『アーバインの受難6』 作:MT.fuji   戻る   トップへ


「我々の部隊は以上をもって解散する・・・」
中隊の隊長が疲れきった様子で言った。

部隊の誰もが疲れきり、そして同時に部隊の現状を理解していたので野次は飛ばず、しかし到底歓声を上げる気にもならず、結局粛々とした雰囲気のまま、傭兵部隊エリエンス機甲中隊は正式に解散した。
傭兵部隊に対する需要は高い。
だが、同時に傭兵部隊は常に解散の危機も孕んでいる。
予想以上の損害、予定と異なる支援態勢・・・その他、契約金の不払いなどその原因は多種多様だ。
この部隊の場合、今回彼等が従事した作戦のスポンサーが破産してしまった、という事だった。
正確には、過去の失態に付け込まれて失脚し、払えなくなった、という事なのだが・・・。

「まあ、善人ではあったな、今回の隊長は」
「ああ、善人ではあった」
そんな事を呟いたのは傭兵達だった。正確には、傭兵部隊エリエンス機構中隊に雇われたフリーの傭兵、というべきだろう。
その中には、この4年間で様々な戦場で経験を積んだアーバインもいた。
今回の部隊は割りとアットホーム的な感覚があり、気に入ってたのだ。
実際、最後にかき集めた金を持ち逃げしようとする隊長もいる中、今回の隊長はかき集めた金と資材で可能な限りの修理と給与の支払いをしているのだから善人である事は疑いない。
「おめーはどうする?」
「そうさな〜ガラテアでも戻って、新しい職場探すさ」
さすがに部隊の他の面々にはばかって小声ではあったが、1番元気だったのは間違いなく彼等だったろう。というより、彼等にとっては仕事道具であるバトルメックが健在である以上、次の仕事を見つける事自体は問題なかったからだ。
もちろん、彼等とていい仕事場はなかなか見つからないし、そういう意味では、この部隊に対する愛着はあったのだ。
とはいえ、そこを割り切らねば、彼等の家業はやってはいけないのだ。

惑星ブライスランド。恒星連邦ドラコ方面地方辺境域の州都惑星だ。
にもかかわらずここは微妙な政治的理由により、“比較的自由に貿易や人の出入りが行われる”自由貿易惑星である。
この星には人や物がとにかく集まって来て商売が交わされる。その中には、傭兵やバトルメックの部品なども含まれる。まあ、辺境にしては、だが。そして、至るところで契約が交わされ、その結果によってあるいは人とバトルメックを、あるいは資材を積み込んで降下船が旅だってゆくのだ。貿易のため。あるいは、闘いのために。
 ここの検索サービスには、当然のように傭兵に関するデータが集まっている。
募集、売り込み・・・部隊が自分を売り込んでいる所もあれば、逆に部隊が募集している所もある。
裕福な部隊もあれば、貧しい苦しい台所事情の中、何とかやっていっている、という部隊もある。
いずれにせよ、フリーの傭兵が新しい仕事場を求めるにはもってこいの場所な事は疑いない。

この2年半の間にアーバインは至るところで作戦に従事してきた。
主なものだけでも・・・。
ロストフ奇襲作戦
惑星レプノールへの強行偵察
エルメアの遭遇戦
バンカー降下作戦
・・・・などなど。
殆ど半年ごとに大規模(といっても継承権戦争に比べれば所詮、極小の小競り合い程度だが)に参加してきた。
お陰で、メック戦闘技術は惑星ロアノーク当時と比べ、格段に上がった。他の技術にしても相当の上達をみた・・・。グレンダンは年をとった、というか・・・きつい偵察任務に身体が持たなくなってきて、今では整備兵として主に働く傍ら、新兵への偵察兵としての基礎を教えている。
代わりに偵察任務につくようになったのが、グレンダンの息子で、アーバインからすれば幼馴染にして共に偵察兵として訓練を重ねた友人、という間柄の相手である。偵察兵としてはアーバイン程の才能はなかったが、コンピュータには天性の才能を示し、偵察兵としての総合的な面で見れば、昨今はメック戦士として訓練を積んでいるアーバインよりも上、と言っていい。
・・・まあ、それは今は余計な話だろう。
とりあえず、充分に経験を積んだアーバインは平均的、と言われるメック戦士を大きく凌駕していた。

 

「さて、と。どこかあるかな?」
彼等の前にはコムスターの情報サービスの画面、傭兵募集についての画面があった・・・。
検索していたアーバインはそこに示された現在フリーの傭兵を募集している主だった傭兵部隊が一つしかないのを見て、少しがっかりした。が、すぐに、そこに示された名を見て、首を傾げた。
「グレンダン・・・この名前、どこかで見た事ないか?」
「はっ?・・・そういやあ、どこかで」
二人して、しばらく考え込んでいたが、しばらくしてグレンダンがポン、と手を叩いて言った。
「思い出しやした! ほら、2年半前のロアノークで・・・」
「ああ!」
やっと名前に思い当たったようだった。
もっとも、同名の別の部隊である可能性もあるから同じ部隊という保証はないのだが、部隊の経歴くらいは調べればすぐに分かる。間もなく、同一部隊である事二人は得る事が出来た。
「・・・これも、因縁、って奴かな?」
「かもしれませんねえ・・・」
ニヤリ、と笑ってアーバインは言った。
「面白そうだ。ここに行ってみるとしよう。兄貴を倒した相手と出会えればもっと面白いんだが」
「あの黒いメックですね」
「ああ」
堂々たる戦闘での戦死だ。相手を怨む気持ちはない。むしろ、1機で4機のメックを相手どって戦い、勝利したのだから向こうを褒め称えるべきだろう。
それだけに、関心があった。今、彼が生きているのか、そもそも未だ部隊にいるのか・・・。
そうした楽しみを抱えて、アーバインはブラッドハウンド中隊への入隊申し込みを行なった。
「まさか、こういう状況になるとはね」
「人の運命たあ、何がどうなるかわからないもんですな」
アーバインの呟きにグレンダンが返す。
ブラッドハウンド中隊からの採用の連絡が届いたのは、その日の夕方であった。
・・・まさか、自分が黒いメックの乗り手の部下となるとはさすがに予想だにせず、アーバインは数日後、降下船オヴィンニクに乗船し、惑星カウツVへと向かう事になる。 

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