『アーバインの受難3』  作:MT.fuji   戻る  トップへ


頭上を白煙を引いて、幾つもの飛行体がバーグラーに乗るアーバインの上空を駆けていった。
多数の長距離ミサイル群である。
殆ど最大射程で放たれた彼等はこの前線基地から放たれた第1の刺客なのだ。
今回、間接砲は双方共に使用しなかった。
こちらはそもそも今回の作戦の為に持ち込まれた支援砲は既に全滅していた為 。
相手は・・・奇襲をかけるつもりで持って来ていないのか、それとも攻撃して場所が割れたら反撃を受けると思って、あるいは彼等も既に持っていないのか・・・。
相手の事についての大半が分からない、これまでの推測も当てにならない状態で戦闘はしかし、始まったのだった。

現在、ロアノークの前線基地に残るメック戦士は4名。
メック自体は1個中隊12機全機が残っていて、すぐにでも出撃出来る態勢が整っている。普通ならメックも後方に下げるべきなのだろうが、メック戦士が倒れてしまった訳だし、運搬に別に割く人員の余裕も現状ではなかったのである。
とりあえず、残っている戦力は・・・。
まずは臨時小隊長ゲリング中尉の改装型マローダー。
このメック、かつての戦闘で大破、AC5の予備がなく、捕獲したパーツ、残っていた部品から使用出来るものを使って大改装を行なった、という機体である。
その結果、エンジンこそ、本来のままなのだが、中口径レーザーが左右の胴体に移されている他、同じく左右胴体に各1基ずつの6連SRM発射筒とその弾薬が搭載され、放熱器も一基増設されている。
また、これに伴い、装甲も、その配分を含め多少いじくってある。
次にメロディ少尉のアーチャー。
こちらも少々いじってあって・・・といっても、こちらはただ単に後背に向け装備された中口径レーザーを放熱器に取り換えただけである。
接近戦時の戦闘力こそ落ちたものの、結果的に停止状態での過熱がなくなった。
ただし、その分、弾薬切れが早くなり、継戦能力は低下したと言える。
なお、メロディ少尉は妙齢の女性で、なかなかの美人、また格闘技の達人でもある。アーバインも彼女から格闘術を習っている。いや、正確には相手をしつつ、足りない部分を学んでいるというべきか。
次にクレスク曹長のグリフィン、こちらも少々いじられた機体である。
具体的にはLRM発射筒を5連LRM連装形式に変更、左右の胴体に一基ずつ装備すると共に、弾薬を1トン分削り、そうして浮いた重量を用いて中口径レーザー2基を左右胴体に追加している。
これによって、多少ではあるが接近戦に耐性が出来ている。
こうした改造を行なっているのは、この部隊の優秀な整備班で、中でもチーフのローウェル博士はアヴァロン工科大学の教授でありながら、実戦でのパーツの耐久性を調べる為にわざわざ傭兵部隊と同行しているという変り種である。
ちなみに、正規軍ではなく、傭兵部隊と同行しているのは、その方が多種多様なメックに出会えるからだそうだ。
最後にアーバイン軍曹のバーグラー。
ウルバリーンを基本に、右腕の120mm速射砲を荷電粒子ビーム砲に換装、更に浮いた重量で整列結晶装甲1トンと中口径レーザー1門を追加している。
この4機のメックを主力に戦車が幾台か使用出来る、というのが現在の部隊状態である。
幸いなのは、使えるドールハウス重支援戦闘車輛が1輌ある事である。
この他にライジング高速戦闘車、ハンター戦車各1輌及びヴァデット戦車が2台ある。
もちろん、こちらも食中毒という部隊を襲った災禍から逃れる事は出来ず、半数以上の戦車は乗員がいないまま転がっている。動いている戦車も本来は別の戦車に乗っている者も含めた混成、おまけに完全には人数が足りていない戦車もあり、本来の実力が発揮出来るかは多いに疑問が残るところである。
後は基地の支援火力なのだが・・・こちらも稼動率は30%程度といったところ。
一方、敵部隊は正確な情報は不明だが、80トン級メックのオウサムや85トン級メックのストーカーなどが確認されているという。
『ホントに食い止め切れるのか・・・?』
隊の全員が不安気な様子を隠せなかった・・・いや、食中毒の影響でまだ顔が蒼い事も影響しているかもしれない。
そして、部隊が張り詰めた緊張に包まれる中、森の中から敵部隊が姿を見せた。
リャオ正規軍、エリニエス中隊。それが敵の名前だった。

