『偵察隊との遭遇』   戻る  トップへ

『偵察分隊スキマー分隊の日常』 作:ロックウッド

 偵察小隊の仕事、それは戦闘時であれば敵戦力の正確な把握に尽きる。この情報を元に戦闘部隊は交戦するからである。
 では平時は?
 偵察小隊の仕事は戦闘時よりむしろ多い。敵勢力圏内の隠密偵察は歩兵戦力でないと不可能なのだ。
 そう。偵察小隊は忙しいのだ

(「・・・だからといっていきなり実戦につかせるのはどうかと思うんだがなぁ・・・」)
 R・Rは悩んでいた。昨夜の通信で、カサンドラ少尉にも少し小隊の指揮をさせろと通達が来たのだ。
 カサンドラ少尉の腕前がどの程度かまだ正確に把握してはいないのである。それなのに、小隊をいきなり任せるというのは、無謀ではないかと思う。正規に赴任してからまだ間がないのだ。
 一応一通りの訓練はやってみた。幾度か敵勢力圏外への偵察(口の悪いやつはピクニックと呼ぶ)にもいった。基本のことは出来るようだが学校で習ったことだけで生きていけるほど偵察小隊はやさしくない。しかしいつまでも訓練生としてR・Rに教えられる立場では指揮官としての本当の経験は積めない。そんな思惑が有ったのだろうが・・・偵察小隊はドラコ軍が占領している地域で偵察をしている最中である。
 表向きは遺跡探索任務となっているが、実体は敵地のど真ん中での偵察任務だ。しかもいきなり長距離偵察で指揮を任せなければならないのである。
 R・Rは頭が痛かった。
 「曹長。この辺で休憩しませんか?」
 カサンドラ少尉が通信を入れる。
 「そーっすよ。いいいかげん休憩しましょうぜ!」
 分隊の誰かが通信を入れる
 「勝手に無線で会話するな! 話す時は名前をいえ! 大体さっき休憩したばかりだろうが!!」
 R・Rがやや厳しく通信をいれる
 「・・・えっとさっきの休憩からもう二時間過ぎてますよ。ここは砂漠に近いですし水の補給とかはやっぱりしないと・・・あ、私はカサンドラです。」
 カサンドラ少尉に言われて慌てて時計を見ると確かに二時間程が過ぎていた。
 「・・・了解。休憩しましょう。」
 カサンドラに小隊指揮官の役目を任せてからはいつもこうだった。意識しすぎと言われればそれまでなのだが今までと同じように小隊全体の指揮を取ってしまいそうになったりといった失敗が多かった。
(「自分のせいで少尉にいらん恥をかけさせてしまったか・・・先任下士官として失格だな・・・」)
 「曹長! どうしたんすか?」
 いつまでたっても自分のスキマーから降りないR・Rをみて隊員が声をかける。
 「いやなんでもない・・・」
(「こんなこと他人に話してたまるか!!」)
 R・Rは一人心の中で赤面した。
 

 『パトロール隊との遭遇』 作:ロックッド

 それから更に数日後の事である。カサンドラ少尉もようやっと指揮官としての言動が板について・・・
 「ドラコさん・・・ですよね?」
 「おそらくそうでしょうが・・・その気の抜けるような固有名詞は止めてください・・・」
 「はぁ??・・・何がでしょう?」
 「もういいっす・・・」
 ・・・・・まったく板についていないようだ。

 8月28日。ドラコ領内に入って1週後の夜。偵察小隊はドラコ連合の歩兵部隊を発見していた。森の中の小さな空き地で休憩を取っているようである。R・R達は近くの丘の上を走行中に敵部隊の起こした焚き火から出た赤外線で彼らを発見したのだ。
 「ドラコさんの方も偵察部隊なのでしょうねぇ・・・」
 「偵察と言うよりもはパトロール部隊ですね・・・武装が貧弱だ。」
 R・Rの言うとおり敵はライフルやサブマシンガンクラスを保持している。重火器はないようだ。
 「よし、装備品点検!」
 R・Rの号令で隊員達が暗がりの中一斉に自分の装備品を点検する。本来は隊長のカサンドラが下すべき命令かもしれないがまあこのぐらいは許してもらおう。
 偵察小隊のメインの火器はH&K社製のMP−50である。これは二十世紀後半にH&K社が出し大ヒットしたサブマシンガンMP−5の無薬莢仕様とも言えるものである。MP−5自体は大ヒットしたといっても当時は比べるべきサブマシンガンが存在しなかったためにヒットしただけであってそう高性能な訳ではない。とくに重要な発射機構のローラーロッキング機構が壊れやすいのは致命的だった。だがMP−50では二種の液を混合し発射薬とするものであり装弾数は二列マガジンが左右に二つ付いており合計した数は120発にも及ぶ。液状火薬のボンベを持ち歩かなければ成らないのが弱点ではあるが次第に小型化しておりいまRR達がつけているものは従来型ライフルのマガジンくらいでしかない。マガジンも極度に小型化されている。そのため個人での合計携行弾数は1000発以上である。
 だが発射速度が極端に早いため新兵などのなれていない物が扱えば即座に弾切れを起こすかもしれないしろものだ。
 もちろんR・R達は三点バーストモードで使うのだが・・・
 この銃はもともと機関部からの騒音も含め音が出にくい機種だったがR・R達はさらにサイレンサーを追加して装備していた。これで、偵察兵の隠密行動にもより適合する事になる。
 
