「シェリル中尉〜〜 ただいま帰りました〜〜メックの修理お願いします!」
ヴァレリウス小隊長のマディック大尉が、誇らしげな顔で帰ってきた。全ての機体がメックを背負っての帰還である。自力で帰ってきたメック5、背負われて帰ってきたメック3、捕獲したメック4。敵は2倍の戦力だった事を考えると、実に堂々たるものだ。メックウォリアーが負傷で操縦できず、郎党が操縦している機体もあるが、とにかくなんとか帰って来たのだから。
しかし・・・この惨状を見て、整備小隊を指揮するシェリル・マーカライト中尉は、絶叫した。
「な、・・・なににこやかにしてんのよ〜〜〜〜!!!!」
「え? いや、しかしね、2倍の戦力相手に完全勝利だよ? 弾薬誘爆で吹っ飛んだのも含めれば、8機撃墜、自力で動けるクリタのメックのほとんどにかなりのダメージを与えた事は戦闘記録を見ればわかって貰えるはずだよ。しかも、奴らが撤退する時に、メックの回収も半分しかさせなかったんだから・・・」
「そういう事では有りません(怒)」
シェリル中尉の異様な迫力に、後ろに並んでいたメックウォリアー達まで縮こまった。
本来整備兵は、メックウォリアーの郎党であり部下である。しかし、ある意味メックウォリアーは彼らに頭が上がらない。整備兵にへそを曲げられ、メックの整備をおろそかにされたら、即メックウォリアーの死につながるからである。配線一本をいじるだけで、戦場でメックが突然行動不能になる事すらままある。だからメックウォリアーは、常に整備兵をねぎらうと同時に、自分が尊敬するべき主人にふさわしいように行動する義務が有る。強制してテックを働かせてはならない。自分から進んで働くようにしなければならないのだ。
だから・・・メックウォリアーが、シェリル中尉の激怒に身を竦めているのだ。
「いい!? 私は口を酸っぱくしていったはずよ! もう、交換部品はろくにないって! なのに、これはなに!? どれもこれも修理のしようがないわ! 部品もなしでどうしろってのよ!!」
「いや、しかし、捕獲したメックも有るし・・・、今度の部隊もクリタの例に漏れずアレス条約違反をしたからメックを返さなくてもいいんだし・・・」
陰陰滅滅とした声で、シェリル中尉がいう。
「自力で帰ってきたメック、全部足の中枢までダメージ受けてるわね。その上、持って帰ったメック、全部足が折れてるうえ、その他の部位も大破状態のが多いわよね。振動爆弾とキックを多用したと言う事ね?」
そのとおりなので、マディック大尉は何も言えずに後ずさった。
「そう・・・同じ場所にこれだけダメージを受けて、どうするっての? 交換部品、もうないのよ!? 私は、修理は出来るけど、部品を何にもないとこから作り出すなんて出来ないのよ!」
この時、さらに良くないモノが帰ってきた。
「ひゃほう! 大勝利だぜ」
「ああ、クリタの部隊はこっちの2倍の戦力だったもんな!」
「戦利品もかなり手に入れたし、今夜は祝杯をあげるか!」
「あ、シェリル中尉! 修理頼みます! あと、戦車を結構拾ってきたんで、これも治して使いましょう!」
カクカクカク。
人形のようにぎこちない動きでシェリル中尉が振り向く。そこには、これまた多大な損傷を受けた戦車部隊と、その後ろに連なる数台の破壊されたデモリッシャー戦車があるのだった。エンジンが爆発しているもの、砲塔が完全に吹っ飛んでいるもの。かろうじてキャタピラだけは全部無事で・・・だからこそ牽引してきたのだろうが・・・だが、二台の戦車の部品を足しても、修理不能なのは明らかと言う戦利品たちである。
そして、マディック大尉はその時初めて気付いた。自分達と別行動を取り、先に基地に帰還していたメックの・・・損傷具合を。交換部品が滅多に手に入らないブラッディカイゼルが大破している。ライフルマンとアーバンメック、ヴィンディケイターも足を折られている。その他のメックも、あちこち損傷しているようだ。どうやら、この修理に頭を悩ませているちょうどその時に帰って来てしまったらしい。しかも、追い討ちをかけるように戦車部隊が帰ってきた。最悪である。
マディック大尉は、無言でハンドサインを出した。通信封鎖中のメック部隊が使用するそのサインの意味は・・・『総員静かに撤退』
メックウォリアー達は、抜き足差し足で逃げ出した。
戦車兵達に浴びせられる、シェリル中尉の怒鳴り声を背にしながら。
「と、いうわけで、どうがんばっても修理できるのはここまでです。」
戦闘中に負傷し、ベッドで安静状態を言い渡されているクロフォード中佐に、シェリル中尉が報告している。カウツVの政府からもいくらかの物資補給は有ったし、捕獲したメックの一部を売り払って部品の購入などもしたが、どうしても交換部品が足りない。部品がなければ、整備兵にはどうしようもないのだ。先立つ物・・・お金を生み出すすべなど、彼女たちにはない。
「ふむ・・・なんとかメックの数は維持したいからなあ・・・捕獲メックをバラして交換部品にするとか、捕獲メックの方を修理するとかはできないかな?」
「既にやっていてこれなんです。」
「そうか・・・」
何とはなしに、二人とも、つけっぱなしになっていた壁のテレビに見入った。完全に手詰まり状態で、どうしようもなかったのである。
と、その時、画面が変わった。1000年以上も昔にはやったアニメである。一説によると、このアニメが引き金になって、戦闘用のリアルなロボットと言う概念が作り出され、後のバトルメックの製造に繋がったと言う。今は、オープニングの歌の場面だ。『撃てよ、撃てよ、』の歌声と共に、戦車の砲塔の代わりに、メックの上半身を乗せたかのようなロボットが登場し、ミサイルや砲弾をうちまくる。
