『アーバインの受難2』  作:MT.fuji   戻る  トップへ



「う〜ん・・・なんで、こんな事になったんだろう?」

55トンの高機動メック、バーグラーの操縦席にてアーバインはなんか納得がいかない、とでも言いたげな様子で敵からの攻撃に反撃していた。
『敵は傭兵部隊で、もうじき契約期限が切れて降伏する』
『せいぜい敵の部隊は双方とも1個小隊程度』
なんて言ったのは、どこの馬鹿だ?誰がその情報を確認したんだ?
こちらの稼動メックは1個小隊程度、一方、今前線基地に迫ってきている敵は1個中隊弱。しかも、相手はれっきとしたリャオの正規軍ときたもんだ。当然ながら、傭兵なんぞと違って士気は比較的高い。
「ちくしょう、この戦いに生き延びたら、報酬の値上げ要求でもせんと割りに合わん」
そう呟きながら、アーバインはPPCの発射ボタンを押した。

そもそもの始まりは食事であった。
食事は不味かった・・・だが、食わない訳にはいかない。嫌がったって、食わなけりゃ死んでしまう。
電子レンジすら吹っ飛んでしまったし、かといって、部隊全員分の食事を(それも缶詰を!)暖めるのも無理な相談だ。
だから、出来たのは、せめて飯盒で炊いた暖かい御飯が各人一膳だけだった。
「まさか、こんなもん使うハメになるとは思わなかったぜ」
とは、実際に木を拾ってきて、御飯を炊くハメになった隊員達である。
もっとも、御飯は少なからぬ量がお焦げとなってしまったようだったが。

事件はその後に起こった。
隊員達が夕方すぎくらいからトイレに駆け込む者、強烈な腹痛で医務室にて寝込む者が続出したのである。
彼等を調べた軍医は即座に断定した。
「食中毒じゃな、これは」
間もなく、本日の缶詰からO157系、と呼ばれる大腸菌が発見された事によって原因は速やかに判明した・・・のであるが。隊員の過半が食中毒で戦力外、となった状況は変わらなかった。
拙い事に食中毒で倒れた中に隊長を含むメック戦士全員が含まれていたのである。
とりあえず、比較的症状が軽い者を残し、重症のものは調理班同様後方送りとなり、さすがに後方支援本部においても食事状況の改善とメック戦士の増強を含めた早急な改善計画が立てられた・・・のだが。

アーバインは比較的軽症で済んだメック戦士の一人であった。
偵察兵として特殊訓練を受けていた事も多少は影響していたのかもしれない。
なので、この前進基地に残された1個小隊相当のメック戦士の一人としてなんとか守り切らねばならない立場にあった。
まあ、敵も同程度の部隊と予測されていたし、支援部隊もあったのでなんとかなると思っていた・・・。
「坊ちゃん」
物思いにふけっていたアーバインを我に返らせたのは、横からかけられた声だった。
彼をこう呼ぶのは一人しかいない。
横を見ると、案の定、そこにいたのはアーバインの郎党の一人、グレンダン曹長だった。
偵察兵としてはアーバインの教師というべき立場の熟練の偵察兵であり、整備兵としてもチーフ並の実力を持っている。加えて、アーバインを赤ん坊の頃から知っているベテランでもあり、アーバインからすれば『坊ちゃん』などと呼ばれるのは恥ずかしかったのだが・・・昔から彼は呼び方を変えようとしない。
「頼むから坊ちゃんなんて呼ぶのは止めてくれ」と言っても。
「ああ、昔、おしめを換えてた頃は、もっと素直だったのに・・・」などと言われると、何を言えというのだ。
最近では、アーバインもすっかり諦めていた。
「敵が迫ってます」
だが、その言葉でアーバインの休んでいた頭が一気に目が覚めた。
「敵が!?」
小声で聞き返す。
「だけど、仮にも傭兵もこの状況下で敢えて反撃してくるのか?
そんなに義理堅いとも思えないけど・・・」
「敵は傭兵じゃありません」
「えっ?」
「リャオの正規軍です」
しばらく、ア−バインは呆然としていた。それでも、何とか態勢を立て直すと、聞き返した。
「で、でも、敵の正規軍は既に撤退して、残ってるのは・・・」
「と、誤認してたんですな。
おそらくは、撤退してったのが、契約破棄した傭兵部隊だったんじゃねえかと、思います。
それに・・・敵部隊の規模も違います。
バトルメックが推定で10機あまり。1個中隊弱ってとこです。
先程、飯炊き用の薪拾いに出かけて、その途中で見っけたんで確認しました。間違いありません」
それ以上はアーバインは問わなかった。
「すぐ、メックの稼動準備に入ってくれ!
俺は小隊長のとこに連絡に行ってくる!」
「了解・・・って、もう準備は言っときましたけどね」

部隊は大騒ぎになった。
当然だろう、グレンダンは熟練の偵察兵であるからその報告は信頼度が高かったし、万が一誤りだったとしても、現在の基地の状態と敵戦力を考えると迎撃準備をせざるをえない。
おまけにその後の確認で、グレンダン曹長からの報告が確実である事が判明してしまった。
「とにかく、だ。
今回の一件は明らかに恒星連邦本隊の失態だ。いや、正確には情報部の失態というべきか」
青い顔をした臨時小隊長、ゲリング中尉は言った。
元々、こんな事態は想定していなかった。
なんとか動ける者の中で1番階級が高かったので、臨時小隊長を命じられただけで、それも後方から増援部隊が到着するまでの繋ぎであったはずなのに・・・。
「だから、今回は後方からもえらい豪勢な報酬を約束してくれた。
とにかく敵の部隊を追い払いさえすれば、ぶっ壊れてようがメックは修理する。報酬も増額する。
装甲板や弾薬の補充も受け持ってくれるとさ」
後方には、恒星連邦の今回の侵攻作戦の物資集積所の一つがある。
ここを撃破されたら、前線には多大な影響が出る事になる。
おまけに、この前線基地を抜かれたら、そこまで遮るものがロクにないときている。後方支援基地としても必死だった。
「どのみち・・・やるしかないからなあ・・・」
深々と中尉のついたため息が部隊全員の気持ちを表していただろう。
それからおよそ1時間後・・・敵の総攻撃が始まった。

これが惑星ロアノーク攻防戦における最大の激戦となるとは誰も予想していなかった。

備考:バーグラー簡易データ

55トン
移動力5/8/5、装甲168点
PPCX1
SRM6X1
MLX2
総放熱器数12
詳しくははじめさんのBCGをご覧ください。

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