 サブ火器はメインと比べると各自自由に使う物を決めていた。大抵の隊員は同じくH&K社のUSPエクスパートを使用していた。この銃は二十世紀終わりにはもう存在していた銃ではあるが、いまだ人気が高いベストセラーである。がかつて各惑星がまだ植民地であった頃にとある惑星に派遣された海兵隊員が銃の故障を直せずに戦死した後、サブ火器には従来型のものを使用する兵士が急増した。
 その理由は信頼性はもちろんある程度の故障なら自分で直せるということである。そのため、改修はされても基本的にローテクで作られた銃が好まれるのだ。常に最新型がいいとは前線では限らない。
また40口径のマンストッピングパワーは現在の小口径高速弾頭より高いから使用しているだけかもしれなかった。
 R・Rはさらに古く二十世紀前半に当時の最高の銃器発明家のジョン・ブローニングが設計したコルトガバメントの10ミリ仕様のカスタムを使用している。
 これは名銃ガバメントを10ミリ弾使用タイプにした物で一センチ口径という事からセンチメーターマスターと呼ばれた物の再設計版である。
 再設計と言っても弾種を10ミリから40口径に直した以外はほとんど手を加えられていない。もともと10ミリ弾を参考に40口径弾は作られたものであるからその設計変更はスムーズにおこなわれた。R・Rの物はそれにさらに大型サイトとスライドストップなどを追加していた。

 そうしてR・Rが装備品の点検を終えてふとカサンドラを見ると・・・・

 ほとんど点検を行えていなかった。(「まあ新兵なんだから仕方ないか・・・」)
 結局カサンドラはR・Rに装備品の点検を手伝ってもらう事になったのである。
 しかしただの新兵ならぶん殴れるが相手が隊長ならば・・・・・どうしようもない。

 R・Rは、今日もまた、一人ストレスを蓄積させた。
 

 『初戦闘』 作:ロックウッド

 ゆっくりと移動する木々がある。勿論自然界に移動する植物などあるはずも無い。少なくとも、この星ではそのはずだ。
 それは偽装を施した装備を身に付けるR・R達である。一般歩兵部隊と違いR・R達偵察分隊のほとんどはヘルメットにバンダナをしている。
 勿論迷彩用の木の枝を取りつけるためだ。模様も回りの風景と同化するものを施している
 非常にゆっくりと彼らは進んでいく。足元を確認しながら先頭を行くポイントマンをR・Rが務めカサンドラ達がそれに続く。
 照明は極力使わずに赤外線使用の暗視ゴーグルを使っている。
(「良し、後数メートルまで近づいてから一斉射撃で倒す・・・」)
 R・Rはそのことを後の仲間にハンドシグナルで伝えようとすると・・・
 何かに引っ掛かったのかカサンドラが銃を引っ張っては押している。
 (「あ!馬鹿そんなに引っ張るな!」)
 カサンドラが困った顔で見ている先のブッシュが盛大に揺れている
 (「各員その場で射撃姿勢を取って存在秘匿」)
 ハンドシグナルを送るがカサンドラは自分の銃の方を見ている。当然、ハンドサインは見ていない。
(「くそ・・・始めてなんだからしょうがないか・・・」)
 R・Rは今来た道のりをゆっくりと戻ってカサンドラの所に行こうとした。

ボキ!