ガタン・・・
「?」
クロフォード中佐は、椅子の倒れる音を聞いて、シェリル中尉の方を振り返った。シェリル中尉は、何時の間にか立ち上がり、呆然と画面を見詰めている。何だろうと思って画面を見直すと、右腕に粒子砲を持ったロボットと両肩にキャノン砲を装備したロボット、そして先ほどの半分戦車みたいなロボットの3機がそろった場面だった。
「見つけた・・・」
シェリル中尉が、呆然とつぶやく。
「おいシェリー、どうした?」
クロフォード中佐は、心配になって聞いてみた。
「見つけたのよ・・・修理する方法!」
シェリルは、興奮して叫んだ。
「なに?」
「そうよ、なにも、以前通りにする必要なんてないじゃない! 有り合わせの部品でもいいから直してって言ってたんだし、その通りにしてやれば良いのよ! ごめん、私、ちょっと思い付いた事有るから!」
そう言って、シェリル中尉は、しばらくの間製図室にこもり、図面引きに集中する事になる。そして、周囲にシートを張って2機のメック修理架台を隔離した。部隊員は、全員、シェリル中尉に近づけ無くなっていた。憑かれたように修理に没頭する様子が、異様な迫力を持っていたからである。シートの中に入れるのは、シェリル中尉直属の助整兵だけ。そして・・・その日がやってきた。
「みんな、紹介するわ。生まれ変わったライフルマン、名づけてライタンクよ!」
「げ!!!」
「なんだこりゃ!?」「戦車!?」「あいつが死んでて良かった・・・愛機の変わり果てた姿見たら、泣いてたよ・・・」
そこには・・・下半身がデモリッシャー戦車と言う、実に珍妙なメック2機があったのである。
RFL−X75 ライタンク (80トンイレギュラーメック)
移動力:3/5/0
メック部分 本体重量
3+3+11.5+6=23.5トン
小計23.5トン
マグナMkV大口径レーザーX2:左右腕:10トン
インパラートルーAオートキャノン:右腕:8トン
弾薬:胴中央:1トン
テロス4連短距離ミサイルランチャー:左腕:2トン
弾薬:左腕:1トン
追加放熱器:足:6トン(壊れた駆動装置の代わりに装備。実際には、車体に装備されているものとして扱う)
死重量:2トン
小計30トン
装甲104点:6.5トン
頭 8
胴中央 22/4
左右胴 15/5 15/5
左右腕 15 15
下半身?
キャタピラ:8トン
装甲128点:8トン
死重量 :4トン
前面 40
左右側面 30/30
背面 28
上半身本体重量 :23.5トン
上半身武装重量 :30.0トン
上半身装甲重量 : 6.5トン
キャタピラ重量 : 8.0トン
装甲重量 : 8.0トン
死重量 : 4.0トン
総計80トン
特別ルール
@移動は戦車に準ずるが熱は発生する。
A反応フェイズに60度だけ上半身の回転を行える。
Bメック用の命中判定をまず行い、足に当たった場合戦車の命中個所判定を行う。この時、砲台はない物として扱う。
C転倒はしない!?
@の説明:メックのエンジンでマイアマーを動かし、クランク!? でキャタピラを動かして移動します。
Aの説明:メックの上半身回転と、全く同じです。砲塔のかわりにメックの上半身を取り付けているため、砲塔は取り付けられません。
Bの説明:計算(?)によると、8.5mくらいの身長は有るようです。
Cの説明:二足歩行よりは安定しています。GMが転びそうだと思った時などは随時に判定する、というくらいが良いでしょう。
後に、このライタンクのパイロットには、ラリートバイアス軍曹(17歳・男性・新兵)と、ヴァル・ハラント(25歳・男性・新兵)が抜擢されたのであるが、彼らの感想を聞くことは厳禁事項となったという。(なんまんだぶなんまんだぶ)
参考資料
以下の機体は、守護天使小隊到着後に、ライタンクを修理して作られた物です。よって、8月以降はライタンクは部隊から無くなり、この改造型ライフルマンが存在することになります。
独立愚連隊がモーグレイン・ヴァルキリー領のコンピューターから持って帰った設計図を元に作られたとも、ワイルズ博士が趣味で作った設計図を元に作られたとも言われていますが、実体は不明。わかっているのは、守護天使小隊が提供してくれた設計図と交換部品を元に改造された事だけである。
RFL−X77 ライフルマン 改
3+3+11.5+6=23.5トン
小計23.5トン
マグナMkV大口径レーザーX2:左右腕:10トン
マグナMkU中口径レーザーX2:左右胴: 2トン
インパラートルーAオートキャノン:右腕:8トン
弾薬:胴中央:1トン
追加放熱器X5:胴中央1、左右足4:5トン
小計26トン
装甲168点:10.5トン
頭 8
胴中央 35/5
左右胴 19/5 19/5
左右腕 20 20
左右足 16 16
オートキャノンを一つ外し、装甲3トンと追加放熱器X5を装備した改造型。はめ殺しになっていた左手が使用可能になっている。ライフルマンの欠点のほとんどを克服した、実に優秀な機体である事は間違いないだろう。
ライフルマン改の1機は、右胴と右腕の機体中枢が半減しています。オートキャノンの命中判定のサイコロが5だった場合、ジャムを起こします。これを直すには、適度な衝撃を与える必要があります。移動力を1消費して操縦ロールを成功させるまで、AC5の射撃はできません。この不具合は、機体中枢を完全に修理するまで続きます。
もう1機は、左足と左胴の機体中枢が半減しています。走行時の移動力が5に落ちています。この不具合は、機体中枢を完全に修理するまで続きます。