飽きるのが当然だろう。
かくして、冒頭の呟きへと繋がるのである。
それでも食べるものはこれしかないのである。
後方に連絡して、食料事情の改善を要求したのだが、既に計画がきっちりと組まれていた為、なかなか送られてこなかった。軍隊も結局は官僚組織なのである。そして同時に後方にもさすがにそう調理担当はそう余裕はなかったのである。・・・戦車兵とか医療兵なら後方も考えていたのだが、まさか調理係とは!
そうして・・・こうした積み重ねの結果、あの悪夢の事態へと繋がる事となったのであった。