『アーバインの受難5』 作:MT.fuji 戻る トップへ
「ここは・・・」
アーバインが目を覚ました時、視界には白い天井が広がっていた。
「坊ちゃん!気がついたんですかい!?」
こんな風に自分を呼ぶのは・・・彼しかいない。
「グレンダン・・・?」
「せ、先生を呼んできますね!」
アーバインが目を覚ましたのを確認したグレンダン曹長は嬉しそうな様子を隠せぬまま、部屋を飛び出していった。
直後に。
「病院内で廊下を走らないで下さい!!」
「あ、す、すいやせん!
って、坊ちゃんが目覚めたんで先生を・・・」
というやり取りが聞えてきた。
「そうか・・・ここは病院なのか」
リャオ軍を撤退させた原因を聞いて、アーバインは呆れた声を出した。
「それじゃあ、ペテンみたいなものじゃないか」
グレンダン曹長はニヤリと笑って言った。
「みたい、じゃなくてそのものですよ、坊ちゃん」
あの時、メック戦士がいないはずのメックを動かしたのは実はメック操縦技術を持つ整備兵や偵察兵であった。彼等は中には郎党としてメック操縦技術を習得している者もいる。
だが、それが実際に戦力として計算出来るかどうかは全くの別物で・・・。
正直、あのまま攻撃続行されていたらほぼ確実に基地は陥落していただろう。
整備兵達が出した必死のアイデア・・・それがあの咄嗟の作戦(?)だったのだ。
割合、考え付いたのは早かったらしい、というより、自分達もせめて戦うくらい・・・と思って、すぐ近くにあるメックを使う事を思いついたんだそうだ。
ただし、バトルメックには当然付いているセキュリティを解除するのに時間がかかって、あのタイミングとなったらしい・・・しかし、正に結果的には絶妙のタイミングだったな・・・。
リャオの正規軍は翌日・・・せめてもの援護の為にと飛ばした気圏戦闘機が密かに撤退するリャオ軍を追尾し、基地を発見。
翌日には結局、後方から遅れてやってきたメック部隊や山岳地帯を警戒していた部隊を合わせ、2個中隊で、リャオ軍残存部隊を攻撃。
間もなく、リャオ軍は降伏したそうだ・・・まあ、戦闘開始時点で敵バトルメックはこちらの戦力の3分の1以下、更に上空にはこちらの気圏戦闘機まであったのだ。
真っ当な感覚を持つ者なら徹底交戦は避けるだろう・・・それをしないのはドラコの連中くらいで・・・まあ、だからこそ恐れられているんだろうな。
降伏後に確認された所、何とか戦えるのはかろうじて3割。残る7割は全て戦死するか重傷で戦闘不能だったそうだ。
彼等の隊長・・・は戦死したとかで副隊長が言うには『ここまでやれば恥じる事はないでしょう』との事だったそうだ・・・。
結局、彼等の大部分は傭兵部隊として再出発するそうだ。
うちの司令官の好意によって捕獲されていた敵降下船なども与えれて・・・まあ、彼等が卑劣な行為を行なわなかった事が大きく影響している事は疑いない。
既に数日前にロアノークを旅だったそうだ。・・・俺が絶対安静で病院のベッドで寝てる間に。
結局、会えなかったな・・・兄貴を倒した相手とは。なんでも彼のメックは兄貴の部隊との戦闘で傷付いて、あの戦いの折りには参加していなかったそうだ・・・とグレンダンから聞いた。
「・・・まあ、終わり良ければ全て良し、とでもしておくか・・・」
そう呟いた後、はっとアーバインは顔を上げた。
「バーグラーは、俺のバーグラーはどうなった?」
「へえ、それなんですが・・・後でダヴィオンのお偉いさんがその事で会いたいって事なんですが・・・」
「?ダヴィオンのお偉いさんが?一体何だろ」
まあ、断る理由はないし、断れる立場じゃないわな。
「・・・は?」
「君のバーグラーは損傷が激しすぎて・・・解体というかパーツ取りしか使えないようだ、と言ったのだが」
さすがに呆然としていた。
先祖代々のメックを失った・・・いや、確かにうちはもう何機かメックはあるが、それらは一族の別の人間が継いでいる。また、偵察兵に・・・?
いや!それより!
「あの戦いの前に、どんなに損傷しても直す、という話を聞いていましたが・・・」
さすがにダヴィオンの高官(何でも侵攻作戦司令官の高級参謀らしい・・・)に怒鳴る訳にもいかず、感情を押さえて、そう尋ねた。
「うむ、修理するのはコストパフォーマンスが釣り合わない。いかに貴重なバトルメックと言えどもな。
それなら、という訳で・・・」
彼はカバンから1枚の書類を引っ張り出した。
そして・・・俺は今、このメックに乗っている。
70トン級バトルメック、ガイエスハーケン。名機ウォーハンマーの改造機の一つだ。
あの時示されたのは代わりのメックの提供だった。
契約(ゲリング中尉はあの状況にも関わらず、しっかり契約として文章を交わしていたらしい)の為にメックを喪失ですます訳にはいかず、かといって、バーグラーは改装機故に数が少ない。今からウルバリーンを改造するのも面倒・・・という訳で代わりのメックを与える、という事になったらしい。
空いているメックでバーグラーを上回る重量の機体が他にない、という事で報酬の意味合いを兼ねて、このメックとなったらしい。
まあ、重くなったんだから文句を言う筋合いじゃないんだが。
降下船に向け、新しい自分のメック、ガイエスハーケンに歩を進ませながら、アーバインはセンサーの送る画像に目をやった。
色々あった。
自分も少なからぬ怪我を負い、回復には随分と時間がかかった。
なにより、馬鹿馬鹿しい原因の食中毒のせいで、地獄を見る事になった。本物の地獄見物に行ってしまった仲間も多い。
そして兄は、この惑星でその命を散らした・・・。
「じゃあな、ロアノーク」
惑星に最後の別れを告げた。
彼等は今日・・・この惑星を去る。
そして。
彼は再び戦場へ向け旅だった。