『ロングトム物語2』  作:M−鈴木   戻る トップへ

 

●ここまでが序文の序文。
 続いて「ロングトムとジェリー」の最終的な仕様の話になるんですが(ってどんな冗談なんだか訳わかんないよきっと、若年層には、俺!!)、SS中ではメックに牽引されて配置についている点から「自走機能の無い只のはりぼてにしてはどうか?」と言う話も戴きましたが。
 1.本体に動力が無い(と設定している)ので、展開時にはメックのサポートが必要。
 2.本来のロングトム自走砲も、悪路走破能力については語るもおこがましき水準にあるであろうとの推測が可能であり、ましてやレパードのメックベイに特設した暫定タラップを降りる言う「困難無体な行為」を要求された場合、メックがそれをサポートしても違和感は無いと思われる。
 以上の理由から当初の部隊編成設定通り、外観は自走砲型で進めます。更にこれを「ある話」の伏線とも考えております故、何卒ご容赦の程。

 外力による揺動や移動時の振動による変形やたわみ、振動の伝播の発生に際して、その実態を隠し通しあたかも高密度で複雑な機構の集合体でかつ高剛性の物体であるかに見せる事は、外観を効果的に隠してくれる冷却ジャケットやERA、防水シート、地形偽装シートの助けを以ってしても非常に困難な話であり、その実現には特別の才能が必要と考えて間違い無いだろう。
 エンドウ技術少尉は緻密な計算と大胆な仮説・そして閃きを以って是を成し遂げた。
 今回ロングトムの土台に使用された50t被牽引台車のサスを50%取り除き、更にダミータイヤを増設、その上でダミータイヤの基部にゲル状緩衝材を積めた減速シリンダーを装備する事で、車輌の重量と全体の重厚な動作を再現。
 支持車輌から供給される動力により作動するエアシリンダーとワイヤーで強制揺動を与える事で外力に対し自然な動きを実現した。
 この時最大の難関だったのは外力にアクティブに反応する為のセンサーである。
 理想を言うならば最低でも30セットの対地センサー(メックの脚に装備されているもの)と対気センサー(照準補正用にメックの頭部・腕部・胴に分散配置されているもの)が必要とされ、これにかかるコストがダミーの製造を圧迫する可能性すら考えられた。
 しかし、エンドウ少尉はシミュレーションモデルとフラクタル処理により僅か2セットでこれを満足させた。
 これは備蓄予備部品にすら大した負担をかけない数である。

 「中佐、最終的な仕様は以下の通りです」
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1.ロングトム自走砲本体;総重量7.5t(装甲最大追加時17.5t)
  砲身  ;発泡ポリウレタン製 目埋め材に剛性向上樹脂 アルミ蒸着処理後 塗装仕上げ
  車体  ;エアバルンブロックとシャーレストルインナースケルトンの複合立体外装
       ワイヤー及びエアシリンダー制御 ERA及びパッチアーマー追加装備による重量増大措置が可能
       (その場合サスペンションの復帰が必要)
       尚、金属部品は全て発泡金属若しくは多孔金属を使用する。
  車台  ;35t被牽引無動力貨車 サスペンション50%オミット アウトリガー及び緩衝シリンダーを追加装備
  全体重量;砲身偽装0.5+車体構造0.5+車体偽装0.25+貨車3.5+ダミータイヤ&シリンダー0.5
       +アウトリガー0.5+伝達ユニット0.25+折りたたみ機構1.5t
       =7.5t
  外観的には無限軌道移動式の自走間接砲では無く、「装輪移動式アウトリガー固定装置付き自走間接砲」である。
  その為、偽装上の番号はLT−MOB−25では無くLT−MOB−20R(オリジナル設定)となる。
2.砲身支持車輌(制御・牽引車輌);総重量10t 無限軌道型 移動力、単体時6/9 牽引時3/5
  但し砲身支持架は事実上ダミーであり、牽引時以外は自走砲本体の後方に位置するスタビライズサポート
  車輌を偽装する事も可能
  中枢1+操縦装置0.5+制御システム1+装甲3(48p)+車載マシンガン(1門)0.5
  +弾薬0.5+ICE(60p)3+砲塔支持架及び偽装装備0.5
  =10.0t
3.弾薬補給車(先導砲身支持車);総重量2.5t 無限軌道型 無動力 最大装甲偽装状態移動力2/3
  移動時は牽引されるが戦闘時には前方側で盾として使用される場合もある。
  中枢0.25+装甲2(32p)+砲塔支持架及び偽装装備0.25
  =2.5t

  砲身装備車輌(本体)には制御車輌と補給車を共に搭載可能。
  装甲を除く総重量は20t、収納時に必要なスペースはASFベイの25%。
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「うむ、これで構わない、いや、充分以上だ、良くやってくれた。」
 「はあ、しかし…」
 労いの言葉にもしかし、撞着を抱えた様な表情で煮え切らない返事をするエンドウ少尉に、中佐はいぶかしんだ。
 「?どうした」
 その問いかけに、少尉は意を決した様に中佐に視線を捉える様に、応えた。
 「いえ…このハリボテに『戦闘に参加する事を前提として装甲を施す余地を残す』事に意味はあるか…でしょうか?と」
 中佐はその物言いから、少尉が『装甲の有無による制御系の複雑さの増加が、エレガントな設計を阻害し続けた要因である』点に、今尚引っ掛かっているのだと気が付いた。
 この点は、中佐が頑として譲らず、少尉に困難な作業を強いる事になった要求項目だったからである。
 確かに単純に考えるなら後方支援装備である間接支援砲に実装装甲は不要だろう。
 「…まあ、高価な重しと思っても良かろうが、以外と役に立つかも知れないぞ?」
 「?役に…立つ、ですか?」
 「ああ、そうだ、これは先達として言わせて貰う事になるが、『状況は必ず造った側の思惑を凌駕する』…一つくらい実戦経験の長い人間に従って見るのも勉強だぞ」
 「………了解しました」
 一寸の間を置いて、少尉は敬礼した。
 『例え上官命令に対しても、技術的問題に関する話である限り即答しない、この点が技術士官が技術士官たる部分なのかな?』
 むしろ技術者に近しいと自負するクロフォード中佐は、退室するエンドウ技術少尉に返礼しつつ、少尉と自らと重ね合わせていた。

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