「敵に感づかれたみたいだな」
ブラッドハウンド中隊の副隊長を務めるクロフォード・ユウキ大尉は呟いた。
今回の戦力は11機のメックのみ。
元々、油断しているであろう(その為に欺瞞情報を流しまくったのだ)敵に奇襲攻撃を仕掛ける作戦だった。
しかし、これでそれも不可能になった。
どうしてばれたのかは分からないが・・・この辺りは敵の偵察もおざなりだったはずなのに。
まさか、人の入りが悪いから薪を拾いに来た。その際に、それなりに距離があり、加えて兵が現在極端に減っているので、行動速度を上げる為よりにもよってスキマーを使用したせいなどと分かるはずもなかった。
・・・普通は想像だにしないだろう。スキマーで薪拾いなど。

「マディックが参加出来ないのは痛いな・・・」
マディックは腕利きのメック戦士で、逃げ出した傭兵部隊の中から残ってくれた貴重な戦力だ。
撤退戦においては先行するダヴィオン側強行偵察小隊、バーグラー・フェニックスホークX2・ヴァルキリーの機をたった1機で食い止めるどころか、全機撃破したという猛者だ。彼のお陰で部隊は被害は1機の軽量級メックが中破レベルの損傷を受けた程度で撤退に成功。多少態度が悪いのが玉に傷だが・・・それを補って余りある。

しかも、彼のおかげで、敵は残ったのが我々正規軍ではなく傭兵部隊だと思い込んでいるらしい。
部隊に多大な貢献をしてくれていると言って過言ではない。
だが、あいにくとその戦闘において彼の機体も損傷を受けた。
充分修理可能な程度の損害なのだが・・・敵隊長機と思しきバーグラーの頭部に粒子ビーム砲を直撃させ仕留めたものの、敵小隊最後の1機であったその機体が放った最後の一撃がブラックハウンドの右腕の粒子ビーム砲を破壊してしまった。その他にもあちこちに損傷を受けており、今回の出撃は無理、とみなされたのだ。

彼の機体の修理が完了する迄待った方がいいのでは、とも思ったが、先頃理由は不明だが多くの兵員が後方へ輸送された事が確認された。
バトルメック部隊は残っているものの、あれだけ大量の兵員が一時的にせよいなくなったのでは、基地の設備を完全に使いこなす事は無理だろう。少なくとも、偵察態勢には絶対に穴があく、と見られた。
『この機を逃しては、リャオ正規軍としての誇りを示す絶好の機会はない』
隊長であるクロムウェル・エリニエス少佐のその一声によって、今、彼等はここにいる。
かつては最大で傭兵部隊を含め7個小隊、28機のメックを擁したこの部隊だが、今回動員出来たのは半数にも満たない11機、しかも内3機はバトルメックではなく作業用メックである。
最盛期の状況と比較すると寂しい状況と言わざるをえない。しかも、どの機体も多かれ少なかれ破損しているのだ。
これで完全武装の機甲部隊の援護と基地火力を備えたバトルメック1個中隊を相手にしようというのだから無謀にも思える話だ。
しかし、ここで引いては敵の追撃を受ける危険がある。
既に何もせずに引ける状態ではなくなっているのだ、となれば敵の反撃態勢が整う前に攻撃を行なうのみ。
偵察によると、1個中隊のバトルメックの内、現在動いているのは1個小隊のみだという。
これを撃破して、残る機体が動き出す前にさっと引き上げる。
現在の部隊の状況では、それしかないだろう。
そして、エリニエス少佐のオウサムの合図と共に部隊は動き出した。
間もなく、彼等に向け発射された多数の長距離ミサイル群が確認された。
どうやら、敵はこの辺りにセンサーを設置して、メックのセンサーの外からの先制攻撃を仕掛けてきたようだった・・・たとえ命中率が悪いとしても、弾薬に余裕があれば問題ない行動だろう。
『全機 散解せよ!』
少佐からの指示が聞える。さあ・・・戦闘開始だ。
そう気持ちを切り替えると、ユウキ大尉は、愛機ストーカーのスロットを全開にした。

そして。
双方が不安を抱え、真実を知らぬまま、戦闘はその幕を開けた。

 

《設定》
今回、マディック大尉(現在)が撃破したと書いた強行偵察小隊、その隊長機がアーバインの兄に当たります。
現在から遡る事2年半。この頃は、既に凄腕の部類に属しつつあったものの、まだ現在には及ばない腕の持ち主、とマディックを見なしています。だから、アーバインの兄貴といい勝負したのだ・・・と。
アーバインの兄は頭部直撃の粒子ビーム砲がコクピットを直撃し、戦死・・・そういう設定です。

メック:マローダー改装型
PPCX2(左右腕)
SRM6X2(左右胴)
MLX2(左右胴)
弾薬(SRM6)15X2(左右胴)
放熱器X7(左右脚X2、胴中央X2、頭部)
装甲184点

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