『偽装武器』 作:ミッキー   戻る  トップへ

 その日・・・傭兵部隊ブラッドハウンドの士官達は、会議を開いていた。先の任務で、駐屯基地のコンピュータにクラッキングされ、ブラッドハウンドは手痛いダメージを被った。敵の策略にはまり、部隊のバトルメックの大半は手痛いダメージを受けてしまったのだ。任務はなんとかこなしたものの、このままでは次の任務を探すのにも事欠くだろう。その打開策を練っているのだ。

 「まず手っ取り早い方法は、装甲板の交換です」
 みずからもメックウォリアーであるものの、むしろ整備兵達の指揮官として活躍しているアカギ・エンドウ少尉が発言した。彼は、ニューアヴァロン科学大学から派遣されてきた上級テックでもあるのだ。
 「中枢のダメージはどうするのだ?」
 「とりあえずはほうっておきます。そこまで修理するお金はありませんから。それでも、外見だけは申し分ない整備状況に見えるようにすることが出来ます」
 「・・・情けない・・・」
 「それと、偽装武器を作成します」
 「偽装武器?」
 「武器も購入するお金がありません。ですから、一見するとそれっぽく見えるような張りぼての武器を作るのですよ。それで、かなりごまかせます」
 「・・・情け無さ過ぎる・・・」
 部下達のものすごくいやそうというか泣きそうなというか、そういった顔を見やったクロフォード中佐は、エンドウ少尉に質問をした。彼もまた、非常に優秀なテックであるのだ。おおまかな意図は分かる。
 「装甲の張り替えか・・・機体中枢にしっかり取り付けることが出来ないから、半分がとこ役に立たないが、仕方ない。それより武器だ。実際に撃てないのでは、一発でばれるぞ?」
 「それについては腹案があります。例えば、偽装粒子砲です。このおおざっぱな設計図を見てください」
 そういって、エンドウ少尉はメインスクリーンに設計図を投影した。主な仕様は以下のようになっている。

 中口径レーザー・・・1トン
 装甲板4点・・・0.25トン
 接続機器、骨格など・・・0.125トン
 外見・・・フシゴンPPC

 「つまりなんだね? 中口径レーザーを中に入れたフシゴンPPCの張りぼてを作るという事かね?」
 粒子砲が破壊されてしまったグリフィンのパイロットであり、副中隊長であるメイスン少佐が聞き返した。
 「ということは、俺の機体のMLも似たような事を・・・」
 「いやだ! バトルメックは俺達の誇りだってのに・・・」
 口々に、メックウォリアー達が嘆きの言葉を吐いた。まあ、当然といえば当然である。それを制するためにクロフォード中佐が発言した。
 「みんな! 今はそれしか方法がないんだ! このままだと俺達は次の仕事を見つけられずにのたれ死ぬしかない。良く考えろ。少なくとも俺は支持するぞ!」

 皆、力なくそれを聞き・・・最後には賛成することになった。
 そして議題は、失った支援戦力をどうするかに移っていった。

 

『ロングトム物語』作:M−鈴木

 「重量感を出す方法?そりゃ勿論ウェザリングだよ、汚し塗装って奴だな?ついでに口にライン入れてパクパク」
 「大尉、ふざけないで下さい、大体そのネタは古すぎますよ」
 エンドウ技術少尉はピシャリとマディック大尉の戯言を抑え込んだ。
 何より感嘆すべきは古代の映像作品をネタにした冗談に、恐らくこの会議室中唯一即応出来た事だろう。
 出鼻を挫かれたマディックは虚空に向かってカクカクやっている。(著者注…サンダーバードのネタってわかります?)
 「ところで、汚すかどうかは兎も角、方法論はあるのだろうか?無茶を言っているのは重々承知しているつもりだが。どうせ作るのならば航空偵察対策の偽装標的以上の物を望みたいんだが?」
 戦力不足を補う為には形振り構っていられない状況。
 クロフォード中佐にとっては苦渋の決断であろう。
 それにしては冗談に応える余裕があるあたり、指揮官を長く勤めたものの貫禄であろうか?
 (それともリャオ家に仕える内に逆境に慣れたのか?)
 「腹案はあります。…しかしその為には軽量級メックの予備部品を少々使用する事になります。」
 その言葉に会議室内の空気の質が変わる。
 出席する面々の内、メックウォーリアーと上級テックが中心に生じさせた反発の意志と、少尉の行為を当然と考える各部門の人間達がその意志に対し反応した為に生じる空気だ。
 それは「MWが騎士であり、誇り高い戦士階級であり、乗機=メックはその誇りを体現するものである」との認識が、今では入手困難な部品の塊であると言う単純な理屈以上にメックを(例え部品一つであろうとも)偽装装備ごときに流用する事が、不謹慎極まりないとの意識と、それ故の意識階層の認識故の軋轢を生ずるからだろう。
 だが、そう言った感情的反発は少尉にとって「予め予測される要素」であり、又、自らの上官がその様な「感情」のみに左右されない人種である事も計算の懐である。
 「少々とは?  具体的な数字は出せないのかな?」
 反応はその予測を裏付けるものだった。
 MWの中でその感覚に囚われない者は極僅かだ。
 (理由と過程は兎も角)その「極僅か」に含まれる中佐はむしろ愉快そうに水を向ける。
 そして一寸だけ、眉根をしかめた。
 中佐の視線の先にいるのはマディック大尉だ、彼は周囲の険悪とも言える空気を明らかに楽しんでいた。
 それは己が「傍観者」である事を確信した上での行為。
 『無用の階層意識も厄介だが、あそこまで立場にも状況にも頓着しないのは困り物だ、あれが無ければ中隊指揮官として充分なんだが…』
 思わず嘆息する。
 そして再び少尉に向き直る中佐
 「それは中佐殿がどの程度の『らしさ』を求めておられるか?です。」
 応える様に発したその言葉は自負故か?
 少なくとも彼はこう言っているのだ。
 【要求された仕様は満たしてみせる】  と。
 クロフォード中佐は密かに快さを覚え、その言葉の意味が会議室の面々に染み渡るのを、ゆっくりと、待つ。
 何だかんだと言ってもここに集まった人間の殆どは中佐が良く識り、かつ信頼する者達だ。
 会議室内のざわめきが、一時高まり、そして徐々に静かになって行く。
 中佐は「一見」生真面目な少尉の顔から、会議室を埋める面々へと目を移し、その表情を確認する。
 そしてもう一度少尉に向き直ると、中佐は言った。
 「判った、方法論は君に一任しよう。各部門は全面的に協力するように。要求仕様については追って連絡する。要求仕様毎の必要資材を予め見積もっておいてくれ」
 「「「「了解致しました」」」」

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