『騒動は舞い下りた』
3026年8月4日・・・航宙艦アヌビス号が運んできた2隻の降下船がカウツVに降り立った。
片方は、ブラッドハウンド所属のユニオン級降下船、オヴィンニクで、首都アイギナから15キロほどの場所にあるアイギナ宇宙港へおりた。
もう一隻は、レパード級降下船シャネルクイーン号。ピンク色を基調とした迷彩色に塗られているという、なんとも悪趣味な降下船である。
このシャネルクイーンには、ごくふつ〜〜の傭兵達のほかに、特筆すべき人達が乗っていた。約5名ほど。全て、若い女性である。うち4人は、このシャネルクイーンと同じ所属のメックウォリアー。残る一人は、シャネルクイーンがパエトン基地に直接下りる事を知って便乗した少尉である。
彼女たちが一体なにをなすのか?
そんな事は予想もつかない基地の面々は、シャネルクイーンの塗装に戸惑いながらも、ごくふつ〜〜の受入態勢を行っていた。そして・・・
『偵察分隊における各種問題点の定義其の一 』 作:ロックウッドR・Rは前線への偵察を行うため各自の荷物を整理している部下を前にして考え込んでいた。
新任のスキマー分隊長であるカサンドラ・カーリエン少尉のことだ。R・Rは三日前にクロフォード中佐に呼ばれたことを思い出していた。「お呼びですか中佐!」
心なしか嬉しげなR・Rの声が中佐の執務室に響く、新任の少尉が来ることを聞かされていたからだ。R・Rは偵察兵としての腕こそ優秀だが事務処理などのいわゆるデスクワークは大の苦手だった。だがもうタイプライターの前で文面をあれこれ考える必要は無くなる。少なくともその機会はぐっとすくなるはずだ。
「ああ新任の少尉が君らが偵察に言っている間に着任したからその紹介をと思っていたんだが・・・」
なぜかクロフォード中佐は言葉を濁した。
「どうしました中佐?」
「いや・・・その格好どうにかならんのか?」
いまのR・R・・・いや偵察分隊の格好・・・を説明すると、ひげは伸び放題、服はほこりっぽく、顔は垢じみている。しかもどこか据えたような臭いを発していた。 1週間もの間連続して偵察に出ていたせいである。
「はあ・・・まあ臭くなるので風呂に入りたいのもやまやまですが。あれ? 今まで中佐そんなこと気にしましたっけ?」
「いや今に解るよ(にやにや)」
まるで面白い悪戯を思いついたような中佐の表情が気になったもののR・Rは偵察分隊全員を風呂に入れてひげを剃らせてから一人再び執務室へと向かった。
「ロックウッド曹長入ります!!」
部屋にR・Rが入るともうすでに新任の少尉は来ていたのか見なれない栗色の髪が目に入った。
「ああ、カサンドラ少尉、彼が先任のロックウッド曹長だ」
ふりかえった人物をR・Rは何故か足元から見上げていった。
(「うん?靴のサイズが以外と小さいぞ・・・あれ? 腰がくびれてるような?・・・??胸が膨らんでるような・・・」)
誰がどう見ても女性が、しかも美形に入るであろう女性が立っていた。
「始めまして、私はカサンドラ・カーリエン、えっと少尉です。」
「・・・・・・・・・・・・・・はあ・・・どうも・・・」
R・Rは凍り付いていた。と思うといきなり中佐を部屋の隅に引っ張っていって内緒話をしようとした。ハッキリ言わなくても、大の大人二人がそんなことをするとすさまじく怪しい。
「どう言うことですか・・・あれは私には女性に見えますが?」
「いや右から見ても左から見ても立派な女性だろうが。しかも美人だろう?」
「(絶句)・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本気ですか?」
「彼女は士官学校を優勝な成績で卒業したエリートさんらしいぞ、いいじゃないか華ができて」
R・Rはどうせ何を言っても無駄なのだとでも思ったか考えを変えた。そうだ優秀であれば性別など関係ない!!・・・・はずだ!?
「じゃあカサンドラ少尉、後は曹長に聞くように。曹長後は頼んだぞ」
「わかりました」
「イエッサー! では少尉、偵察分隊のメンバーを紹介しますのでどうぞこちらへ」
そういうとR・Rとカサンドラを偵察分隊の面々が居るはずの部屋へと案内する。その途中R・Rはカサンドラの大まかな性格を知ろうとした。自分達の隊長となる以上少しでも性格や考え方を知っておきたかったのだ。
「少尉殿、特技などはなにを?」
「あ、私カサンドラで良いですよ(にっこり)、特技ですか、えーーと」
ロックウッドは内心で毒づいた。なにが「カサンドラで良いです」だ。そんなんで士官を呼べるはずがない。だいたい特技でそんなに悩むなよといいたくなる。
「そうそう私お料理得意なんですよ、あとは特技じゃないですけどこの髪とか自慢なんです。」
「(またしても絶句)・・・・・・・・・・はあ・・・さいですか」
たしかにカサンドラの髪は綺麗だ。腰にとどくとまではいかなくともけっこうな長さである。しかしどの世界に料理が特技の偵察兵がいるのだろうか?
おまけにその髪は縛ってもいなかった。引っ掛けたらどうするのだろう? まずは髪を縛るか切ってもらうかしなくてはいけない。しかしどうやって切り出せば良いのだろう? だいたいR・Rは女性が苦手なのだ。なにか中佐に嫌なことでもしたのだろうか、やっぱりこないだリリム大尉に試食を頼まれた時にうまいと言ってしまったがまずかったのだろうか? あの後中佐に持っていったらしいし・・・いやまてよまだ・・・(以下無限ループ)
どうもR・Rはどつぼにはまると帰って来れない人らしい。それに気づいているのかいないのかカサンドラは得意な料理の話をし始めた。R・Rが聞いても全く理解できない話だったのだが、おかまいなしだ。
この後、両人とも自分の世界に入ってしまい基地を仲良く行ったり来たりしていた姿を複数の兵たちが目撃したという。