 ・・・木が折れた・・・R・Rはそれに気づいた・・・・敵も気づいた。
 「クソったれ!」
 早くも火線をこちらに向けてきた敵にはかまわずR・Rは赤外線ゴーグルをすばやく外した。レーザー兵器が実用化されてからというもの、暗視ゴーグルのたぐいは非常に危険な代物となった。暗視装置の増光機構がレーザー輻射を極度に増幅することになるからだ。レーザーの集束率を下げて暗視ゴーグルをつけた敵兵達に向けて撃てば、それだけで敵兵達を無力化しうる。
 あまりの眩しさにしばらく何も見えなくなるのはもっとも軽微な損害だ。暗視ゴーグルが過大な負荷で焼き切れ、強力な光で失明もしくは視力の低下を招く事が多い。無論、安全装置はつけられているのが普通だが、それにも限度が有る。だから、赤外線型にしろ、増光型にしろ、敵に見つかったら素早く外さなければならない。指揮官によっては、失明の危険を嫌って、暗視ゴーグルを極力つかわせないことも多い。
 自分のゴーグルを外したR・Rは、次の瞬間カサンドラのはめていたゴーグルをもぎ取りつつ押し倒して近くの大木の陰に引きずり込む。何か下の方でカサンドラがもがいているようだがかまわずにR・Rは命令を下す。
 「迫班! 弾種チャフ! 目標敵中心!」
 「了解!」
 後方のスキマーに待機させておいた60mm軽迫撃砲班(砲手2名、装填手2名)にアルミ辺を中心にしたチャフ弾を撃たせる。
 先程敵が撃ってきた時R・Rはイオン臭を感じた。強力なレーザビームが大気中で照射されたときのにおい。
「敵の数と実弾火器の発射数を引くと敵半数近くがレーザー!? 火力はこちらの方が少ないが・・そろそろ・・・」
 敵の上方で60mm迫撃砲弾が爆発してアルミ辺を辺りにぶちまける。細かいアルミ箔が、電磁波を乱反射させる。トランシーバーの放つ電波も、照明用のライトも、レーザ銃の放つ赤外線も、全てはそれに邪魔され乱反射する。数発が着弾すると、敵の武器の主力であるレーザーは威力を減衰され、有効打を得ることが出来なくなった。
 「これならいける!」
 R・Rが木の陰から自分のMP−50を敵に向ける。案の定敵のレーザーはその連続照射に冷却が追いつかずに明確な赤外線を辺りに撒き散らしている。
 「各員敵のレーザーから黙らせろ! 頼みの綱のレーザーがなくなれば投降するだろう!」
 「あの〜〜それはいいんですけど曹長重いです・・・」
 「へ?・・・・す、すいません少尉!! 居たんですね・・・」
 R・Rはカサンドラを押し倒してから引きずり込んだままにしたことを忘れていたのである。
 その数分後に全レーザー銃を破壊され半数近くの人員を喪失した敵部隊は降伏した。
 

『さすがは少尉?』 作:ミッキー

 なんとかパトロール部隊を降伏させたR・R達は、事後処理について少し困っていた。殺した敵は土に埋めて戦闘の痕跡を消す事も出来る。
 しかし、捕虜にした以上は殺せない。敵基地の探索任務中にこんなお荷物を抱えては、動きが鈍くなってしまう。
 「どうしたもんかな・・・」
 R・Rはつぶやいた。後始末を部下にやらせている間、カサンドラ少尉にはみっちりお説教をし、基地帰還後の訓練メニューをいくつか追加する事で罰とした。
 あとは、今後の行動である。戦利品の梱包や捕虜の積み込みはもうすぐ終わる。終わったらすぐ痕跡を消して移動した方がいい。
 ドラコの基地が異変に気付いて探索部隊を差し向ける前に、遠くに移動しないとまずい。
 問題は、移動先だ。ヘスティアの街に戻って捕虜をどこかに押し込むか?
 それとも、一部を捕虜や戦利品の輸送に当たらせて、送られて来る探索部隊を待ち受け、それを手がかりに敵の本拠地を探すか?
 R・Rはいまいましげな目で、片付けられる死体の一つに目をやった。指揮系統を乱して組織的な抵抗を崩そうと、指揮官クラスを狙い撃ちしたのは自分である。
 しかしまさか、あそこまで情報監制がすごいとは思わなかったのだ。
 奴等は、捕まった時の用心に基地の場所を下級兵士に教えていない。一定距離基地から離れるまで兵士はトラックの中に押し込まれるのだ。この辺りの地形を正確に把握しているのは士官と下士官だけ。それら全てが死んでおり、地図には基地の位置が記されていない。これでは、どうしようもない。
 
 「戦利品の保存食や武器、キャンプ用品は、一部を有り難く使わせてもらうとして・・・残りはやはり捕獲したジープとトラックで後方のデポに運んだ方がいいだろうな。捕虜については、惑星政府の守備隊が駐屯している街まで運んだ方がいいか?」
 そう、基本方針を決めた時だった。
 「あのう・・・曹長さん?」
 カサンドラ少尉が話しかけてきた。
 「なんです? 少尉。」
 「はい。ドラコさんの兵隊さんと話していたら、輸送部隊の通行ルートの安全確認のためのパトロール隊らしいんですの。ですから、少しこの辺りの道を探しまわって、バトルメックや重トラックの通った痕跡を調べてみては・・・と思うんですけど・・・この部隊からの連絡が途絶えれば、別のルートを通るでしょうから、なるべく早いうちに道の調査をした方がいいと思うんですの。それで、ルートが分かったら待ち伏せして、それをつければ基地が分かりますわ」
「・・・・!!」
 R・Rは、不意打ちを受けて硬直した。いつのまにそんな重要な情報を聞き出したのだ!? その上、実に的確な判断である。
 (「そういえば・・・この人、実践はともかく、机上の成績はすごくよかったんだよな・・・ここは、成長を促すためにも、言う通りにした方がいいか?」)
 R・Rは、即座に決断した。
 「了解しました! 実に的確な判断、関心しました! さすがは少尉ですね! では、そういう方針で!」
 カサンドラ少尉は、自分の考えが承認されたと素直に喜んだ。もっとも、その後の事を知っていたら、けして彼女は喜ばなかったろう。
 
 この数日後。カサンドラ少尉はホフォベクウィチ中尉率いるメック小隊が、略奪、強姦、虐殺、破壊を行った村を発見し・・・重度のノイローゼにかかる事になる。
 
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